表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
死霊の黒騎士と黒猫のルル  作者: 鮭雑炊


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

91/151

91



 点と点が繋がり線となり、生まれた線がいくつも集まり、一つの形となる。


 時間や時代すら超越したような黒猫の言動の数々。赤く染まった世界で為された会話。それぞれの点が結びついて一つの結論を俺の中に生み出す。

 本の数ページだけが切り取られていたかのような、歪で、気味が悪く、落ち着かない感情からくる疑問。


 何故俺は殺されなければならなかったのか。


 どうしても知りたかった疑問。その答え。


 ジャンヌが処刑されたその日、ただ道を進んでいただけの俺を襲った者の正体。

 黒猫によって固く閉ざされた扉をこじ開けてまで見たかったその答え。

 なんと言う事もない。


 俺は自分で自分を殺したのだ。


 くだらない。

 くだらない。

 ああ、くだらない。


 不快で、不愉快で、たまらなくどうしようもないその答え。


 未来の自分が、過去の自分を殺しに来た。


 思考が乱れる。

 俺が今、どこで、何をしているのかも、わからなくなる。

 目の部分、二重の隙間が作られた兜の中、闇の中に置き去りにされたかのような暗闇。そこから覗く世界。


 横に居る黒い猫が俺を見ている。

 黒い猫が俺を見上げ、俺に問いかけている。


 ――なぜジャンヌを見殺しにしたの?


 真っ直ぐに俺を見る金色の瞳に見つめられると、俺は酷く不安になる。罪の意識はあるのかと、そう責められているのかと感じる。だが、それは錯覚だ。

 猫の金色の瞳の中、そこにある漆黒は、すべてを知りたい、すべてを吸収したいと願う黒色。

 奴は他の思惑など一切無く、ただ知りたいのだ。

 ただ、知りたい。

 俺が、俺が殺された理由を、ただ知りたいと願ったように。


 実際に、ここで奴がジャンヌを救いたいと願えば、そうなっていたのだろう。そういう世界に、なった……はずだ。何せ世界は無数に存在しているらしい。数えることを諦めるほどに。それは黒猫の力ならば、造作も無く叶う願いだ。どんな国、軍隊が黒猫の力に逆らえようものか。だが奴はそれを選ばない、黒猫に願わない……


 考えろ。

 考えろ。

 頭が痛い。一体いつからまともに寝ていない? いっそ、すべてを投げ出して、幼児の様に喚いてしまいたくなる、が、我慢しろ。考えろ。考えることをやめるな。

 俺は何故ジャンヌを見殺しにしたのだ。


 あいつは何故、ジャンヌを見殺しにする?

