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第三十五話 デッドマンズ・パーティ

「ねぇミコト、さっきのマップだけど……もう一度見せてくれる?」


「マップっすか? いいっすよ、何か気になるところでもありました?」


 資料室へ向かう道中、埃臭く長い廊下の中ほどでふと足を止めて不意に提案した私のお願いに快く頷いたミコトは自らのメモリーキーを操作し先ほど見たこの工場施設のマップを立体映像として表示した。


「うん、これから行くところが資料室なのは分かってるんだけど……ミドーはどこに向かったのかなって思ってさ」


「ははぁなるほど、えー……っとおにーさんが向かったのはここなので……『検品室』って書いてありますねぇ」


「検品……そもそもここって何を作る工場なの?」


「元々は食肉加工がメインだったみたいっすよ? ほら、これ見た事ありません?」


 そう言ってミコトがマップの隣にもう一つ表示した画像には私やミドーがよく口にする合成肉のパッケージが写っていた、こんな状況ではなくただのお出かけとしてここへミドーと見学に来たのならさぞや盛り上がったのだろうと思うと残念でならない。


「確かによく見かけるけど……へぇ、こんなところで作られてたんだ」


「他にも色々なところで作られてるらしいっすけどね、ただ面白いのが……ここって、食肉加工の他にもプラスティネーション技術に手を出してたみたいなんすよ」


「プラス……なに?」


 ミドーの居場所さえ分かればその後はもうただの雑談だ、マップを見る必要も無いと歩き出した私の隣を歩きながら嬉しそうに語るミコトの口から聞き慣れない単語が飛び出し再び足が止まる、興味をもってもらったのが余程嬉しいのかミコトの口元に更に笑みが広がった。


「簡単に言えば動物の臓器なんかの水分とかを樹脂なんかに置き換えてリアルな標本を作る技術っす、そんなものを何に使うのかは知らないっすけど……肉体への理解に関してはここは随一なのかもしれないっすね、だからここが選ばれたのかなー……なんて思ったっす」


「……ふぅん」


 つまりは一種の肉体保存技術という事か、如何に人同士の繋がりが薄くなった世界とはいえ例外というものは必ず存在する……中にはこんな世界になった事でより仲の深まった者達もいるのだろう、もしくは一方的に相手を欲しがるという事も考えられる。

 ここはそういったニーズにも応えていたのだろう……確かにそんな相手を燃やして遺灰にしたり骨髄のジェルを小さいタンクに詰めるだけなんてのは味気ない、いつまでも一緒に居られるならそっちの方が良いに決まっている。


「……興味あるんすか?」


「っ……! べ、別に?」


 ニマニマとした笑顔で私を覗き込むミコトに思わず体が仰け反る、思わず否定してしまったが興味が無い訳では無い……しかし仮に利用するにしてもそれは百年以上は先の話だ、決して今では無い。




「うわっ……って、いないと思ったらこんな所に転がってたんすか」


 資料室に近付くにつれて照明の数が減り、通路内はライトを使用しなければ視界が確保できない程に暗くなってきた。

 壁や柱にも争ったような形跡があるものが増え、警戒しながら進んでいると不意にミコトが大きな声を上げた……何事かと彼女の足元を照らすとそこにはガム・ワームの一員と思われる男の死体が転がっていた、腹部に大穴が開いており恐らく即死だろう。

 ぐるりとライトで周囲を照らすと他にも死体がいくつも転がっていた、死因となったであろう傷は様々だが皆一様に苦悶の表情を浮かべている。


「……これも謎の侵入者の仕業っすかね?」


「さぁね、でも……こいつらの傷はともかく、壁とか柱にまでブレードの傷があるのはおかしくない?」


「確かにそうっすね……何かで錯乱したか、もしくは……見えない敵とか?」


 まさか、と鼻で笑い飛ばそうとしたが今私が着ているのはカメラやセンサーなどに探知されないステルスコートだしミコトの甲冑には光学迷彩が施されマスク越しでないとその姿を視認出来ない、もし同じ装備が敵も持っているとしたら……面倒どころの騒ぎではない、それこそ最悪の展開だ。


「……行こう、何が起きるにしてもそれは絶対私達にとって良い事では無いだろうし」


「了解っす」


 私が懐からブレードの柄を取り出したのを見てミコトが警戒を強めた。

 いつ戦闘になっても対応出来るようにしておきたいがミコトの得物はあの長い刀だ、今いる通路の幅はそれなりにあるとはいえ刀を振り回す事を想定するとここでは思うように戦えないだろう……となればここでぼうっと佇んでいる訳にもいかない、もちろん戦闘にならないのであればそれが一番だが……。




「……? ミコト、止まって」


 目的の資料室まであと数百メートルというところで奥から聞こえる小さな音に気が付いた、ミコトに指示し足を止めると意識を集中し何も聞き逃すまいと耳をそばだてる……何かを引き摺る音? いやこれは声だ、それもすすり泣くような泣き声……しばらく待ってみても何か変化が起きる気配は無い、ミコトに静かに付いて来るように指示し資料室の入り口へとゆっくりと歩を進める。


