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冷酷と噂の名家当主に嫁ぐことになりましたが、私はただの雑用係です  作者: 月森 かれん


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18話  小さな一歩、大きな温かさ

 翌日、午前八時半。


 自分達の朝食を終え、厨房はつかの間の休憩に入っていた。

榎田達が集まっているそこで、澪は声をかけると深々と頭を下げた。


「昨日はご迷惑をおかけしました! すみませんでした!」


 澪の謝罪に榎田達は目を丸くした。

でも誰も口を開かない。


――迷惑をかけたのは事実なんだから


 突拍子な発言だったかもしれない。

それでも澪はドキドキしながら誰かが口を開くのを待った。


 一分ほどの沈黙の後、最初に口を開いたのは榎田だった。


 「柏木さん……それ、謝ることじゃないよ」


 「え?」


 驚いて顔を上げた澪に、榎田は若干眉を寄せて話を続ける。


 「誰だって気をつけていても体調不良にはなるさ。私だってなるんだし」


 「そうそう! 

風邪ひかない人なんていないんだから、

そんなに思い詰めなくていいよ、柏木さん!」


 藤咲が榎田の前に飛び出して、笑顔で口を挟んだ。

彼女の大胆な行動に、澪を含めて全員開いた口が塞がらなかったが、

桜井が静かに頷いた。


 「榎田さんや藤咲さんの言う通りですよ、柏木さん。

誰だって体調不良になります。そうなれば治すのが仕事なのですから、迷惑なんて思わないでください」


 黙って聞いていた桐谷も何度も頷いている。

澪は、叱られなかったことに胸を撫で下ろした。

 榎田は迷惑そうに藤咲を軽く押しのけながら、澪に声をかけた。 


 「ということだから、お互い様なのよ。

あ、でも謝らなくていい、はちょっと言い過ぎだったかねぇ。

迷惑ではないけど、心配はしたから。一言は欲しいね」


 「ご、ご心配をおかけしました……」


 「まぁ、少しだけどね。

それで、もう万全なのかい? それともどこか不調かい?」


 榎田に尋ねられて、澪は考えた。


 ――熱は下がったけどまだ万全じゃない。まだ体が重たいから


 「熱はありませんが、少し体が重たいです」


 「そうかい。教えてくれてありがとう、柏木さん。

なら、今日は軽めの仕事を任せるよ。掃除とかね」


 「あ! じゃあ私、柏木さんについてて良いですか〜?

ちょっとでも悪くなったらすぐに報告できるように!」


 子どものように手を挙げて言う藤咲に、榎田は小さく肩をすくめた。

しかしすぐに口元を緩めると口を開く。


 「じゃあお願いしようかね。

ということだから、柏木さん、もし体調が悪くなったら藤咲さんにいうんだよ」


 「わかりました。ありがとうございます」


 その時、厨房の扉がノックされ、藤村が入ってくる。

普段通りではあるが、彼の鋭い眼光に場の空気が張り詰める。

 澪は何か言われるのではないかと不安になり、つい身構えてしまった。 


 ――藤村さん?


 「休息中のところ失礼。

昨日は迷惑をかけたな」


 「いいえ。でもまさかあんなことになるなんて……」


 冗談っぽく言う榎田に澪は不安はますます大きくなった。

 思い切って尋ねてみた。


 「あ、あの、昨日何かあったのですか?」


 藤村達は少し目を見開いた後、柔らかい笑みを浮かべる。


 「ああ、柏木は昨日欠勤だったので知らないか。

いや、そこまで重要なことではない。

 午後から三十分ほど律様の姿が見えなくなってな。

少し皆の作業を止めてしまったのだ」


 藤村の使用人に対する話し方に少し驚きながらも、澪はドキリとした。

 

 ――絶対に私の部屋にいらっしゃった時間だわ。

もしかして藤村さんはご存じなのかしら?


 「え!? 律様、三十分もお姿が見えなかったのですか!?

いったいどちらに!?」


 なぜか少し興奮している藤咲を、藤村は軽くなだめた。


 「落ち着きなさい、藤咲。

 結局、律様は何事もなかったかのように戻られたが……。

どこに居られたのかとお尋ねしても、はぐらかされてしまってな」


 「律様がはぐらかすなんて珍しいですね……。

だいたいはっきりと理由を仰られるのに」


 「もしかしたら……家の外に出られていたとか?」


 桜井の後に続いた桐谷の発言に場が静まり返る。

しかし次の瞬間、榎田が盛大に笑い出した。


 「はっはっはっ! 律様がそんな子どもみたいなことをされるわけがないじゃないか!」 


 「いや、案外あり得るぞ、榎田。

普段、律様は私から逃れることが多い故」


 「そう言われると……あり得るかもしれません」


 桐谷の発言の直後、榎田よりも大きな笑い声が響く。

皆の視線は藤咲に注がれた。

 

 「ご、ごめんなさい〜。 藤村様の走り方思い出しちゃって……あははっ!」


 「藤咲さん……また思い出し笑いかい?」


 「藤咲、私の走り方は思い出し笑いするほど面白いか?」


 「だ、だって、綺麗な直立なんですもの! 尊敬と可笑しさが混ざっちゃってっ……」


 「……藤咲、思い出し笑いは構わないが、

律様やその御家族、客人の前では絶対にするな」


 深いため息をつきながら言う藤村に、藤咲は笑いながら頷く。

 腹を抱えて笑っている藤咲を、澪達は少し呆れながらでも微笑ましく眺めていた。


 ――藤咲さんもそうだけど、ここの家の方々は優しい。調子が戻ったら、貢献しないと


 澪は榎田達を眺めながら、心に誓った。

次回の更新は12/20の予定です

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