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冷酷と噂の名家当主に嫁ぐことになりましたが、私はただの雑用係です  作者: 月森 かれん


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19話 ざわつく心

 午後三時。


 澪は榎田の指示通り、藤咲と共に玄関前の掃除を行なっていた。

 広い石畳の上には砂や木の葉が散らばっている。


 澪はまた年齢のことを聞かれるのではないかと不安を抱えながら、箒を持つ手を動かしていた。


 ――また年を聞かれちゃったらどうしよう。今度はうまくごまかさなきゃ。

前は藤咲さんがあっさり引いてくれたけど、次は粘り強く聞かれるかも……


 つい、チラチラと藤咲を見てしまっていた。

しかし当の本人は全く気づいていないらしく、小さく鼻歌を歌いながら掃除をしていた。


 結局、澪は彼女から休憩の声がかかるまで一言も話さずに済んだ。


 屋敷の東側、使用人部屋のある棟の死角で一息ついていると、

藤咲が思い出したように声を上げる。

 

 「あ、そうそう! たぶん柏木さん、そろそろ金蘭亭(きんらんてい)に行くことになると思うよ!」


 「芙蓉街(ふようがい)にある交流の場、でしたっけ?」


 澪は必死に頭を回転させて答えた。

芙蓉街にある二つの会場、芙蓉会館と金蘭亭。

どちらも足を踏み入れたことはなかったが、名前だけは聞いたことがあったからだ。


 「そう! ここに雇われてから一ヶ月から二ヶ月経った頃に連れて行かれるの。あ、もちろん付き添いでね!」


 「付き添い……ですか?」


 「うん。ここ数年よく律様が行かれるから、使用人も二人ついて行くの。

一人目は藤村様か桜井さんのどちらか。で、もう一人はできるだけ新人なの」


 「えっ!? じゃあ私……」


 思わず口を覆った澪を見て、藤咲は大げさに笑う。


 「そんなに心配しなくても大丈夫大丈夫! 藤村様か桜井さんの指示に従ってたら安心だから! 私もそうだったし!」


 「藤咲さんも行ったんですね」


 「もちろん! でも皆より少し遅めで1年後だったけどね」


 藤咲が苦笑しながら言った。

その様子を見た澪は少し心を痛める。


 ――何か理由があったから、藤咲さんだけ1年遅れだったのよね。

辛くなかったのかな


 「そうなんですね……」

 

 「あ、いや、私危なかっしいし、よく間違えちゃうからさ〜。

だから遅かったんだと思う。

 本当なら解雇になってもおかしくないぐらいなのに……」


 「え?」


 解雇という言葉にドキリとした澪は、思わず藤咲を見つめた。

 それに珍しく声の調子が下がった彼女を見るのも初めてで、どう反応して良いのかわからなかった。


 「ってやだやだ! しんみりさせちゃってごめんね! 柏木さん!」


 「は、はい……。私は大丈夫ですけど……」


 「近いうちに藤村様からお話があると思う! 

でもそんなに緊張しなくて大丈夫だからね!」


 「あ、ありがとうございます」


 澪はぎこちない返事しかできなかった。


 ――解雇……。そういえば私もまだ……


 『追い出しはしないが、力量不足と判断すれば雑用係を外れ、

一日を何もせずに過ごしてもらうことになる』


 雑用係としてのお試し期間が始まる直前、桂木律に言われた言葉を思い出して、澪は胸の前で手を握りしめた。


 ――あの約束もたぶんまだ続いている。可能性があるのかしら……


 澪の背筋が冷たくなってくる。

 すると藤咲が気合を入れなおすように立ち上がった。


 「よ~しっ、休憩おしまいっ! 

柏木さん、残りの掃除も頑張ろうねっ!」


 「はい……」


 掃除が終わった後は、夕餉の下ごしらえと普段通りの仕事に戻ったが、

澪はイマイチ身が入らなかった。

お待たせいたしました。

更新が1週間延びてしまい、すみませんでした。


次回の更新は1月10日の予定です。 


延期の場合は活動報告でお知らせします。

よろしくお願いします

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