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貧乏男爵家の次女に転生した私は魔法の天才と一族から期待を寄せられていますが、その才能は、いつになったら開花するのでしょうか? ~略称(貧そい)~  作者: アカホシマルオ
アリソン六歳編

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開花その51 三人のエルフ 前編1

 


 ディアルは一応町と呼ばれているが、見た感じは完全に村と変わらぬ狭い土地だった。


 ただそこはムツミ川の河口で、川の水運と大型船の着く港があって、人の出入りが多い。私たちがエルフたちと別れたナカード村は崖の途中にあり、村と港が分断されていた。


 だがディアルは辛うじて港と一体となった住居や段々畑が、山を背にして横に長く広がっていた。



 セルカの歓迎会の翌日は、酷い二日酔いだった。

 あの後、ヤケになったプリスカが珍しく酔い潰れるほど飲んで、三人で大いに意気を上げた。


「プリスカ先生、もう宿に帰りましょう」

 眠くて倒れそうなセルカが必死にプリちゃんを連れて帰ろうとするが、一向に席を立つ気配がない。


「何を言っている、こんなもの船酔いに比べれば何てことないぞ。もう一杯だ!」

「ほら、セルカ。プリスカの暴走を止めるのが、あんたの仕事だぞ。しっかりしてくれ」

「ああ、もうっ!」


 私には、そこから先の記憶がない。他の二人も似たようなものだったろう。無事にベッドで目覚めたのはセルカの功績か。

 これはきっと、酒と言う名の忘却魔法が暴発したのだろう。恐ろしい。



「とりあえず今日はゆっくり休んで、明日の朝出発しましょう」

 朝、一応三人で食堂に集まったが、三人とも水以外喉を通らなかった。

 仕方なくプリスカがそう言ったのを聞いて、各自が自分のベッドへ再び潜り込んだ。


 無理矢理回復魔法を使えば動けるとは思うが、そうまでして急ぐ旅ではない。


 翌日、私たちはディアルを出て、ムツミ川沿いの狭い街道を歩いて北上する旅を始めた。


 この先、ナラクロ村まで行かなければ馬車はない。谷に沿って狭い山道を上ったり下りたり、ひたすら歩くのだ。ただ、南下していた時とは違い、川上へ向かうのだから徐々に標高が上がる。


