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暴行でも受けたのか、顔中に切り傷を作り、口の端からも血を流している詐欺師プレラーティ。柱に括られているらしい俺と同じく、近い場所にて柱に括られている。青年は、首だけをこちらに向けて笑う。
「はは、はっはは、ほら、僕の言った通りだろ、ただの死体じゃないってさ。僕の言う事は正しいんだ、だろ?」
「…………」
状況がわからん。
迂闊な返事をせず、今の状況を確認するのに集中する。今の俺が置かれている状況は、どういうものだ?
体調はすこぶる悪い。
頭痛が消えない。
寝たりない、もっと寝ていろ、二度寝だ、二度寝しろと、そう躰が命じてくる。状況を考えろ、こんな所でのんびりと寝ていられるか、怠惰な俺の躰め。
眠気のせいで込み上げてくる吐き気を押し殺す。
プレラーティの横に、同じようにして括られているのは偽ジャンヌ、本名ジャンヌ。俯いていて表情は読めない。生きているのか死んでいるのか。いや、口元が動いている。何かを呟いているらしい。祈りの言葉か何かだ。どういう精神状態かはわからないが、とりあえず生きてはいるようだ。そのさらに横には処刑人ジョフロワ。こちらも暴行を受けたらしい傷が見て取れる。目はつぶっているが、呻いているので生きているのだろう。どの柱の下にも、よく燃えそうな小枝が敷き詰められている。火による処刑でも始めるつもりなのか。
周囲には幾人かの男たちがうろついている。目が覚めたと気がついたらしい何人かが恐る恐る俺の様子を探っている。そのうちの一人が持っている物に見覚えがある。
黒い兜。
二本のスリットが入った丸い兜だ。道理でやけに視界が開けていると思った。俺は寝ている間に兜を脱がされていたらしい。
寝て、いる、間、に。
怒りと羞恥で躰が焼けるようだ。
これは、酷い。
ここの所の失態続き。俺はいつも選択を間違え続けているが、今度の失態こそは、ありえない。
眠くて寝たのか、あるいは黒猫によって消された記憶を取り戻すことで、頭の中で何かが起きて、気絶なりなんなりをしたのか。それは知らん、知らんが、体をいじくりまわされて、柱に括られ、兜までひっぺがされて目も覚めないなど、武人の名折れもいいところ。まさに生き恥。死して尚、ここまでの恥をかかされたことは無い。おのれ、おのれ。
この骨の躰のせいか?
眠れ眠れと五月蠅い、この欠陥のある骨の躰。
前の生、生身の肉体であれば、絶対に犯さない失態だった。どんな状況で寝ていたとしても飛び起きていたはずだ。本気で致命的な欠陥ではないか。
兜を持った男が笑っている。
すぐさま兜を取り戻さんと身じろぎするも、柱に括られた躰は動かない。柱ごと引き抜いてやろうと力を加えても、柱は根が生えたように微動だにしない。
よく見ると俺が括られているのは柱ではなく、地面に生えている木だ。他の者は吹けば飛ぶような柱なのに、俺だけ太い木に括られている。動かないわけだ、実際に根が生えているからな。
俺と木を繋ぐ鉄の鎖は太く、極めて丈夫そうだ。それが丁寧に何重にも巻かれている。俺だけ、どうして。
「おのれ、ゆるさん、ゆるさんぞ……」
あまりに不甲斐ない自分に対してなのか、それとも兜を奪った者に対してなのか、それともこの状況そのものに対してなのか、もはや何に対しての怒りなのかもわからない。
とにかく絶対に許さない。
