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私は物心つく頃より目が悪く、人に頼らなければ生きていけない、そういう者でした。
親や兄弟、周りの皆さまにお掛けしてしまった迷惑の数はどれほどのものになりましょう。
私は貰ってばかりです。何も返せていない。
子供の頃からずっと、私が受けた恩を皆さまにお返ししたい、そう思っていました。
修道院に預けられてからも、ずっと。
修道院の皆さまは私にやさしくしてくださいました。日々のお勤めも満足にこなせない私を見捨てずに、とてもよくしてくださいました。
恩返しをしたいという思いは日を追うごとに強くなっていきました。日々、何かを探しておりました。私に出来ることは何かないだろうか、と。
そうしてあの日がやって来ました。
天を舞う騎士が断罪を告げた日。
最初は、そう、人々の多くが混乱し、そして……罵り合いを始めました。
罵り合いから始まりました。
誰が悪いのか、誰のせいか、お前のせいだ、お前が悪い、と……
罵り合いはすぐに血を流す争いになりました。
盲しいた眼では、すべてをわかりません。実際に何が起きているのかも。パリの市民たち、イングランド兵の方々、どのように争って、どのように傷つけあっていたのかも。
傷つき倒れ、修道院に運ばれてきた方々の治療をしながら、その話を耳で聞いただけです。ですが……酷いことは起きていたのです。
鉄の打ち合う音、流れる血の匂い、人を焼く匂い……
争いを止めたくても止めることの出来ない私は、終わりを見せない治療の手伝いや、亡くなられた方の弔いをしながら、流れる涙を止めることが出来ませんでした。
そんな中、いつしか誰かが言い始めました。誰かはわかりません。皆が言い始めました。
神はこの地を見放された。滅びの炎が町を焼き尽くすぞ、と。
ああ、そうか、と思いました。
何故か素直に信じることが出来ました。
神様が天上よりこの町の様子を見ておいでなら、とても悲しんでおられるに違いないと思っていましたから。至らぬ私どもには、何かの罰が下るに違いない、とも。
誰かが言い出した噂話は、神のお告げという形で、パリ中の人々の耳に入ることになりました。誰に、どんなお告げがあったのかを知る者はいません。ですが、皆が信じました。
町を出て行く人々に混じって、修道院の皆さまもパリの町を出ることになりました。
私は決意をしました。
最後まで町に残って、私にも出来ることを探そう。と。
私はパリの町以外を知りません。パリの町を出た事がありません。
パリは私の生まれた地で、育った地で、皆がいた地で、恩を受けて生きていけた地。
離れたくなかった。
神様が罰を下すのならば、この身に受けよう、と、パリの町と共に、滅びの炎で身を焼かれよう、と。
そう思いついた時、私は使命を得た気がしました。
私の運命は、そうである、と。
修道院の皆さまには、私も一緒に来るようにと強く説得して頂きました。
ですが、曲げませんでした。
すべての住人が町を出ていくような大きな騒動になっていましたが、それでも全員が居なくなるとは思えませんでした。わずかばかりでもパリの町に残った人がいるのなら、きっとその人たちは困っているだろう。その人たちの為に何でもしようと。それが私の使命であると。そう言って。
町を出る人たちの混乱の中で、何度も転び、何度も体を打ち付けて血を流し、それでも私が意見を曲げない事を知ると、修道院の皆さまは私に食料を分け与えて下さって、別れました。
後悔は、早々に。
一人になった後も、何度も転び、体を打ち付けて。
本当は、わがままなのです。きっと厳しいものになるだろう皆の旅の足手まといに……なりたくなかった。もう誰にも迷惑を掛けたくないという、私の、わがままなのです。
死にたくはありませんでしたが、死ぬときはパリの町の中で死のうと。
使命など言うのは、私が私を奮い立たせるための、方便なのです。
後に残ったのは町の住民すべてが居なくなったのかと思う程の静寂と、打ち捨てられたままの遺体たち……血の匂い、死の匂い。
決意が揺らぐのを自覚しました。
痛くて。恐ろしくて。寂しくて。
