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新たな仲間

 部屋の中は、暗闇だったが、強烈な匂いを感じた。様々な強い匂いが混ざっていて、鼻がおかしくなりそうだ。


「なんだ、この匂いは?」


「妖怪の匂いですね。様々な妖怪を、この部屋に入れているので、匂いが混ざっているのです」


 管理人が、ランタンで明かりをつける。


 明かりに照らされた部屋は、まるで刑務所のように左右に牢屋があった。


「おい、管理人。早く俺をここから出せよ!」


 鉄で作られた、おりから大男が手を伸ばす。


「うるさいぞ。山男。外に出したら、人間を襲う気だろ」


「ちっ」


 山男と言われていた大男は、舌打ちをすると檻から離れて行った。


「様々な妖怪がいるんだな」


「えぇ、人型の妖怪や異形の妖怪まで、日本中回って捕獲してきた妖怪が、集まっています」


 牢屋の中をよく見てみると、動物の姿をしたものや、顔だけ動物の顔をして、体は人間な妖怪まで、様々な妖怪がいる。


「滝夜叉姫は?」


「滝夜叉姫は、以前同じ部屋の妖怪に重傷を負わせたため、違う牢屋に入れております」


 管理人は、そう言うと奥に進み始める。


 奥に進んで行くと、妖怪の姿が少なくなっていく。


「ここに妖怪がいます」


 管理人が、そう言うと。一つの牢屋に辿り着いた。


「白い巫女の服に束ねた髪、間違いなく滝夜叉姫だな」


 遠くで顔は、よく見えなかったが、人間だと二十代前半の歳に見える。手入れされた髪に、整った顔立ち。最初見ただけだと、死者を呼んで戦うとは、想像がつかないだろう。


「あんた、何者?」


 滝夜叉姫は、俺に気づくと、にらみつけるような眼で俺を見る。


「俺は、リンだ。あんたの新しい仲間だよ」


「仲間?」


「そうだ」


「よく言うわ。あんたの隣に、寺に引きこもっていた私を強引に連れ出して人間と戦わせる最低な奴がいる。そんなのと一緒にいる奴と、仲間になんかなりたくない」


「管理人、そうなのか?」


「人聞きの悪いことを言うな! また、悪さをしないように保護しただけだ」


「私は、なにもしてない! 平将門の娘は、私の祖母よ! 私は、なにも悪さをしていないわ!」


「そ……そんなこと何も聞いて……ない!」


「それは、そうでしょうね。なに言っても、あんたは聞く耳を持たなかったんだから!」


「ぬぬ!」


 管理人の顔が赤くなっていく、俺が間に入った方が良い気がするな。


「滝夜叉姫」


「なによ」


「俺は何も悪さをしない」


「信じろって言うの? 裏切ったら、どう責任取るのよ」


「裏切ったら、その瞬間。俺を殺してくれ」


 元々裏切るつもりなんてないから、これぐらいの条件を出して良い。まずは、信じてもらうのが、一番大切だ。


「リン様!」


 なにか言おうとしたロイを、片手をあげて止める。


「その言葉、信じていいの?」


「あぁ、信じて良い」


 滝夜叉姫は、沈黙する。


「わかったわ。あんたの仲間になって良いわよ」


 滝夜叉姫は、そう言うと立ち上がって俺の元まで来る。


「ありがとう」


「その変わり、裏切ったら本当に殺すわよ」


「覚悟しとく」


 滝夜叉姫との会話を終わらせると、管理人の方を向く。


「管理人さん」


「はい」


 管理人は、俺が滝夜叉姫と会話をしている間に落ち着きを取り戻したみたいだ。


「滝夜叉姫は、俺と仲間になることを決めたみたいだが、認めてくれるか?」


「はい、いいでしょう。元々そういう約束で、ここまで連れてきているので」


 管理人は、そう言うと。鍵を取り出し、檻を開ける。


「やっと、こんな狭い場所から出られるのね」


 滝夜叉姫は、そう呟きながら檻から出て来る。


「滝夜叉姫、よろしく頼む」


「滝夜叉姫は、祖母の名前よ」


「なんて、呼べばいい?」


