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11話 思い出の魔道具

内乱時、大半が反乱軍に味方したグレイ騎士団へと対抗するため、公王派についた一部の貴族及び平民中心で“傭兵騎士団”を結成したのだそうだ。

半分焼け野原となった森と荒野の狭間で、そんな傭兵騎士の軍勢と魔物の群れが、今まさに激突した所だった。

「聞こえるか、ガイ?」

その荒れた森より更に後方、山岳地帯の中腹から、クレンはじっと戦闘の様子を見下ろしていた。

「おぅ、ばっちりだぜ!」

「岩場の向こう──お前から見て右手側、岩猪ロックボアの群れが来てる」

「…………」

『マジか、了解! よっしゃ、力自慢はオレっちに続け!』

「推定30体程かな──ギル、切り替え頼む」

「……ほらよ」

クレンの口元で通話用魔道具“Eコール”を手に突っ立っていたギルバートが、微妙な表情をしたまま右側のボタンを押す。

「サンキュ。……副隊長さん、術士を森側に数名配置してください。弾丸蜂バンビーが来ます」

『バンビ? 子鹿かい?』

「蜂です。弾丸みたいに飛んでくるし毒持ちなんで、広範囲魔術での殲滅がマストです」

『げっ! おいっそこの術士連中、来てくれ!』

副隊長達の部隊が無事に魔物の奇襲を凌いだ所で、クレンは再度ガイ達の戦う岩場周辺へと目を走らせた。

「ごめん、もう一度ガイに繋げるか?」

「へいへい……」

クレンが頼めば、変わらず釈然としない顔で指先に魔力を込めたギルバートは、Eコールの左ボタンを押して通話相手を切り替えた。

「ガイ、部隊の左翼で何人か負傷してる。フォローできるか?」

『──あん? こっち潰すのが先決じゃねぇ?』

「確かに目的は魔物退治だ。けど武勇名高い“大斧鬼アクスオーガ”なら、仲間を守りつつ敵の殲滅も可能だろ?」

『おぅよ、余裕だぜ! よっしゃ見てろ!』

ガイの助太刀により部隊の左翼が立ち直るのを確認し、一息ついたクレンは主に向き直る。

「よし、これで大体──ギル、どうした?」

「思ってたのと違うぜ……」

ひたすらクレンの通話係に徹していた公爵閣下は、やけに疲れた顔で不貞腐れている。

「ごめん、魔力使わせすぎたか?」

「ちげーよ! こんな微量、屁でもねー!」

吊り目を更に吊り上げたギルバートは、堰を切ったように不満をぶち撒け出した。

「アニキの采配を高見の見物する予定だったのに! 遠すぎてオレサマ特製望遠鏡でも全然見えねーし!」

「ここしか高台が無かったからな」

「結局オレサマ通話の手伝いしかやってねーぞ!」

「けどそのEコールって魔道具、お前しか使えないし」

「今ド正論は求めてねーんだよぉ!」

地団駄を踏んで喚く主を尻目に、クレンは改めて眼下の様子を見やる。

魔物退治はほぼ完了した様子で、ざっと見た感じでは命に関わる怪我をした者も居ないようだ。

「とりあえず、俺の仕事は終わりだな」

魔力を解除した目元を軽く揉んでいると、ギルバートが気遣わしげに見上げてくる。

「……あまり眠れてねーってアンナに聞いたぜ、平気なのかよ?」

「大丈夫、少し寝不足でぼんやりしてる程度だし。5年寝てた分、5年起きてて平気かもな」

「んなトンデモ体質あるか! 真顔でボケんな!」

(別にぼけてないし、真顔しかできないし……)