それでも、放置されている台車を見つけて、遺体を積み、ノートルダム大聖堂前の広場へと運びました。私一人ではすべての遺体を土に埋めることは出来ません。神の御膝元、せめて安心して横になれる場所へ。その時にはノートルダム大聖堂は焼け落ちてしまっていましたが、私にはそこ以外は思いつきませんでした。
静寂に包まれた町を歩き、死者の匂いを嗅ぎとって台車に遺体を積む私に声を掛ける人は居ませんでした。誰も。
世界から、すべての人が居なくなったのだろうかと思い、震えました。
途中、何度も転んで体の痛みは耐えがたいものになっていましたが、それでも、一回でも休んでしまえば、心が折れ、もう二度と体は動かないんじゃないかと恐れて、続けておりました。
黒様、ルル様。お二方に出会うまで。
最初は、一頭の馬がいるなぁ、と、そう思いました。
疲れも痛みも、使命も運命も、恐怖も後悔も、すべてが混然となって、ここが現実か、それとも夢の中なのかも区別がつかなくなっておりました私は、漠然と、主を無くした馬ならば、台車を引く手伝いでもしてくれるだろうかと、そう思い、けれども馬を使う術も知らないのだったと思い直し、その横を通り過ぎようとして……黒い人影のようなものが馬の背にあるのに気づきました。
その影は、私を見ているようでした。
人であるわけがない……恐る恐る言葉を掛け、返事があり、それが人であると知って、驚きました。何せ、まったく生者の匂いがしなかったものですから。
今まで目が見えずとも、そこに人が居るかどうかくらいはわかっておりました。生きている者は誰であれ、匂いというものは持っているものです。生者でも無い、ましてや死者でもない匂い、いえ、匂いの無い人に出会ったのは、それが初めてでございました。
それが、お二方も。
その後の私が受けた御慈悲と恩恵は、お二方の知る通りです。
目が覚めた後の話をいたしましょう。
目が覚めてすぐは、私の身に起きた夢のような体験は、気を失う前に見た夢では無かったのか、そう思いました。
すぐに、人参のスープが残っているのに気がつきました。すべて残っておりました。素晴らしかった、その味も、治療の跡も、そして、この黒檀のナイフも……
夢では無かった。
天啓を得た、神のご意思を感じたと思った私は、目が覚めた後も、生まれ変わったかのような気持ちで弔いを続けておりました。
そこに声を掛けて下さったのは、別れた修道院の皆さまでした。
全員ではありませんが、少しの人が戻ってきて、私に声を掛けて下さったのです。
やはり気になるので強引にでも連れ出そうということだったらしいです。
申し訳ないことであります。ありがたいことであります。
皆は私の姿を見て驚いていた様子でした。
髪が艶々になっている、と。
そしてルル様の手厚い治療によって巻かれていた包帯の下に傷一つ無いことに、とても驚いておりました。血を流す程、私が傷ついていたことは、皆が知っておりましたので。
私は驚きません。
奇跡がこの身に起きただけです。
そうか、と思っただけです。
ただひたすらの感謝を黒様、ルル様に捧げ、お祈り申し上げました。
私の身に起きた出来事を皆に話して聞かせますと、それは天使で間違いないと申します。
パリの町が裁きの炎で焼き尽くされることはない、黒様、ルル様はそうおっしゃっていたと聞いて、出て行った皆を町へ連れ戻そうという話になりました。
多くの人がパリの町に戻って来てくれました。
嬉しくて。言葉にできない程嬉しくて。
皆の手で弔いは進みました。
それから私は大勢の人に囲まれるようになりました。皆が天使様の話を聞きたいと言って。
……浮かれておりました。
皆が言うように、私は神様に選ばれた聖女なのかも、と。なんていう増長で、なんていう傲慢でありましょうか。
祈る事しか出来ないくせに。
多くの人が集い、私に奇跡を求めました。
怪我を治して欲しいと、病を癒して欲しいと、騒乱を収めて欲しいと、何でもいいので奇跡を見せて欲しいと…………私に詰め寄る人たちの祈りに、私は何一つとして応えられませんでした。
焼け落ちたノートルダム大聖堂の一角をお借りして、ただ祈ることしか出来ません。
その頃より、ノートルダムで祈りを捧げる人たちの間で体調を崩す人が多く出始めました。