「お母さんからは、カグヤと呼ばれていたわ」


「カグヤ、よろしく」


 こうして、日本に来て初めての仲間にカグヤが加わった。



「久々に外での空気は美味しいー」


 カグヤは、外に出ると背筋を伸ばして、大きく深呼吸した。


「和服って言うのも悪くないな」


 俺は、闘技場の管理人が言っていた条件通り、元から着ていた服を滝夜叉姫の交換に渡し、和服を一着頂いて、着てから外に出た。黒の和服、なかなかいいな。


「リンでいいのよね?」


 カグヤは、俺の方を見る。


「そう呼んでくれ」


「私を仲間にするため、あの高級そうな服をあげたの?」


「そうだ」


「やっぱ変わっているわね、あなた」


「そうか?」


「普通、知らない妖怪のために、ここまでしないわよ」


「それだけ、郎党に加えたかったのだ」


「あっそ」


 カグヤは、そう言うと正面を向いた。


「リン!」


 汎秀は、小声で俺の名前を呼び、服を引っ張る。


「ひろ、どうした?」


「大丈夫か、あの妖怪? 本当に大丈夫なのじゃな?」


 汎秀は、カグヤと合流してから、ずっと俺のそばから離れないでいた。よほど、闘技場の試合が不気味に見えたのだろう。津島についた時の元気は、どこに行った?


「大丈夫よ、安心しなさい」


 話し声が聞こえていたのか、カグヤは汎秀に話しかける。


「ほ、本当じゃな?」


 汎秀は、おそるおそる、カグヤに聞く。


「本当よ。その変わり」


「その変わり?」


「裏切ったら、殺す」


「ひっ!?」


 汎秀は、再びあの後ろに隠れてしまった。


「ふふふ」


 カグヤは、汎秀の反応を見て笑った。わざと、あんな言い方をしただろ。


「リン様」


 ロイが話しかけてきた。


「どうした? てか、ロイも和服に着替えていたのか」


「はい。私だけ、あの格好をするのは、申し訳なかったので、闘技場の管理人に買い取ってもらいました」


 ロイは、そう言うと硬貨が入った袋を俺に渡す。


「私達の旅に使う資金にしてください」


「わかった」


 俺は、受け取った硬貨の袋を胸ポケットに入れた。


「次は、熱田に行くのですよね?」


「あぁ、闘技場の管理人からも情報をもらったからな」


 寺に引きこもっていたカグヤを見つけ出すほどの男だ。闘技場を出る前に、熱田で良い人材がいないか、聞いておいた。


「管理人の情報は、どんな情報だったのですか?」


「暗殺者だ」


「暗殺者?」


「あぁ、熱田には腕利きの暗殺者が潜んでいるらしい。しかも、弓や投げ物を得意とする暗殺者」


 闘技場の管理人からは、『戦闘になる可能性がありますぞ』と言われ、俺とロイの刀を用意してくれた。管理人が、元は商人だから何か考えがあるのだろう。今は、考えないでおくか。


「しかし、暗殺者となると見つけるのは厄介そうですね。暗殺者は、ばれないよう、周りに溶け込むのが上手です。見つけるのは、なかなか困難だと思います」


「俺も、最初は、そう思って、『難しい』と管理人に言った。そしたら、闘技場の管理人から、暗殺者が次に狙っているターゲットに関する情報を提供してくれた」


「あの、管理人何者なんですか?」


「闘技場の運営を任される人だ。ただの一般人ではないってことだろう。名前を聞いても答えてくれなかったからな」


 闘技場の管理人とは、仲良くしておこう。また、なにかあった時、力になってもらえるはず。


「ひろ」


「な、なにさ?」


「熱田には、どうやっていけばいい?」


「もう、向かうのか?」


「闘技場の管理人から得た情報だと、明日の夜までには、つかないといけない」


「わかった。だけど、徹夜で移動するのは勘弁だからな。途中の道に、小さな宿場町がある。そこで、宿泊する」


「うん、それでいい」


 俺達は、熱田に向かい移動を始めた。


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