表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
21/50

第二十一話 本性の刃

「止めるって……カシム博士をか?」


『はい、もちろん容易でない事は承知していますが……それでも二度に渡ってミコトの刃から逃れた事を加味すると、貴方がたにお願いするのが現状最も可能性があるという結論に至りました』


「……参ったな」


 思わず手で顔を覆う、つい最近にも似たような事を提案された気がする。

 今や誰もが知っている世界のトップなのだから敵が多い事は用意に想像がつくがまさか身内から、それも自らが生み出した人工知能が敵対するとは夢にも思っていないだろう。


「だが止めるって言っても何をだ? 記憶の抽出技術は既に独占されているし、武人の生産はむしろお前がやった事だろう? これ以上何があるって言うんだ」


「クローンっすよ、おにーさん」


「何……?」


 割り込むように発せられたミコトの言葉に一瞬思考が停止する、一人では立てない彼女を支えるサチの表情にも驚きの色が浮かんでいる。


「その存在がさも当然のように言ってましたけど、閻魔の武人に適合するほどの能力や素質を持った人間なんてそうそう現れるもんじゃないんすよ……もちろん公表なんてしませんけど、事実としてサチお姉ちゃんが見つかるまでの数十年の間は閻魔の武人は文字通り伝説の存在……実在してなかったんすよ」


「なんだと……!?」


 最強の武人、詰まるところ俺達のような存在にとって最大の敵であり他の勢力がアカシック・コーポレーションを直接襲えない理由の大部分を占めるのがこの閻魔の武人の存在だ。

 全てが未知数、その姿を見た者はおらず……しかし他の武人の戦闘能力を知っているが故に誰もが恐れてきたというのに、それが実在していない? 抑止力の一つに過ぎなかったというのか。


「……確かに他の武人についても情報は厳重に守られていたし、容姿はともかく能力については俺達ですら殆ど分かっていない。中でも閻魔の武人については最高重要機密……」


「便利な言い方っすよねぇ、最高重要機密! 誰も知らない何も分からない……当たり前っすよね、本当にいないんすもん」


「待て、少し待て……今までもずっといなかった訳じゃない、んだよな?」


『はい、確かに過去閻魔の武人と呼称された武人は存在しました……しかし他の武人とは格段に重い投薬の後遺症と許容量を超えた膨大な情報量の蓄積により肉体は酷く劣化し続け、ミコトのように言語を話す事すら難しい状態でした』


「……バカな」


「アタシもディアから話を聞いただけで見た事は無いっすけどねぇ……そして、そんなところに現れたのがサチお姉ちゃんっす。度重なる投薬も乗り越え、膨大な情報を脳に直接叩き込まれても自我を残したまま全てを取り込んできたお姉ちゃん……最終フェーズ前に反乱を起こしたとはいえ、ただ記憶を抜き取ってはいサヨナラ……なんてすると思うっすか?」


「だから……クローンか」


 ミコトが頷くのを見て深いため息が漏れる……クローン、遺伝子情報などを元にとある生物の殆ど同一個体を複製する技術の事だ。

 その技術の提唱自体はかなり昔からあった、しかし人間の複製に関しては尊厳やら倫理観やらの問題で結局禁止となった……が、今のこの世界ではサチのような子供の尊厳など尊重する者はおらず、そもそもサチという存在を証明する術が無い。

 ──言葉を選ばずに言うなら、子供のクローンを作るのに最も適した時代となったのだ。


『……こんな事を言っても詭弁にしかなりませんが、私は何人もの子供達を武人にしてきました……しかしそれは、絶望しかない子供達にこの世界で生きる為の力を与えてきたと思っています。中には耐え切れなかった子達もいますが……彼らの名前は全て私の中に残していますし、今日までの間で誰一人として死者は出していません』