聖職につく者も、そうでない者も分け隔てなく。
それは呪いだと誰かが言い始めました。
頑強で精悍であった若者も、とても病とは思えない症状で倒れ始めて……
私を偽物の聖女だと言う声は日に日に大きくなり、諍いは徐々に大きくなっていくのを知りつつも、私は祈ることしか出来ませんでした。
しばらくして。
マロー司教がランスより帰還なされて、私が本物の聖女かどうかを判定してくださいました。
そのさなかに起きた黒檀のナイフを巡る騒動……
私の話の中にあった、ルル様より賜った黒い柄のナイフ。
柄の部分が艶のある黒檀のように見えて、でも材質はわからないというのが職人たちの話だとか。
手放したくはありませんでした。
最初から最後まで作り話だと言う人も。そんなものはただのナイフだと言う人も。本物の神の恩寵を受けた物品でも、ローマに送り、教皇の手にあるべきだと言う人たちも。
ナイフの所有者を巡るその騒動の渦中、ナイフは奪われ、偽物だと言っていた者の手により壊されようとしていました。
その人は鍛冶の金床にナイフを置いて斧を振りかざしました。見ていろ、俺が一発で嘘を暴いてやる、と。
逆に砕けたのは斧の方。
華奢にも見えるナイフの方には傷一つ付いていませんでした。
男の人は砕けた斧を放り投げ、金づちに持ち替えて、その後も、何度も、何度も打ち付けて……最後は涙ながらに過ちを認め、謝罪をして、すべてをあなたに委ねます、と。
ナイフが打ち付けられる音がする度、私の心臓にも槌が打ち込まれているようで、とても苦しかったのですが、私に人を裁く権利はございません。私は何もしておりません。私は、ただ祈っていただけです。
だから一言、私は貴方を許します、とだけ。
「ぐすん」
マロー司教は私の事を正式に聖女であると告知されましたが、騒動はその後も続きました。
パリにはさらに多くの人が戻り、ナイフが本当に壊れないのか何度でも確かめようとする者たちや、傷が治るなら、と、私に剣を向けようとする者も出てきていたそうです。
貴族の方からも、民衆の方からも、私は遠ざけられてしまいました。
本当の呪いにかかったかのように体調を崩す者は後を絶ちません。中には人が変わったかのように暴れ出す人も……
私は黒檀のナイフに向かって一心に祈りを捧げておりました。どうか、皆を助けて下さい、皆を呪いから救ってくださいと。
体調を崩す者の中にあって、私だけが無事でありました。私だけが。
そしてあの日がやって来ました。
銀の夜。
今ではそう言われている。ひと際大きな騒動があった日。
魔女がパリの住人に呪いをかけた。魔女本人が呪わていないのがその証拠だ。魔女は今、聖女を名乗り、ノートルダムに居る……
そういうことを言われていたそうです。
これも誰が言い出したのかわかりません。
皆が言うには、アルマニャック勢力の者がイングランド、ブルゴーニュ勢力の中から聖女が出るのが許せなかったから流した噂だろうと。私にはよくわかりません。私はどこの勢力でもなく、パリの町の住人です。
多くの人が松明を灯してノートルダム大聖堂に詰めかけて、私を出せと叫んでおりました。
怖くて。どうしてこんなことになるのかわからなくて。それでも。出て行かねばと。
皆の前に姿を現せば、どうなるかはわかりません。私には奇跡を起こす力など無いのです。殺されることも考えました。かのジャンヌ・ダルク様のように。
死にたくはありませんでした。足も手も震えておりました。けど止まりませんでした。出て行くのを止めようとしてくださる人を押しのけて、私は皆の前に姿を出しました。
黒檀のナイフだけを握りしめて。
見守り下さい、と。
これが私の最期だというのならば、私の最期を、どうか見守り下さい、と。
出て行った私に掛けられた言葉。
息子が呪われた。聖女なら呪いを解いて欲しい。
妻が呪われた。魔女なら呪いを解いて欲しい。
私には出来ない事です。呪いをかけたことも無く、呪いを解く術も知らない私には……
何も出来ずに困惑しているだけの私を見て、誰かが言い出しました。魔女ならば火にくべろ、呪いならそれで解けるはずだ、と。
私を守ろうとしてくださる人たちと、私を火にくべようとする人たちが近づき、その剣が振り下ろされようとした時でも、私は祈る事しか出来ませんでした。