身体が動かせない分、憎しみだけは届けとばかりに、兜を持つ男を呪う。
(死ね。返せ。それは俺のだ。呪われろ。死ね。死ね。滅びろ)
呪いを込めて睨んだだけで相手を焼き尽くせるのなら、兜を持った男は今頃消し炭になっていることだろう。だが俺の視線にそんな魔法のような力は無く、必死の念話も通じる様子もない。兜を脱がされたことで剥き出しになった髑髏の姿になった俺に睨まれた男は、ほんの小さく怯えるのみ。
「ひひ、あ、れ、さ、寒い、何が……」
「あっはは。神はお怒りなんだ。わかるだろう? 不敬なる者は地獄に落ちるのさ。ささ、天使よ、お目覚めになったのなら、今すぐ天罰をこいつらに。この不徳の者共を許してはいけませんよ」
「…………おいプレラーティ、貴様」
状況が理解できるまで黙っていようと思ったが、我慢できずについ言葉を発してしまう。
プレラーティ、お前という奴は。
「俺はお前に召喚された悪魔とかいう設定ではなかったのか? 俺の事は天使でも悪魔でも好きに呼べばよいが、せめてどちらかに統一しろ。悪魔と魔女を混同するくらいならわかってやれるが、天使と悪魔では正反対ではないか」
目的をすぐに見失いがちな俺が言うのも何だが、この男、言われていた通りの男だ。言う事をすぐに変える。自分の事も”僕”と言ったり”私”と言ったり、だ。そんな態度では信用を無くすぞ。ああ、無くしたからここでこうして柱に括られているのだった。
「この混沌の世に秩序をと切に願う僕の呼びかけに応じて召喚されし、神に使わされた悪魔、そう、それが貴方の正体なのです。ならば悪魔であっても天使と言って差し支えないでしょう。天使であり、悪魔である者、何の問題もありません。ということで、薙ぎ払え」
「何が、ということで、だ」
口から出任せにしても適当すぎる。天使と悪魔を混同するな。どこの馬鹿が騙されるのだ。なるほど悪魔教の馬鹿どもか。馬鹿だな。
敵を薙ぎ払う力も持っていない。
そんな力があったらとっくに行使している。
大事な戦利品とばかりに俺の兜を抱いた男が、柱に括られた俺たちを見て笑っている。おのれ。
力が、力が欲しい。あいつを焼き殺す力が欲しい。思うさまに敵を薙ぎ払う力が欲しい。
「ここは神の権能を使う場面ですよ……神の使いを畏れぬ愚か者たちを神威でもって薙ぎ払う、今がまさにその時です、だから、どうか……は、ははは……あははは……馬鹿か、僕は……こんな場所で柱に括られて悶えているだけの天使とか……役に立つわけないじゃないか……馬鹿馬鹿しい……ああ……ちくしょう……それでも……死にたくないよ……助けてよ、天使様」
悶えているとか言うな。
力なく笑う詐欺師から本音らしきものが覗く。
死にたくない、か。勝手な事を言う。天使であっても詐欺師を助ける理由や義務は無い。むしろ裁かれる側だ、お前は。
「いちいち擦り寄って来るな。そもそも俺は天使じゃない。助けなど期待するな」
突き詰めて考えれば、結局のところ俺が助かりたいのは俺だけ。
偽ジャンヌやジョフロワを助けようとしたのも、俺にその余裕があったから……
ただ生きていて、ただ道に迷っていたら、突然、悪魔のような奴らに目を付けられて殺された。神に助けを乞おうが、不様な命乞いをしようが死んだ。必死に死にたくないと縋っても、容赦なく殺された。そして意味も無く復活。神の権能も、目的も、使命も、何も与えられずに……
俺は泣いていいのでは? 俺以上に意味不明で哀れな犠牲者がこの世にいるか?