 あいつは……俺は……


 ――羨ましかった。


 俺はジャンヌを羨望の眼差しで見つめていたのだ。天空にある星や月や太陽を仰ぐように。

 そうありたいと願い、そうでない自分を恥じていた……


 ――だから手が出せなかった。


 夜空に手を伸ばしても、指先に星に届かないように。そんな手の届かぬ存在だと、思っていた。


 俺は、神の声に導かれ、己の使命を全うするあの聖なる乙女を、超人か何かだと思っていた。

 ジャンヌという少女のことは、出会った最初から只の人だとは、思ってすらいなかった。


 ――聖女とは特別なのだと。


 聖女は神に選ばれたから聖女なのだと、それ以外の思考など存在せずにいた。


 聖女とは、人に望まれて生まれる者だ、などとは、思いつきすらしなかった。多くの人に望まれ、少女が聖女に”成る”のだとは、そんな思考は、頭のどこにも存在しなかった。

 ただ同じ世界に生きる、他の誰とも変わらない人と同じであると、思えなかった。

 普通に生きて、普通に死ぬ存在だとは。


 だから……

 処刑されて、死んで、それで終わった彼女を、どうにも出来なかった。

 天空より流れ、地に落ちる星を、人の手でどうにも出来ぬように。


 ――何をしても、彼女を穢すようで。

 ――手を加えることは、彼女の生きざまを否定するようで。

 ――そんなことを望むなど、矮小な自分に相応しくない大それた願いだと。


 奴がジャンヌの魂を呼び出すことを早々に諦めたのも、おそらくそんな所。

 畏れて、恐れ多くて、怖くなって、手が出せなかった。


「…………」


 言葉が出てこない。

 喉の奥に詰まったモノは、思い至った考えを言葉にして紡ぐことを許さない。

 代わりに出た言葉とは、


「何だ……あいつは……昔の、自分を、殺すだと……なんと自分勝手な……あいつは……許さん、許してなるものか……」


 無理やり、苦労して、己の視線を黒猫から黒衣の少女へと、半ば焼かれた死体へと、向ける。


 惨めだ。俺は今、最高に惨めな存在だ。


 救えるのに、救わなかった。

 それを認めると、必ず惨めな自分に行き当たる。

 あの時の選択、ジャンヌを救おうと全力を出さなかった過去の自分の記憶が、ジャンヌを見殺しにしたという罪の記憶が、いつまでも俺を責める。


 それは恐らく、これからも、ずっと。記憶が残り続ける限り、ずっと。


 視界の中、会話になっているようでなっていないやりとりを繰り広げる黒衣の少女と死体。

 黒衣の少女は考えを改めるように提案する。これから起きる失敗をなんとかしたいなら、先ずは過去の自分に対し言葉を尽くして伝えてみてはどうか、と。

 死体は取りあわず、ただただ否定する。時々意味不明な言葉を挟みながら、殺せと、過去の自分を殺すのが唯一の救いの道なのだと。それが自分が救われるために残された、最後の方法なのだと……


「……ッ。この期に及んで、まだ救われたいのか!? あのゴミめ!」


 ゴミ。

 ゴミ以外に言葉の選択は無い。

 ほんの少しでも奴に同情するなど、気の迷いもいい所だ。あれには欠片の慈悲も必要無かった。

 そうなった可能性の……いや、もうわかった、あれは、俺だ、黒猫に出会わず、ひたすらに間違いの選択を続けた先にいる、俺だ。黒猫と出会わなかった未来の俺だ。


 俺は常々、過去に戻れるのなら、失態を犯す自分を罰してやりたいと願っていた。それが、正しい道なのだと。


 …………ちっ。


 失態を犯す前の自分の気持ちも考えろ。馬鹿が。


 殴りつける前に、先ずは言葉で説明しろよ、と。


「ふふ、私ってばいよいよ疲れてきたわね、あの状態の彼を前にした時の私の気持ちがわかる?」


 虚ろな目をして死体と会話を試みようとする黒衣の少女を見ながら黒猫は問いかけてくる。


「……面倒くさくなって、どうでもよくなったのだろう?」

「え、すごい、正解よ。黒騎士さんたら、いつの間に私の事を理解してくれるようになったのかしら?」

「それなりに長い付き合いだ……」


 時間にすれば短い時間のはずだが。濃い。とてつもなく濃い時間を過ごしている。

 本当に知りたかった質問の方に答えない俺への追及を許してくれたのか、黒猫は気さくに声を掛けてくる。あえて気軽な調子で接してくれているのか、それとも、許すも何も無く、ただそれが黒猫の本分とでもいうのか、俺にはわからない。


 いくらか落ち着きを取り戻した男は、目の前の少女に契約を迫る。

 地面に跪き、神に祈るようにして、乞い願う。


『魂をくれてやル。だからタのむ。悪魔ヨ。心の底かラの願いを叶えてくれ。疲レ切った俺ヲ、どうカ楽にしてくれ。スべてを無かった事にして……俺はもう……休み……たい』

『はーーーー。悪魔じゃないけど、魂とかも要らないけれど、有ったことは無かった事には出来ないのだけど……そうね、どうなるのかわからないけど、連れて行ってあげる。君の望む時間、場所。それに似た世界へと』


 世界が、揺れる。


「!? 何が?」


 大地だけでなく、世界そのものが揺れる感覚。

 すべての物が二重に見え、重なっていたそれが、別れていく。


 それはまるで、一つの世界から、もう一つの世界が生まれるようで……


「新しく、世界が、生まれる?」

「違う。新しく世界を”観測”した」


 黒猫が答える。


「本来、人の目に見えるものではない事象を無理やり映像にしているという事を、忘れないでね。近い意味合いは持たせてあるけど、視覚に映ったそれをそのまま受け取ると、誤解するわよ?」


 分かたれた世界は、完全に別のものとなる。


 片方の世界。黒衣の少女がいた世界は消え去り、俺の前にあるのは別の世界。

 その世界では光が戻り、色を取り戻し、人々が動いている。

 それは、ルーアンの街並み。

 それを少し上空から俺は見ている。隣には黒猫。


『チッ、黒猫が前を横切りやがった』

 