空が割れたのだ、と言う人がいます。
天より星が降って来た、と言う人がいます。
私の瞳には映りません。ただ、一時、視界のすべてが銀色の光で満たされておりました。世界のすべては銀色に輝いている、そう思いました。
驚きはありませんでした。
ただそうか、と。ただ奇跡が起きたのだ、と。
驚きはありませんでしたが、その美しさに呆然となりました。銀の光に照らされて、世界はこんなにも輝いて美しい、と。
「覚えておりますぞ……あれほどの奇跡、あれほどの威光、ぐすん」
後に聞いた話になりますが、銀の光は私の体から出ていたそうです。見るものによっては、銀色に輝く幾重もの羽を纏っているようだったと。
私にはわかりません。
その時の私には、声が聞こえておりました。声だけが。
ルル様の声。
声はおっしゃいました。
祈っているだけじゃ駄目よ、と。助かりたかったら助かるように行動なさい、と。
叱りつけるように、たしなめるように、諭すように、優しく。
溢れれる涙もそのままに、ルル様のお姿を探しました。
けれどお姿は見えず声のみ。
ただひたすらの感謝を捧げるべきところを、つい聞いてしまいました。
私たちは呪われてしまったのでしょうか、と。
呪われてしまったのなら、何がいけなくて、これからどうすべきなのですか、と。
祈る他は、誰かにすがるしか出来ない哀れな女だとお思い下さい……
ですが、ルル様の声には哀れむ様子も無く、ただ一言。
焼けたノートルダム大聖堂から離れなさい、と。
道を示して頂きました。
私は貰ってばかりです。
神への感謝の言葉を、祈りに込めて。これからは祈るだけでなく、私も行動致します、と。
それじゃ、猫の世話を頼んでもいいかなあ、でしたでしょうか。その直後のルル様のお言葉。
この子は人の言葉を喋りもしない普通の猫だよ。基本、放っておいていいけど、お腹が空いて困っていたら食べ物くらいはあげてね、と、それを最後にルル様の声と銀の光は消えました。
いつの間にか跪いていた私の前には、丸まって眠っている一匹の黒猫がおりました。
私には黒い塊に見えるそれに恐る恐る触れて見ると、確かに温かい生きている猫でした。獣の匂いがほとんどしない、けれど少しはする、不思議な生きた猫。
争いはいつの間にか収まり……いえ、始まる事は無く。ただ皆が私の方に頭を垂れ、跪き、祈っているようでした。
その時より私はこう呼ばれるようになりました。
銀の聖女、と。
「むう、光の聖女リュミエラ様がその力をお示しあそばした日と同じ日に、銀の聖女もまた生まれたのだと? これには何か深い意味があるのか? だがそちらは銀、リュミエラ様はもっと純粋な光、そう、金と言えよう。銀と金ならば金の方が価値がある、違うか? 骨の、ええと、光の戦士の同胞よ!」
「唾を飛ばすなゴウベル。食い物にかかる。口を閉じてろ。プリュエルの邪魔をするな。それから俺のことは今まで通り骨の道化師でよいわ。それで慣れた。変えるな。それから光の戦士の仲間に入れるな。あと色で張り合うな阿呆め。話を続けてくれプリュエル」
横に座るゴウベルに言いたい事をすべて言い終えて食事を続ける。
なんていうことはない野菜の塩スープ。固い黒パン。何種類かの豆の塩ゆでに、焼いただけの魚の塩漬け。
美味しくはないはずだ。見るからに塩辛い。だがどうしたことだろう。涎が止まらん。
一口、食材たちを口に入れる度に体が目覚めていくような感覚。塩気が体に染み入るようだ。やっぱり辛い。辛いわ。ワインで口の中をゆすぎ、そのまま飲み込む。
「黒騎士さんはここに運ばれてくる途中、光っていたんだけどね。もぐ、辛いね、塩辛い」
「は?」
俺の腹の鳴き声があまりにも哀れを誘うとのことで、場所を食堂に移して食事をしながら話を聞くことになった。
時刻はすでに夕刻、日暮れが始まっている。
なんと丸一日以上も寝ていたらしい。時間の感覚が無くなっていく。
プリュエルの話に集中できたのは食事が運ばれてくるまで。
ジャンヌが捕まって以降は食事を気に掛けることも無くなっていた。これほど食べ物を渇望するのはどれほどぶりだろう。
テーブルの対面に座り、俺たちと同じ食事を摂る黒衣の少女は塩漬け魚を頬張りながら不穏な事を言う。は? 光って?