「……殺されて初めてわかる、命の大切さよ……悪魔め」
動かせる首だけを動かして、天を仰ぐ。
自分が殺される側になって初めて知ることが出来る、生きたいという意思の尊さ、生きたいと願う者を殺すことの罪。
分厚い雲で覆われた空に太陽は見つからない。
指針、目標……俺はまた、道に迷っている。
「……プレラーティ。黒猫の悪魔を呼び出す手段を知っているか?」
「はい、知ってます」
「詐欺師め、嘘をつくな、黙ってろ、馬鹿が」
「……最初から聞く気無いでしょう……何故に聞いたんですかね」
周りの男たちは右往左往するだけで何かの行動を起こそうともしない。率いる者の不在が、組織をこうまで堕落させる。これでは組織という言葉すら使えない。烏合の衆、が正しい。やることが無いなら解散しろ、群れるな、ゴミども。
「詐欺師扱いなのも酷いです、僕が貴方に何かしましたか?」
「白い肌、黒いローブ姿というのがな、つい誰ぞを思い出してしまうのだ。警戒せよ、とな。おかげで詐欺に遭わないですんでいる」
「貴方を酷い目に合わせた人の風体がそんなのなんですね。世の中には悪い人もいるもんですね。けど人違いですよ、僕は貴方の味方です。信じてください。詐欺だって働きません。いつだって僕は貴方の為を思っているんです」
俺をこんな目に合わせた奴は人ですらないがな。猫だし悪魔だし魔女だ。
それでも奴の言い分では、俺もあいつも人なのだが。
「詐欺師プレラーティ、俺の為とかいう上っ面だけの言葉は見過ごしてやる、ここに至るまでの経緯を聞かせろ。悪魔教徒どもは俺たちを見つけたのだな?」
手、足、動かせる部分は無いかと体をよじる。
幾重にも巻かれた鉄の鎖は首の他にも各所の関節に食い込んでいる。鎧の隙間を縫って、剥き出しの骨にまで達している。痛みは無い。
「はい、そうですね。漆黒の翼にて颯爽と彼方へ飛び去ったはずの貴方たちですが、夜目の利く者が言うには途中で落ちたと言うものですから、総出で探しに出たのです。無意味だと言って聞かせたのですが、その時には僕も縛られていましたし。そして倒れていた貴方と二人を見つけた奴らは、すぐさま二人を捕えて、横たわる貴方の兜を脱がせました。そこにあったのは骨、動く事のなくなった骨だったわけです。神秘の魔法が失われて、ただの死体に戻ってしまったのだと思い込んだ奴らは、恐れ多くも高貴なる貴方の鎧を剥ごうとしたのです。大罪人ですね、悪い奴らです」
縛られている俺の躰の腰に剣は見当たらない、それからローブも盗られている。
絶対に取り戻す。命の大切さどうこうなど言ってられぬ。殺してでも取り返す。
「ただ、骨なのに実際に動いていた貴方を恐れる者たちも多く、目を覚ますのではないかと疑って手を出しあぐねる者もいたのです。私は知っていましたとも、そこに横たわるのは死体ではないのだと。今は神秘の力を蓄えるためにお休みになられているだけであると。そこで僕はこれ以上貴方を汚されてはいけないと思って言ってやったのです。神秘なる魔法の力は失われていないよと、鎧でも兜でも、彼からは何も盗んではいけない、その手にした剣を鞘から抜いてはならない、資格無き者がその剣を振るえば即座に命が断たれるだろう、と。いいかい、彼はすぐに目を覚ますぞ、その時、彼の尊厳を損なった者は天よりの裁きをその身に受けるだろう――」
「……そんな……言い方では、なかった」
処刑人ジョフロワが、二度三度、頭を振って言葉を発し、プレラーティの話を遮る。
「目が覚めたのか? ……ジョフロワ」
「はい……天使、様……眠る貴方様の身体をお守りすることが出来ず……」
ジャンヌを処刑した際、それを実行した者。
彼女を括りつけ、火を着けた本人。
助けよう、守ろう、そう思っていた相手が、そうした人物だと知った時に、俺の意識は焼き切れるようにして落ちたのだった。衝撃は大きかった。だが、何故だろうな。この男が俺の復讐相手だと思えないのは。
それはルーアンの町の住人に抱く感情とは違うもの、イングランドに抱く感情にも近くて、少し違う。人が人を斬り殺す時の刃物にまで、恨みを抱くかという、そういう感情、疑問。
色々とあり過ぎた、色々と知ってしまった。色々と学んでしまった。
誰かを助けるという行為が、実はその誰かの為ではなく自分の為であると思っている今だから、その衝撃にも耐えられたのだろうか。それを知る前なら、そんなはずじゃなかった、裏切りやがってと言って自分勝手に怒り、その怒りのまま、ただ剣を振り下ろして満足できていただろうに。
世の中、剣では切れぬ縁があり過ぎて困る。目の前の敵の全てを薙ぎ払えるような力があっても、おそらくどうにもならない。それを断ち切るのならば、全てを捨てて逃げるしかないのだ。今の俺のように。
しかし、守ろうとした者に守られるとは……つくづく、この身が不甲斐ない。むしろ放置してくれていた方が心が傷つくことも無かった。この怒りはどこにぶつければいい?
