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死霊の黒騎士と黒猫のルル  作者: 鮭雑炊


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 右後ろと左後ろにいる男たちの会話を上の空で聞き流しながら、俺はひとつ、生あくびをかみ殺す。

 馬上の揺れが心地よい。

 相変わらず天気は優れず、馬に乗り、土埃を上げて街道を進む俺たちに陰鬱な影を落とす。

 快晴とは程遠い、薄く曇りがかった空に、つい理不尽な文句を言いたくなる。晴れるなら晴れろと。いっそ雨でも降ってくれた方が、すっきりもしよう。

 どこか曖昧で、どこか空虚な自分を感じる。

 燃え終わった焚き火の後のような、焼け残りの汚れた黒と白の混じりあった灰色で、煤けた感情。しかし完全には鎮火していないのを、俺は知っている。


 ベッドフォード公の語ったジャンヌの火刑の件、コーションの話を聞いた時の心の動き。一瞬だけ火気が弾けて燃えあがりそうになった、あの感情はどこから来るものだろう。黒猫を斬った時の衝動もまた同じではないだろうか。内なる声に耳を傾けても明確な答えは返ってこない。己の心の事なのに、己の心がわからない。

 俺の後ろに続く騎兵たちのことを思う。

 イングランドの兵。

 オルレアンを占拠する悪魔教とやらを退治する軍の先ぶれとしての役目を持って俺についてくる。態度も含め、至って俺には従順。恐れもあるだろうが。ベッドフォード公の言う事には、軽々しく逃げ出したり命令違反を犯さない者たちを集めた精鋭だそうだ。俺はその先頭に立ち、この地の住人との対立を退ける役目だ。民衆に人気の高かった聖女ジャンヌを殺したイングランドは今やこの地の住人たちにとって憎悪の対象だからな。あちこちで軋轢が生まれていると聞いた。聖女殺し。神の敵。ベッドフォード公としては天使と勘違いされがちな俺を味方につけておきたいと願っているのだろう。俺自身には価値など無く、明確な信念などもない、ふらふらと彷徨い歩くだけの、ただの動く骨だというのにな。

 どうにも奇妙な縁が出来てしまったようだ。こういったしがらみからは逃れたいのだが。

 何をしているんだろうな、本当に俺は。


 ここで冷静になって思い返してみると、受けた仕事を続ける責任なんてものは俺には無いのではないかと思う。

 俺が口にしてしまった中立という言葉尻を捕えられて、シャルル王の使いとして動いたのだから今度はイングランドの為に動けというベッドフォード公の言葉に、つい、それもそうだと納得してしまったが、本当にそうか? それは中立という立場の取る者の態度か?

 どっちつかずは、どっちからも敵扱いされることを俺は知っている。

 戦場に置いて、一番信用のならない奴だ。

 地位も名前もこの身に纏う肉も捨てて、好き勝手に振る舞う事の出来る自由を俺は手に入れたはずだ。何者にも囚われない自由な行動。ただし、それは周りの全てを敵にしても構わないと言ってのけることの出来る強者が取れる態度。周りの全てを敵にすることで成立する中立。果たして今の俺にその覚悟はあるか?

 黒猫曰く。

 どうやらこの世界ってものはとんでもなく広いらしい、俺の想像もつかないほど。

 あまり深く物事を考えない、狭い世界しか知らなかった少し前の俺ならば自信満々に答えたのだろうな。世界の全てが敵だと? 上等だ、かかってこい、と……いわゆるひとつの馬鹿ではあったな。

 それを思えば、俺も少しは成長したのか。


 あとは俺の報酬自体もおかしい。

 タダで使われてやる気は無いと、こちらからも条件を出した。


 ふらりとイングランドの地の大学に行っても、俺を追い返さない事。


 それを聞いたベッドフォード公は、悪い顔色をさらに悪くして「ふらりと現れるな! その時は必ず便宜を図ってやるから、ふらりと現れるのだけはやめろ、絶対に! いいか、絶対にだぞ!?」と言って、俺を受け入れることを了承してくれたが、果たして彼の真意はいかに。

