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沖縄・台湾侵攻2025 Hard Mode --Continue  作者: しののめ八雲
南海トラフ
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ネット軍師

田中総理の副総理を関西に派遣するという決断は、直ぐに弊害となって現れたわけではない。

むしろこの時点では他の閣僚の方が、混乱の火種となっていた。


8月10日 兵庫県 伊丹駐屯地 11:35


武田一等陸曹は、第3後方支援連隊の輸送隊に所属する、ベテラン陸曹だ。

思春期の時に遭遇した、阪神淡路大震災がきっかけで入隊している。


世代的に同じ動機で入隊した同期が多かったが、30年が経過した現在は、大半が他職種に転職している。(そう、今年は阪神・淡路大震災から、ちょうど30年の節目の年だ)自衛隊に残り続けた者は、ベテランの陸曹や幹部に出世して、組織の背骨となっていた。


動機からして、災害派遣に思い入れのある武田だが、決して好きな任務では無い。

東北、熊本、そして能登。

破壊された街へ行けば、あの日の神戸を思い出すし、そこは悲劇に溢れている。

救助も復旧も、復興支援も決して楽な仕事ではない。それは肉体、精神の両面において過酷な任務なのだ。


だが、誰かがやらねばならないとすれば、それは自分達だと、武田は呼吸をするくらい自然に思っている。

ちなみに、新しい防衛大臣になってからというもの、やる気を失って退職する隊員が増えていた。武田自身は思い留まっていたが、おかげで役割を果たせると思った。


(あれから丁度30年の節目の年に、よりによって南海トラフとは。とはいえ、いつものように訓練どおりやるだけだ!)

自衛隊は発足以来、実戦経験がない。

しかし運用の「実践」経験は、度重なる災害派遣で鍛え抜かれていた。


しかも、南海トラフについては事前の計画も、訓練もしっかり行われている。

既に一個小隊の先遣隊「ファスト・フォース」が出動準備を整えていた。

営外居住者が、次々自家用車で駆けつけている。

自衛隊の準備は着々と整いつつあった。


武田自身、おっとり刀で駆けつけたばかりだ。

先遣隊はまだ出発していない。

通常、陸上自衛隊の駐屯地では一個小隊相当の部隊が、輪番で直ぐに先遣隊として出動できるように待機している。

ゲリラや特殊部隊の襲撃に備える意味もあるが、災害派遣にも勿論備えている。

普段から「災害派遣」の垂れ幕を車両に掲げて、機材を積み込んで待機している場合も多い。



明石駐屯地の部隊は南海トラフ発生の場合、事前計画では四国へ派遣されることになっている。

多分先遣隊がまだ出発してないのは四国と本州を繋ぐ、明石海峡大橋と大鳴門橋が通行可能か、確認しているのだろう。

そのルートが、伊丹から四国へ最速で行けるのだ。


もし、通行が不可能なら瀬戸大橋から迂回するか、フェリーを調達しないといけなくなる。

余程の大地震でもないかぎり、二つの橋が壊れることは無いのだが、念の為の確認は必要だった。

もしかしたら四国の被害状況次第で、紀伊半島に派遣されるのかもしれない。


スマホで情報を集めたがる若い隊員を叱咤し、武田は出動準備を進めた。

彼ら輸送隊は災害時の場合、派遣された各部隊が必要とする物資を、ひたすら運び続けるのが任務だ。勿論、現地で必要とされる支援物資を運ぶのも任務に含まれる。


彼らはまず事前の計画と、兵庫県との協定に基づき、県の災害備蓄物資を受け取って、被災地に運び込もうとしていた。


昼過ぎには明石海峡大橋も、大鳴門橋も大きな被害は無いらしいことが分かる。途中の高速道路も含め、ひび割れ等があるが、当面の通行に問題が無い。


これで先遣隊は予定通りに四国へ派遣できるだろう、と武田は思った。先遣隊は後続部隊を受け入れのため、現地の詳細な情報を収集する、重要な任務がある。

できるだけスムーズな主力の派遣のためにも、一刻も早く先遣隊を派遣する必要があるのだ。

武田達輸送隊の一便の方が、駐屯地を出発するのが先になってしまったが、これはまあ橋の問題があるから仕方ないところだ。そう思った。


兵庫県からの物資を受け取った武田達だったが、直ちに被災地に直行とはいかなかった。

まだ、派遣先が決まらないらしく、仕方ないので彼らは伊丹に戻った。


8月10日 兵庫県 伊丹駐屯地 17:12


出発から4時間で輸送隊が駐屯地に戻ってくると、驚いたことに「ファスト・フォース」は未だに出発していなかった。もちろん主力もだ。

「おいおい。何しとんねん?」

困惑した武田は、とりあえず自分達は待機になったこともあり、先遣隊=第36普通科連隊第3中隊第2小隊に居る、陸曹教育隊の同期に事情を尋ねに行った。


「俺にも、何が何だか、ようわからんねんけど」と、前置きした同期が語ったところによれば、

「災害派遣命令が、まだ出てないやと!?」

武田は驚愕した。

(それが本当なら、物資を受け取りに行った自分達の行為もフライングになるんじゃ?いや、そんなことより)