「肉をお出し出来れば良かったのですが、食べられるような肉といえば、もう馬くらいしか……」
「いーの、いーの。気にしないでマローさん。お馬さんを助けて別のお馬さんを食べているんじゃ収まりが悪いって話よ。お肉はまた別の日にね。魚もあるし、十分よ。美味しく頂いてるわ、持て成しに感謝よ……全部塩辛いけど」
「保存の効くものだけが残っておるのです……」
かいつまんだ話によると、パリの町には随分と人が戻っているらしい。それどころか、銀の聖女の噂を聞きつけて、あちらこちらからも人が集まっているのだと。
この町の食糧事情はひっ迫している。
「いや、それより、ルル、さっきなんと言った? 光っていた? 俺が?」
俺が意識を失ってからの事は、さらっとしか聞いていない。
何でも俺は髑髏の鬼に運ばれてパリの町に来たらしい。
あいつらだ。あのパリの町のゴロツキども。その成れの果て。ルルによってこき使われている。
眠った俺は、木と布で作った簡易のベッドに寝かされ、運ばれ。あの場に居た奴らが行列を作ってその後を追っていたのだと。頭が痛くなる。
パリの門の前でもひと悶着もふた悶着もあったらしいが、光っていた?
「パリに到着したのは夜だったのよ? 暗い夜道では足元も覚束ないでしょう? だから? 気を利かせて?」
「気の利かせ方がおかしいわっ!」
だからって俺そのものを光らせるやつがあるか。
くそ。こいつの非常識は今に始まった事じゃない。
猫は床にいて、早々に食事を終えて部屋の端でくつろいでいる。ルルの奴の膝元にはいない。いないが、どうせ奴に飛び掛かっても躱されるだけだ。何より今は食事中。騒動は無しだ。憤慨する気持ちを誤魔化すようにスープでふやかした黒パンを乱暴に口に含み、魚を齧る。辛い。
「天使様は光り輝いていて……本当に美しかったですぞ」
マロー司教が補足する。
なんの慰めにもならんわ。顔に血が昇る。塩辛い食事のせいだけではないだろう。どれくらいの人に見られた? 見世物か? 俺は見世物になっていたのか? なりたくない。光の戦士の仲間になりたくない。
「プ、プリュエル、話の続きだ。で、ノートルダム大聖堂から離れれば呪いは無くなったのか?」
「はい、私が聞いたことを皆に伝えて、焼け落ちたノートルダム大聖堂から離れ、近づくことを禁止いたしましたところ、それ以上の被害が無くなりました」
「ほう」
テーブルの端に座る盲目の女僧侶が頷き、銀の髪が燭台の明かりに照らされて光る。
面白い話だ。
それはまるで場所に掛けられた呪い。
ノートルダム大聖堂という人々が奇跡を願う場所には、やはり何かあるのか? 神聖なる祈りの場。それが焼けた事で、祝福が呪いに転ずるような、何かが。
「ルル、いつぞやの話、呪いはあるのだったか?」
「そーね、呪いはあるわよ」
奇跡や魔法は無くとも、呪いはある。そんな話を思い出した。
「それで、ルルよ、その呪いとは何なのだ?」
お前ならばわかるのだろう? そういう挑発的も意味も込めて。
この魔女は聞けば答える。答えてよいものならば。
答えてはくれる。その内容が理解しがたいものであれ。
この場合の呪いとは何なのか。出て来るのは神か、それとも悪魔か。
「ああ、それはね」
黒衣の少女は口の中をワインですすぎ、そのまま飲み込む。
「鉛中毒、よ」
しれっと前話と前々話を改変。
いやぁ、プリュエルさんの黒騎士さんの呼び方を忘れてましたわー。
内容に変化はありません。
あ、あとついででいいので↓の☆評価を押して行ってくださいませ。☆が増えると作者がニマニマできます。




