第肆話 ヘタレ
ウツギの”ケン”スキルの正体それはケンの文字が付くスキルに成長補正がかかるというものであった。
それは正にチートと呼んでも間違いない性能であり、ウツギは”ケン”スキルを有効に扱うために、剣術の他にも様々な試行錯誤を繰り返したのだが。
「うーん、使いずらい」
”ケン”スキルの正体が判明してから1か月にしてウツギは行き詰っていた。
そもそもスキルとは基本的に技能のことをさす。
いくら”ケン”スキルが有用なスキルであるとはいえ、ケンのつく言葉すべてがスキルになるわけでく、いくら”ケン”の付くスキルを覚えようとしても、そのスキルを教えてくれる師匠なり先生なりがいなければ見当違いなスキルを覚えてしまうこともある。
その一つの事例としてウツギが”拳法”のスキルを得ようと訓練を行った結果、訓練方法が悪かったのか”喧嘩”スキルを覚えてしまうということがあった。
つまり”ケン”スキルを有効的に使いこなすにはケンの付くスキルであるということと、そのスキルを正しく訓練する必要があるということである。
その二つの条件をクリアするのはウツギの現在の環境では難しかった。
「ね、ウツギ君、やっぱり都の学院に通いましょうよ。その方が君の為になりますって」
「それはアカネさんが僕のスキルの研究をしやすいからでしょう?」
ウツギと話しているのはスキル鑑定の儀式の時にいた女性の係員――アカネであった。
実は彼女、スキル鑑定の儀式の係員と言う肩書の他にスキル研究者という肩書も持っており、ウツギの”ケン”スキルの正体が判明した途端、ウツギの持つスキルの研究がしたいと都に帰らずサカエ村に駐留し続けていたのである。
そのためウツギは一日に一回スキル鑑定を行うことが出来、喧嘩スキルの取得が判明したのも彼女のおかげと言えばおかげなのであるが……
「むう、でも私の言ってることは間違ってないですよ。都の学園の方が様々なスキルについて学こともできますし、ケンの付くスキルの取得にも困らないはずです」
こうやってウツギたちをことあるごとに都にある学園に勧誘してくるのだ。
「アカネさん、何度も言いますけど僕は都の学園行くつもりはありません」
「なんでですか~ウツギ君はユニークスキル持ちですし、特待生枠で学費もかかりませんよ」
「それでも、嫌なものは嫌なんです!!」
ウツギがここまで頑なに勧誘を断り続ける理由は、ただ単に親元から離れたくないというものであった。
いくらウツギがユニークスキル持ちであるとはいえ、まだ10歳になったばかりの子供である。
ましてや角無しとして現在進行形でいじめに遭っているヘタレでもある。
そんな子供が少ない理解者である親元を離れ、見知らぬ地に出るという決断を下せるわけがない。
「でもでも、ツバキちゃんは了承してくれましたよ」
「おう!!サンコノレイというやつだな!!」
アカネの後ろからひょこりとツバキが出て来た。
「ツバキ!どうして……最初はツバキも学園なんか行きたくないって言ってたじゃないか」
「だから言ったろサンコノレイだって」
「なんだよサンコノレイって」
「あたしもわからん。ぶっちゃけあまりにもこのねーちゃんがしつこいから面倒臭くなって引き受けただけだ!!それに都の学園なんて楽しそうじゃないか」
ツバキは昔からあまり物事を考えないで行動する節がある。
おそらく今回もよく考えずにアカネからの誘いを了承したのだろう。
「ツバキ、僕がいつもよく言ってるじゃないかちゃんと考えてから行動しなって。都に行くとお母さんたちにそう簡単にに会えなくなるんだよ」
「でも生涯の別れってわけじゃないんだろ?大丈夫、大丈夫!!」
ニカっと笑いながらそう言うツバキに、ウツギは言葉を詰まらせる。
どうやらツバキの中では学園行きは既に決定事項となっているようだ。
「なあ、ウツギもあたしと一緒に学園に行こうぜ!そんでもって強くなって帰って来るんだ。そうしたらもうウツギはいじめられることもないだろ」
強くなる。その言葉がウツギの心を揺り動かす……しかし、
「それでも…僕は……」
「わかったよウツギは何も変わらない、そのままが良いんだな」
「……」
ウツギは何も言わない。決断できない。
そんなウツギを見てツバキは長いため息を一つ吐いてアカネの手を引く。
「行こうぜねーちゃん……ウツギ、あたしはお前がこんなにヘタレだとは思ってなかったぜ」
「……」
ツバキはウツギに背を向けて歩き出す。先に行ってしまう。
ウツギはそれでも下向いて黙ったままだ。
「ウツギ君、私とツバキちゃんが都に出発するまでまだ1週間あります……できればそれまでに一緒に来てくれることを私は願っています」
そう言い残してツバキとアカネはウツギの下を去っていった。
そして一週間後、ツバキとアカネはウツギをサカエ村に残したまま都に出立するのであった……
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