「それ、ホンマか?普通、ありえんで?」


同期もイライラしながら答える。

「そう思うやん?やけど、小隊長が何度も確認してるけど、ホンマの話らしいんやわ。おかげで、身動きがとれへん。どこに行くことになるかもわからん。何や知らんけど、事情があるらしい。」

「つーたかて、そんなん言ってる場合ちゃうやろ?とっとと出動せんと。」

若い隊員が、スマホで各地の被害を拾っている。


とうとう九州と、東海にも津波が押し寄せていた。一刻も早く自衛隊の災害派遣部隊が現地へ急行し、救助活動を行う必要があるのだ。

被災地近傍の部隊はもう動いているが、彼らだけではとても手が足りない。


やる事が無くなった若手の陸曹が、スマホを操作しながらぼやく。

「どうも、防衛大臣が今出動を命じても、「逐次投入」になるからって、派遣命令を止めてるらしいっスよ。」


武田はそれを聞いて、呆れたように答える。

「逐次投入?デマじゃないのか?俺は幹部じゃないから、詳しいことは分からんけど。


でも、逐次投入が問題になるのは「敵」の規模が、よく分からんのに半端な味方兵力を出して、「各個撃破」される場合だろ?そもそも、災害派遣には敵とか関係ないやんか?とっとと、手ェつけられるところから、やっていかんと。

いくら今の防衛大臣がアホでも、そこまでちゃうやろ?まさか。」

まあ、そうですよね。と、陸曹が応じる。


だが、真実はそのまさかだった。


自衛隊の災害派遣は、被災地の近傍に部隊が所在した場合を例外に、原則、防衛大臣の命令で実施される。


防衛大臣は事前に策定されていた、南海トラフ対処計画に則り「所定の計画に従って、出動せよ」と、命じるだけで良いはずだった。


ところが、防衛大臣は以前の災害派遣で一部に流布した、「逐次投入」論を信じていた。というより、大臣自身が在野で怪しげな政治団体を運営していた頃、当時の政府を批判するために率先して「逐次投入」論を展開していたのだ。


武田が言ったように「逐次投入」云々は、よく理解していない者達が、にわか覚えの軍事用語をネットで言ってみただけのことで、ナンセンスなものでしかない。だが、防衛大臣の支持者や、とにかく政府のやることに難癖をつけたがる者にとって、当時彼は「軍師」扱いだったのだ。


よって彼は、かつての勘違いをまったく改めないまま、防衛省と官邸スタッフの必死の説得に耳を貸さず、頑なに災害派遣命令を出そうとしていない。


それどころか、輸送機による被災地への物量投下と、同じく第一空挺団による空挺降下の準備を指示する始末だ。

これまた以前の災害派遣の時に、「ネット軍師」達が主張した暴論だった。


では、いつになれば災害派遣を命じるのか?

という疑問に対し、当然ながら防衛大臣は答えを持っていない。


いや、内心ではあるのだった。防衛大臣には自分が認めてしまった、衛生隊員の大規模な民生派遣や、同じく施設科部隊の部外工事派遣が大失敗だったことが分かっている。


これほどの災害となれば衛生科も施設科も、まさに主役といえる程、役割を果たすだろう。だが、防衛省への当てつけと、副総理への「貸し」を作るために、防衛大臣が決めてしまった民生派遣の結果、彼らの大半は直ちに災害派遣できる状態に無いのだ。


その失敗を覆い隠すため、彼は出来れば彼らを呼び戻してから、災害派遣命令を出したいと思っていたのだ。

無論、それが一体いつになるかは誰にも分からない。


青ざめた川嶋をはじめとする、官邸と防衛省のスタッフは、各自治体に連絡をとって、矢のように災害派遣要請を自分達にあげさせた。それを粘り強く防衛大臣に提出し、または総理に防衛大臣の説得を依頼する。今、出来ることは、それでしかない。まさか災害派遣の手続きが、その入り口でつまづくなど、その理由も含め想定外だった。


8月10日 兵庫県 伊丹駐屯地 19:05


すっかり日が暮れてから、ようやく「出動命令」が来た。

散々待ちぼうけを喰らった「いらち」な隊員の多い、伊丹駐屯地部隊は異様な空気だ。


だが、彼らに出たのは困惑する命令だった。

武田はその命令が信じられない。

「四国でも、紀伊半島でもなく、大阪の西成に行けだと!?しかも、「治安出動」?災害派遣じゃなくて?ホンマに!?何でやねん!?」


武田は出動前に疲れそうだった。


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