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一億総オカルト社会と霊感ゼロ  作者: すずなり
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甘い匂いがする。どこかでアロマでも焚いているような、人工的な花の香りだ。信之介の部屋に行くと、たまに嗅ぐような匂いに似ている。鷹穂が大学の課題のために彼のPCを借りて必死こいて文字数を稼いでいる時に、見せしめのように彼はレモン水とアロマキャンドルを準備して、優雅に8畳の狭いアパートの築40年の窓辺で意識の高い時間を送る。その時の匂いに近かった。なぜ眠ってしまったのだろう。ぼんやりと覚めきっていない頭で、なぜここで寝ているのかを思い出そうとするが、考えようとすればするほど、頭に靄がかかったように何も思い浮かべることができない。

鷹穂は鉛のように重い体を何とか震える腕で支え、起き上がる。

眠い。真っ暗だが、月明かりに照らされた壁や瓦礫はうっすらと白く光っていて、周囲を観察することは不可能ではなかった。だが、首を回すのも億劫な状態であることは確かで、わざわざ周囲を見回すことを鷹穂はしなかった。その代わり、甘い匂いを寝ぼけた頭で追いかける。この部屋から香っている訳ではなさそうだ。風がそよぐたびに、香り立つが、無風の時は残り香がほんのりと香る程度だったからだ。私が部屋にいるときは、似たような香りを信之介は好んで焚いていた。何の香りだと言っていたんだっけ……?鷹穂は眉間を指で挟んで思い出そうとした。眉の微妙な肉を軽く摘んでマッサージするように眉間を回す。だが、いくら眉を揉んでも思い出せなかった。


眉間ついでに眉下の目の窪みも押していると、鷹穂の背中の方から、パキパキッという微かな音がした。鷹穂は思わず身を固くする。息を呑んで、音のする方へ顔は向けず、意識だけ集中させる。

パキパキッ。

また音がする。今度はさっきより大きく響いたような気がした。パキパキッ。

また音がする。鷹穂の背中からほんの10メートルほどの場所からだ。

鷹穂は音を出さないように、固く握りしめていた右の掌を、ゆっくり開いた。まだ動く。金縛りにはなっていない。実際になったことはないのだが。ということは、動物だろうか。鷹穂は息をしてみようかという気持ちに一瞬なったが、次の瞬間、鷹穂のすぐ後ろからまた音がしたので、その考えは瞬時に吹き飛ばされた。木の葉に体重のかかる音が、鷹穂のすぐ後ろからしている。鷹穂はじっとりと全身に汗をかいていた。振り向くべきなのだろうが、もしくはこの場から立ち去るべきなのだろうが、今の鷹穂にとって地球上で、振り向くこと以上に馬鹿馬鹿しい行為は見つかりそうになかった。そうだ、確か墨香と言っていた。突如、鷹穂の頭にアロマを焚こうとする信之介の姿が思い出された。あの甘い匂いは、墨香という種類のお香だと彼が言っていたのだ。

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