闇バイト
「ナイーブな主張を行う・・SONでしたか?彼等のような若者達は、実質的に・・。その、中国の手先であるかのように振舞っています。
そして実は、このような動きは、この宮古島駐屯地対してだけではないのです。全国の自衛隊の基地、駐屯地が民間人の不審な監視活動下に置かれています。
その中でも、SONは組織力、ドローンの扱いへの慣れなどの点において、優秀ですね。」
「それについて、何か対応は?」
「これはアレですよ?」
大畑はいたずらっぽく笑い、口に指を当てる。
教村は察してレコーダーを切る。
「実は私共のトップ、統幕長はなかなかクセのある人物でして、この状況に的確と言える指示を出していません。
それでも、現場サイドから働きかけを行って、人員の一部を被災地から呼び戻されています。例えば航空自衛隊の装備するパトリオット。この一部が、陸上自衛隊の演習場に・・、まあ、逃げ込んでいます。
しかし、人員も燃料も十分ではありません。そして、この動きですら・・。」
大畑はSNSのサイトを表示、いくつか保存してあった投稿を表示する。
「サービスエリアに停車したり、道路を移動中の自衛隊の写真ですね?ごく最近の」
「「自主避難」を始めた途端にこれです。演習場に到着後、秘匿したアセットすらドローンで発見した例すらあるようです」
「これも学生が?」
「少し異なるようです。私も時間が限られていますので、少ししか調べていませんが」
「・・・?」
「『これで30万ゲット(はあと)』『レア・ターゲット捕まえた!依頼主と価格交渉がはかどる!』・・?
これらは・・?」
「自衛隊の動きを監視、報告することに報酬を支払うアカウントが急増しているようです。所謂、高価値目標であれば、そうであるほど報酬が高くなるようです。
この不景気です。若者を中心に、アルバイト感覚で自衛隊の行動を監視する方が、ここ数日で爆発的に増えています。
大半はまあ、無害な内容で、しかも時間と共に情報は古くなります。それに平時であれば、部隊の移動を撮影したり、投稿することは違法でも何でもありません。
ですが、直近で我々を攻撃しようと考えた場合、相手にとって有益な投稿には明らかに高値がついています」
「これは、いわゆる闇バイトなのでしょうか?」
「私も詳しくありません。ですので、これが闇バイトに該当するかは、なんとも。ですが、彼等はこの活動が闇バイトではないか、闇バイトの中でも法令に触れるリスクが低い、と見なしているようです。
しかしながらもし、彼等に高額な報酬を払ってまで、自衛隊の動きをリアルタイムに得ようとする者の正体が「敵」であった場合、外患誘致罪に匹敵する重大な犯罪となる可能性があります。
問題は、急にこのような動きが顕在化したことです。背後に何者かの意思が存在するとしたら・・?」
「何らかの規制がかかる前に、最大限の成果を得たいと?」
「そうです。本物の工作員を投入するよりも、効率が良い。巧妙なやり方だといえます。
この事象を見ただけでも、異常な事態が進行している。そう言えると思います。」
「担当直入に伺いますが、この緊迫した状況は、有事に発展するとお考えですか?」
「・・・。」
大畑は即答を躊躇う。しばらく目を閉じて考える。
やがて眼を開けて答える。
「あくまで、私個人の肌感覚ですが、1週間以内に・・。ええ、そうですね。有事になるとすれば1週間以内です。」
自衛官、その中でも指揮官クラスの人間から、オフレコとは言え有事の可能性を肯定された。
だが、その回答を教村は予期していた。
より気になることを大畑に聞く
「この島をも巻き込んだ事態になるのでしょうか?」
「それは、中国次第と言えます。
ですが、中国にその意思があった場合、確実に巻き込まれます。
そして、もし、そのような事態になったとしたら・・。
その事態から国民を守るための我々の準備は・・。まったく不十分です。
いま、沖合に存在する中国軍に、この島の占領を企まれでもしたら、ひとたまりもありません。」
「そんな・・。何とかならないのですか?いえ、なぜこんなことに?」
「結局、政治が今の事態をそもそも「危機」であると認識していないから、と言えます。
自衛隊はここ数年に限っても、南西に注力し、必要な法体系も整備されてきました。
ですが、結局のところ、政治の意思決定が適切になされなければ、それらは有効に活かされません。」
「・・・。」
教村は言葉が出ない。
「我々は、いかなる状況であろうと、出来る限りの努力でもって、国民の負託に応えるだけです。
最悪の事態に備えて、既に、隊員家族については本州にほぼ避難させています。
教村さんも、手遅れにならないうちに本州に戻られた方が良いでしょう。
そして、何とかこの危機的状況を、国民に伝えて下さい。」