「誰一人……? 待て、確か武人の施設には脱落した者を処分する部屋があるんじゃないのか?」


「処分? 誰からそんな話を聞いたのか知らないっすけど……ディアの言ってる事は本当っすよ、これ見てください」


 自らの胸元に手を突っ込み取り出したのは真鍮色のプレートに小さな白い石が埋め込まれたペンダントだった、それがミコトのメモリーキーらしい。

 彼女がプレートの両端を掴むと長方形のモニター映像が浮かび上がり、どこかの研究室のような場所が映された……中型の培養カプセルのようなものがいくつも中央に伸びる通路を挟むように並んでおり、容器の中は薄い青色に光る液体で満たされ……性別も年齢も様々な子供達が一人ずつ入っている。


「この子達は……まさか」


『はい、私の力不足で武人にしてあげられなかった子達です……今はこうしてカシム博士にバレないようにこっそりと延命させてあげる事しか出来ませんが、いずれは全員目を覚まさせてあげるつもりです』


「何故……そこまで」


『関わってしまいましたから、私の手で捻じ曲げてしまいましたから……彼らの生きる道を私が絞ってしまった以上、最後まで付き添うのが親というものでしょう?……いえ、プログラムに過ぎない私には過ぎた言い方でしたね』


「……はっ」


 思わず鼻で笑ってしまった、もちろん彼女を……ディアを馬鹿にした訳では無い。

 当然の事だ、いや……当然の事の筈だったというのが正しいか、今の人間達がすっかり忘れてしまった愛情が……間違いなくディアの中にはあると感じてしまう。


『……本題に戻りましょう、現在アカシック・コーポレーションの内部に保存されているサチの閻魔としての記憶……それを利用してカシム博士はサチのクローンを作り上げようとしています、決して反乱など起こさない従順で強力な閻魔のクローンを……生まれてしまった子に未知を示すのが私の使命ですが、不幸になる事が分かっている子が生まれてしまうのは見過ごせません……! お願いしますミドーさん、どうかクローンが作られる前にサチの記憶を彼から盗んでください』


 深々と頭を下げるディアに合わせるようにミコトも軽く頭を下げた、チラリとサチと目を合わせるがやはり俺と同じく困惑しているようだ。


「ふぅ……ディア、お前だってそれが難しいなんてもんじゃない事ぐらい分かっているんだろ? 言ってみろ、成功確率は実際の所どれぐらいなんだ」


「……こうしてお話する前までは約八パーセント、お二人の連携や信頼関係を知った今は約十七パーセントといったところでしょうか」


「はっ……話にならないな」


 今度は吐き捨てる意味も含めて鼻で笑う、あまりにも低すぎる……アカシック・コーポレーションの内部と繋がりがもてるというリターンは大きいし分の悪い賭けは嫌いじゃないが、サチを危険に晒してまで乗る賭けではない。


『ですが、そこに更に私とミコトを加えれば確率は約四十三パーセント……これでも高いとは言えませんが、そもそも確率に何の意味があるんでしょう?』


「なに?……くっ、はっはっはっは!」


 思わず声を上げて笑ってしまう、今まで報酬と危険性を比べて依頼を受けてきたが……機械が確立を無視するだと? 何というあべこべ、目の前の人工知能はどれだけ俺の笑いのツボを突いてくるのか。

 では俺も理論を無視して感情で考えてみる事にしてみると……答えなど十秒もかからずに出た。


『……詳細は追って連絡します。ありがとうございます、ミドーさん』


 背を向けたまま手をヒラヒラと振って薄暗い廊下を歩いて行く、すぐ隣にサチも並んで歩いているがその表情は複雑そうだ。


「……不満か?」


「そうじゃないけど……どう考えても危険だよ、閻魔はいないにしても他の武人だって沢山いるんでしょ?」


「だな、だがまぁ……俺にとってもお前を好き勝手に使われるのは面白い話じゃないし策が無い訳じゃあない、まっ……何とかなるだろ」


「もう……お人好し」


 ボソリと呟かれた悪態とも言えない悪態を受け流して頭を撫でてやるとそれ以上は何も言わなかった、確かに安請け合いし過ぎた気もする。

 受ける理由なんていくらでも浮かぶが……全部言い訳だ、結局のところ俺にとって大切なサチを辱めるのは許さない……その一言に尽きるのだから。




「……あれ、おにーさんはどうしたんすか?」


 扉を開く音にハッとした表情で顔を上げた少女が床に座りながらこちらを見つめている、確かミコトといったか……悪い奴では無さそうだが、ミドーが呼び捨てにしていたのは気に喰わない。

