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契約の要 1

魔族と魔術師見習いの少女。






授業が終わった休み時間いつも通りテラスで喋る少女達が居た。

その中の一人が小柄の少女に声を掛けた時から運命は加速しだしたのかもしれない。


「そういえばさーあんた試験どうすんの?」


「やばいねー」


声を掛けられた少女があっけらかんと答えると一斉に周りから溜息が漏れた。


「やばいって・・・危機感持ちなよ。このままじゃ留年だよ。」


「そうだよー離れるのなんて嫌だよ。」


「今から行ってみる?」


口々に言われるのはこれからどうするのかという事。

何度言われてもしょうがないじゃないかと少女はやや逆切れの方向に向かっていく。

自分だってどうにかしたいのだ。


こうして彼女を悩ませているのは昇給試験が近づいているからだ。

昇給試験といっても魔力を少しでも持つ人間なら簡単に出来てしまうことだ。

何らかの魔力を持つ生物と契約を交わす事。

中級以上の魔物や精霊などは難しいだろうが無条件で人間に懐く生き物や魔力を込めるだけで契約できる生物が販売されている。

それを使えば何ら問題の無い事だった。

しかし、少女はそれらの生き物ですら駄目だった。

何とか自力でやってみようとは思ったがこれ以上は無理かもしれない。


「先生に相談してくる。」


余程のことで無いと試験で先生に聞くことは良しとされていない。

それだけで減点になってしまうからだ。

仲間で教えあうのは知識の向上として許されているが学生の手に負える問題では無くなってきてしまっている。


契約や魔力に詳しい先生の研究室へとやってきた。

いつみても柔らかい空気のする部屋だ。

きっと彼女の契約した精霊の力がそうさせるのだろう。


「先生、試験の事で相談したい事があるのです。」


「それは減点されても良いという事で聞いているのですか?」


「はい。私の力ではどうする事も出来ないのです。」


仕方がありません。そう言って彼女は椅子を勧めてくれる。

精霊がお茶を淹れてくれた。爽やかなハーブティー。

これを話したら呆れられるか、学校を追い出されてしまうのではないかと恐かったのだが飲む事により少し落ち着いた。


「実は、契約が出来ないのです。」


「それはどういう事です?魔力が無い様には見えないのですが。」


「魔術は使えます。けれど契約だけが出来ないのです。」


基本契約は一人につき一つしか出来ない。

力のあるものは複数出来るが当然少女は一つで精一杯だ。

そしてさらに強いものと契約したい時は専用のハウスというものを使い待っていてもらう。

ハウスがあるといっても安心してはいけない。

ハウスにいれあまりにも長く出さないと契約が切れてしまう。

あまりにもそれが頻繁に起こるようであれば契約を誰もしてくれなくなる。

信頼関係が大切なのだ。

自信がないものは契約したものと交渉して後腐れの無いようにしてから契約を解消している。

他にも色々と制約がかかるので簡単に契約が出来ると言っても軽く考えていると痛い目にあうのが契約だ。

販売している生き物にしてもそうだ。

規約を守らねば自分が大変な事になるので慎重に選ぶ必要がある。


「ふむ、もしかしたら知らぬ内に契約していたのかもしれませんね。」


「そんな事があるのですか?」


「珍しいケースですがあります。相当気に入られていたのなら契約をされてしまう場合があります。それだと貴女の手に負える話しではありませんね。減点の件は試験管に話しておくので気にしないで下さい。」


良かった。

実技試験の場合関連する授業の点数から減点されてしまうので心配だったのだ。

それにしても勝手にしてしまうとは凄い事だ。

簡単に出来ると言っても準備とそれなりの材料が必要になる。

どんなものと契約したかは分からないがそれなら自分が契約出来なかったのも納得がいく。

材料などが使いまわしの出来るものでよかった。

毎回無くなってしまえばどれだけの労力を使っていた事だろう。


「例えば森などで特別親しい精霊などいますか?もしくは魔力の強い場所に頻繁に通うなどは?」


「覚えがありません。」


彼女が報告されている例であげてみたが、覚えがないのでは一度検査してみるしか。

そう思っていると少女が、思い出すように口を開いた。


魔力がある場所ではないが去年から頻繁に通う場所がある。

学校に通うために借りている部屋の近くでお屋敷の男性と知り合い、お茶を一緒にしているのだと。


「詳しく話してください。何か変わった事が無いか良く思い出してください。」


そういえばと、その時彼が突然変な事を言ってきた。

試験が近付き契約をしなくてはならないので、良く転ぶから治癒術の出来るものと契約したいと言うとやんわりと微笑んだ後、契約をすると穢れてしまわないかと言い出した。

一般の人はそう思ってしまうのかと思い流し、それなら私が契約しようと言い出した。

この人はいつも冗談を言う。面白くなり貴方となら良いですよと答えた。


「私の全てを君にあげよう。」


「おーありがとうございますー」


その言葉とともに向かい側から手を伸ばされ円を描くように擦られた。

そんな事があったような。

その後いつも通りにお茶を飲みお菓子を食い散らかしながら笑い合う。

彼の顔はとても良かったので可愛いと言えなくも無いという自分の外見では契約の真似事だろうと気にしていなかった。

どうも触られたお腹のあたりが熱くなった気がしたが顔が良い人は顔だけでなくお腹まで熱くすることができるのかとあまり気にせず家に帰った。


「それです!!」


「うぉっ!?先生?」


「貴女は既に契約をしています。何故気付かないんです!!熱くなった時点が可笑しいでしょうが!!契約時に熱くなると授業で言ったでしょうが!!」


「え?でも彼は人間です。」


「魔族なら人間になりすます事など簡単です。それをしないのは人間に興味が無いからです。」


そんな事を言われても人間同士が契約できると思わないじゃないですかと口の中でもごもごと反論する。

どれだけ魔力があろうと人間同士では契約は出来ないのだ。

彼は何処から見ても人間にしか見えないし自分のようなまだ基礎しかしらない見習いに魔力を隠した魔族を見抜く事など出来るはずが無い。

それに魔族は契約の仕方など色々な物が違うのでまだ習ってすらいない。

それらしい材料も魔方陣も見えなかった。口ですると言っただけで結ばれるようなものだとは思わなかった。


「お腹を見せなさい。」


素直に学生服の前をお腹の部分だけ開き見せる。

そこには胸の下からへその下あたりにまで掛けて刺青が入っているように見える。


「やっぱり・・・見なさい契約の印です。長年研究してきましたが此処まで複雑な印は一度しか見たことがありません。それ程高位の魔族なのでしょう。」


気付かなかった・・・

視線で驚いているのがわかったのか盛大な溜息が聞こえる。

だって自分の身体をナルシストじゃあるまいしまじまじと見る機会なんて無いじゃないかと少女は思う。

風呂に入る時なんて鏡はついていないし、がしがしと洗い湯船にそのまま入ってしまうので気にしたことも無い。

それに彼女は小柄な体型だが胸が大きく鏡を見ないと自分の腹を覗き込まない限り見れない。


「隠している気配がしないので、これからは些細な事にも気を抜いてはいけませんよ。」


母親にも似たようなことを言われた事があるような気がするのは気のせいだろうか。

いや、きっと気のせいだそう言い聞かせた。




続く。

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