119
発芽と育成編、始まらなかった。
いや、始まった。始まりはした。
だが俺に何かの仕事が回される事は無く、ただ黒猫の解説を聞き流しながら、目の前で生き物が蠢くようにみるみる成長していくレンズ豆を見ているだけだった。
見ているだけなら楽でいい。
作業を割り振られなくてよかった。無駄な逃走で無駄に体力を使ってしまったからな。まだ膝が震えている。
それぞれの生育過程で掛けるべき手間だの、日照だの光合成だの植物と動物の呼吸の違いだの植物と虫との共存と敵対関係だの豆類の栄養素だのと、聞く者が聞けばそれこそ黒猫の前に金貨の山でも積みたくなるような話の数々なのだろうが、あいにく俺の頭はしばらく前からいっぱいいっぱいの状態なのだ、右の耳から入って左の耳から抜けていった。
「とまあこんな感じね。あとこれを千回ほども繰り返すのだけど……」
「…………もう作業はしたくない。やらなくていいために俺は何を支払えばいい? 対価を言うがいい、黒猫」
「睨みつけるな睨みつけるな」
「もちろん、農作業以外で、だぞ?」
「涙目……これは相当ね……」
泣いてなどいない。
こんなことで泣く男ではない。
俺が必死に掘り起こした部分、作業を為すべき残りの土地と比べたら微々たる部分だが、そこには、黒猫が時間を進めて育て上げたレンズ豆が青々と生い茂っている。時間の止まった世界の灰色の中、そこだけが鮮やかに切り取られている。
「しょーがないわねぇ。今回はほんのさわりだけで良しとしましょう。自分が口にするものがどこから来ているのか、それを知るのは大事なことだからね、今後は自分でいちいち気にして勉強するように」
「…………」
……わかったと返答をすべきだろうが、黒猫の言葉には素直に頷きたくなくなるような不思議な力がある。日頃の行いだ。
農業を甘く見ていたのは事実。
豆や野菜、果ては小麦やブドウといったものまで、種まきといくらかの手間さえかけて、あとは放っておけば、地面から勝手に生えて収穫できるものだと思っていた。
持ったこともなかった農作業用のクワを握っていた手に出来た血豆が熱を持って痛みを知らせてくる。
これが剣ならば朝から夜まで振って血豆が出来ようが、それが潰れて血が流れようが気にもならなかったというのに。おかしなものだ。この違いは何処から来る? 俺の魂は剣と共にある戦士のものであってクワを持つ農民ではないということか。フッ。魂とは何ぞや。
「それと……奇跡を願い、奇跡が叶う。それの裏側もね」
「…………」
黒猫の瞳が笑っている。
いつだったろうか。
黒猫に気軽に魔法や奇跡を願って小言を言われた事があった。ああ、思い出した。それもプリュエル関連だ。目を治してやれと。簡単だろうと。何も知らず、思考もせずに言う俺に、人参を擦り降ろしながらどう教育してくれようか、なんて言っていた場面。これはあの時の続きというものだろうか。ならばもういい。十分に理解した。
そうなるからには、そうなる過程がある。それが自然の流れで出来るものではないのなら、それは誰かの手が入ったものなのだ。1は2にはならない。1に誰かが1を足して、それを知らせないことこそが魔法や奇跡といったものの真髄。
魔法や奇跡の裏側で起きている事。誰かの為した労働の成果。
黒猫が俺にしてくれた奇跡の数々の、裏側にあったもの。
「後でまとめて返してくれよう」
「何を返してくれるのか不安で仕方ない」
「俺の支払えるもので貴様にとって価値がある物が、俺には何も思い浮かばない。だから、時間だ。俺は貴様の為に俺の時間を使って働く、その時間が金貨の代わりだ。台帳でも作ってそれにつけておけ」
「対価は時間、ねぇ。いいでしょ。臓物を押し付けようとしていた昔と比べたら、ずいぶんと成長したなぁって思う」
「…………」
あったな。そういう事も。
「今はまだ俺は何も出来んが、そのうち倍にして返してやるから楽しみにして待っておけ」
「倍とか適当なことを言うわねぇ。細かい契約内容も詰めずに貸し借りの話を進めるのはおススメしないわ。そんなんじゃいつか酷い詐欺に引っかかって大損するわよ」
「…………」
プレラーティなんぞという三流詐欺師に引っかかって領地も人生も滅茶苦茶になったあの世界の俺が頭の中に蘇る。死んどけ。
「細かいことは置いておくとして、んじゃ、残りは私がやりましょうかね」
猫が猫らしい仕草で背中を伸ばす。上がった尻から伸びる長い尾が丸まる。
「黒騎士さん。一個問題を出してあげる。試験でも何でもないので気軽に答えて」
背伸びの姿勢から戻り前足を揃えた黒猫が、そう言って口の端を上げる。
なんだ? 問題?