 質問には答えず少し部屋を見回すがディアの姿は無い、また最初のように隠れて……いや、ここへの接続を切っただけだろう。


「先に外に出てる、ちょっと……言っておきたい事があってね」


「言っておきたい事っすか? 何か説明しそびれて……」


 ミコトが最後まで言い切らない内に素早くブレードを抜くとその刃を彼女の首に当てる、素早くとはいっても武人の目で追えない速度では無いし殺気も含んでいない。

 事実、ミコトの視線はしっかりと私のブレードの軌道を目で追っていたが……刃を当てた今も私を見上げるだけで反撃もしなければ防御しようともしていない。


「……第一に、ミドーはきっとアンタ達の依頼を受ける。彼はとっても優しいから……こんな怪しい依頼だって受けちゃう、もう少し危機感を持って欲しいけど……でも、それがミドーの良いところなのよね」


「っ……」


 ふとミコトの視線が変わった、何が変わったのかと少し考える……先程までの視線は驚きや疑問といった感じだったが今の彼女から感じるのは期待と興奮、それと……喜びのように見える、ハッキリ言って気持ち悪い。


「危険な依頼だけど……ミドーはきっとやり遂げる、彼の前に立ちはだかる障害は全て私が斬り捨てるんだから……だからミコト、アンタがもし裏切ろうとしても無駄。少しでも怪しい動きをしたら……今度はミドーが止める前に斬り捨ててやる」


「わ、わはぁ……サチお姉ちゃんだ、やっぱりサチお姉ちゃんはアタシの大好きなサチお姉ちゃんだったっす……!」


 とうとう息も荒くなってきた、少し前にミドーが見せてくれた犬という動物に似ている気もするが……少なくともあの愛玩動物はこんなに薄汚い欲望を丸出しにはしていなかった。

 しかしミコトのこの反応は想定外だ、演技のようにも見えないが……判断を下しかねていると首のチョーカーから小さなアラーム音が鳴った、もう二分が経ったらしい。

 追跡装置の設置が簡単だったようにミドーは私に対して警戒心が薄い、故に怪我の療養中に偽造記憶を仕込むのも簡単だったが……さすがはミドー、十分程度は空白の記憶を作るつもりがプロテクトが抜けずに結局四分しか時間がとれなかった。


「……最後にもう一つ、ククル・アージェンスキーって名前の女の事を調べておいて。一種のレジスタンスみたいな奴らで……もしかしたら邪魔になるかもしれないから」


「それはいいっすけど……不穏分子なら殺した方が早くないっすか?」


「そうだけど……とにかく調べて、何か分かったら私に教えて。私が判断するまで勝手に殺したら駄目だからね」


「了解っす!」


 片手でガッツポーズを作って笑うミコトを見ていると気を張っていたこっちがバカのように思えてくる、更に念を押したいが時間が無い……偽造記憶の効果が切れて、私がいない事に気付く前に急いで戻らねば。


「あ、最後にもう一つだけいいっすか?」


「……何?」


 ブレードをしまい、来た道を戻ろうとするとミコトが声をかけてきた。


「サチお姉ちゃんの昔の記憶……要するに閻魔の記憶っすけど、どうするつもりっすか?」


「はぁ……変な事聞かないで、決まってるでしょ?……ミドーを愛するのはここにいる私だけでいいの」


 そう、私だけでいい。

 この世でサチは私だけでいい、ミドーが気にする女は私だけでいい……もう一人の私だか何だか知らないが、ミドーの気を引くなら……斬り殺すまでだ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