第二十五話 バック・アタック
「な、なんだぁ!?」
俺の叫びと同時に二階から鳴り響いた破砕音にマローが困惑の声を上げた、合図と同時にサチが窓ガラスを突き破り店内に侵入したようだ。
「ぐあぁ!」
続いて上から聞こえてきたのは苦痛を表す悲鳴、やはり伏兵を仕込んでいたようだ……状況は気になるが、この機会を逃す訳にはいかない。
「うおっ……こ、この野郎!」
「俺の物だ、返してもらうぞ」
素早くマローにタックルするとよろけたマローの手から奪われたブレードが落ちた。その隙をついて奴の懐から盗まれたブレードを取り返し、勢いを殺さぬまま斬りつける。
「がぁっ……!」
「……ちっ」
仰け反ったマローの胸部から血が吹き出すが感覚で分かる──浅い、しばらくは動けないだろうが命を奪うまではいかない筈だ。
追撃は背後の奴が許さないだろう、ダメ押しとばかりにマローを蹴り飛ばすと即座に振り返りワグナールに向けてブレードを振り下ろす……が、既に横に構えられていたブレードによって防がれてしまった。
「おおっとぉ! 危ないじゃないかミドー、死んじまうとこだった!」
「殺そうとしてんだよ!」
ヘラヘラとした表情で軽口を叩きながら笑う不愉快な男に向けて右足を振り上げ、蹴りを繰り出す……が、これは躱されてしまう。
「よっ! ほっ! あっと今のはあーぶなかったぞぉ!」
ワグナールに攻勢を許さない為に突きを混ぜた連撃を繰り出すがそのどれもが寸前というところで弾かれ、当たらない……ガム・ワームは集団でようやく成立する奴らだ、つまりマローのように個人だけで見れば能力の低い半端者の寄せ集めというのが正体だと言える。
そのリーダーであるこいつもせいぜいそいつらの一つか二つ上の実力……程度に思っていたのだが、少なくとも近接戦においては認識を改める必要がありそうだ。
「そぉらそこだぁ!」
「……っ!」
突如目の前に突き出された刃にハッとして顔を逸らす……が頬に一瞬鋭い熱を感じる、僅かに刃が掠めたようだ。
──奴らや俺達の使うステルスコートには脳から発せられた電気信号を即座に腕や足の動きに繋げ、戦闘能力を飛躍的に上げる事が出来るのだが……それでも凡夫は所詮凡夫の域を出ない、だが事実として奴の刃は俺の頬を捉えた……つまり他の能力はともかく戦闘能力に関しては本物だという事だ、油断すれば深手を負うのは俺の方という事になる。
「いよぉし! いいぞ俺、今のはいーい動きだった!」
「……いちいちうるさい奴だな、戦いの時ぐらい黙ってやれないのか」
「あぁーん? そいつは悪かったな、だが俺ぁバカだからよぉ……自分の事ですら自分に言い聞かせてやらねーといかんのよ!」
その言葉を体現するかのようにワグナールは空いた手で自らの胸を叩き、自らを鼓舞する言葉を繰り返している……こういう輩は浅く斬りつけた程度じゃ怯みすらしないから厄介だ、殺す前に情報を聞き出したかったが甘かった……殺意には殺意、やはりこちらも殺す気でかからないといけない。
思考を切り替え、懐からステルスコートを呼び出す金属板を取り出し……ある事に気が付き手が止まる。
「さぁて第二ラウンドといこうじゃあないか! 覚悟はいいかミドぺっ!?」
俺をまっすぐに見据え、大きく両手を広げながらの宣言は最後まで言い切る前に背後から奴の首元に向けて放たれた回し蹴りによってあっけなくかき消された。
大きなワグナールの体がいとも簡単に吹き飛び、脇にあった商品棚に思いっきり突っ込む。
「ミドー、大丈夫? 怪我してない?」
「ああ、大した事ない」
ワグナールの代わりに目の前に現れたのは両手にブレードを握りしめたサチだった、返り血が髪や服に飛び散ってはいるが怪我はしていないようでホッと胸を撫で下ろす。
「っ……! 嘘、ほっぺた怪我してる! すぐ手当てするから……!」
先程斬られた傷に気が付いたのかサチが血相変えて駆け寄ってきた、細い指によって滲んだ血が拭われ少しくすぐったい。
「今はいい、それより……まだ動くぞ、あいつ」
俺の視線に気付いたのかハッとしたサチが一旦床に置いていたブレードを再び手に取り振り向くと、やはりダメージは確実に響いているのか動きは鈍いがのそりとワグナールが立ち上がっていた。
「うそっ……思いっきり首を蹴り飛ばしたのに……!?」
「あいつのタフさは異常だ、薬で痛覚を鈍らせているのかもしれない……油断するなよ」
「……あぁーくそ、せっかく楽しんでたのに邪魔しやがって雌猫が……あ? いや待て待てお前、他の奴らはどうした? 上には四人いた筈だぞ?」
「気になるなら見てきたら?……最も、アンタみたいに話が出来るとは思えないけど」
「おい……おいおいマジかよ、小娘一人に……いや、いやいやこれはそう思った俺のミスだろ? そうだ、俺の失態だ。なぁんてこった……やっちまった!」
ワグナールが目に見えて狼狽し始めた、意外と仲間意識の強い集団なのかは分からないが戦闘に対する意欲は消え去ってしまっている。
「おい、おいマロー? お前は生きてるか?」
「……げほっ、ああボス。全身いてぇけど、死んじゃいねぇよ」
「よし! よし、よし!……いいかお前ら、動くなよ! 俺はもう何もしねぇから、動くんじゃねぇぞ!」
俺とサチを順番に指差したワグナールが俺達と距離を保ったままじりじりとマローの方へ移動し、その体を担ぎ上げた。
「いいかこのスーットコドッコイ共! もうお前らなんか仲間になりたいって言っても入れてやんねぇからな! ばぁか!」
子供のような捨て台詞を叫んだワグナールがドスドスと足音荒く店を出て行った、罠の可能性も考えたが……そういった気配は感じられない。
「……ミドー、どうする?」
「ほっとけ、俺は疲れた……」
「……ん、お疲れ様」
ごろりと仰向けに床に横になると隣に座ったサチが俺の頭を撫でた、汗ばんだ髪など触るなと言いたいが……この心地よさには勝てそうにない。
「二階の奴らだが……本当に殺したのか?」
「ううん、全員体に金属板みたいなのを仕込んでて時間かかりそうだったから……気絶してもらった」
俺に見えるようにブレードを掲げたサチが手元のスイッチを操作すると音を立ててブレードの刃に電流が走った、ドクに頼んで仕込んでもらった俺達専用の仕掛けの一つだ。
「なぁサチ、あいつら……これで諦めると思うか?」
「絶対また襲ってくると思う、賭ける?」
「同じところに賭けてちゃ成立しないっての……ったく」
天井を見上げ深くため息をつく、もう少し猶予があると思っていたが……これ以上後手に回る前に全ての行動を早めなければならないかもしれない。