「街道を挟んだあちら側とこちら側。大体作業量は同じね。レンズ豆畑に改造するのは同じくらいの広さ。で、問題。こちら側の作業を全て終えるのに必要とした時間が10日だったとして、あちら側の作業を終えるのに、後どれくらいの時間がかかるでしょうか? はい、答えて。いーち、にーい、さーん……」
「待て。数字を数えるな。焦るだろうが!」
「しぃーい、ごーお……」
「ちぃっ……」
問題は何だった? 変わらずに固まったままのプリュエルたちの一団の向こうに広がる畑を見る。半分終えた後の時間? 同じ作業量なら同じ時間がかかるのは当然だろう。いや、だが、この黒猫に限ってそんな普通の答えの問題を出すか?
というかこれ、何秒以内に答えねばならんのだ?
「はい時間切れ」
「っ」
考えすぎた。
問題に答えられなくても何も悪いことはないし、正解してもいいことはないだろう。だが悔しい。ただただ単純に悔しいのは何故だ。
「正解は、もう10日かかる……」
「普通ではないか!」
「じゃなくて」
「じゃない!?」
「こちら側を終えた次の日にはもう終わる」
「は?」
出された問題を理解するのにも手間取ったが、答えもまたすぐに理解出来なかった。
「ふふ、遊び心で視覚にもわかるようにしてあげる」
そう言って黒猫は金の瞳を輝かせる。
「倍という言葉の持つ力の恐怖、教えてあげる」
灰色の世界の中、黒猫が歩いて移動する。
俺が耕して黒猫が育てたレンズ豆畑を通り過ぎ、その横に。
「1が2に」
「なっ!?」
猫が二匹に増えた。
少し間隔を空けて雑草の生えた畑に立つ黒猫が、こちらを見て笑う。
「これを繰り返していくと」
「どうなると思う?」
二匹の黒猫が、まったく同じ声色、同じ仕草で俺に問いかける。
「倍にする。この単純な計算を」
「覚えておいて」
声もなく立ちすくむ俺が問いに答える間もなく、黒猫たちは言葉を続ける。
「2が4に。4が8に。8が16に。16が32に……」
「お!? おおっ!?」
一定の旋律で歌い上げるよう紡ぐ黒猫の言葉に沿って、世界は変容する。黒猫とまったく同じ黒猫が増えていく。倍に。倍に。
「「「「「……256が、512に。これで半分。こちら側の半分!」」」」」
口を開けて呆けるだけの俺を、誰が責めよう。
「「「「「そして、残りの半分も埋めるには? この計算を後何回?」」」」」
大地そのものが震えるように、黒猫どもが一斉に声を上げる。
「あ……あ……」
「「「「「ブー! 時間切れ!」」」」」
「「「「「正解は、たったの一回! これで最後、1024!」」」」」
見渡す限りの視界いっぱい。
街道のこちら側と、あちら側。一定の間隔を空けて黒猫が存在している。数は、黒猫の言葉のとおりならば、千を超える。
夥しい数の黒猫が、俺を見て笑う。
「全部私」
その内の一匹。最初にいた黒猫が、すべての猫の代表なのか、一匹だけで俺に語りかける。その顔は、何故か自慢げ。対応できない。
「作業、開始」
「「「「「おー」」」」」
直後、夥しい数の黒猫が浮き上がり、その下の地面がめくれ返る。
俺が血豆を作ってまで為した作業を一瞬で終えた黒猫たちは、先ほどと同じように地面の時間を進める。見る間に広がる緑の絨毯。
視界いっぱいの、レンズ豆畑。
「実はね、作業ってさ、まとめる事が出来たりする作業もね、あったりするのよ。何度も繰り返す同じ作業は、こうやってまとめると楽が出来ていい。環境さえ整っているのなら再現は簡単。最初の黒騎士さんの作業は、無駄にはなっていないわよ。コピー元としてね。あれ? どうしたの? 固まってるわよ、黒騎士さん」