ぐつぐつ、ふつふつと、腹の底にて煮えたぎるモノが、行き場を探して渦巻いている。
「俺を置いて逃げ出す時間くらいならあったはずだ。偽……ジャンヌを助けるのではなかったのか? ジョフロワよ」
「ジャンヌも覚悟をしていました」
「はい、天使様、私たちは覚悟を決めて、あの場に留まったのす」
「ジャンヌも目が覚めたか、いや、何かつぶやいていたが」
「神への祈りを済ましておりましたのです。祈りと、告解、私の犯した罪の全てを」
「おや? 再誕の聖女ジャンヌさん、我輩言葉をどうしたのです? 自分の事はワガハイって呼んでましたよね?」
「あれは、もう偽る必要も無く……」
「必死に慣れない男言葉を使おうとして珍妙になっていた貴女の方が、ずっと魅力的でしたよ? あのままで良かったのに」
「貴様、プレラーティ! 適当な事を言うな!」
「……ジョフロワ」
我輩言葉はおかしいと思っていたことを、うっかりと白状する形になったジョフロワは焦り出す。心の底からどうでもいいわ。
「天使様、騙されないでください、奴は……」
「人は嘘をつく生き物だ。元より疑って話を聞いている、続けろプレラーティ」
「ええと、ただ私の言葉を疑う者もおりましたので、嘘なんてついていないのに。酷いです。ならばと、私は天に問う方法を提案したのです。横たわる彼が完全に死体に戻ったのか否か、神に聞けば良い、と。その方法は天の太陽にて裁きは為される……一日中、陽の光を浴びて、それでも動かないのならば、神はそれが死体であると認めたと、その骸から遺品を持って行ってもいい証明だと。ええ当然、私は貴方が神の加護のこもった陽の光を受ければ、すぐにでも再び目覚めるであろうことを、知ってましたので――」
「悪魔の呪いを解除して安全に遺物を持って帰れる方法を知っていると、貴様言ってたよな? 手に入れた者は不死の力を得るだろうと焚きつけて。それで誰も呪われもせず神剣が使えるようになったら見逃してくれとも言ってた」
「はい? ジョフロワさん? 嘘つかないで貰えます? 私はありのままを話しているのに」
「プレラーティ……貴様、嘘をつこうとする時に自分の事を”私”と言う癖がついていないか?」
俺の指摘に愕然とした表情で返す詐欺師プレラーティ。気がついていなかったらしい。改めて、こいつ程度に騙される奴は真正の馬鹿だ。
「え、と、ええと……」
「もういい、大体わかった。それで悪魔の呪いを解除するには?」
「一日中を通してじっくりと火で焼けばいいとか」
「そうか、それで俺は括られているわけだ」
「ちょ、そんな雑な言い方では……もう少し、丁寧にですね、言ったかなって」
雑でも丁寧でもどっちでも変わらない。
俺が括られている理由はわかった。呪いを受けずしてこの黒い鎧や剣を手に入れたいということか。鎧や剣を手に入れても不死身の力なんぞは手にできないだろうが。いや、どうだろう、この謎の躰を含めて、黒猫からの贈り物の何を知っているのかという話だ。
あるのか、そんなことが? ない、ないはず……それとも、俺が骨の躰になっても動けているのは、実は鎧に秘められた力によるものだったりするのか? 疑え、全てを。
「俺の方はいいとして、貴様らは、どうして?」
「わた……僕はどうやら裏切り者にされてしまったようです、ええ、そこのジャンヌさんを裏でこっそりと助けようと動いた結果なんですが」
「てめ、プレラーティ、また嘘を……お前がジャンヌを殺そうとしていたんだろうが!」
「いいえ、助けようとしてました。いつだって殺せたんですよ? まだ生きているというのが、その証拠です」
「それは……」
