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第2話 気ままな風来坊

 大型の魔物の縄張りの範囲は、他の生物たちにとってとても重要な情報となる。


 木や地面などに付けられた縄張りの証。爪痕や体毛などの痕跡は彼らの警戒心を掻き立て必要以上に踏み込むことを自制させる。出来心や不注意なものたちがどうなるかは言うに及ばない。


 であれば同じく大型の魔物である私の縄張りは?どれほどの範囲があるのか。どれほどの排他的性を持つのか。


 答えは『なし』。なんともはた迷惑なことに、私は特定の縄張りを持っていない。


 基本は日向ぼっこをしながら睡眠をとり、時に腐肉を見つけては喰らうのみで、散歩の時を除けば全く動かないのだ。


 そんな気質であるために、小動物たちはまったく警戒心を見せない。私の目に彼らが映っていないことを知っているからだ。


 ここで割を食うのは大型の魔物たち。好きなところで爪を研ぎ、牙を研ぎ、好きな場所で昼寝をし、好きな位置で糞尿を出す。

 縄張りを平気で犯し、小動物たちが私のそばにいる以上は余計な手出しができない。私としては勝手に狩ってくれて構わないのだが、それは迷惑をかけ続けている私が言うことではない。


 しかし何も彼らにとって一方的な不利が押し付けられているわけでもないのだ。

 私の痕跡を発見した動物たちは警戒の色を見せずに縄張り内へと足を踏み入れることが多々ある。

 魔物たちからしてみれば、易く手に入る獲物が来てくれる。それもあってか、相手にした場合の手強さも相まって私を放置してくれているものも少なくはない。


 だが彼らにもメンツというものがある。縄張り内で好き勝手されるというのは、やはり屈辱以外の何ものでもないのだから。



 それは散歩をすませ昼寝をしようかと横になろうとした時のこと。頭上から何かの咆哮が聞こえたかと思うと、風の弾丸が私の背で爆発した。


 爆発のダメージはないが、風で体毛が抜けて少し痛い。思わぬ痛みに顔をしかめながら上を見上げれば、太陽をさえぎりながら降りてくる下手人の姿を発見した。


 一言で言うならば翼の生えた赤い虎であろうか。この辺りでよく獲物を狩っている気性の荒い奴だ。見かける度に悠々と空を飛ぶ姿へ嫉妬と羨望を覚えたものだ。


「ハルルルル⋯」


 随分とご立腹なご様子。度々遠巻きにこちらへ視線を向けていたのは知っているので、縄張りに少し長居しすぎたかもしれない。


 いや申し訳ない。ここらでお暇するから許してくれないだろうか?


 立ち上がり踵を返そうとした私の願いに対する答えは、風を纏った突進だった。


 はじめは風の圧。次いで巨体による暴力。

 生半可な生物であれば為す術なく轢き潰されてしまう威力を誇るそれをいっぺんに食らってしまいつつも、吹き飛ばされぬよう四肢に力を込めることで持ち堪える。


 受け止められたことに少し驚いた様子。その僅かに無防備となった顔へ、アッパーをぶちかましてやった。

 見た目通りのパワーを持つ私のアッパーは奴の顎をかち上げ、さらに勢いに任せてその場で片前脚を軸に回転し尻尾を横っ面へと叩き込む。


 派手に吹き飛ばされた奴はすかさず態勢を立て直そうとするも、頭に受けたダメージが大きくよろけている。足を震わせ満足に動けない状態であるのを確認した私は、大きく身を屈め――


「グルッ!?」


 ――平原のさらに南、海岸方面へと逃走を図った。


 背後から驚愕とも憤怒ともとれる強度で吠え立てられるが、それを無視してスタコラサッサと逃げ去る。すまない、この体になってから戦闘行為は非常に面倒くさくなってしまったのだ。それに万が一、このまま続けて手傷でも負ってしまおうものなら⋯⋯なんと恐ろしい。


 プライドなど縄張り意識と共にどこかへ置き去ってしまったのだ、逃走の一つや二つ屁でもない。さらばだ貴公、また逢う日まで。


 あとに残ったのは呆然としている魔物が一体のみ。しかし縄張りから獣を追い出せた以上、もはやここに留まる意味もない。

 未だにふらつく体をかばいながらも、魔物は休息をとるために寝床へと向かうのであった。


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