 イングランドの兵士の一団。その前を横切って進む一匹の黒猫。

 とくに慌てた様子もなく、人の事など構いはしないとばかりにのんびりと進んでいる。

 剣を抜き、ただ前を横切っただけの黒猫を斬り払う兵士。

 そいつの顔に見覚えは無い。


 猫殺しを目撃した者たちの中から小さな悲鳴があがるが、その声は大きいものではなく、いずれの人も見なかった事にしようとしているのがわかる。兵士たちの只ならぬ雰囲気に呑まれ、騒ぎになるのを恐れている。


『クソ、気分が悪いぜ。今日は魔女の処刑の日だってのによ』

『おいおい、何も殺すこたないだろ。猫に罪があんのかよ』

『縁起が悪りぃだろうがよ』

『黒猫は魔女の使い、そんな話もあるな』

『迷信だろ』

『気味が悪いだけでも罪だわ』

『はは、今日は日が日だしなぁ、わからんでもない』

『だろ?』


 何一つ悪びれた様子無く、猫の死骸を蹴飛ばして路地裏に放り込む男と、その周りの男たちの会話。

 何一つとして、わかっていない。自分が何をしでかしたのかを。何を斬り殺したのかを。

 黒猫の方も、自分が何故殺されたのかを、わかった様子も無く、その金色の目を見開き、こと切れている。


「おい黒猫」

「強い感情の揺れ、特に負の感情の揺れは、見つけやすい」


 イングランドの兵たちが通り過ぎて視界から消えて行った後。

 血にまみれ、仰向けになった猫の瞳の向かう先。

 いつの間にかそこにいた、空に浮かぶ巨大な瞳から一本の黒い触手が伸びて、斬られた猫と接触する。


「世界に干渉するための最初のとっかかりとして利用できるのよ。無くても別に何とかなるんだけど、まぁ楽できる」


 路地裏の猫が起き上がる。それを見ている者はいない。

 起き上がった後の猫は、すでに前の猫ではなく……


「処刑されるジャンヌさんの感情の揺れを見つけようとしていたんだけどね、最初に目についたのがあの子だった。たまたまよ、たまたま」


 ジャンヌは処刑される時にも後悔はしていなかったと、そう聞いた。だから見つけられず、猫になった。

 血にまみれた猫は進む。その金色の瞳の中に、明確な意思と、漆黒を宿して。


 猫がその瞳で見ている。


 磔にされたジャンヌが火中に消えて行く様を。

 それを、その場に居てローブを深く被って見ていた俺の様を。


「世界に干渉を始めてすぐはとても不安定で、軽々しく力を使うわけにはいかないのよね。この時はあの子の身体を癒すのに集中していたし。それがここでジャンヌさんを助けなかった理由、とかいう話じゃないんだけどね。……ジャンヌさんの救命を望んだ者はいないから助けない。それだけ。助ける力を持っていたけど助けなかった。黒騎士さんは私の事を責めるかしら?」