詐欺師は言葉を巧みに使う。結果として助かっただけのことを、さも自分の功績のように話すこともあるだろう。嘘を嘘と見抜ける魔法の力でも持っていない限り、人が嘘をついているというのを見抜くのは難しい。
「ジョフロワ、相手にするな」
「天使様、そこのプレラーティの奴は、完全に悪魔教の奴らから見放されていたようでした。新しく頭領になったらしき人物に殴る蹴るをされていたし……」
「野蛮人なんですよ。けど、いいんですよ、あの馬鹿ども、言うこと聞かない癖に、すぐ怒るし、本当に頭悪い。臭いし。いつか見限ってやろうと思って所なので、むしろ望む所です。あいつらが僕の所に集まって来たのも成り行きですし……ところで天使様、そろそろ僕を解放してはくれませんか……隠し持った力、あるんでしょう? 崖から飛んだ時みたいな、そういうの」
「ふん、隠し持った力、か……あったら、いいな」
俺の返しに再び愕然とするプレラーティ。
「役に立たない、天使、役に立たない」
放っておけ。自覚がある分、それは今一番に俺に深く突き刺さる言葉だ。
「私は……神の審判を待ちます。この身が焼かれることになるならば、それはそういう定めであります。神が滅びを望むのならば、受け入れます」
「ジャンヌ、諦めないで、ジャンヌ……」
は?
なんだ。
それは。
お前の命は、その程度のものなのか? けして姿を現さない、神、程度の奴に、命を捧げると言うのか? ジャンヌ、偽物のジャンヌよ。理不尽な死を強いる者に対して、お前は黙って従い、受け入れるというのか?
それは、お前の命を助けようとした俺や、そこのジョフロワに対して、その程度の命でしたと、そう言っているに等しい。
許しがたい。
許さない。
許してなるものか。
怒気が言葉を詰まらせる。それでも何か言おうとした時に、男は現れる。
悪魔教の新しい頭領か? 見覚えがある。最初にプレラーティに会った時に後ろにいた男だ。それはどうでもいい、だが……
「ししし、何だよプレラーティ。ちゃんと呪われもせずに着れるじゃねぇか。それにこの剣もすげぇ、本当に何を斬っても刃こぼれしねぇ。岩だろうが鉄だろうがお構いなしだ、本物の神の剣だぜ」
厭らしく笑いながら現れた男は、右手に黒い鞘に納められた剣を持ち、体には黒いローブを纏っていた。それは新品同然なのに、端がボロになっている。
「剣を鞘から抜いて振っても死なねぇし呪われねぇ、まーた嘘つきやがって。そんで今度は天使に鞍替えかよ、節操ねぇな」
限界だ。
もう、限界だ。
「悪魔教徒ども、お前たちの悪行を神が許すものか。天罰はすぐに下ることになるからな」
「神が悪人を裁くのならよ、てめえが先だろうが、この世界をこんなにメチャクチャにしやがってよ、地獄の処刑人、いんや、地獄をこの世に呼び込んだ処刑人ジョフロワぁ」
「ぐ、そうだ、が」
違うだろう。ジョフロワよ。この世界をこれほどの混沌に陥れた者は……俺だ。
「悪魔に擦り寄ってどうするの? それで何かを得ても待ち受けるのは正しき神の裁きによる破滅だけ……」
「ジャンヌちゃーん。裁きをしてくれる神ってのは今どこにいるんでちゅかねー。しし、俺たちの心配してくれんのもいいけどよ、今、破滅に向かってんのは、おめえらだろーがよ。おめえらは死んじまう最後の最後まで神様たしゅけてーって命乞いして泣いてりゃいいんだよ、そっちの方が見てて楽しいじゃねーか、ししし」
黙れ。黙れ。
ああ、おのれ。
どいつも、こいつも……
「役立たずの天使と役に立つ悪魔なら、僕は悪魔の方に擦り寄りますけどね」
「黙ってろ」
どいつも、こいつも。
どいつも、こいつも。




