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第二十七話 12マネーの夜景

「……あれ、ミドー? もしかしてお腹空いてない?」


「ダメっすよー? 食べれる時に食べとかなきゃ、いざって時に力が出ないっす!」


「いや……腹は減ってるんだが、何もこんな場所で食わなくても店の中で良かったんじゃないか?」


「おにーさんは分かってないっすねぇ……こういうのは風情っすよ、風情!」


「風情……風情なぁ」


 確かに景色の良い場所で食う飯は特別感があるだろう、自分で作ったりした方が安く済むし量も食えると分かっていながらイベント時なんかに割高な物を買ってしまう気持ちも分からなくもない。

 ……だが上層の、しかも夜に悪趣味なライトに彩られた景色に風情があるのかと問われたら俺は首を縦には振らないだろう。

 ──昨晩、ドクの店の一件の後で俺はサチにもう一度ミコトと会う手段は無いのかと問い掛けた、歳が近い事もあり俺には浮かばないような何か良い案が浮かぶのではないかと思ったのだ……その結果がもう一度あのバーガー店に行く事だった、サチ曰く『ああいうタイプは無意識に監視癖があるタイプだから上層に上がれば向こうから接触してくる』のだと言う。

 半信半疑ではあったがサチを連れて例のバーガー店に行き、注文を終えて席を探していた時に偶然を装ったミコトが本当に現れ……何故か今は店舗の屋上で輪になって座り飯を食っている。

 ミコトが現れた事に俺は驚いてしまったがサチは眉一つ動かしていなかった、これも餅は餅屋……という事で良いのだろうか?


「にしても、ミドーの言う通りホントに凄い臭いだねそれ……美味しいの?」


「美味しいっすよ? お姉ちゃんも一口食べます?」


「いらない、でもそのソースだけ舐めていい?」


 どうぞ、とミコトの差し出した甘味の悪魔のようなバーガーに小指を伸ばして指先にソースをつけ、一瞬躊躇った後にサチの舌がそれを舐め取り……全身を震わせたかと思うと凄い勢いで水を飲み始めた。


「な? 凄いだろ?」


「う、うん……ミドーよりは甘い物が好きなつもりだったけど、これは……」


 言葉が続かないのか黙ってしまったサチに思わず心の中でガッツポーズをする、どっちもあのバーガーに負けている筈なのだが何となく嬉しくなってしまったので仕方ない。


「こんなに美味しいのに、不思議っすねぇー」


 そんな俺達に首を傾げ美味しそうにバーガーを食べ進めるミコトに俺とサチは顔を見合わせ、それぞれのバーガーを食べる事にする。

 食べ物の好みは人それぞれだ、誰かが好きだと言うのであればそれを否定しないしあまつさえ自分の好みを押し付けるような事は言わない、言わないが……だからこそ心の中で叫ばせてもらう、俺の食べている脂が滴る肉厚のパティにこれでもかと塗りたくられた甘辛のソースハンバーガーの方が百倍は美味いと!




「ふぅ、ご馳走様っす……それで、お二人は今日どういう目的で上層に?」


 相変わらずの食欲で大きなバーガーを食べ切ったミコトが口の端についた激甘ソースを舐め取りながら本題に入った、正直重い物を食べた直後なので少し休憩したいところなのだが……さすがにそれを言うのは止めておく。


「進捗を聞きたくてな、何でも良いんだが……あれから何か無かったか?」


「っ……! グッドタイミングっすよおにーさん! アタシもちょうど話したい事があったんす!」


「お、おお……それは良かったな?」


 何かに付き飛ばされたのかと勘違いするぐらい勢いよくミコトの体が前に乗り出し、グッと近付いた顔に思わずドキリとし少し仰け反るように後退る……ふわりと鼻を掠めた匂いは少しの熱と、汗の匂い……それも俺がかくような脂混じりの汗ではなくサラサラとした綺麗な汗の匂いだ、ご飯を食べた事で体温が上がったのだろう。


「ミコト、近すぎ」


「あっ……ごめんなさいっすお姉ちゃん、ミドーさんも」


 静かにサチに刺されたミコトがハッとして体を引っ込めた、バツが悪そうに笑う彼女からはある意味ではサチ以上に年相応の幼さしか感じられない。


「いいさ、それで……話したい事ってのは?」


「そうだったっす! ええと、良い報告と……悪い報告が二つあるんすけど、どっちから聞きたいっすか?」


「……悪いのが二つもあるのか」


 今日俺達がここへ来るきっかけも悪い事があったから来たのだ、そこに加えて更に二つ悪い事が追加とは……どうにも先行きが不安になってくる。


「悪い方からだ、どっちからでもいいぞ」


「了解っす、じゃあ悪い中でも軽い方から……最近、武人施設や本社の方の警備の人数が増えたんすけど、どうにも柄が悪い連中と言いますか……ガム・ワームってご存じです?」


「……ああ、知ってる」


「だね、知ってるも何も私達はそいつらに襲われたから行動を早めたんだもん」


 思わず手で顔を覆いながら頷くとサチが同意し補足してくれた、本人が言っていたが……本当にアカシック・コーポレーションに雇われていたようだ。


「そうだったんすか!?……こっちでも動きは監視してたんすけど、どうにも数が多すぎて……見たところ怪我はしてなさそうっすけど、大丈夫でした?」


「とりあえずはね、今度から監視するならワグナールっていう背が高くて細長い顔の男にしなさい……ていうか、ディアは何してるの」


「ええ、そう言われても仕方ないっす……けど、ディアには知らされずにカシム博士が個人的に雇ったみたいなんすよね……こんな事は初めてだって、驚いてたっす」


「それだけ閻魔(えんま)の武人のクローン製造に本気って事か……とりあえずそいつらの事はいい、もう一つはなんだ?」


「実は良い報告と悪い報告は同じなんすけど……少し前から本社と武人施設のちょうど中間に辺りにあるポイントに、新たに絡新婦(じょろうぐも)の武人が配置されてたっす」


「……それのどこが良い報告なんだ?」


 サチと顔を見合わせ、首を傾げる。

 武人の配置換えはドクも危惧していた悪い報告だ、それも武人施設と本社との中間ともなればどちらに侵入する事になっても障害になってしまう……怪訝な顔を向ける俺達の視線を向けながらも笑みを浮かべて自信一杯に胸を張るミコト、その余裕は一体どこから来るのだろうか?


「実はそのポイントには廃棄された大型の工業施設があるんす、結構規模も大きいんで解体されずに建物も機械とかも残ってて……ディアが調べたところ、最近になってまたその機械が稼働してるみたいなんすよ! つまりクローンの製造を行っているのもサチお姉ちゃんの記憶があるのも本社でも武人施設でもなくそこって事っす! どうっすか、良い報告でしょ!?」


 顔いっぱいに広がるミコトの笑みを見ながらサチの表情が少し引きつった、ここには鏡が無いので分からないが……きっと俺も同じ表情をしているのだろう。

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