特戦1
気を失っていた教村は目を覚ました。
姿勢は仰向け。ぼんやりとして、覚醒直後は自分がどこで何をしていたのか、まるで分からなかった。
それはある意味で幸福だった。
すぐに意識が途切れる直前に目にした、衝撃的な光景が脳に流れ込んで来る。
爆発の光の中で切り刻まれる若者達。
顔面に嫌な汗が吹き出し、目を見開く。
自分の置かれた状況が飲み込め始めると同時に、教村は周囲に立ち込める臭気に気付いた。
周辺の様子を把握するには十分な明るさになっている。
肘をついて体を起こす。ボディアーマーを身に着けているせいで、動きは鈍かった。
ヘルメットはどこかに飛ばされていたが、どうやら教村自身はどこもケガをしていないらしい。
苦労して上半身を起こした彼女は、臭気の原因を理解した。
彼女の周囲は、平和な世界でジャーナリストをしているうちは、まず目にすることは無かっただろう惨劇に溢れていた。
体を切り刻まれた若者達が、無残な遺体をさらしていたのだ。
クラスター弾の断片に引き裂かれた胴体からは、内臓が大量の血液と共に溢れ、臭気の元となっている。
手足は奇妙に折れ曲がり、あるいは切り飛ばされている。
若者達の表情は驚愕や、苦痛の形で固まり、口腔からは血を吐き出している。
身につけていた夏服は血液で赤く染め上げられるか、吹き飛ばされていた。
教村は周囲の状況を改めて認識した。
あまりの惨状に体中が氷を当てられたように震えだす。教村は思わず、口元を覆ったが、どうにもならず嘔吐する。
四つん這いになり、胃を空にした。
「何なのよ、これ・・・」
涙を浮かべつつ、罵りとも悲鳴ともつかない声を上げる。
よく見ると、まだ息のある者が居る。
思わず立ち上がって駆け寄ろうとするが、体に力が入らない。仕方なく、四つん這いのまま、手近な生存者に近づく。
だが、彼女に出来ることは気休めの言葉をかけるくらい。
無視の息の若者達は、か細い声で助けを求め、あるいはパクパクと口を開く。
「た、助けを呼ばなきゃ・・。早くしないと、この子達まで・・」
自分に出来ることが何も無いことを理解した彼女は、助けを求めようと、宮古駐屯地の方を見る。
だが、今まで気付いていなかったが、駐屯地も黒煙を上げていた。
(これじゃあ駐屯地からの救助は期待できないかな?いや、何人か自衛隊員が出てきているけど、数人だけ?正門付近での救助に留まっているみたいだけど?
いや、あれは正門前に散らばっている遺体と負傷者をどかそうとしているだけかしら?)
ダメ元で119番通報をしてみるが、全く繋がらなかった。
だめだ、自分1人では何も出来ない。
教村はジャーナリストとしての使命を忘れ、目の前で死にかけている(先ほど自分に危害を加えようとした)若者達を救うことした考えていない。
そこで教村は、ようやくアメリカ人ジャーナリスト達の存在を思い出す。
撮るのが仕事だという態度だが、彼等の人の子。撮れ高を確保した後なら、人命救助を手伝ってくれるはずだ。
「待ってて、今助けを読んでくるから、頑張ってね。」
そう声を掛けて、ジャーナリスト達が潜んでいた、民家の陰に駆け出す。さっきまで彼女自身が居た場所だ。ようやく足に力が入るようになっていた。
そこで、彼女は身に着けているボディアーマーに鋭い断片が4つほど、深々と突き刺さっているのに気づく。
体の中を冷たい感覚が突き抜ける。ボディアーマーが無ければ、彼女もまた若者達と同じ運命だったのだ。
衝撃の連続。そういえば、耳が良く聞こえない気がする。自分が何をしているのか、分からなくなる。
だが、とにかく今は死にかけている若者達を助けなければ。それは正しい行動のはずだ。どんな状況でも。
頼りない足を叱咤して、喘ぎながら走る。
民家に辿りつき、仲間の元に辿りついた。
だが、教村は新たな衝撃を受ける。
アメリカ人ジャーナリスト達は、ほぼ全員が射殺されていたのだ。
唯一生きていたのは、スミスだった。だが、教村が彼等の潜んでいた陰に飛び込んで来た時、彼はまさに射殺される寸前だった。
民家の壁に足蹴にされて押し付けられた、スミスと目があった。目で助けを求めているのが分かる。
だが次の瞬間。スミスの眉間に穴が空き、壁に脳漿と血液が飛び散る。
状況の急展開に、教村はついていけない。
加害者達は4名。
中国人留学生のように見えたが、日本の日常生活では決して見ることが無いはずの物、突撃銃と、歩兵用個人装具を身に着けている。
彼等は、李の部下。攻撃のどさくさ紛れにアメリカ人ジャーナリストの殺害を命じられ、実行したところだったのだ。
彼等は、火に飛び込む虫のような行動をとった教村を待ち受けていた。
3人が、ゆっくりと銃を向ける。
スミスを拳銃で嬲り殺した男が、振り向く。新たな獲物を目にし、笑っていた。
このままでは殺されることが分かっているのに、教村は凍り付いたように動けない。




