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第四十五話 トラップ・ラット

『ミドー、入ったよ。そっちの様子はどう?』


「奴らはまだコントロールルームの異常にすら気付いてないらしい、これなら思ったより時間が稼げそうだ」


 侵入したという武人施設側のカメラやセンサーを確認するがサチ達の姿を捉えた気配は無い、手早く操作してサチ達がカメラ類に感知されても警報などが鳴らないように設定し終えると、周囲に瞬間記憶を応用した立体映像を展開して再び天井のダクトへと潜り込む……数分前のコントロールルーム内の映像を映しているだけなので当然会話などは出来ないが話しかけたりせず、遠目に見ているだけならバレない筈だ。


『ミドーがそっちにいるお陰かこっちには警備兵もドローンも殆ど外にしかいないよ……っ……』


「……サチ? どうした?」


『ん……何でもない、子供達が並べられて顔に何かの機械を着けてる部屋に出たから少しビックリしただけ』


『あれが教育装置っすよ、あれで戦い方を学ぶっす……ディアがいないせいか、アタシが知ってる時よりも機械的な感じがするっすけど……』


「……止まるなよ、次に通信を繋ぐのはどちらかの接敵時か目標完了時だ」


『分かった……気を付けてね、ミドー』


『終わったらまた皆でご飯食べるんすからね! 約束っすよ!』


 通信を切り、狭いダクトの中で仰向けに倒れると窮屈なマスクを外し……肺に溜まった空気を吐き出す、冷たいダクトに触れた生暖かい吐息はほんの一瞬だけダクトを白く彩り……次の瞬間には元の無機質な銀色へと戻った。

 ──今回の作戦、俺達は二手に分かれてそれぞれの目標を達成する必要がある。

 サチ達は監視の目が復活する前に最上階へ駆け上がり、そこにいるであろうカシム博士と直接戦闘を行う……もちろんこれも時間稼ぎだ、カシム博士のゴーストが憑依した武人を倒したところで次の武人へと憑依するだけ……倒せないのだから。

 二人がカシム博士を足止めしてくれている間に俺は施設内にあるゴミ処理塔へと向かう、名目は研究などで出た廃棄物の処理場……なのだがミコトが用意した協力者からの情報によるとカシム博士はそこへ定期的に一人で足を運んでいるらしい、今の姿になっても研究熱心……の筈は無い、捨てたくとも捨てられず気になってしまうものがそこにあるに違いない。

 著しく思考の制限された今でも本能的に気にかけてしまうものなど決まっている……カシム博士の元の肉体がそこにあるのだ。


「……よし」


 サチ達を心配する気持ちを無理やり隅へと追いやり、再びマスクで顔を覆うとダクト内を移動し始める……俺とサチのマスクの模様を合わせて初めて丸となる、ならば俺達が揃っている限りどんな任務だろうが失敗は無い!




「……あれか」


 ダクトから降りたった無人の会議室の窓から外を眺めて目標を確認する……外観は以前侵入した浄水塔にそっくりだ、バカでかい長方形の建物から長い塔が伸びており先端は灯台のように光量の多いライトが周囲を照らしている……カシム博士の肉体があるとすれば、あの塔部分だろうか?


「……!」


 まだ遠いが外の廊下から話し声が聞こえた……あの処理場までのルートを確認したかったが、考える暇も無さそうだ。

 窓を開け、吹き込んできた風に一瞬怯むがそのまま僅かな隙間に体を捻じ込むと外へと飛び出す……足場も無く、宙に放り出された全身で感じる風は心地良いが浸っている暇も無いのが残念でならない。

 ステルスコートに内蔵されたロボットアームで壁面に掴まり、勢いを殺しながら降りていき……地面に降り立つが周囲には警備兵どころかドローンの存在も確認出来ない、カシム博士本人が処理塔周辺に近付かないよう命令を出しているのは本当らしい。


「う……凄いな、これは」


 処理塔内に一歩足を踏み入れると少し離れた場所でゴミを燃やす為の炎が燃え盛っているのであろうゴウゴウという音が響いていた、それは良いのだが周囲には割れた試験管や何かの資料などが山のように積み上がっており中には何かの薬剤が僅かに残っているものまである……科学的知識など無いが、こんなものをただ燃やしていいものなのだろうか? 何にしてもマスクを着けていて良かった、こんな場所に居ては一瞬で鼻がバカになる気しかしない。

 ゴミの山を分け入って奥へと進むが一向に塔へと続く扉が見つからず、代わりに周囲の温度がどんどんと上がっていくのを感じる……焼却用の炎がある場所へと近付いているようだ。


