表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
沖縄・台湾侵攻2025 Hard Mode --Continue  作者: しののめ八雲
ロールバック
9/78

悪夢の田中政権

25年の夏になるころには、日本は別の国になりつつあった。

非常に悪い意味で。


政権交代に対し、マスメディアやSNSとは異なり、経営者、投資家といった、実質的に経済を回している人々は、殆どが低い評価を与えていた。


このため、田中政権の悪手が重なったこともあり、わずか半年で東証の平均株価は1万円も低下している。


生活新党などに投票しなかった人々にとっては、そうなることが最初から分かっていたことだが、行政は相当に混乱していた。

自分の実力を過大評価し、他人、特に官僚や自治体や経済界の人間を不当に見下している人間が、大量に国会議員や大臣になったのだ。彼等は聞く耳など一切もたずに、妙な思い付きをゴリ押ししようとするばかりだった。

各官庁の人事は辞任と更迭が相次ぎ、それが原因で行政手続きのミスが増えると、田中政権の政治家達は、官僚に全ての責任を押し付け、事態をより悪化させていった。

泡沫政党にすぎなかった極左政党や極右政党の人間からも、入閣した人間が居たからなおさらだ。

(本当に政権が取れそうになった時、田中はあっさりと前言を翻し、「文句ばっかり言ってる」政党を取り込んでいた。)


その一方で、前政権と折り合いの悪かった自治体は、沖縄をはじめ「甘やかして」いる。

田中総理とは言うと、お人好の悪い面が出て、こういった連中に「理解を示し」「一定時間見守る」と繰り返していた。要は野放しにしていたのだ。

奇跡的なまでに社員に恵まれていた、彼の会社では問題はあまり起きなかったが、彼はこの手の人間に対しても、毅然とした態度を取りたがらない面があったのだ。

悪い言い方をすれば、八方美人ということになる。


官邸職員には、怪しげな政党スタッフが出入りするようになり、旧野党の支持母体は、いまのうちに利権を得ようと議員に働きかけ、女性参画、環境、難民、性的マイノリティ、人権、再エネ、といった政策の法案と予算を次々通して行く。

その一方で防衛省と防衛装備庁は、そのしわ寄せをまともに受けた。


彼等は防衛力整備計画を白紙に戻されたのだ。F35を始めとした米製装備は「型落ち」と見なされ、導入が中止。

突然の不渡りに、同じく政権交代が起こった米国との深刻な外交問題に陥っている。

新政権はいったん落ち着きかけていた、沖縄の基地問題も次々と蒸し返していたから、なおさら日米関係はこじれていった。


日英伊共同開発の次期戦闘機開発計画も当然「ゼロベースで再検討」。イギリスもイタリアも当然のことながら激怒している。

防衛大臣は極右政党の党首で、生まれる時代を100年ほど間違えたかのような、国粋主義者だった。彼は米国嫌いを拗らせていたから、むしろ日米関係の悪化を歓び、田中総理と同じくビジネスマン上がりの米国新大統領を、こき下ろして平気な顔をしていた程だった。


さらには、田中総理は「そんな金があるなら国民に使うべき」という理由で、「今後はウクライナの支援をいかなる形であれ、一切行わない。我が国にそんな余裕は無い」と宣言してしまったのだ。

