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冷酷と噂の名家当主に嫁ぐことになりましたが、私はただの雑用係です  作者: 月森 かれん


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16話 微睡みの中で

 翌朝、午前五時二十分。


 薄く目を開けた澪は、自分の異変を認めるしかなかった。


 ――体が熱い。やっぱり風邪をひいてしまったのね


 ゆっくりと上体を起こして、小さく息を吐く。

 頬はほんのり赤く、目は少し虚ろだった。


 ――今日はお休みすることを伝えないと。

でもどうやって?


 澪は襖の側まで移動し軽く壁に背を預けて、熱でうまく回らない頭を必死に回転させる。


 ――私が部屋を与えられていることは、桜井さんと藤村さん以外に見つかってはいけない。今日は桜井さん、来ているのかしら?


 桜井が来ていれば、間を見計らって声をかけれる。

しかし、もし休みだったら、()()()()()()()()()()()()()藤村の部屋まで行かなければならない。


 澪は襖を少し開け、角の廊下の様子をうかがった。

厨房からはガタガタと物音が聞こえており、すでに榎田が作業をしているのだろう。

 その音以外は何も聞こえず、小鳥のさえずりだけが響いていた。


 ――桜井さんはいつ来てたっけ?


 澪の記憶が間違いなければ、五時五十分には来ていた。


 ふと、静かな足音が聞こえてきた。

澪は襖の影に半分顔を隠しながら、足音の主を待つ。

 主は、桐谷だった。

 肩で切り揃えられた黒髪を揺らしながら凛とした顔つきで、ただ正面だけを向いて静かに歩いている。

袋小路になっている使用人部屋には目も向けなかった。 

 

 澪はホッと胸を撫で下ろしながらも、廊下に顔を向ける。

 緊張と不安と怠さで、澪の視界は霞んできていた。 




 午前六時。


 澪は襖の側でうなだれていた。

桜井は通ったものの、そのすぐ後に藤咲や萩原が続き、声をかけることができなかったのだ。


 ――皆さん心配されてるよね。普段居るはずの私が居ないんだから


 澪の心は申し訳なさでいっぱいだった。



 すると軽く襖が二回叩かれ、間を置かずに小声が響く。 

 

 「桜井です……。どうかなさいましたか?」

 

 「す、すみません、体調を崩してしまって……」


 「失礼致します」


 少し低い声が聞こえたのと同時に襖が開き、桜井が顔を覗かせる。

澪の姿が見えないので、様子を見に来てくれたのは明白だった。

そして澪を見ると、すぐに指示を出した。


 「ひとまず、布団に戻られてください。歩けますか?」


 「はい……」


 澪は這うようにして布団に戻った。

無理をして動いたせいか、体が鉛のように重くなっていた。


 「ごめんなさい……」


 「謝ることではありませんよ。私の方こそ、気が回らず……」


 「あ、あの、皆さんには……」


 「ええ。私の方から欠勤ということをお伝えしておきます。

ご安心ください」


 「ありがとうございます……。よろしくお願いします」


 桜井は一瞬襖に目をやり、澪の耳元に顔を近づける。


 「ご存じだとは思いますが、澪様がお部屋を与えられていることは私と藤村様以外に知られてはなりません。

 体調を崩されている中、お辛いかもしれませんが、できる限り物音は立てないように……」


 「はい……頑張ります」


 「仕事の合間をぬって、様子を見に来ますね。必ず二回叩きますので」 


 桜井は早口で言うと、部屋の奥にあった衝立てを布団が隠れるように移動させた。 


 「誰でも体調は崩します。どうか、申し訳ない等と思わないように。

気分が下がってしまうと、治るのも遅くなってしまいますよ」


 「き、気をつけます」


 澪は心の中を見透かされた気がして、小さく肩を震わせる。

 それを見て桜井は笑みを浮かべると、そっと襖を開けて退室した。




 十二時半。

 

 いつの間にか眠っていた澪は、襖が叩かれる音で目を覚ました。

数は二回。


 「は、はい……」


 澪が寝起きの掠れた声で返事をすると、桜井が小さな丸いお盆を持って入ってきた。木製のお椀からは白い湯気が上がっている。


 「澪様、調子はいかがですか?」


 「眠ったら、少し良くなりました……」


 「そうですか。ですが、無理はいけませんよ。今日はゆっくりお休みになられてください。

 お粥を側に置いておきますので、気が向いた時にお召し上がりくださいね」


 「ありがとう、ございます……」


 澪の弱々しい声に桜井は笑顔で応えると、静かに退室した。

 室内がしんと静まりかえり、かすかなお粥の甘い香りが澪の鼻をくすぐっている。


 ――今は、まだ食べられる気分じゃない……


 申し訳ないと思いながらも、澪は瞼を閉じた。

次回は11月8日更新です。

よろしくお願いします

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