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プロローグ 小さいライラックの目蓋にキスを

いつのまにか自分の性格がきらいになって、

自分の特徴のない綺麗なだけの顔がきらいになって、

他人が好む私が好きになった。



国立学園にいる時は、真面目で優しい女子生徒を

夜ひとりで出かけるときは妖艶な姿で惑わす女性を


そんな日々を送っていれば実の親からどれだけ煙たがられていても目を逸らせていられるから。

目を逸らした先が、ひどくつまらなくてもそれでいい。




人を魅了するのはこの若くてハリがある身体と整った顔があれば難しいことではない。

男性には身体を、女性にはさらに心を預けてみると

大抵の人は私のことを見てくれる。

軽い愛を育んで、私はそれでいいのだ。



でも。私だけを求める人間はどこにもいない。

家族にすらも求められないのだから。


性愛でも友愛でもなんでもいいから



私だけが独り占めできる愛が欲しい




なんて。



くだらない夢を持つのはもう諦めている。



「今日はもう終わりにしようかしら」




寮監にバレるのも厄介だし、そろそろ‥













「…!!あ、あ、あのっ!!!!!!!!





私たちどこかで会ったことないですか…!」





街の雑音にも負けない高い声が真正面から聞こえた。



こんな夜の街には似合わないかわいい女の子が

ボーっとしていた私の目を見てそう言ったような気がする。





「…え、‥あ。私に言ってるの?」



「っ!はい‥」

暗がりでも分かるくらい顔を赤くしている。


求めてくれていそうな女の子の顔を見て

今日は寮監のことを考えるのをやめようと思った。




「そう、ずいぶんと可愛いナンパね。

会ったことがあるかは分からないけれど、

あなたのこと教えてよ、

私のことも教えてあげる。」



お互い気の迷いで仲良くしよう。

朝になったら忘れてね。

















「…ねぇ、もう帰りましょうよ


あなた明日は早いって言ってたじゃない


送ってあげるわ、ね?」





近場のバーに入ってからどれくらい経っただろうか。


この子の名前はサラ、

サラ・パルモ・ライラックというらしい。

髪色はきれいな紫色で2つに縛ってまとめている。

初対面なのに本名を教えてくれて警戒心のない子だなと思った。









それにしても中々お酒強いわね、この子‥。


もう10杯は超えているはずだけどケロッとしていて、私があそこでなにをしていたのかとか、好みのタイプだとか色んなくだらないことを質問してきた。






20杯目を超えたあたりでやっと帰る気になったのか



「お姉さん。こんな時間に私みたいな可愛い子が外歩いてたら危ないですよね??

だから家まで送ってください。」




と堂々とした態度で言ってきた。




元々一緒に帰る予定ではあったけど、いざこんなふうに言われると少し置いていきたくなってきた。




年下に見えたというのもあって私がお会計をすませ、

知り合いに目配せをしながらバーをあとにした。





「ここでいいかしら。」


「はい、だいじょうぶれす‥。」



サラの家の前で足を止めた。

彼女は今ホテルの一室を借りているらしい。




この勢いで口説いてしまってもよかったけど、

あどけなくてなんにも知らなそうな彼女にするには気が引けた。


「明日の用事は大丈夫そう?」


「それはだいじょうぶ!

うまくいくようになってるので!」







ふらつきながらも自信満々な様子だった。




根拠のない自信ってこんな感じなのかしら





「そう。じゃあ、またどこかで会いましょう」


「…んふふ、そうですね!

じゃあまた今度、あんじゅさん。あなたに会えてよかったです。」



「えぇ、私もよ。」


抱きついてきたサラの可愛い目蓋にキスをしてそのまま別れを告げた。




大げさに手を振る彼女を背に私は寮へと足を進める。


無邪気な子どものような不思議な娘だった。



ナンパの理由も分からずじまいだったけど、追求するほどのものじゃない。






…でも、私あの子に自分の名前なんて教えたっけ?





「ダメだ、憶えてない。


私も飲みすぎたかも‥。」







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