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沖縄・台湾侵攻2025 Hard Mode --Continue  作者: しののめ八雲
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里帰り。あるいは内ゲバからの生還。

決定的だったのは、SNSを巡るトラブルだった。

SONメンバー達が言うところの「ネトウヨ」界隈に、SON内部で「虐め」「内ゲバ」が発生しているという情報が拡散した。

誰かが、久米の行為をリークしたのだ。


久米はすぐに犯人捜し、いや、決めつけを行った。

「八木さん、あなたでしょう?ネトウヨ共に、わざわざ非難材料を与えてどういうつもり?私はあなたのミスに指摘は行っているけど、そもそもミスをするあなたと中村さんが悪いんじゃない?それを被害者面して、SNSにリークするなんて、腐ってるわね?」

サークルメンバーの集まる、部室で久米は花と中村を詰めだした。

「ちょっと待ってよ。私がやったって証拠なんか無いでしょ?何で決めつけるの?」

「母から聞いてるわ。あなた、高校の時もSNSでトラブル起こして、それで東京に居ずらくなって沖縄に逃げてきたんでしょ?またやったとしても、おかしくないわよね?」

「お母さん?久米さんが・・・?」

花は久米の母、久米和子のことを心酔と言っていいほど尊敬していた。だから、久米の母には、高校時代の花の黒歴史を告白していた。だが、いくら娘とはいえ、花のプライバシーの中でも最もデリケートな部分を、久米の母はあっさりと喋っていたのだ。

何よりそのことがショックで、花はそれ以上、何も言えなくなってしまう。

「黙ってるの?黙ってるってことは、認めたってことね?とりあえず、ここから出て行って頂戴。」


部室を出ると、中村が駆け寄ってきた。

「花ちゃんごめんね。私の巻き添えにしちゃって・・。」

「ううん。中村ちゃんは悪くないよ。私に考えがあるから任せて。」


花は大学生にもなって虐めに出くわすとは思わなかったが、だからこそ負けるわけにはいかないと思った。

サークルメンバーは澤崎も含めて、久米未来の母に気を使っているのか、娘である未来の仕切りや、二人に対する虐めに「我関せず」だった。

花はその未来の母、和子のことはまだ信じていたから、澤崎がアテにならない以上、和子に窮状を直接訴えようとしたのだ。

和子ならば、きっと娘を止めてくれずはずだった。


だが、花の期待は見事に裏切られた。


大事な話があるとの花の申し出に、和子は時間を空けて、NPOの事務所で待っていてくれた。

「いらっしゃい、花さん。選挙活動頑張ってるみたいね。未来はちゃんとやってるかしら?」

「その・・。未来さんのことでお話が・・・。」

だが、花の賭けは完全な裏目に出た。

花の話を聞いた彼女は、それまで花に優しかった態度を豹変させたのだ。


「見損なったわ、花さん。未来をそんな風に言うなんて心外だわ。出鱈目もいい加減にして頂戴!」

「そんな・・・。私、嘘なんて。本当です!お願いです!未来さんを説得して下さい!」

「あの子がそんなことをするはずが無いでしょ!もうここには来ないで!貸してあげてたウチのスマホは返してね!澤崎さんにも言っておくからね!さあ、事務所から出て行って!!」


翌日、花と中村の二人は澤崎に呼び出され、SONから退会するように告げられた。

信じて、尊敬もしていた澤崎と久米和子に裏切られた形となり、花は相当にショックだった。


だが、SONを追い出されても、SNS上では「SONを裏切った」として、花と中村にその活動に賛同する者質からの誹謗中傷が続いた。

花は自分のスマホのアカウントは止められていたから、中村経由の情報だった。


解散が決まった頃には、しまいには二人は住所を特定されたのか、下宿のポストに嫌がらせをされたり、不審人物に尾行されたことすらあった。

花はこの段階で、東京の母に相談した。


母の真紀子は、珍しく相談してきた娘に驚きつつ、「そういうことなら、いったん東京に帰ったら?警察に相談しても、手遅れになるかもしれないし?」

と言ってきた。正直、そう言われるまで、花はその程度のことにも気が付かなかったのだ。それほどまでに花は追い詰められて、余裕をなくしていた。


選挙が近づく中、花は中村に東京に帰ろう(彼女も東京出身だった)と持ち掛けた。

「・・・。うん。そうだね-。花ちゃん、でももう私、沖縄に居たくないよー。怖いんだ。」

「うん、そうだね。もういっそ、大学辞めちゃおっか?私と一緒に。虐められた方が逃げるのって、おかしいけど。二人でやり直そう?」

「ごめんね花ちゃん。でもありがとう・・。そうしようか。」


大学を辞めると真紀子に伝えた時、母はむしろ喜んだ。SONについての良くない噂を聞きつけていたからだった。そんなものに花が入れ込むくらいなら、今のうちに大学を辞めてくれた方が、遥かにマシなのだ。


冬に行われた選挙の結果、政権交代が実現した。SONが応援していた、野党系の候補前田は見事当選している。

歓喜に沸くSONメンバーの中に、既に花と中村の姿は無い。


那覇空港を出発する時に、SONの小田という男が一人だけ、二人を見送った。

「あ!小田っち?どうしたの?」

「・・・ごめん、八木さん。俺、君らに謝らないと。SNSに久米さんのやり口を漏らしたのは、僕なんだ。」

「そうだったんだ・・・。でも、いいよ。どうせ最後はこうなってたよ。久米は大嫌いだけど、SONの活動は信じているから、小田っち私達の分も頑張ってね!」

「本当にごめんね。結局俺も見て見ぬふりだ。中村さんもごめんね。」

「ううん。いいのいいのー。小田っち元気でねー。」

手を振って帰って行く小田の背中が、妙に小さく見えた。

冬なのに小田の背中が陽炎に包まれると、その姿が一瞬消えたように見える。

「?」

(なんだろう・・・。目の錯覚かな?)