 彼は神や天使、聖女などといったものを盲目的に信仰する人物ではなさそうだが、それゆえにか、俺という存在を未知の錬金術や魔術といったものの由来だと思っているようだ。それを探るために俺を引き入れるのなら、それはイングランドにとっての得ではないのか。

 相手は損をしていない。

 詐欺にでもあった気分だ。


 詐欺と言えば、黒猫が何か言っていたな。詐欺の手法、詐欺師の使う技術。

 最初に大きな提案をして、断らせ、次に本命の小さな提案をすると、人は了承しやすくなるとか。一度、断ることで、人は罪悪感を植え付けられるのだったか。そうすると、その罪悪感でもって本命の要求を飲ませやすいのだと。人の心理を突いた技法。

 ベッドフォード公は最初、俺に、とうてい飲めるものではない要求、軍の指揮を取れと言ってきた、そして次に、俺にこの地の住人たちとの折衝の役目を振ってきた。本命は最初からこちらだったのではないのか? やられた? 騙したか? 俺を?


 小さな要求から徐々に大きな要求に変化していく手法なんて話もあった。黒猫との別れ、あの時の俺は、とにかく頭の中に響く念話を止めさせることに必死で、よく話を聞いていなかった。もっと真剣に聞いておくのだった。いや、無理だ。あの状況では。

 とにかく、これ以上はイングランドの肩入れはしない。

 中立だのも、どうでもいい。

 本心から言ったものでもない。

 いや、むしろ、もういっそ、全てを放り投げて逃げ出すか? 大学なんぞ、イングランドでなくともいくらでもある。学問の分野ではオスマンの大学の方が進んでいるという話も聞く。錬金術の本場という印象も持っている。骨の俺がふらりと現れたら、かの地の人々はどう思うのだろう。宗教が違っても、やはり騒動にはなるだろうか。そんな事を思い始めた時に、村が見えてきた。

 子供らが狼に襲われていた、あの村だ。





「酷いなコリャ……」

「ルーアンから来るときに通ってきたのではないのか? ゴウベル」

「いや、すぐ脇を通り過ぎた。イングランド兵を見ると襲い掛かってくる村人とか結構いたのでな。急いでいたから騒動にならぬよう、人が集まっていそうな場所は近寄らないようにして駆け抜けたのだ。遠目で村は見たが、こんなことになっていたか……」

「……神よ、彼らの魂を救いたまえ」


 イングランドの野営地とルーアンの町の間にある村に立ち寄って、最初に行われた会話。

 ゴウベルが眉をひそめ、泣き虫が神に祈る。

 その村は俺が最初に訪れた時と同様、獣に喰い散らかされた人骨があちこちに転がり、焼け残った家々が主も無く静かに佇む。あの時と何も変わっていない。子供らが隠れている気配もない。狼などの肉食の獣の姿もない。俺たちを見て何匹もの鼠が驚いて逃げ出しただけ。この村は完全に捨てられたようだ。


「イングランドの騎行の後だ、身に覚えがないのか?」

「何年前の話だ。この地を征服せんと乗り込んだばかりの時には、人を殺し畑を焼いてまわる騎行は度々行われたと聞くが、我がイングランドの支配が進んだ今は略奪もしていない、いなかった」

「この惨状は? ここに残っていた娘が、これはイングランドの兵がやったことだと言っていたが?」

「軍の行動ではないぞ。ベッドフォード公は略奪行為を認めていない。だが……」


 言葉に詰まるゴウベルの後を引き継いで泣き虫が続ける。


「軍の一部が逃げ出して野盗に落ちたんだ……聖戦という名目で集められた兵だけど、元々食料に乏しい状況での無理な集結だった。時間が過ぎて進展もなく、情報もない……混乱して自分勝手になって逃げだして……それで食料が尽きたら……」