俺に話しかける黒猫を横目で見つつ、畑の上に浮かぶ、夥しい数の黒猫たちから目が離せない。よくよく見ると、全部が全部、少しずつ違う動きをしている。ただ、全部こちらを見ている。別個体。群れ。だが同じ。
「増え方というのにも色々ある。中でも倍という計算方法には注意しないといけない。倍々に増えていくものには注意が必要。病原菌なんかは、倍どころじゃなく増えていく可能性があって怖い。そして、人も。ふふ、環境さえ整えば、やがて人は地上を埋め尽くすほどにも増えていくわよ。恐い怖い。と、まあ、倍々に増えていくものの恐怖にまつわるお話でした。おそまつさま」
締め括りとばかりに、黒猫が言い放つ。
そうして一斉に消える千を超える黒猫。消えた後すら残らない。残ったのは、恐らく最初からいたであろう黒猫の一匹と、視界いっぱいに広がるレンズ豆畑。為された成果。黒猫がプリュエルにした約束。
「怖かった?」
「……怖くなどない……あまりにおぞましく、奇怪で不気味な風景に動けなかっただけで……」
ただの強がりだ。
本当は息も忘れるくらいに恐怖していた。
恐怖。
ただ恐怖。
振るわれる力として恐ろしいという意味でもあるが、同時に思う。
「俺の……」
あの一匹一匹が黒猫と同じ力を持つのだとしたら、もはやどんな不可能事でも為せるだろう。どんな手間のかかる労働であれ、たいして時間などかからない。倍々に増えていく。倍にしただけ。それこそ、ほんの少し時間をかければ、世界中の陸地を黒猫で埋める事すら、こいつにとっては容易いことなのではないか。そこに俺の出番など、どこにあるというのか。そんなことの出来る存在に対して、俺の助力など、どこに入り込む隙間があるというのか。俺の提供する時間に、どれほどの価値があるというのか。
「価値……など…………」
言葉も継げない俺に向けて、一匹だけになった黒猫が微笑む。
「私は私のコピーはいらない。必要なら必要なだけ増やせるから」
繰り返される言葉。
「私の意見を全肯定する存在もいらない。私と同じ方を向き、私と同じものを見る存在はいらない。私の指示だけに従う存在もいらない。それらは私の劣化コピーでしかないから。あるものはいらない。私が求めるのは、私の中に無いもの。意外性。だから、ね……」
呆然として復帰も出来ない俺に、言葉が重なる。
「黒騎士さん。君が私を驚かせるような成長をしてくれたのなら、それが対価よ」
「成長が……対価……」
成長することだけが対価など。
そんな。
見返りを求めず無条件で子を愛す親のような、ことを。
俺の意思を離れて、俺の目頭が熱くなる。
俺を愛してくれた父親の顔が脳裏に浮かぶ。その横には、母親の顔も。
――大きくなれよ
――元気に育って
幼い俺たち兄弟を残して、早くに逝ってしまった両親が、笑顔で、今の俺に語りかけてくるように……
「……そうか」
不覚にも、心が熱い。
俺は黒猫の言葉に、心を揺らされたようだ。
想像の中の両親を振り切り、空を見上げる。
平べったい雨粒が浮かぶ、灰色の空。見ていても楽しくなどない。だが。今は。目の端に浮かぶ涙を、誰にも見られたくない。
まったくこの体ときたら、涙脆いといったらない。俺は違う。俺はこんなのではない。こんなのは、俺ではない。嫌いだ。女の体は、嫌いだ。
「さてとー」
何でもない様な明るい声色で。つまりいつもの声色で。黒猫は周囲に生い茂るレンズ豆畑を見渡す。
