表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
冷酷と噂の名家当主に嫁ぐことになりましたが、私はただの雑用係です  作者: 月森 かれん


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

16/24

13話 2日目

 翌朝、午前五時四十分。



 澪は重い瞼を開けて、一瞬ドキリとした。


 「はっ!? 

 いや、大丈夫……。ここは桂木家……」


 また、実家だと思ってしまった。

しかし昨日のように飛び起きて、慌てて布団を片付けるようなことはしなかった。


 「大丈夫……大丈夫……」 


 澪は何度も自分に言い聞かせた。

 実家では寝坊して朝食の提供が遅くなり、瑠璃の怒りを買ってに料理を頭からかけられたことが何度もあった。


 澪は早鐘を打つ心臓を落ち着かせて、ゆっくりと立ち上がった。





 午前八時。


 昨日と同じように朝食の準備を終えた澪は、今度は洗濯を任された。

桜井とするように言われて、澪は驚いて言葉が出なかった。

 桜井は颯爽と澪の正面に立つと淡々と告げる。

 

 「では、よろしくお願いしますね。()()()()


 「よ、よろしくお願いします」


 ――少し雰囲気が冷たい気がする。何か悪いことをしてしまったかしら?


 澪は不安そうに桜井をみるが、彼女の表情は変わらない。


 「まずはたらいを取りに行きましょう。ついてきてください」


 「は、はい……」


 二日前に見せてくれた優しさが全く見えず、澪は谷に叩き落された気分になる。

いくら桜井と面識があるといっても、使用人の世界は甘くはないことを思い知らされた。

 それでも表に出さないように桜井についていくと、台所の裏に出た。

外壁に木でできた大きなたらいが4つ立てかけられている。


 「洗濯は二人で行いますので、二つ持っていきます」


 「わ、わかりました」


 澪は桜井を見習ってたらいを持った。両手でどうにか持てる重さで、前がうまく見えなくなってしまう。


 ――これは大変。移動に気をつけないと

 

 実家ではたらいは裏庭に野ざらしだったので運ぶ必要がなかった。しかし、ひび割れだらけだったので、ささくれで何度も指を怪我したことを思い出した。



 桜井は淡々とした声のまま、澪に注意を払ってくれた。

そしてどうにか中庭にたどり着く。

 屋敷の中央に位置し、八畳ほどの広さで中央に石造りの井戸があった。

その隣には誰かが用意してくれたのか、籠に積み上げられた山のような洗濯物がある。


 澪と桜井は井戸のそばにたらいを置くと、一度深呼吸をした。


 「洗濯物は、どなたかが用意してくださったんですね」


 「ええ。基本は本家の皆様の物です。部屋の前に出してくださってますの手間気づいた者が集めて、中庭に出しておきます。いずれ、貴女にもやってもらう時が来るでしょう。

 洗濯の仕方はご存じですか?」


 「は、はい……。

汚れている部分を濡らして、石鹸を付けて擦り洗い、すすぐんですよね……」


 相変わらずの調子で話す桜井に澪は蚊のなくような声で答えてしまった。

桜井が少し目を丸くする。


 「その通りですが……どうかされましたか?」


 「あ、えっと……。私、何か失敗をしてしまったのではないかと……」

 

 ボソボソと答える澪を見て、桜井はハッと息をのむと澪の耳元に口を近づけた。


 「いえ、何もしておりませんよ。

 私と()()に関係があると気づかれるわけにはいきませんので、すみませんが少し厳しめに接します」

 

 澪が思わず顔を上げると、桜井が微笑んでいた。

二日前に見せてくれた表情に澪は胸をなで下ろす


 「ご、ごめんなさい……私、勘違いをしてしまって」


 「いえ、私も配慮が足りませんでしたね。

さぁ、洗濯を始めましょう」 


 「よろしくお願いします!」


 籠に無造作に放り込んである洗濯物の山を二人で均等に分ける。

 そこからは、ただ洗濯板でゴシゴシと洗う音だけが響いた。




 しばらくして、桜井は手を止めると澪に声をかける。


 「私は石鹸の補充に行ってきます。

すぐに戻りますが……その間は1人でお願いしますね」


 「わかりました。頑張ります!」


 澪の少し大きな声を聞いて、桜井は微笑んだ。


 「くれぐれも無理はしないように……。では、お願いします」


 桜井は石鹸の布を持つと中庭を後にした。


 1人になった澪は、ゆっくりと呼吸をして気合を入れなおす。


 ――私1人だけど、しっかりやらなきゃ!




