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第四十二話 マザーズ・メッセージ

「……落ち着いた?」


「はい……ごめんなさいっす、でも……アタシ、もうどうしたらいいのか……」


 ディアが消えた、その一言を最後に酷く動揺した様子のミコトだったがサチが宥め続け……ようやく落ち着いた、本来であればもう少し時間を割いてやりたいが……今の俺達にはあまり猶予は無い。

 温かい飲み物の入ったカップを両手に持ち、薄い毛布を羽織って椅子に座るミコトの前に膝立ちでしゃがみ……その俯いた顔に視線を合わせる。


「それで……何があった、ディアと連絡が取れないのか?」


「っ……」


 俺の言葉にミコトの唇がきゅっと結ばれる、言葉がストレートすぎたかと不安になりサチの方をチラリとみるがミコトの背中を優しく擦りながらも、その目は俺に続けるように訴えていた。


「あそこにある機械……あれが通信機で間違いないんだよな?」


「はい……あれで先に連絡を入れておくとディアのタイミングで返事が返ってくるんす、でも……」


「……あの機械、俺が触ってもいいか?」


「それは……構わないっすけど」


 ミコトが頷くのを確認してから部屋の隅に移動し大型の機械と向き合う、通信機をいくつも繋げたかのようなつくりになっており恐らく通信そのものを暗号化させているのだろう……粗雑だが、それ故に理屈を無視した複雑化がされており下手に精巧なものよりも足がつきにくいかもしれない。

 とはいえこっちの分野に関しては専門であろうディアが何故こんな玩具のような通信機を作ったのか疑問だったが……恐らくこれはミコトの使用を想定して作られたものなのだろう、そう思えば各種ボタンやモニターの表示が直感的で分かりやすいように思える。


「なるほどな……」


 通信機に登録されていた連絡先……ディアのものと思われる『D』と表記されたアカウントへの通信状態はロスト、つまりは消失を意味していた。

 ……少しこれまでの情報を整理しよう、サチの武人としての記憶の回収に成功した俺達は帰還中にククルの一団と遭遇……記憶の入った抽出機を奪われた、更にはその場に現れた閻魔の武人に変身させられていた(ぬえ)の武人と戦闘し……勝利、更に鵺の武人を操っていたであろう人物の言動を照らし合わせると……。


「……ふぅー……」


 ゆっくりと息を吐き出す……あの時鵺の武人を操っていたのはカシム博士本人、そしてミコトと共闘している俺達を見てディアの裏切りを疑い……手を下した。

 そう考えるのが最もしっくりくるのだが……ミコト本人には伝える訳にはいかない、少なくとも彼女がいなければ鵺の武人に更なる苦戦を強いられていた可能性は否定できず、そもそもどちらに転んだとしても彼女を責めるのはお門違いというものだ……しかしミコトは自分を責めるだろう、まだ付き合いは短いが確信をもってそう思える。


「ミドー、どう?」


「……悪いがもう少しミコトを慰めてやってくれ、何か掴んでみせる」


「……分かった、任せて」


 近くにやってきたサチと小声でやり取りを行い、ミコトの元に戻るのを確認すると気合を入れ直して通信機の内部に広がるデータの海へと深く潜っていく……ここで何も出来ずに何がハッカーか、それに俺はやられっぱなしを受け入れられるほどお上品でもない。

 それに希望が無い訳でも無い、ディアはアカシック・コーポレーションの根幹……武人を始めとした深い部分を管理していたAIだ、そんな存在を果たしてカシム博士はあっさりと手放すだろうか?……もちろん答えはノー、社会への進出は失敗したがそれでも消去はしなかった彼の事だ……AIへの再教育や権限の一時的な剥奪は考えられるが、完全に消去なんていう短絡的な方法はとらないだろう。


「どこだ……どこにいるディア、お前の娘が泣いてるんだぞ……」


 次々とモニターに表示される無機質な海水をかき分けては深く深く潜っていきながらディアの痕跡を探す……自分が関わった子供達を全て記録し、ミコトにはミコト用の機械を与えるようなやつだ……今のような事態に備えて何か残していると考えるのが自然だろう、何も見逃すまいと目を閉じる事も忘れてモニターを見つめ続け……。