俺の腰まである視界いっぱいの緑の絨毯を見て。
「仕上げと行きますかー」
緑色の絨毯が、一斉に成熟し、茶色くなっていく。収穫に適した頃合いへと。時間を進めた。造作もなく。簡単に。軽々と。その裏で行われる黒猫の作業を、俺は知らない。
「完、了」
黒猫と俺の居る場所だけが少しの空き地になったまま。
「さ、戻りましょ、って、これじゃ足場も無いわねぇ」
振り返った黒猫と目が合う。
どうにも対応に困る。
悪魔ではなく、天使でもない。無邪気に遊んで俺を馬鹿にし、ふと、俺の心を揺らすようなことも言う。この黒猫の底が知れない。
「黒騎士さんや、肩を借りるわよっと」
「おい……」
軽々と俺の肩に飛び乗ってくる黒猫。一匹だけ。一匹だけであることが、ありがたい。……まだ頭が混乱している。
「冷たいではないか。あと汚れる」
泥で汚れた猫の足が肩に乗っかり、感触を伝えてくる。
「最初から泥だらけでしょ。背中なんて一面茶色よ、茶色」
雨に濡れた雑草生い茂る地面に寝そべって騒いだからな。まぁ今更か。
そうしてプリュエルたちがいる方へ。
レンズ豆畑を掻き分けて戻っていく。
「……黒猫よ」
「なあに、黒騎士さん」
歩く最中、レンズ豆をひと房ちぎり取って中を見てみる。俺の知るレンズ豆よりも、いくらか大きいことに今更ながら気がつく。
「そら豆とは言わんが、この豆、大きくないか?」
「まぁね、ちょっとした品種改良? ま、他愛のないことよ」
「……黒猫よ」
「ん?」
気になった。聞くべきでないかも知れない。
が、聞く。
「この豆そのものを倍々に増やしていけば、こんな手間なんぞかける必要はなかったんじゃないか?」
「ふっ……黒騎士さんたら、そこに気がつくとは……成長したね」
肩に乗る黒猫から否定の言葉が出てこない。
何でも倍々に増やせるのなら、畑である意味はない。
俺の労働にはどれほどの意味があったのか。
「レンズ豆にはレンズ豆で返す。まぁいいだろう。だが、ならば、何故、畑で返すなんぞという手間のかかる事を言った? 収穫の手間もあるだろうに」
「あ、言う? それ言っちゃう?」
楽し気な口調のまま黒猫は言う。
「それはねぇ、黒騎士さんが土にまみれて苦しむ様を見たかったから……」
「なんだとっ!?」
「ではなく」
「ではない!? 本当か?」
本当か? 冗談と本気の区別がつかない。
「物語的であることを重視したのよ」
「物語的」
「そう、物語的。人が物事を納得するには、それらしい物語が必要なのよ。たとえば、ただの自然現象である落雷にも理由があると考える。考えてしまう。考える以外に無い。その仕組みがわかることならいい。わからないのは困る。気分が悪い。だったら一から創りましょう。そんなことをする神がいるという物語を」
プリュエルたちは、もうすぐそこだ。
「神がいるという物語……」
それもまた、かつて聞かされた話だ。神が人を創ったのではない。人が神というものを創ったのだと。
「食料で困った、はい食料どうぞー、ではね、受け取った方が困るのよ。不思議で気味が悪く納得出来ない。素直に受け取れない。その隙間に良くない考えも入り込む。入り込む良くない考えは、それこそ人の想像力の及ぶありとあらゆる、よ。人の想像の可能性を馬鹿にしちゃいけない。すごいのよ、人は。だからね、そんな隙間が出来ないように、あらかじめ最初から言い訳を用意してあげる必要がある」
プリュエルたちがいる場所に辿り着く。もともとたいして距離は離れていなかった。