「…………」


 横に居る猫に言葉を返せない。

 責める理由が見当たらない。

 忘れかけていたが、俺は前にそれで黒猫を糾弾したのではなかったか。

 ジャンヌに人には聞こえぬ神の声を聞かせたのは黒猫だと思い込み、さらに見殺しにしたのだと、そう責め立てた。


 どの口が。


 あの時の無知で恥知らずな過去の俺を殴り殺したく……ああ、くそ、そうだ。そう願うのが、俺なのだ。そんなことだから……


 ジャンヌの処刑が終わり、その時が迫る。


 血をぶちまけたかのような夕焼け。

 ルーアンより立ち去ろうとする俺の前に現れる、人の言葉を喋る猫。それは人の恐怖を煽りながら姿を変えて黒い魔女となり……


 視界の中で、俺の記憶の中にある、そのままの展開が繰り広げられる。

 首を括られ、喉をやられ、半ば焼かれて人相もわからなくなった男の不快な言葉が耳に届く。


『死ネ。ただ死ネ。ソれが、お前ノ、為ダ、お前は、ここで、死ね』


 これから間違いを犯す俺を止めに……命を狩りに来た未来からの刺客の言葉。

 ここで死ね。


 救国の英雄とまで呼ばれた男が、その人生が転落する前に終わる。終わらされる。それで、守られ、救われる。

 ジル・ド・レの名は、少年を次々に手に掛ける恐怖の悪魔ではなく 誉れ高き救国の英雄として語られ、残ることになる。

 その誇りが、救われる。その尊厳が守られる。


 黒猫がわからないと言っていた”その選択の理由”が、俺にはよくわかってしまった。


『嫌だ! 何故、何故、何故、何故』


 ただただ俺の為、自分の為。

 ただただ名の為、誇りの為に、命を粗末に扱っている。


 ましてやそれが、過去の自分の命であるのなら、他者の命を軽く扱う俺が、どうして大切に扱えようものか。


 迫る死。わけのわからないまま殺される寸前。まったく無意味な命乞いをする不様な姿の俺。


「もういい……もういいだろう……黒猫。もうわかった……許してくれ」


 間違っていた。

 知ろうとするべきでは無かった。

 気になっていた疑問の答えは得た。これ以上ないほどに明確に叩きつけられて。

 それで、知ってどうなった?


 俺の心は豊かになったか? 俺はいくらか賢くなったか?


 無い。そんな事は一切無い。

 苦痛にまみれ、後悔にまみれた、忌々しい過去の記憶が無意味に増えただけだ。


「……もうちょっとよ、最後まで、もうちょっと」

「許してくれないのか」

「許すも何もないわねぇ、こうして手間暇かけて黒騎士さんの話に付き合っているのは、別に怒っているからとかじゃないから」

「では、どうしてやめてくれない……」

「理解とまではいかなくても、知って欲しいからかな」

「知ることは知れた……もう十分だ。もうすべてわかった」


 俺が悪いことが、わかった。


「一を聞いて十を知るのは結構な事だけど、それ、黒騎士さんの世界の常識から残りを補っているだけよ? とにかく、最後まで見て、そして出来れば……受け入れて」


 何をだ?

 疑問を口にする間もなく世界は動く。変わり続ける。


 俺を殺した未来から来た俺は、一言、満足そうに呟く。


『ああ、これで、安らかに、眠れる』


「クソがッ! ゴミ! ゴミめ!」


 今までどうにか抑え込んでいた感情が爆発する。自分でもどうにもできない。

 焼けた死体に近づき、殴りつけ、すり抜ける。


「手が出せない相手がこれほど憎いと感じた事は無い! 死ね、ああ、くそ、死んでる、くそが」

「感情的にならないで。知ることは時に苦痛を伴うものよ」


 黒猫が俺を諫める。だがどうにもならないことはどうにもならないのだ。

 過ちを犯した未来の自分が俺を殺しに来るなど、今まで想像すらしていなかった答えに、腑に落ちてしまっている俺がいる。あまりにも自分勝手な理由であるはずなのに、奴の選択を、ああ、そうだろうなと、納得する俺がいる。許しがたい。憎い。誰を? これは誰が悪い?


「黒猫! ルル! 俺は誰を憎めばいい?」

「誰も憎まなくていいでしょ……けど、精神が壊れてしまう程にどうしても辛いなら神様や悪魔のせいにするといいでしょうね。多くの人が、そうしているように」

「神や、悪魔のせいに……」


 神や悪魔が生まれた理由。人に望まれたから生まれた。無知な人が理不尽な事柄を受け入れるためには、犯人が必要なのだ。それを為した者が。神や悪魔は目の前に現れて反論してこないので犯人に仕立て上げるのに都合がいいのだと、そういう話を聞いたことを思い出した。


「いや、奴だ。悪いのは奴だ。神や悪魔に出番は無い。そんなものには頼らない。俺を殺したのは奴だ。未来の世界の俺」

「未来に似た世界、ね。同じ流れの、別の場所」


 黒猫が訂正をする。


「違いが判らんッ! そもそも貴様、黒猫、責任は感じていないのか!? お前が奴を連れてこなければ、俺は殺される事も無く……」


 無事に領地に戻り。

 そして神を呪い、少年を手に掛け始めるのだろう。


「くそがあああああ!!!」


 終わっている。どうにもこうにも終わっている。


 視界の中では、満足気に呟いていた焼死体が突然、糸が切れた操り人形のように地面へと崩れ落ちて、動きを止める。

 黒衣の魔女の姿が掻き消え、後に残されたのは二度と動かぬ焼けた死体と、それをじっと見つめる黒猫、そして、片腕を無くした俺の死体。


「理不尽よねえ」


 最初から俺の横に居た黒猫が、いつの間にか姿を変えていた。

 黒と白で構成された少女。


「君の……君たちの中でどういう思考があってあんな結末になったのかは、やっぱりよくわからないのだけれど、私の目には、何も罪を犯していない者が理不尽に殺された、そう映ったわ……」