 澪が一所懸命に取り組み始めてから、どのくらい経っただろうか。


 「頑張っているようだな?」


 頭上に影がさし、張りのある落ち着いた声が降ってくる。

澪はハッと顔を上げて、思わず手を止めた。

 濃い藍色の着流しに黒い帯。そして少し乱れた黒髪。


 「律様!?」


 「しぃ……。あまり大声を出さないでくれ」


 驚いて大声を出した澪に、律はたしなめるように口に指を当てる。

その意外な行動に澪は瞬きを繰り返した。


 「え?」


 「藤村から逃げているんだ。

だから、そんなに大声を出されると居場所がわかってしまう」


 「に、逃げているのですか?」

 

 澪は二重に混乱した。

 一つ目は律が藤村から逃げているということ。

もう一つは雑用係である自分と、こんなに気安く会話をしていても良いのかということ。


 澪の戸惑いぶりを見ても、律は落ち着いた様子で答える。


 「そうだ。まだ締め切りの迫っていない文書の確認をしてくれ、とな。

もう少しゆっくりでも良いと思わないか?」


 「ゆっくりでも大丈夫だと、思います……」


 「そうだろう!? 藤村ももう少し寛容になってくれると良いんだが……」

 

 ――また、子どもっぽい律様だ。


 澪が共感を示したことが嬉しかったのか、律は少し興奮した様子で話す。

 時折見せるこの態度に澪は翻弄されていた。


 ――でも冷徹さも持ち合わせている。今もまだ怖いもの


 澪は俯いて考えていたため、律が自分を見つめていることに気づかなかった。


 ふと、律は空気を切り替えるように軽く息を吐くと、

少し小さめの声で話しだした。


 「とはいえ、ずっとここに留まっているわけにもいかない。

ではな、()()澪」


 「は、はい……」


 澪が慌てて顔を上げると、律の姿は西側の渡り廊下に消えようとしていた。




 律が去ってすぐに桜井が戻ってきた。

補充した石鹸袋を両手に持ち、不思議そうに澪を眺めている。


 「今、どなたかいらっしゃいましたか?

話し声が聞こえたものですから……」

 

 「あ、えっと。ね、猫がいたんです!

可愛かったので、つい話しかけてしまって……」


 正直に話しても怒られない可能性の方が高いのに、澪は咄嗟に嘘をついてしまった。

 桜井は小さく口を開けたまま澪の話を聞いていたが、

すぐにニッコリと微笑んだ。


 「ああ。その猫、よく来るんですよ。

特に、()()()()()()()()()()()()()()()


 「え?」

 

 「さ、続きをしましょうか。急がないと、乾きが遅くなってしまいますよ」


 ――桜井さんはわかっていらっしゃるの?


 桜井の微妙な言い回しに澪は胸がざわついたが、

それ以上は何も聞けなかった。



 午後九時。


 昨日よりも早く自室に戻れた澪は、布団の中で考え込んでいた。 


 「……こんなに早く戻れるなんて、夢みたい」


 実家では、急ぎではない仕事を夜になってから言いつけられることが多々あり、日を跨いでから布団に潜り込むのが当たり前だった。


 「でも、まだ2日目。今のところ失敗はしていないけれど、何が起こるかわからないから。それに……」


 律から言われた「力不足と捉えれば仕事から外す」という言葉が、頭の中をぐるぐると回り始める。


 「外されるのは絶対に嫌。本当に…頑張らなきゃ」


 澪は頭まで布団を被ると、ギュッと目を(つむ)った。

 コンテスト応募のため、急遽13話を更新しました。


 今週の土曜日に14話を更新予定ですが、遅れるかもしれません。その時は活動報告でお知らせします。

ご了承ください。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