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第参話 ”ケン”スキル

 ウツギがスキル鑑定を行ってから三日、ウツギは自室に閉じこもり決して外に出ようとはしなかった。


「ウツギ―頼むから出てきてくれよー父さん謝るからさーなあ頼むよー」


 ウツギの父コガマがウツギの部屋の(ふすま)の前で土下座している。


 しかしながらウツギからの返事はない。これには意図せずウツギが馬鹿にされる片棒を担いでしまったコガマもほとほと困り果てていた。


「アンタが余計なこと言うからでしょ!!まったく……」


 ウツギの母アケビも失態を犯したコガマのことを責める。


「ウツギ、アンタもいい加減出てきなさい。スキルの事は残念だったけど前にも言ったでしょ、スキルだけが全てじゃないって」


 するとウツギの部屋の(ふすま)がゆっくりと開かれ中からウツギが出てきた。


「母さん僕思ったんだけどやっぱり生まれ持ったスキルは大事だと思うんだ」


「何だい藪から棒に」


「僕の生まれ持ったスキルの事だよ”健啖”スキルのことはもうこの際受け入れるしかないけど”ケン”スキルについては研究してみる必要があると思うんだ」


「それはわかったけど、どうやって研究するつもりだい?」


「うん、それについてはこの3日間ずっと考えてたんだけど」


「なに!それじゃあ3日間引きこもってたのは、父さんの失言に怒ってたからじゃなく――」


 ガバリと顔を上げるコガマ、しかしウツギはコガマに冷たい目を向ける。


「いや、それはそれ、ちゃんと怒ってたよ」


「ホントにすまなかった!!」


 再び土下座の体勢に戻るコガマ。


 するとウツギはため息を一つ吐くと「もういいよ父さん」とコガマの事を許す。


「話の続きなんだけど部屋で考えてても埒が明かないなって思って」


「それで部屋から出てきたと」


「うん」


「それでどうするのさ」


「とりあえず剣の修行から始めようかなって」


「何でまた剣なのさ」


「僕のユニークスキルって”ケン”スキルでしょだから――」


「なるほどケンつながりで剣の修行ね――そんな駄洒落みたいなスキルあるのかい?」


 アケビはウツギの考察に半信半疑といった様子だ。


「実際もう一つのスキルは健啖家でケンつながりだし、何もしないよりはマシだろ」


「そりゃそうだ」

 ウツギは未だ土下座の姿勢でいるコガマに向かって言う。


「というわけで父さん」


「ん?何だ?」


「僕に剣の稽古をつけてよ」


 息子からの思わぬ申し出にコガマは目を輝かせながら、ガバッと顔を上げる


「おう!!任せとけ!!」


 素早く立ち上がった。コガマは自身の胸をドンと叩き、そんな代わりに身の早い夫にアケビは短くため息を吐いた。


 しかし、息子が思ったよりも(したた)かであったことは、嬉しい誤算であった。


「それじゃあ二人とも、早速外に出て訓練を始めな」


 言われてウツギとコガマは元気よく返事を返し家の庭に出ていく。


 幸い訓練に必要な道具はコガマのお古が家にあり、訓練はすぐに始まった。


「それじゃあウツギ最初は剣術の基本、素振りから始めるぞ。最初は俺が見本を見せるから同じようにその木剣を振ってみろ」


「うん」


 コガマが木剣を構える。


 するとコガマの纏う雰囲気が明らかに変わって見えた。


 普段の豪快な父親像からは想像も出来ないほど真剣で張り詰めた空気を纏い、大上段のかまえから木剣を振り下ろす。


 その姿にウツギは身震いした。


 これが鬼神族の誇り高き戦士の纏う空気、ウツギはしばらくの間木剣を振るう父の姿に感動し、釘付けになった。


「まあ、こんなもんかな」


 素振りを止め、かまえを解いたコガマはウツギにニッと笑いかける。


「すごい!すごいよ父さん。父さんがあんなに格好いいなんて初めて思ったよ!!」


 無邪気に自身の事を褒める息子に、コガマは思わず頬を赤らめて照れてしまう。


「初めてって言うのはちょっと気にかかるが、そんなに父さん格好良かったか?」


「うん!!だってこうやって構えるだけで周りの空気が全然違うものに感じたし、木剣を振った時なんか空気がボワッってなったし」


 言いながらコガマの真似をしながら木剣を振るウツギ、その様子を微笑ましいく見守るコガマであったが、ある時点からウツギのある異変に気付く。


 その異変とは一振り、また一振りと素振りを繰り返していく中でウツギの素振りが目を見張るように良くなっていくのだ。


「ちょっと待てウツギ」


「え、何?」


「俺と一緒に来るんだ」


 父の真剣な眼差しに気圧されつつも素振りを止め、父についていくウツギ。


 二人が向かったのは3日前にスキル鑑定の儀式を行った神社であった。


 神社に着くとコガマはあたりを見回してとある人物を探す。そしてその人物を見つけたコガマはウツギの手を引いてその人物の下に向かう。


「よかった。まだ出発してなかったんだな」


 その人物とはスキル鑑定の儀式を行った時の女性の係員のことであった。


「どうされたんですか?」


 係員は不思議そうな顔をしウツギたちを迎え入れる。


「いや、うちの息子のスキル鑑定をもう一度して欲しくてな」


 コガマからの突然の申し出に係員の女性は困惑を隠せない。


「突然そんなことを言われましても……」


「無理を承知でお願いする。もう一度、一度だけで良いんだ」


「たった3日で新しいスキルは覚えられませんよ」


「それは俺も重々承知だ。だが、この子の様子を見てピンと来たんだ」

 

 言ってコガマはウツギを押し出すように係員の前に立たせる。


「この子……確かユニークスキルを持ってる子の一人でしたよね」


「そうだ今日はそのユニークスキルの件もあって無理を承知でお願いに来たんだ」


 コガマの真剣な眼差しに何かを感じたの係員は「わかりました」と一言言って荷物の中からスキル鑑定の水晶玉を取り出す。


「今回は特別ですよ」


「すまない、礼を言う。ウツギ、スキル鑑定をもう一度するんだ」


 言われたウツギはスキル鑑定の水晶玉に手をかざす。


 すると、3日前と同じように水晶玉に文字が浮かび上がって来る。


 しかし、3日前とは違い浮かび上がったスキルは3つに増えていた。


「スキルが増えてる!!」


 ウツギは明るい顔をして父たちを見るが、ウツギを取り巻く父と係員は神妙な顔をしていた。


「3日前にはなかった”剣術”スキルが増えてる。お父さん、彼は何をしたのですか?」


「ついさっき剣の稽古を始めただけだ……」


「ついさっきって……そんなのありえない……」


「だが、スキル鑑定の水晶には出ている。これが何よりの証拠だ」


「それは……確かに……」


「おそらくだがウツギの持つユニークスキルが関係しているんだと思う」


「確か……”ケン”スキルでしたよね」


「ああ、そして発現したスキルにも(ケン)が付いている」


「つまり僕の仮説は正しかったってこと?」


 ウツギが大人たちの様子を窺うように発言すると、コガマはウツギの頭を優しくなでる。


「ああ、良かったなウツギ、お前がくじけずに一生懸命考えたからこの結果が生まれたんだ」


 コガマの優しい言葉にウツギは泣き出しそうになる。

 

 諦めなくて良かった。腐らなくて良かった。一生懸命考えて良かった。これで変われる。そんな気持ちが涙と共にあふれ出してくる。


 この日からウツギは自身の”ケン”スキルの研究と研鑽にのめり込むようになるのであった。

 

 


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