「軍でも野盗でもやる事は変わらん、か」


 食料を求めての略奪が行われたのか。

 軍の敵として殺すために行う略奪と、自分らが飯を食うために殺す略奪と、何が違う。殺しは殺しだ。野盗に落ちるも何もない。殺した者と殺された者がいるだけだ。


「人は飢えれば、どんなことでもするんだ……ああ、帰りたい、もうやだ。殺すのも殺されるのも。のんびりと川で釣りをしていたい」

「軟弱な泣き虫め、だから家名を名乗る事すら禁止されるんだ、お前は」

「わ、私は……」


 そんな話もしていたな。

 家柄だけは良い癖に逃げてばかりの泣き虫にベッドフォード公は家名を伏せよと言っていた。二人は遠い遠い親戚だとかで、次の任務でも逃げ出したら完全に家から放逐する、そうさせると宣言されていた。眉間に深いシワの刻まれたあの顔で。

 本来なら味方であろうと首を斬られていても仕方のないような失態続きだが、なんだかんだと見逃されている男だ。それも家柄のおかげか。

 どうにせよ家名だなんだと窮屈なことだ。泣き虫に少しだけ同情する。

 お前も骨になってみたらどうだ?

 慣れれば意外と楽なものだぞ? ちと身軽すぎて重心が定まらないが。


「休憩にしよう」


 飛ぶように軽やかに走ることの出来る俺の馬に疲れは見えていないが、他の馬がきつそうだ。オルレアンはルーアンの真南、パリよりも遠い場所。先は長い。


 馬から降りた泣き虫は、焚き火の用意をはじめる。あちらこちらの家を覗いて薪になりそうな木材を手早く集めてくる。燃え残った家の柱なんぞは焚き火用の燃料として利用する。家から木材を取るたびに胸の前で十字を切る泣き虫。

 かつて集会にでも使われていたであろう広場に石を並べて簡易なカマドを作り、麻紐をほどいて綿の様に丸めた火口を作る。懐から取り出した火打石から火花を散らせて、着火。その小さな火が消えないうちに用意していた枯れ葉を持って包み込み、手の中に、ゆっくりと息を吹きかけて枯れ葉にも火をつける。燃え始めた枯れ葉をカマドに置いて、次々に細い枝に燃え移して、徐々に火を大きくしていく。


「鮮やかなものだ……」


 馬の手入れを忘れて見入っていた。

 少し見ていただけの、わずかな時間で、燃えにくそうな大きな木材まで火が付いた焚き火を作った手際の良さ見て単純に関心する。


「私の家はイングランドの地の北の方で狩人やってた血も入ってるんです。だから子供の頃から、こうした事を教わってきたんですよ」


 泣き虫が俺のつぶやきを拾い、照れながら答える。

 まあ誰でも特技の一つは持っているものか。

 俺がやれば、もっと時間がかかるな、と思い、着火の為の道具も持っていないのに気がつく。なんてことだ、今の俺は焚き火一つ熾すことが出来ないのか。いや、道具を用意すれば出来るが。