「……ミコト、お前の好きなバーガーだが……あれ、なんて名前だった?」


「……はい? ば、バーガーですか? 何で今そんな事を……」


「いいから、教えてくれ」


「……え、と……ラグドゥジャムバーガー……っす」


 そうだ、確かそんな名前だった。

 キーボードにその名前を入力し、確定キーを押す……すると、モニターいっぱいにいつか見た立体映像の人型が映し出された。


『さすがですねミドーさん、貴方ならこれを見つけられると信じていましたよ』


「ディア!?」


 俺が振り向く前に声に反応したミコトが立ち上がり、モニターの前に飛んできた……遅れてサチもやって来て俺の隣に並ぶ。


「通信が回復したの?」


「いや……これは記録映像だ、俺の事を呼んでるって事はつい最近緊急時用に残したんだろうな」


『これを見ているという事は私の企みがカシム博士に漏れたのでしょう、恐らく現在私はキューブ化されあらゆるネットから隔離されている筈です……ですがそれも想定内、それよりもミコトは無事ですか? 声を聞いて確認出来ないのが心苦しいですね、所詮データに過ぎない私がこんな事を言うのもおかしな話ですが』


「ディアぁ……」


 モニターに映るディアの顔をミコトの指がなぞるように触れた、顔は既に涙でぐしゃぐしゃだ。


『……話が逸れましたね、本題に入りましょう。皆さんに新たに手にした情報を伝えます、まず……カシム博士の肉体は既に死に瀕しており半ばゴーストと化しています、今後貴方がたの前に現れたとしても……それは彼の元の肉体ではありません』


「……やっぱりか」


 俺達の前に現れた鵺の武人、あれに入っていたのはやはりカシム博士本人で間違いないようだ……そして自我のゴースト化。本来肉体の死と共に個人の精神も膨大な時の流れに飲み込まれるが、俺達は記憶の抽出を繰り返す事で自然な時の流れというやつに延々と逆らってきた……その結果、今の人類は自然よりも機械的な、データの流れの方が近い存在となっている……当然だ、それぞれの脳にある自我と記憶よりもメモリーキーを通してネットに放流している自我と記憶の方が遥かに容量が多いのだから。

 故に肉体が死亡してもネットに残った自我に意識が移り、目覚めてしまう現象が稀にだが起きるようになった……これがゴースト化だ、とはいえ殆どの人間は生前の記憶をチグハグに持ったまま暴れ回るチンケなポルターガイストになるのが精一杯であり、カシム博士のように他人の体を乗っ取るなんて話は聞いた事が無い……武人の洗脳の際に専用のネットワークを作り上げ、今はそこに身を潜めているのだろうが、それにしたって信じられない程に強い生への執念だ。


『現在のカシム博士は洗脳状態の武人の体を渡り歩いて生を繋ぐ哀れな亡霊……どうか改めてお願いですミドーさん、自らが生きる為に武人を量産する彼を……父を、どうか止めてください』


「あっ……」


 その言葉を最後に消えてしまったモニターに向けてミコトが小さく声を凝らす……何も何も映さなくなったモニターに触れていた手をゆっくりと下ろし、不安そうな顔で俺の方へと振り返る。


「……おにーさん」


 分かっている、そんなか細い声で言わなくても全部分かってる。

 ここにいる全員同じ気持ちだ、自分が生き続ける為だけに子供達を利用しているカシム博士を許す訳にはいかない……だがどうしろと言うんだ、俺は元ハッカーの記憶泥棒……幽霊退治など専門外だ。

 心の中の理論的な俺は既に逃げ出している、物理的な干渉を受けない相手になど勝てる筈が無いと分かっているからだ……しかしそれでも現実の俺の足は動かない、逃げ出さない。

 縋るような視線を向けるミコトから逃げ出したら俺は一生惨めな野良犬のままだ、目を閉じて俺の答えを待っているサチに幻滅されたら犬としてのプライドすら俺には残らない……となれば話は簡単だ。

 ──さぁミドー、考えろ。ゴーストと化した博士に立ち向かう事と二人の少女からの失望であればどちらが怖い? 思わず鼻で笑ってしまう……そんなこと、考えるまでもない。

 思い切り自らの両頬を叩き、ヒリヒリと疼く痛みを感じながら二人の少女の顔を順番に見つめる。


「……作戦を考えるぞ。カシム博士を止めて……ついでにディアを助ける方法をな」

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