ツッコミから一転、再度真面目な顔になったギルバートは、手元のEコールへと視線を落とす。

「……今度アニキの検査結果を踏まえて、例の内乱についてもーちょい詳しく伝えるつもりだ」

「え? いいのか、俺は──」

「まだ敵だ捕虜だと抜かしやがるなら、一発ブン殴るぜ」

激情を押し込めたような目で睨まれ、クレンは口を噤む。

「当時のアンタは、明らかに正気じゃなかった。反乱軍のトップか幹部──貴族派連中による呪術絡みの線が濃厚だ」

「呪術……」

呪術──贄や代償を要する代わりに強力な効果をもつ禁術については、クレンもこれまで何度か耳にしていた。

以前シドは死者を蘇らせる呪術が存在すると仮定していたが、例えば記憶を消すなどといった、人の精神に作用する術もあるのだろうか。

「アニキを救出できたのは、このEコールのお陰でな。1台おじゃんになっちまったが」

「……それで、3台なのか」

クレンの記憶では、彼がかつて父親と共に開発していた魔道具は、グレイリー父子とクレン、そしてユリアの4人用で、全部で4台あったはずだ。

うち2台が親機で、それぞれギルバートとシルベスターの魔力が登録されており、通話するには一方が親機から魔力を込める必要があるという。

「もう何台か欲しーんだが、設計図も素材も残ってねーし。製作工程は大体覚えてるが、必要素材が分かんねーとな……」

ギルバートが魔道具を大事そうに鞄へと仕舞うのを眺めながら、クレンは尋ねる。

「素材って、魔石?」

「鉱石も幾つか使ったが、種類までは記憶してねーよ」

「けどそこに実物があるだろ。多分、見れば分かる」

それを聞いたギルバートが、まさに子どもの頃を彷彿とさせるきらきらした眼差しを向けてきて。

「──っさっすが、オレサマのアニキだぜ!」

(笑った顔は、昔と全く同じだな……)

彼に笑顔を返せない自分が、ひどくもどかしかった。







公爵邸に戻るなり、早速ギルバートが魔道具を分解して中を見せてくれた。

「大丈夫か? 構造が複雑すぎる物は“視る”としんどいっつってたろ」

「初見はな。2回目以降は別に平気」

「うっわ……んで一生記憶してんだろ、相変わらずとんでもねーな……」

驚きを通り越して軽く引いている主をスルーし、クレンは回路の内部と前公王の部屋に残っていたという僅かな素材や部品とを見比べる。

「んー……一般金属は良しとして、足りないのは雷魔石ヴォルツストーン電気石トルマリン、あと白金鉱ピュアライトか」

「……何で一目見て種類まで分かんだよ」

「シルベスター様が覚えろって。視察付き添いって名目で、何度か採掘も手伝ったし」

「父上め、ちゃっかりオレサマの従者を有効活用しやがって……!」

こうして、暇を持て余している自分が必然的に素材集めを引き受けることとなったのだが。

「今更ですけど……」

王都グレイの北西に連なる山脈の一角である“白鉱山デッドマイン”に辿り着いたクレンは、馬を降りつつ振り返る。

そして、さも当然のような顔をしてここまでついて来た主へと問うた。

「……公爵殿下、ご公務は?」

「問題ねーよ。ジェーソン叔父上に押し付けてきた」

(いや問題大ありだろ)

現在公国の摂政を務めるジェーソン・グレイリーはシルベスターの末弟で、元は公国南部の片田舎で医者をしていた人物だ。

何度か前公王の容態を診に来てくれていたためクレンも一応面識のある相手だが、現在はギルバートの後継人兼補佐役として一部公務も担ってくれているらしい。

「摂政殿下にあんまり負担かけるなよ……?」

「叔父上がいーっつったんだから、いーんだよ」

甥っ子の我儘攻撃に白旗を上げる摂政の姿が目に浮かび、クレンは遠い目をした。

温厚で魔術士としても優秀な彼は、元々王位には関心が無かったそうだが、ギルバートから半ば強引に引き抜かれてしまったという。

(優しそうな人だもんな。時々医務室へも来てくれてたし、まさに医者の鑑って感じで……)

兄を病から救えなかった後悔もあり、内乱時には弟子のアンナと共に医療面で公国軍の勝利に大きく貢献し、今も仕事の合間を縫って新薬や治療法の開発、呪術の解析及び解呪などを日々研究しているそうだ。

「ぐはは! 若様は昔っから甘え上手の末っ子気質だよな! 1人っ子なのによ!」

「黙れ筋肉ゴゥレムが! 敬語使えや愚図阿呆間抜け!」

「暴言酷ぇ!」

身長低めのギルバートが睨み上げた先には、特大の馬から降りてこちらへと歩いてくるガイの姿。

「よ、クレン! オレっちも手伝いに来てやったぜ!」

「……傭兵騎士団隊長、今日は軍議では?」

「何故かいつも呼ばれねぇんだ。適材適所、難しく考えずに当日活躍すりゃ充分だってよ!」

「「……はぁ」」

思わずギルバートと揃って嘆息する。

「アニキ、即刻コイツと隊長代われ」

「何でだよっですか!?」

「無理。俺は裏方担当だし」

騒ぐ2人を適当にあしらいいつつ、クレンは山を見上げて思案する。

(3人だと、少し厳しいか? うーん……)

「まぁ、ギルやガイくらいの実力なら……」

何となく呟いただけだったのだが、どうやら何気に2人の自尊心を擽ってしまったらしい。

「へっ、頼もしいってか! いーぜ、もっと頼れ! そして褒め称えろ!」

「おーっしゃ! 腕が鳴るぜ!」

(……16歳児と17歳児のお守りかぁ)

クレンから割と失礼なことを思われいるとは露知らず、大きな悪ガキ2人組は気合い充分で勝手に盛り上がっていた。

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