間違い探し
市内では中規模、7階建てで、手術室も入院用の病室も備えた、整形外科に定評のある病院を受診した。
1階、正面玄関を入ってすぐのところにある受付前の待ち合いで、会計窓口から呼び出されるのを待っていた。
設置されている椅子の数はそこそこ多いものの、あらかたが高齢者で埋まっている。
空間の端、人の邪魔にならない位置を選び、立って待つことにした。
前日の朝からの右膝痛は、以前、腰が急に痛くなったときと同様で、周辺の筋肉をつけるようにとの指導を受けた。そうすることにより、膝への負担が軽減される、とのことだった。
診察、レントゲン、診察、リハビリ室での運動指導。
想定通りと言うべきか、思ったよりも早く済んだと言うべきか、午前がほぼ終わるくらい、だがまだ昼前というくらいの時間になっていた。
支払いが済めば、あとは病院を出てすぐ横の薬局に寄って、処方された湿布薬と軟膏を貰ったら帰れるはず。
そろそろ家族に連絡して迎えを頼まなければと思い、ショルダーバッグからスマホを取り出……そうとして、ふと違和感を覚えた。
気持ちが悪い。
視界に入ってくる景色、待ち合いの様子に、どこか気持ち悪さを感じる。
なんだろう、なんだろう、なんだろうと迷路を辿るように考えて、あ、と気持ち悪さの正体に行き着いた。
スマホ。
自分だけ。
椅子に座って待つ人達に目を向ける。
誰も、スマホを手に持っていない。
もしかして使用場所が制限されていただろうかと掲示物に目を遣るが、それらしきものは見当たらない。
普段からよくかかっている病院ではないので、自分がただ見付けられないだけで、どこかに掲示されているのかもしれないが。
椅子に座っている多くの人は、壁の高い位置に取り付けられた大きな液晶テレビを眺めているのか、特に何も見ていないのか……。
スマホの利用禁止以外の理由を推測する。
一、年齢層。高齢者が多いから。
二、整形外科という診療科の受診、リハビ
リ目的での来院。手足腰などに違和感、痛みがある患者がきっとほとんどであり、また、診察やリハビリには受付票を挟んだクリアファイルを持って院内を移動する必要があるため、スマホを取り出したり手に持つ余裕があまり無いから。
三、時空が歪んでいる。似て非なる世界、異世界的な、パラレルワールド? この空間、世界にはスマホが存在しない。
ショルダーバッグにはちゃんといつも通り、スマホが入っていた。
スマホの画面表示によると圏内。電波のアイコンはいつも通り、問題無い。
LINEアプリを開き、家族に迎えを依頼するメッセージを送った。
何故だろう?
メッセージの送信に失敗した。