「罪は……あるだろう」


 納得してしまっている。俺には殺されるだけの理由があったのだと。

 その罪の名をあえて上げるなら、将来、大罪を犯す者……


「お、俺は、あのままなら、いつか大罪を犯し……」

「まだ何もしてないでしょ? だったら無罪よ、私の中では。だから、ほら」


 黒衣の少女が白く美しい指を向ける先、黒猫は呟く。


『何この結末、これで終わりかぁ……腑に落ちない。すっきりしないなあ』


「新たな世界を観測し、時の流れに干渉して支流を作り、そこに穢れを流すことは叶った。だからそれで終わり。気分爽快。の、はずなんだけどねぇ……納得出来なかった」


『君も、可哀そうにね』


 肩から先の腕を失って横たわる俺を見ながら黒猫は喋る。誰も聞く者はいない世界で。


『はぁ、しょうがない。ちょっと手間をかけますか』


 黒猫、焼死体、片腕の無い男の死体。それらが浮き、滑るようにして場所を移動して近くの森の中へと消えて行く。


 俺たちも後を追うように空を滑り、その場所へと。


『なるべくなら手を加えたくないんだけど、泣いていたもんね、彼、思い出したくもないでしょ。こっちで記憶操作して、こっちには強度の記憶の封印を……』


「見た目的に特に動きも無い、ただの作業だから、十倍速で行くわね」


 映像が流れる。

 黒猫が森の中に佇み、何かをやっている。何をやっているのかはわからない。動いていないように見えて、何かをしているのだろう。

 夕焼けはとっくに過ぎ去り、世界は夜に支配されている。

 ふいに動きが元通りになる。


『さて、仕上げ。片腕の無いこっちは必要無いから格納して』


 黒猫が視線を向けると、片腕を失っていた俺の死体が消える。


『見た目は、やっぱり重要だよね。生焼け死体じゃ恋人も出来ない』


 半分焼けた死体。俺を殺した男の死体から肉が溶けだし、地に落ちる。


『ま、丁度いいわよね。男のアレが残っていると悪さしそうだし、何より恰好がついたよ。綺麗になってる』


 完全に白い骨となったそれを見ながら黒猫は独り言を繰り返す。

 独り言を繰り返す黒猫はいっそ楽し気ですらある。


『はて、彼の剣も溶かしちゃったし、んー、元通りに直すのは面倒くさいね。前に作ってとっておいた物でいいか、長さとか同じ感じだし。うん、プレゼント。どうせなら恰好の良い鎧もあげちゃう。この世界に打ち込む楔になる物は多いほど安定するし』


「まさか……」


 浮き上がり、立ち上がった白骨に黒い鎧が勝手に纏わりついて行く。


「まさか……」


『兜は……いらないか、せっかくの格好いい髑髏が隠れてしまうからね。おお、想像以上にいいんじゃない? 素敵』


「まさか……」


 黒い鎧に覆われた自分の腕を見る。

 隙間から覗く白い骨、その出所。


「まさか……」


『これでいい、はず。さて、目覚めて下さいな。あれ、おきないね? はて、ええと……』


「まさか……黒猫、まさか、まさか……」

「言い訳いいかしら? モノづくりに没頭すると楽しくなっていくタイプなのよね、私。この時の精神は依り代にした猫に引きずられているわけだし……ちょっと言動が幼くなっているのも気にしないでくれると……」

「そうじゃなく、黒猫、まさか」


 腕が震える。足も。震えが止まらない。躰が俺の意思から離れようとしている。


『……殺してやる。お前ら全員……』

『あれ? 起きてる? いや寝ぼけている? コホン、さあ、おきなさい、理不尽な死を超えて復活した……ええと、ガイコツの騎士よ、おきなさい……………………だから、さっさと起きなさいと言っているでしょう』


 黒い鎧を纏った骸骨の騎士が、ゆっくりと顔を上げる。


「まさか、俺は、あいつ、なのか?」


 衝撃が。

 俺を打ちのめし。

 世界が、壊れる。






91話をかけてざまぁされる主人公がいるらしい。


いつも読んでくださってありがとう。

評価や感想、レビューなど頂けましたら最高かと思います。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
cont_access.php?citi_cont_id=565701435&size=300
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