立ち止まる俺。それでも肩の上の黒猫の話は続く。
「弔いの為、一人でパリの町を彷徨った盲目の聖女が出会った天の使い。それと知らず提供した食料。レンズ豆。その後、食料に困った聖女のもとに現れた天使が救済の手を差し伸べる。その、景色を写さない瞳にもわかる、視界いっぱいの豆畑という奇跡を残して。いいじゃない? 物語としてありだし、素敵でしょ? 納得できるし、きっと多くの人は感動もする。素直に感謝出来るし、素直に受け取れる」
灰色の世界。灰色の女が跪いている。
その灰色の瞳は何も景色を写さない。
そういえば、そうだった。プリュエルは目が見えないのだ。
視界いっぱいといわれても、困惑しただけだろう。
しかし、残る。
見える者にとっての視界いっぱいの畑はここに実在し、盲目の僧侶はそれを確かめることが出来る。成果として。事実として。
「畑である意味も、視界いっぱいである意味も、特にはないのよ、こちら側にはね」
意味を持つのは、あちら側。プリュエルたちの側。
受け取る者たちの都合。
「そもそも、完成された食べ物をポンと渡して、はい救済、なんて、色気が無いじゃない」
「色気とかわけのわからんことを」
「つまらないし」
だが。そうか。
意味の無いように見えることも、他の誰かからしたら意味のあるものである場合も、あるということ。
つまる、つまらない、は、まぁ黒猫の事情として。
「先ほどの俺の労働にあった意味とは……む……黒猫よ」
今度こそ聞くべきではない質問。
だが聞く。
「俺が耕す畑が半分だったらどうなった? そこで俺が力尽きたら?」
「え? 別に? 特にどうということもなく、流れは一緒だったでしょ」
「さらに半分では? さらにさらに半分では?」
「変化はないわねぇ、倍にする計算が一回ずつ増えるだけ」
「俺は倒れるまで働かなくとも、ほんの少しだけ耕せば良かったのでは……」
「それは、ほら、土にまみれて苦しむ黒騎士さんを見たかったからよ」
「そうか……そうか……」
冗談だろうか。
否。
今度のは本気だ。それなりに黒猫との付き合いが長くなった俺にはわかる。わかりやすいくらいだ。
…………
すぅ。はぁ。
「ええい! 納得出来ん! 意味など無かったではないか! やはり意味など無かったではないか!」
「ちょおい!?」
肩の上の黒猫を掴もうとして腕を伸ばす、が、奴め、俺の右肩、左肩、果ては頭の上まで飛び回って回避する。おのれ、人の上でもすばしこい。
いよいよもって体力が尽きかける。今日も泥の様に眠れそうだ。あ、いや、ずいぶんと長くこの灰色の世界にいたものだが、今日という日は、まだ始まったばかりでなかったか? ラ・イルに会って、プリュエルたちに合流し、これからランスの町にシャルル王に会いに行く予定。
嘘だろ? もう疲れ果てているぞ……
俺の上から飛び降りた黒猫がこちらを見て笑う。余裕の笑み。むかつく。
「まー、まー、もういいでしょ。最後の最後の仕上げが残っているし」
「最後の最後の仕上げだと? まだ何か作業があるのか?」
「そう、作業てか……演出ね。この後の演出どうする?」
「演出だと?」
舞台の演出を決めるような気軽さで。
「あの人たちから見て、レンズ豆がゆっくりとニョキニョキと生えてきたようにすることも出来るし、ぱっと変わってるとかも出来る。ああ、そうね、ついでにプリュエルさんの目を治すことも可能よ。物語的にそういう展開もありでしょ。奇跡の大盤振る舞い。ふふ。さ、どうする? 黒騎士さんが決めていいよ」
そう言った。




