第二十八話 野良犬の道
「どうっすか? どうっすか!?」
「……」
嬉しそうに目を輝かせるミコトに反して俺とサチの表情は冷ややかだった。
彼女が突き止めたというサチのクローン製造工場、上層の郊外に位置し車通りも殆ど無い……のはいいのだが周囲に建物も無い高層道路のど真ん中に建っており上空には片手で数えられない量のセキュリティドローンが配備され、ガム・ワームの奴らもチラホラと立っている。
……まずは離れた場所から見てみたいと二キロ以上離れたビルの屋上に移動して良かった、地上から近付こうものならどこかで見つかってもおかしくない。
「どうやって侵入します? お二人の実力を加味すれば夜襲気味に突撃ってのもカッコいいっすよねぇ! あぁ、ようやくお姉ちゃんが戦っているところを間近で見られるっす……!」
「撤退だ」
「だね、あれは無理」
観察用に持って来た狙撃銃のスコープから目を離して言うと間髪入れずにサチが同意した、そそくさと帰る準備を進める俺達に動揺し声を荒げるのはこの乱暴な作戦の提案者だ。
「ど、どうしてっすか! サチお姉ちゃんのクローンを作るのを止めるんでしょう!?」
「それはそうだが……あの警備の中を掻い潜るのは無理だ、ステルスコートを遣えばガム・ワームの連中の目は誤魔化せるがドローン共の熱探知に引っ掛かる。先にドローンをハッキングすればドローンには見つからないが他の連中が異常に気付くだろう……仮に両方をほぼ同時に無力化したとしても中に何人いるか分かったもんじゃない、それに加えて絡新婦の武人までいるんだろ?」
「何にしても圧倒的に情報不足、餓鬼の武人の力があればゴリ押しが出来ると思ってるんだろうけど……無謀すぎ」
「うぐっ……」
トドメとばかりに突き刺されたサチの言葉によってミコトは苦しそうな呻き声を一つ上げ、大人しくなってしまった。
いつも元気なミコトの落ち込んだ姿を見ていると罪悪感のトゲが何度も俺を刺してきて妙に居心地が悪い……さすがにこの作戦には乗れないが、それでも糸口ぐらい見つからないかと再びスコープを通して工場の方を見てみる。
「もう……お人好しー」
ミコトに聞こえないぐらいの声量で耳元で囁かれたサチの言葉に思わず背筋がゾワリとする……俺が何をしたって言うんだ。
「ん……? なぁミコト、あのトラックは何だ?」
「え……あ、ごめんなさい。何か言ったっすか?」
ガックリと肩を落としていたミコトが顔を上げ、首を傾げた……見た目がそのままテンションを表しており、本当に分かりやすい。
「……ああ、浮遊貨物車の事っすか。大体六日周期でこの道を通ってますね、大型の設備とか……この先の救護院に送られるスクラップ・チャイルドでも運んでるんじゃないっすかね?」
「救護院?……それって、武人になる為に子供達が育てられるところの事か?」
「わはぁ、よくご存じっすねぇ……その通りっすよ、大体十三か十四になるまで育てられてからアタシ達のいた施設に送られるっす」
「そうか、そういう位置関係になってるのか……だったら話は変わってくるな」
チラリとサチの方に目を向けると既に俺の考えに見当がついているのか目を細めて小さく笑い、頷いた。
当のミコト本人だけは分からないのかそんな俺達を交互に見ては首を傾げている、もっと喜んで欲しいものだ……突入作戦が思いついたのだから!
「あ……あの、おにーさん? やっぱり本気なんすか?」
「当然だ、その為にミコトに用意してもらったんだろ?」
「そうなんすけど……そうなんすけど、やっぱり何て言うか……あんまりカッコ良くないかなーって?」
「バカ言え、いいか? カッコよく見えるものの大半は常にカッコいい事をしてる訳じゃなくてカッコよく見える部分だけをピックアップして見てるだけなんだよ、裏じゃやりたくない事とかカッコ悪い事もしてるもんなんだ」
「だからってこれは……うぇ……」
装備を整えて数日後に再び集まった俺達と顔をしかめるミコトの目の前には地面にぽっかりと開いた穴、下水路の蓋を壊して外したのだ。
建物には鍵もかかるし周辺を警備で固める事は容易いが地下もとなるとそうそう手は伸びない、本来であればその必要が無いからではあるが……侵入する事に重きを置くのであればここほど適した場所は無い、それに俺達のような下層の野良犬向けの良いスポットではないか?
「ほら、お前もこれ着けとけ」
「はい?……なんすか、これ?」
「防毒マスクだ、ゴーグルも着けろよ? 臭気は目に沁みるからな」
「ううっ……嫌っすぅ! 一緒にカッコよく戦いたかったっすぅ!」
マスクとゴーグルを手にしたミコトがとうとうグズりだしてしまった、利点を説明するだけならいくらでも出来るが……生理的不快感は理解出来る、俺だって入りたくて入る訳では無いのだから。
「……ミコト、あんまりミドーを困らせないで。置いて行くよ?」
「それも嫌っすぅ!……うう、分かりましたよぉ」
サチに静かに凄まれ観念したのか渋々マスクとゴーグルを装着し、穴の縁でしゃがみ込んでしまった……何か声をかけようかとも思ったが、ここはサチに任せた方が良さそうだ。
「まずは俺が先に行く、続いてミコト……サチが殿だ、後ろは任せたぞ?」
「分かった、任せて」
「……よし、作戦開始だ」
目線をサチと合わせ頷き合った後にミコトにチラリと視線を向け、暗く臭気に満たされた穴の中へと飛び降りた。