 俺は何も出来ない役立たずではないからな、困ってもいないし、などと、誰に向けてか知らないが、ぶつぶつ口ごもりながら、水場を求めてうろつく。馬に水をやらねば。


 いくつかの集団に分かれて焚き火を囲む。この骨の躰になって感じにくくなっているが、6月になってもまだ肌寒い日が続く。

 麦がゆを作り始めた男たちを横目で見ながら黒猫を思い出す。

 奴は何も無い所から水を出したり、木材を出したり、何もせずとも火をつけていたりしたな。便利極まりない力だ。

 あの時の奴は何と言っていた? これは魔法ではなく技術だ、だったか。誰にでも出来ることを、途中経過を隠して見せているだけだ、とか。

 わからない。理解できない。仕組みも理屈も想像がつかない。

 疑い出せば切りがない。

 しかし、どうせわからないのならば一度、黒猫の言う事をすべてを信じてみようか。

 先ずはそこから始めてみようか。

 薪が弾けて火の粉を散らす。


「ゴウベル、知っているか? この世には魔法なんてものは存在しないらしいぞ?」

「ん? 何を言い出す? 骨の道化師」

「まあ聞け……”1たす1は2である”……これの”たす1”の部分を隠して”1は2である”の部分だけ見せる、これが魔法と言われるものの正体らしい」

「うむ、数学か。それとも魔法の話か? どちらせにしろ、ちんぷんかんぷんだな。いきなりどうした? 狂ったか?」

「さすがにこの程度の数式は解れ。それから狂ってなどいない。だからこの世で魔法使いだけは、魔法が使えないのだ……」


 そういう話だった。

 遥かに昔のような気がするのはどういうことだ。時間の流れがおかしい。俺の中に流れる時間の感覚が。


「それから時間というものも実は存在しないらしいぞ?」

「はあ? いよいよ本格的におかしくなったか? 時間はあるだろう、あるから時間って言葉もある」

「だよな……」


 ゴウベルは困ったように泣き虫に視線をやるが、泣き虫も首をかしげるだけ。


「いいか? 人は二つの世界を持つ、一つは実在する物体としてある世界、もう一つは頭の中に作った虚構から生まれた世界、その虚構の世界の中に天使や悪魔は棲むんだ、というか、創った、神とか悪魔とか天使とかを……そいつらは世界に存在しない……奇跡は……存在しない……神秘は、無い……」


 そこにあるのは、ただ起きた、そういう事実だけ。

 とうてい存在を許されそうにない、不徳の極みと言えるこの躰の俺を罰しに、神がやってくることは無いのだ。神の罰が下るなら、とっくに下っていてもおかしくない。

 神は、いない。

 黒猫との出会いで俺が手に入れた、この世の真実、らしきもの。

 唖然としているのはゴウベルだけではない。こいつらがまるで理解してないことを、俺は理解できる。俺もまた、本来ならばそちら側にいるべき人間なのだ。


「……世界は、一個だ。神の創りたもうた、この世界が唯一だろう」

「…………神よ」


 懐かしい視線。手に負えない子供を見るような、そんな視線。

 どうして全知全能の神は悪魔を創ったのかと聞いてまわって、困った教師たちから向けられた視線と同じ類のもの……


「魔法も奇跡もあるだろうが。俺は実際にこの目で見たぞ。俺は俺の目で見た事を信じるのだ。悪魔もいるし魔女もいる。何も無いと言うなら、今、俺たちの前にいるお前は何だというのだ。天使であろうがなかろうが、少なくとも死者が蘇って動いているのは奇跡以外の何だというか?」

「…………」


 右を見て、左を見る。

 散らばる人骨が集まって人の形をとり、好き勝手に動き回ることはない。俺だけだ、俺だけが死して尚、動いている。それを許されている。その理由を探しても見つからない。俺が選ばれたのは、何故だ。黒猫よ、貴様が俺の前に現れた理由は、何だ?

 答えを言わないまま黒猫は消えた。

 学び続け、自分で辿りつけと、そう言って消えた。

 辿り着けるのだろうか、目的地すら曖昧な、この途方もない道のりを。

 まあいい。決めたのだ。あとは行くのみ。憂いは無い。

 俺を取り巻く状況は酷いものだが、気分は悪くない。

 むしろ上々。

 子供の頃にとりあげられた勉学を取り戻す。これからの俺の学びの時間は充実したものになるだろう。


 パチパチと音が鳴る。焚き火の音が耳に心地よい。

 散らばる人骨を弔う聖職者はここにはいない。

 唐突に銀髪の僧侶に会いたくなった。

 死者を弔い、癒しを与え、魂に安らかなる眠りを与える聖女。黒猫の癒しを受け取った盲目の聖女。

 今は銀の聖女とか言われているのだったか。彼女の近くに居るだろう黒猫のことを思い、一歩踏み出せなかったが、そうだな、会いに行こう。


「……し……けし」


 そもそもだ、猫ごときに、なぜ俺が恐れ、弱気にならねばんのだ。

 黒猫に対して心苦しい思いを抱いているのは事実だが、何、ルルがいない今、黒猫なんぞはただの猫。斬りかかった俺を嫌っているのはルルの言っていた通りだろうが、は、嫌われていたのだとしても大したことにはならんだろう。恐ろしい力を持つのはルルであって猫ではない。

 ……いや、待て。どうだろう?