 要するに、上り坂が多いのだ。



「姫様、お願いです。もう少しゆっくり歩いてください」

 死にそうな声で、セルカが懇願する。


 出発して三日目。二人が山を駆け巡る速度に圧倒され、一日の終わりに小さな村の宿に入れば気を失うように倒れていたセルカが、ついに音を上げた。


「だから、身体強化魔法を使えと言っているだろう!」

 プリちゃんの情け容赦ない怒声はフランシス師匠にそっくりで、私の背中にも冷たいものが走る。セルカは本当に可哀そうだ、と同情する。


 そもそも海辺の平坦な街に住んでいたセルカは、生まれてこの方こんなに長い坂道を歩いた経験がない。


 身体強化魔法も戦闘時に瞬発力を上げる方向へ振っていて、一日中ずっと山道を歩くような持久力に関しては、極端に弱かった。



「じゃ、ちょっと休憩しょうか」

「こんなペースでは、今夜は野宿ですよ」


「それもいいんじゃない?」

「はあ、そうですね。セルカにこれ以上無理をさせて逃げられても困るし」

「先生、私は逃げませんよ」


「知ってる。逃げ切れないからな」

「そうですよ……こんな山の中で、私に何ができるって言うんですか」


「まあ、そのうち慣れるさ」

「そうでしょうか?」


「昨年の今頃は、姫様も宿でおねしょをして泣いていらしたものだ……」

「えっ!」


「プリちゃん、それは言わない約束でしょ!」

「失礼しました」


 突然プリスカは、何を言い出すんだ。あれは、もう少し前の話だぞ。



「あっ、もしかして、セルカは笑ってる?」

「ま、まさか! でも、本当に姫様は六歳だったのかと……」

 だが、まだ肩が小刻みに震えている。笑いを堪えているのだろう。


「ほら、まだ笑ってる。私は眼も耳もいいんだぞ」

 するとセルカは慌てて、深々と頭を下げた。

「ご、ご無礼をお許し下さいっ!」


「セルカ、姫様には最初から素直に誤っておいた方がいいぞ」

「今後、肝に銘じます!」

 セルカの緊張が伝わる。


「あのさ、二人して私が鬼みたいな言い方は止めてくれる?」

「すみません。今は亡きフランシスの霊が突如、私に乗り移りました」


「師匠はまだ生きてると思うぞ。たぶん」



 結局その日は、森の中で野宿をすることになった。


「この辺でいいかな?」

 私はちょっとした窪地を土魔法で整地して、メタルゲート号を収納から出して地上へ置いた。


「へっ?」

 またもやセルカの目が虚ろになって、体が固まる。


「さっさと船室に入って、食事にするよ」

「姫様、これが野宿ですか?」


「そりゃそうさ。周囲は深い森で、海じゃないだろ?」

「やっぱり、私がこの旅に同行する意味って、ありますか?」


「いいんだよ。フランシスとの人質交換だと思って、黙って付いて来い」

「人質ですか……」


「セルカ。姫様の言動をいちいち真面目に捉えていると、きりがないので適当に聞き流せ。気にしていると、すぐに禿げるぞ」


「で、では、どどど、どうすれば……」

「だから、適当にふんふんと頷いておけばいい」

「ほう、プリスカ先生の教えはご立派ですなぁ」


「いや、姫様。それもショック状態から立ち直る一つの自己防衛機能として、非常に有効な手段かと……」


「まあいいや。早く中で新鮮なマグロでも食べよ」


「きゃぁ、こんな山の中でお魚が食べられるんですか。さすが姫様。どこまでも付いて行きます!」

「何だ、お前は?」

 プリスカに後頭部を手刀で叩かれながら、セルカが楽し気に船室へ入った。



「お待ちしておりました」

 船室ではマグロと聞いたパンダが、早くも食卓の支度を始めていた。


「こら、お前は呼んでいないぞ」

「またまた、姫様は冗談がお上手で……」


「セルカ、この化け物のセクハラには充分注意しろ。もしもの時は、斬り捨てを許す」

「もう、プリちゃん。早く機嫌を直してーなぁ」


「黙らないと、今すぐ斬るぞ」

「ひーっ、姫さんお助けを!」

 パンダが私の背後に隠れながら、巧妙に私の足や尻を全身で触っている。


「こらパンダ。後ろで鼻をクンクンするな!」


 セルカも船室の置物になっていたパンダは何度か見ていると思うが、それが動き回る姿を見るのは、これが初めてだったか。


 思いっきり引きまくっているな。出来れば見せたくなかった……



「何と言うか、この旅は、私の思っていたのと全然違いますぅ……」

 せっかく元気を取り戻したセルカが、再び無表情になり呟いた。


 私は黙ってパンダを掴むと、窓を開けて暗い森の中へと放り投げる。身体強化を効かせて、なるべく遠くへと。

「さ、ご飯にしよ」


 何事もなかったように私とプリちゃんが夕飯の支度を始めると、電源喪失状態だったセルカが非常用電源によりどうにか機能を回復し、私たちと一緒に動き始めた。


 今日は、先が思いやられる一日だった。



 数日後、私たちは無事にナラクロ村へ到着し、そこからはセルカの強い希望もあり、乗合馬車で移動することになった。


「人通りの多い馬車道に出れば、今までみたいに走らないで普通に歩くだけだよ」

「いいえ、絶対に馬車がいいです!」

 セルカは駄々っ子のように主張した。


 馬車に乗ると、乗り物が得意でないプリスカの元気がなくなるのは何かと助かる。ここから先は、何か月か前に通った道だ。


 聞くところによると、ローゼンス子爵は近くの仮住まいに住みながら本邸の建築も順調との事である。


 罪滅ぼしの意味を込めて、私の仮の身分である架空の商会の名前を使い多額の寄付金を送っておいたので、幾ばくかの足しになっていると嬉しい。


 私は、それで少し心が軽くなった。あれは、私たちも巻き込まれて命を落としかけた事件なので、ローゼンス邸の崩壊が全面的に私の責任とは言い切れない。そうだよね?



