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本物の魔王が、魔王と名乗る信長の配下になる  作者: 橘 瑠伊
サイドストーリー③
39/40

信長と政秀

 美濃国を手に入れた俺は、空を眺めていた。


「どの国にいても、空の景色は変わらんな」


 数ヶ月前、不思議な男と出会った。その男の名前は、リンと名乗っている。


「あの男は、何者なのだろうか」


 リンの現在は、日本で慣れ親しんでいる和服を着ている。しかし、初めて会った時のリンの服装は見たことない服を着ていた。


「あの服は、一体……だが、一つ言えるのは百姓の人間ではないことだ」


 美濃侵攻を行うまでの二ヶ月間で、自分の手足となる郎党を探しに行かせて、空いた期間は、丹羽長秀にわながひでに頼んで、作法を身に付けさせた。


「作法の教育を以前も受けていたのか、上達が早かった。おそらく、幼少期の時にも、そういう作法の手ほどきを受けていたのだろう」


 異国からは、辿り着くのが困難と言われている日本。なぜ、日本にまで身分の高かった男が来ているのだ? 考えれば考えるほど、不思議な男だ。


「信長様、どうかしましたか?」


 空を眺めながら考えていると、平手政秀に話しかけられた。


「じいか」


 自分が子供の時は、俺の父と共に戦場をかけていた平手政秀だが、老いには勝てない。前線に立つことは少なくなっていき、今回の戦では後方支援を担当してくれていた。


「信長様、じいの顔に何かついておりますか?」


 俺と話すときは、政秀は自分のことをじいと言う。政秀にとって、俺は子供なのだろうか。


「しわの数が増えたな」


 俺が、そう伝えると政秀は、自分の頬を触って、顔にあるしわを確認する。


「しわの数は、困難を乗り越えた数でございますぞ。これぐらいのしわの数じゃ、信長様の父、信秀様に会うことはできません」


 政秀は、俺に向かって笑顔で言う。その笑顔は、昔から変わらないな。


「じいよ」


「はい」


「じいに異国の景色を見せたいと思う」


「信長様」


「それまで、死ぬんじゃないぞ」


「なにを言っているのですか。じいは、信秀様に信長様のお世話役を任された身。信秀様に信長様が、天下統一と言う偉業を成し遂げたと報告できるまでは死ぬことはできませんぞ」


 政秀は、腕の力こぶを見せつけてくる。ちょっとの違いしかわからない。


「そうか」


「信長様、もうすぐ冬が訪れます。外では冷えますぞ。どうぞ、岐阜城の城内に、お戻りを」


「わかった。中に戻るか」


 今は十一月。年々、季節の進み具合が早く感じてきた。俺も歳をとったってことか。


「じい」


「はい」


「今度、寺の住職を招いて、温かい茶でも飲むか」


「いいですな。じいは、駿河国の茶を飲みたいですぞ」


「さすが、歳を重ねると舌も肥えているな」


「な、なにを失礼な」


 政秀は、顔を赤くする。


「ははは、冗談だ」


「信長様には、子供の時から振り回されっぱなしですな」


 俺と政秀は、岐阜城の中へ入った。


最後まで読んでくれてありがとう2023年11月11日

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