 もしかしてだが、再び黒猫の体を借りてルルの奴が戻ってくるかもしれん、そうなったら……どうするか……

 まぁ、その時はひとつ、素直に謝ってみるか。

 その後どうなるかは奴次第。


 うむ、よし。オルレアンの次の目的地が決まった。パリの町のプリュエルに会いに行く。黒猫を預かった時の状況も知りたい。その足でランスにも向かおう。

 俺はそろそろ知らねばならん。

 神のいない世界で、居るはずのない神の声を聞いたという、あの少女の本当の……


「……おい……骨の道化師!」

「な!?」


 すぐ目の前に、ごつい男の顔があった。

 男、ゴウベルは両手で俺の鎧の肩を掴んで揺すっている。


「道化師! 返事しろ! おい! 生きているか!? いや死んでるがっ!」


 俺の肩を乱暴に揺するゴウベルの手を乱暴に振りほどいて、周りを見る。

 兵たちの視線が集まっている。泣き虫も見ている。


「何が……起きた?」

「何が起きた、ではないわっ! 会話をしていたら突然、一切合切、何も反応しなくなって、驚いたのはこちらだ! 道化師っ!」


 会話の途中で反応しなくなった? 寝ていた? もしや俺は居眠りをしていたのか?

 こんな信用も出来ないような奴らに囲まれた中で?

 居眠りを?


「気配が、急に薄くなって……よ、鎧の置物みたいに……今は違うけど……」

「動き回る死体が、動かない死体になったかと思って肝を冷やしたぞ。いや、どちらにせよ死んでるではないか! 何なんだお前は!」


 俺の存在そのものに対して文句を言ってくるゴウベル。それと泣き虫の言葉。俺の気配が、薄くなっただと?


 もしや、俺は消えかけていたのか? 鎧だけを残して?


 かつて黒猫は言っていた。

 俺という存在は、俺が満足することで消えるのだと。

 は?

 いやいや。

 待て待て。

 待ってくれ。

 確かに目標を得て、これから充実した時間が過ごせるのかもと思い、自分の成長も実感して、満足といえる気持ちにもなっていた。

 このまま消えても構わないという気持ちは、あった……だが、少しだけだ、ほんの少しだけでしかない。

 現状、満足とは程遠い。

 何もわかっていない。何も為していない。この地の状況は混沌を極めていて放置できない。

 こんなに簡単に消えてなるものか。

 違う。これは違う。

 眠かっただけだ。

 ここ最近の眠りが浅くて、眠かった。それだけだ。その上で気が緩んでいた。だから、


「ちょっと居眠りをしていた、だけだ……」


 俺の言葉を聞いてゴウベルの馬鹿が笑い出す。


「居眠りだとぉ!? 驚かしおって! がはは! 骨の道化師! 貴様、寝ると死体と変わらんな! がははは! 骨の道化師よ、ここで何時間か眠っていくか? そこらの死体の横に仲良く寝転んで?」

「ゴウベル……こら……死者を愚弄するな……祟られるぞ? 怖くないのか? おい」


 骨の躰が消えたら、俺はどうなる? 俺の意識はどこに行く? 魂は?


 わからない。何もわからない。

 死。

 それが本当の死。

 恐ろしい……

 ああ、そうか。だから、俺は生きている、と。またも黒猫の言う通りであった。死んでいるのは見かけだけの話だった。本当の死者が死を恐れるものか。

 生きているから、死ぬのを恐れている。消えるのを恐れている。

 俺は、生きて、ここにいる。


 眠気など、とうに飛んでいた。

 満足しながら寝ると消える躰とか、どういう呪いだ? おい、黒猫よ。




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