こうして国際的な信用を、急速に日本は失っていっていた。


政治だけでなく、極端な法人税引き上げや、内部留保への課税を検討したことで、外資を中心に企業が日本からの脱出を検討するようになっている。

やるにしても経済界の言い分を聞いて、調整をするという過程を踏まないものだから、彼等の信用を一挙に失ってしまったのだ。これで株価が下がらない方がどうかしている。


韓国でも左派政権が誕生したこともあって、日米韓の連携は急速に取れなくなっていた。言うまでもなく、これは東アジアで有事が起きた場合、非常なリスクとなる。

選挙どころか、日本の世論形成に認知戦による介入を行っていた中露の担当者は、この有様を見て腹を抱えて笑い転げていた。


田中政権の政治家の中でも、極左政党出身の国民生活支援庁長官兼副総理の思い付きは酷すぎた。

「自衛隊は諸外国に脅威を与える軍事訓練を縮小し、防災訓練と、人手不足の土建業界、介護業界、農家に対して民生支援を行うべき」だと言い出した。

かつての援農部隊の復活というわけだ。

このバカげた主張は、元々の政敵である防衛大臣が言下に拒否しただろうが、彼はあろうことか受け入れてしまう。

何故そのようなことになったかというと、防衛大臣は統幕と装備導入と日米同盟の在り方をめぐって、深刻な対立に陥っていたことがあった。

彼は統幕スタッフ達の猛反対に理論で答えず、彼等を辞職に追い込んだだけでなく、意趣返しとして副総理の滅茶苦茶な提案を受け入れてしまったのだ。


これを受け、訓練や演習が次々と中止され、幻滅した一線部隊からは、退職者が続出する事態となっている。


当然、防衛費も大きく削られた。だが、そんな程度では田中政権のかかげる「30年分のベースアップ」に必要な予算はまるで足りなかった。

目玉政策である国民の実質所得の向上は、まるで進捗していない。

連立政権に、経験・能力が共に不足している人間が中核をなし、議席を稼ぐために左右の政党が入り込んだことで、肝心な政策で党内の調整がまるでつかないのだ。

(彼等は気づいていなかったが、中国に魂を売った議員、官邸スタッフも政権内部に入り込んでいた。)

さらに関係省庁のスタッフが相次ぐ辞職・更迭で混乱していたから、なおさら仕事が進まない。


国民生活支援庁の実働も、大見得切った「生活支援手当」の実働も、一体いつになったら実現するのか見当もつかない状況だった。

市場は敏感に反応し、株価は下がり続け、景気も確実に悪化していた。

このように安全保障・経済・外交という政府の主要な仕事の3本軸において、田中政権は出鱈目な運営を行っていたのだ。


そのわりに、選挙公約に小さく書かれていた怪しげな公約は次々成立させている。

難民の受け入れが急速に増え、一部の都市では急速に治安が悪化していた。

(田中総理の「信者」は、これで人手不足解消!と喜んでいたが、彼等の大部分は入国するそばから働かずに生活保護を希望している。)

各県や主要都市には「人権擁護委員会」の設置が義務づけられた。これにより裁判所とはことなる仕組みで、国民の信任を受けない者達が、恣意的に「他者の人権を侵した」として制裁を加えることが可能になってしまっていた。

委員は大抵の場合、与党のシンパだ。無論彼等の目的は人権の擁護などでは無い。人権擁護という美名の下、政権の批判を行う者を弾圧するのが目的だ。

勿論、田中政権は外国人参政権にも前向きだった。


一方で、田中政権は中国の主張を丸飲みにして、福島第一原発の処理水放出を中止していた。

中国は気持ち悪いくらいに田中総理を賞賛し、「ご褒美」として日本の水産物輸入を解禁しただけでなく、「爆輸入」まで行って見せた。


中国と言えば、台湾周辺で軍事的な緊張が高まっているのに、日本は勝手に国際的に孤立しようとしてる。

日米首脳会談は、異例の不首尾に終わり、米大統領は「日米安保」の破棄すら口にしていたからだ。

(これは米製兵器の購入契約の履行どころか、増大を求めて来た大統領と、F35ですら欠陥品、旧式呼ばわりする田中総理との交渉が全くかみ合わなかった結果だった。二人ともに、ビジネスマン上がりだったから、「自分の方が上」という子供じみたプライドが、お互いの態度を頑なにさせてもいた。)


そして、上下を問わず、支持母体に対する不当な利益誘導と汚職が進行していた。(彼等の理屈では前与党もやっていたから、自分達もして良いということになっていた)


控え目に言っても田中政権は問題だらけだった。だが、彼等に対する批判をマスメディアは、不気味な程に控えた。インターネットでは凄まじい批判が起こったが、これに対して副総理主導で「インターネット規制法案」を持ち出し、事実上の言論弾圧に乗り出す始末だった。


中国側は、工作の結果に自信を深め、日本に密かに設置していた、秘密警察の活動を露骨に行うようになっていく。

民主的自由主義的な考えを持つ中国人留学生が、突如として行方不明になるケースが、急速に増えて行った。

さらには中国人だけでなく、田中政権や中国に批判的なマスコミ関係者、知識人、インフルエンサーが暗殺されるようになっていったのだ。

この事態に対し、マスコミも田中政権も「見て見ぬふり」だった。


半年たっても、給料が増えるどころか、景気も所得もかえって悪くなり、治安も外国人犯罪の急増で悪化。社会不安が増すばかりで、ようやく田中政権に投票した有権者は「話が違う」と思い始めていた。


だが、彼等の悪夢はまだ始まったばかりだったのだ。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