「くそ……方向的には合っている筈なんだが……」


 やがて金属製の階段を見つけ、上がっていくと焼却炉の上を覆うように広がる頑丈そうな金属製の網で出来た広い通路へと出た、焼却炉に面した部分には高い柵が設置されてはいるが物凄い熱を感じる……何故この網は溶けないのか、何故熱されていないのかなど疑問は尽きないが今はそんな事よりも重要な目的がある。

 照明の類が点いておらず、下からは煌々と光を放つ焼却炉の炎のせいで辺りが見づらく首をぐるりと回しても扉が見つからない……心の底で少しずつ焦燥感が顔を覗き始めた頃、一本の通信が入った。


『ミドー! 目標と接触、目標は……ミコト!……うっ』


「サチ! どうしたサチ! おい!」


 何度も叫び、呼びかけるが返事は無くただただ小さなノイズが響き続ける……カシム博士の憑依した武人と接触したようだが奇襲を受けたか、或いは……。


「……くそっ!」


 燃え盛る炎の声に俺の叫びが飲み込まれる、もう一刻の猶予も無い……早く塔へ辿り着かねば、最悪塔の壁面をよじ登ってでも……その時、背後で小さな金属音が鳴った。


「こっちを向きなさいミドー、ゆっくりね」


 記憶にある声だった、ほんの一月かそこら前までは嫌いではない声だったが……今となっては俺の焦燥感を掻き立てる耳障りな雑音にしか聞こえない。


「……生きてたのか、悪運の強いやつだな」


 鵺の武人に刺された腕には急いで治療したのだろう血の染みた包帯が痛々しく巻かれていた、俺にスタンシューターを向けてはいるが息も荒い……腕も震えているようだし、あれではろくに当たらないだろう。

 恐らく俺がカメラやセンサーを切ったタイミングで入ってきたのだろう、カシム博士程では無いにしろこいつの執念も相当なものらしい。


「悪いが急いでいるんだ、お前に構っている暇は無い」


「……私にそんな口の利き方をしてもいいの? これが欲しくないのかしら?」


 スタンシューターを怪我をしている腕に持ち替えて懐から取り出したのはサチの記憶が入った抽出機だった、極論を言えばあれはもはや無用……むしろ破壊されても構わないとすら思うが、奴の手にある以上放置は出来ない。


「ふぅー……望みは何だ、聞くだけ聞いてやる」


「そんなの決まってるでしょう?……わざわざアナタ達がここに来たって事はカシム博士の首をとる算段がついたって事よね? 私も手を貸してあげる、ただしその代わり……全部終わった後でこの会社を私に渡しなさい」


「……何?」


 ククルの言っている事が分からず反射的に首を傾げてしまう、この女の目的はこの会社を奪う事だったのか?


「分からない? 今やカシム博士の存在を誰もが認識はしていても表舞台に出てこない彼はもはや記号なのよ、つまりアナタ達が本人をどうにかしてくれた後でその記憶を受け継げば私が次のカシム博士になれるの! そうすれば全てを手に入れたも同然、武人も含めて全てをね!」


「……気でも狂ったのか、最初に子供達を解放すると言っていた頃のお前はどこに行った?」


「そんなもったいない事するわけ無いじゃない! いい? この世はお金だけでも、力だけでも駄目なのよ……全部よ! 全部を手に入れて初めて成功と言えるの!……まぁアナタには世話になったし、上層への移住の手続きとか何なら私が雇ってあげても……」


「……もういい、黙れ」


 失望、今の気持ちを表すのにこれ以上相応しい言葉があるだろうか? 懐からブレードの柄を取り出し横に構えると先端から二本の刃が飛び出した、それを見たククルの表情に緊張が走る。

 俺達は慈善事業では無いしましてや正義の味方でもない、だがそれでも人としての最後の一線……超えてはいけないラインというものがある。

 その一線をカシム博士は超え……続いて目の前の愚者も超えると宣言した、或いはむしろ良かったのかもしれない……ウジウジと慈悲をかける気持ちは消え、ここで奴を殺す覚悟が決まったのだから。


「っ……交渉決裂ってわけ?」


「ああ、お前はここで終わりだ……以前に言った通り、もう俺達の道が交わる事は無かったな」


 相手は手負い、武器もスタンシューターのみだ。

 感情を消し、ジリジリとにじり寄ると数歩後ろに下がったククルがこれ見よがしに抽出機を掲げてみせた。


「いや……ダメ、ここで終わる訳にはいかない……私はぁ! こんな場所で終わる訳にはいかないのよ!」


「何をっ……バカが、やめろ!」


 悲痛に叫び、追い詰められたククルは俺の制止を無視して自らのメモリーキーに抽出機を突き立て、サチの記憶を流し込んだ。

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