数か月後、小田の運命を知った時。花はこの瞬間を思い出すことになる。


無事に羽田に着陸した。花は張りつめていた気持ちが、安堵に包まれるのを感じる。

「なんだろう?半年前は早くここから出ていきたかったのになあ。」

「うん、そうだね。わかるよ。」

「それにしても、あの人達どうしちゃったんだろう?久米が皆を変えちゃったのかな?あの子、ただの仕切り屋じゃなく、人を変える力まであったのかな?」

あの人達とは、澤崎と久米和子のことだ。つい最近まで、花は二人を心から尊敬していた。だが、今は酷く幻滅している。自分達の関係性を優先して虐めを放置し、あろうことか被害者の方を追い出した、どこにでも居る大人に変わってしまったと思っている。


「ううん、それはきっと違うよ。花ちゃん。」

「え?どういうこと?」


「変わったのは私達の方。あの人達は、ずっと前から、ああだったんだよ。」

「そう・・・。なのかなあ。」


その言葉は花に刺さるものがあった。

勝手に他人を信じて、勝手に裏切られて捨てられる。

それは、彼女の母親である真紀子が若い頃に辿った道でもあった。


(似た者親子ってことなのかなあ・・・。お母さんよりは利口なつもりだったんだけどなあ。。。)



「ありがとうね。花ちゃん。実はね、誰にも内緒にしてきたんだけど。私ね・・・。・・・中学の時にも虐めに遭ってたんだ。」

「え・・・?中村ちゃん?本当に?」

花は言葉に詰まる。中村は言葉をつづけた

「私にも問題が無かったわけじゃないんだけど。ほら、私って疑問に思ったことは、お構いなく言っちゃうでしょ?だからだったと思う。きっかけはね。」

中村にかける言葉が見つからなかった花だが、結果的に最適解だった。今は、ただ話を聞いてやるだけでいいのだ。


花は、いつのまにか、ふわふわとしていた中村の喋り方が「普通」になっていることに気付く。

「だからね。自分でも馬鹿だなあと。よせばいいのに、また同じことを繰り返しているって。


高校の時は、中学の時のことが、壁になってて、誰とも関わろうとしなかったんだ。いつの間にか、無意識に傷つかない方法を考えてたら、ああいう話し方になってたんだ。どうしても、人を警戒しちゃうの。意識して柔らかい喋り方にしないと、誰とも話せなかったんだ。変わりたくて、沖縄に来たの。SONに入って、花ちゃんにも会えて。友達も仲間も出来て、沖縄に来て本当に良かったって、そう思ってたんだけどなあ。」

「分かるよ。中村ちゃん。私もそうだったもん。」



中村が辛い記憶を吐露した段階では、沈黙していた花だったが、彼女が花に謝罪をはじめた時点で言葉を発した。

「花ちゃんを巻き込んで悪かったと思ってるんだ。私が居なければ、花ちゃんは今でも沖縄で楽しくしていたし、大学まで辞めることになっちゃって・・。」

「そんなこと言わないでよ!中村ちゃん。うまく言えないけど・・、私もいろいろやらかした方だけど、今度は正しいことをしたと思ってる。お母さんが珍しく褒めてくれたくらいだし。もっと、上手いやり方があったとは思うけど。だけどね。そんなことよりね。中村ちゃんを助けられたんだから、それだけでもいいって思うの。」

「うん。そうだね。花ちゃん。ありがとう。本当はね、花ちゃんが助けてくれて嬉しかったんだ。花ちゃんはね、中学の時の私も助けてくれた気がする。あの話し方、本当は嫌だったんだ。でも、花ちゃんのおかげで元に戻ったよ?おかげで私は変われたんだよ。」


それを聞くと、花の胸のうちに、ジワリと来るものがあった。今まではとにかく誰かに認めて欲しくて、SNSのフォロワーを増やすことばかり考えて来た。でも、それが何になったんだろう。今、中村が肚を割って、辛い過去を告白してまで、自分に感謝と信頼を寄せてくれることに比べたら・・・。


花は、誰かに認めて欲しかった。だが、SNSでのフォロワー稼ぎも、青春を捧げたつもりのSONも、今は空しい。

1人の人間を絶望から、まがりなりも救い出し、心からの感謝を受けたことは、花に欠けていた自己肯定感を満たした。


「ねえ、花ちゃん。私のことは、これから下の名前で「加奈子」って呼んでくれる?」

「わかったよ。加奈子も私のことは「ちゃん」をつけずに、「花」って呼んで欲しいなあ。」

「了解!これからもよろしくね!花!」

「うん!加奈子!」


「それはそうと、これからどうするつもり、花?」

「しばらくはゆっくりしようかな?就職をするか、バイトしてお金ためて他の大学に入り直すか・・。あー。正直、まだ考えたくないよ。加奈子。」


こうして親友になった二人は、再会を約束して、それぞれの実家に帰っていったのだ。


花は気づいていなかった。加奈子だけでなく、自分自身の運命を変えたということに。


あのまま沖縄に、SONに残り続ければ、半年後には深刻なレベルで洗脳されてしまっただろう。

もし、そのタイミングで有事が起きようものなら、花は中国によって、沖縄に対する攻撃を成功させるための、捨て駒として使い捨てられていたかもしれないのだ。


現実として、沖縄に居残ったSONメンバーの殆どは、数年以内に死亡する運命にあった。


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