『聞こえる?』


 資料室の入り口の両脇に並びハンドサインでミコトに問い掛ける、少し目を閉じたミコトにも声が聞こえたか目を見開き小さく頷く。

 扉に窓などは無く中の様子は探れない、しかしここまでの道中にもガム・ワームの奴らの死体が転がっていた事を考えると中も同じ惨状である事は容易に想像がつく。


『この扉以外に入るルートは?』


『マップを見る限りはここ以外には無いです、アタシが先導を──』


 不意にサインを出すミコトの手が止まった、何かに気付いたのか扉にグッと頭を近付けて微かに聞こえる声に集中している。


『……アタシが先導します、お姉ちゃんは少し後から来てください』


『……分かった』


 小さく頷いて返すと資料室の扉を僅かに開き、ミコトが体を滑り込ませるように中へと入っていった……彼女が何に気付いたのかは分からないが、何か考えがあるのだろう。

 ミコトが中に入ってから十秒ほど間を空けてからライトを消し資料室へと侵入する……相変わらず暗い、が点々と小さな照明が点いており何も見えないという程では無い……それにかなり広くまるで小さな図書館のような規模で二階まである、本当に全てここの資料なのだろうか?


「久しぶりっすねぇ……アタシが誰か、分かります?」


 ミコトの声にハッとし資料の棚に隠れながら様子を窺うと資料室の奥、長テーブルの上に座り込む絡新婦の武人の近くに立ったミコトが話しかけていた……先程までの鳴き声は絡新婦(じょろうぐも)の武人のものだったようだがあまりにも無警戒すぎる、しかし咎めようにもミコトは既に声を発してしまった。


「……誰? どこにいるのよ?」


「ああ、これは悪かったっすね……ほら、これで見えます?」


 ミコトが光学迷彩装置を外し、ついでに仮面も外して絡新婦の武人の前にその姿を現した……行動の真意が読めない、久しぶりという事は知っている相手なのだろうか?


「あんた……まさか、ミコト?」


「ええ、随分久しぶりですねチカゲ……そうやって喋ってるって事は目も覚めたみたいですし、こいつら殺したのもチカゲっすか?」


 ミコトが足元にあったガム・ワームの死体を蹴り飛ばす、しかしチカゲと呼ばれた武人はミコトから視線を外そうともしない。


「目覚めた……? それにあんた、その恰好……」


「あちゃあ、まだ頭グチャグチャっぽいっすねぇ……まぁ無理もないんでしょうけど」


「ミコト、ミコト……? 思い出した、泣き虫ミコト! 弱虫ミコト! あははははは!」


「ちょ、ちょっと! 何なのそいつ!」


 突如様子の変わったチカゲに驚き、慌てて棚から飛び出すとミコトの隣につく……当のミコトは私が来た事には驚いたようだがチカゲの変貌についてはまるで興味が無さそうだ。


「ありゃ、出てきちゃったんすか……まぁいいっす、あいつはチカゲっていいます。武人の施設で一緒だった奴なんすけどしょっちゅうからかってきて……イジメてたんすよ、アタシの事を」


「なっ……!」


 いつの間にかミコトの手には刀が握られていた、知らない相手ではないと思ってはいたがまさか因縁の方だったとは……どうするべきか逡巡していると、ふとチカゲの視線がこちらに向いている事に気が付いた。


「……サチ様? もしかしてその声は、サチ様では?」


 不気味な蜘蛛の仮面越しではあるが、あらゆる角度から覗き込むかのような視線に思わず背筋がゾクリと寒くなる、ミコトとはまた違った色の視線……ミコトのそれもなかなかに気持ち悪かったが、チカゲのそれは次元が違う気がする。


「さぁ? ここで死ぬお前には関係の無い話じゃないっすか?……お姉ちゃんは下がっててください、コイツとだけはアタシが一人で決着つけたいんす」


「……分かった」


 私とチカゲの間に割り込むようにミコトが立ち、長く鋭い刃をチカゲに向ける……言われずとも特に邪魔する理由も無い、ミコトがそうしたいと言うのであれば私は記憶を探す事に集中するだけだ。


「ミコト……ミコトミコト、記憶の定着も悪く落ちこぼれのクセにサチ様に目をかけてもらっては泣いてばかりだった弱虫がよぉ……! 調子に乗るなぁ!」


 チカゲの怒気交じりの叫びと共に体から無数の白い糸が飛び出した、攻撃かと身構えたが糸は全てガム・ワームの死体に命中し……一呼吸空いた後、物言わぬただの死体だった筈の奴らが次々に起き上がり、各々の武器をこちらに構え始めた。

 絡新婦の武人は補助型の武人、味方を強化するだけだと聞いていたが……これは随分と話が違う。


「……お姉ちゃん、もし良かったらでいいんすけど……ちょっとだけ手伝ってくれません?」


「はぁ、さっきまでの威勢はどこにいったの……仕方ないなぁ」


 ミコトと背中合わせに立ち、ブレードを構えるとチカゲが嬉しそうな笑い声を上げた……勝ちを確信しているかのような、バカにするかのような笑いだ。


「もちろんサチ様を殺しはしませんが動きは制限させて頂きます……それとミコト、所詮は餓鬼(がき)にしかなれなかったお前が絡新婦たる私に勝てると思ってんじゃないわよ……せっかくあのクソったれな施設から出られたんだしさぁ、お前の血飛沫を祝砲代わりにブチまけてやんよぉ!」

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