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エピローグ

「……それでさ、やっと完成したんだ。いやー、大変だったな。入社した時からのプロジェクトだったから」

 横に座る美冬と話しているこの瞬間も、目は無意識のうちに理沙を追っていた。全身で風を切り、楽しそうにブランコで遊んでいる理沙。少し前までは危なっかしくて、ずっと付きっきりになって漕がせていたのにな。真由美が迎えた誕生日の数と、同じ数の誕生日を迎えて、理沙も、もう七歳だ。


「腎臓の病気の薬だったよね。その薬で一体何人の人が救われるんだろう……。本当にすごい仕事だよね」

「小児外科医になるっていう夢を諦めて、この仕事に就いたわけだけど、今では誇りに思ってるよ。今の夢は、小児がんの子をたくさん救ってあげられるような、害が少なくて強い抗がん剤を創ることだな」

 真由美と同じ小児がんで苦しむ子供を救いたい。それだけを願って、僕はあれからの学生時代を、全て勉強に費やした。当時の僕は誰から見ても「がり勉」で、友達の数もどんどん減っていった。だけど、美冬だけは、一緒にいても何も楽しくない僕の隣にずっといてくれた。

「叶うといいね」

「叶えてみせるさ。美冬が一生懸命に頑張って、小説家になったみたいに」

「私なんてまだアマチュアだよ。小説家なんてそんなたいそうな……」

 見慣れたぎこちない笑顔。僕が、「こんながり勉と一緒にいて、何が楽しいんだ?」と訊いた時、美冬は必ず、「光平がいないと、なんか困るから」と答えて、今みたいなぎこちない笑顔を浮かべた。

「ああ、そういえばもう時間だね、帰ろう」

 世の恋人たちのような、くすぐったい感情を持たずに、僕たちはごく自然に付き合うことになって、結婚することになった。一緒にいる時間が長すぎたせいか、僕は一度も美冬にドキドキしたことがない。

「そうだな」

 だけど僕は、美冬の隣にいる時が一番幸せで、この暮らしがずっと続けばいいと思っている。あの手紙に書いてあった「心の底から一緒にいたいと思えるような人」は、実はすぐ近くにいたんだ。

「おーい、理沙ー! 帰るぞー!」

「えー、まだ遊んでたい!」

 ブランコの支柱にコアラみたくしがみついて、理沙が言う。さらさらした前髪が春の暖かい風に吹かれて、白い小さなおでこが見える。

「じゃあ、パパとママは先に帰っちゃうよー!」

「えっ、待って待って! おいてかないで!」

 バタバタと焦る理沙の微笑ましい姿を見つめながら、思わず呟いた。

「誰もおいてかないよ」

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