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冷酷と噂の名家当主に嫁ぐことになりましたが、私はただの雑用係です  作者: 月森 かれん


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閑話 桂木律の本音

 午前十時四十分、 


 自室に戻った律は、さっそく仕事に取りかかっていた。

 藤村が起こした草案を最終確認している。


 しかし、その顔は時折ニヤニヤと笑みを浮かべていた。


 「朝比奈澪……なかなか芯の強い女性じゃないか。

会って間もないのに、俺に直接居場所を求めるとは。

 中堅名家の長女、だったか。義妹とは真逆だな」


 律は手を止めると、先日の夜会を思い起こす。


 「芙蓉会館(ふようかいかん)」で行われた、「名家のみ」の夜会。

 名家であれば中堅でもベテランでも家柄は問わない。 


 とはいえ、テーブルは家柄ごとに分けていた。

毎回、律自ら挨拶に行くのだが、中堅テーブルにやたら自分のことを押し売りする女性がいたことを思い出した。「朝比奈」と名乗っていた気がする。


 「「五度目の招待、感謝申し上げます」と言っていたな。とても高揚していたようだが、何か勘違いでもしていたのか」


 五大名家ともなれば夜会の招待は()()()()()()()()()であった。

 しかし、商家出身の継母と義妹はそのことを知らなかったのだ。


 「俺は、家の威光で言い寄られるのが大嫌いなんだ」


 少し声が低くなり、怒りが滲み出る。


 「ほとんどの令嬢は俺よりも「俺の家柄」しか目に入っていないだろう。だから、俺の気を引くためにあの手この手で言い寄ってくる。本当にうんざりする」


 料理が得意。裁縫が得意。掃除が得意。

皆、自分の得意分野ばかりを主張してきた。


 「女性の得意なことなんて。大概知れている。そんなに主張するなら、今度は俺の目の前でやってもらおうか……」


 律は大きく息を吐くと、頬杖をついた。


 「両親もしつこい……。俺をここまで育て上げてくれたことには頭が上がらないが、結婚ぐらい自由にさせてくれ。

「娶るなら同格か、最低でもベテラン名家のご令嬢と」。何故、制限する?

名家の家柄なぞ、そこまで変わらないだろうに」


 実際、今まで律は何人かの令嬢と婚約関係にまで至った。

しかし、家に入った途端に我儘になる者、律の理論詰めに耐えきれずに解消を願い出る者。そんなことが続き、どの関係も一週間ともたなかった。



 だからこそ、律にとって澪は新鮮に映った。

招待状を受け取っているはずなのに五回連続で出席しなかった。

それだけで完全に律の興味は膨れ上がった。


さらに対面して、頭に澪という存在がしっかりと刻み込まれた。


中堅名家の長女でありながら身なりは使用人のよう。

謙虚で常に何かに怯えていて表情は暗い。

だが、最後の最後で「自ら望みを口にした」。


 「……社交場で俺に居場所を求めた令嬢が、今までに一人でもいただろうか?」


 ポツリと呟いて、首を力なく左右に振る。


 「ふふ……。

 どれほどの仕事ができるか、しばらく見てみるか。「試す」のではない。「知りたい」んだ、朝比奈澪という人間を」

次話から、週一更新に戻ります!

8月23日の予定です。

よろしくお願いします

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