 ナラクロを出て、馬車は川から西へ離れた道を北上する。そのまま行けば、王都と王領を東西に結ぶ王都街道へぶつかる。


 その交点に、エルフたちの住むドロルという街があった。広大な農地が広がる王国直轄領の東端に位置する街だ。


 本来は王都街道とムツミ川の交点にあるべき街なのだが、川の近くは地形が険しく、街道沿いに小さな村があるだけだ。


 今では逆に、途中からドロルを通り北上して再びムツミ川沿いの街道へ合流するバイパスが、本道のように使われている。


 馬車はドロルの中心部に入り、広い停車場の石畳の上に私たちは降り立った。秋風が爽やかで、空には牧羊犬に追われた羊のような雲が整然と並んでいる。


 大きな街だが、エルフの大きな魔力は簡単に感じられると思っていた。しかし意外と強い魔力をあちこちに感じて、私は戸惑った。


「大きな三つの魔力が集まっている場所を探せばいいと思っていたのだけど、見つからないんだよ」


「夜になれば、家に戻るのではないでしょうか」

「そうだね。先に宿を決めよう」

 私とプリちゃんが相談している間も、セルカは無言だった。


「セルちゃん、もう少しだから」

 結局セルカの方が乗り慣れぬ馬車の揺れに疲れ果て、しかもこの街の人の多さにも酔っているようだ。


「セルカの生まれたパーセルも、大きな街だったんだろ?」

「いいえ、田舎の小さな港町ですから、こんなに賑やかな場所はありませんでした」


 そんな卑屈にならなくてもいいのに。



 結局夜になって精査をして、カーラと思われる魔力反応を見つけた。他の二人はよく判らない。


 翌日、カーラが家から動いていないのを確認して、私たちはその場所へ向かう。

 しかし街を歩いていると、またセルカが人混みに酔って顔色が悪くなる。


 海ではプリちゃん、陸ではセルちゃんと、仲のいいことで。


「もうすぐ、着くからね」

 珍しくプリスカが、優しく声を掛けている。


 こんな事なら、セルカは宿へ置いて来ればよかったか。

 ちょっと後悔しながらも、カーラが暮らしていると思しき家が見えて来る。


 そこは大通りから少し奥へ入った静かな路地にある魔道具店だが、今日は休業なのか営業時間外なのか、店は開いていない。

 どうやらここの二階に、カーラは住んでいるようだ。


 私たちは店の横にある狭い階段を上り二階へ上がると、素朴な木の扉をノックした。

 だが、返事がない。


 確かに部屋の中には、カーラの魔力を感じる。

 だが他にも二人、見知らぬ魔力を感じた。


 しかも、それがエルフ並みに強力な魔術師だ。エルフの仲間か?

 だが、私は不穏な気配を感じて、大きな声を出した。


「カーラ。アリスです。部屋にいるんでしょ。開けて!」

 すぐに扉の中で魔法が発動し、強い風魔法で扉が吹き飛んだ。


 私が結界で防いだので、後ろにいたプリちゃんとセルちゃんも被害はない。


 しかし扉が吹き飛ぶと同時に中から人が飛び出して来て、結界にぶち当たる。

 一人は縄で縛ったカーラを担ぎ、前の男は短いロッドで私に風の刃を連続で放っていた。


 このままでは家の階段が壊れるので、一度私たちは路地へ下りて、地上で賊と対峙する。


 風魔法の男は無視してカーラを担いだ男を軽く雷撃魔法で痺れさせると、カーラを地面に放り投げて逃げようとした。私はカーラを重力魔法で受け止めその顔を見ると、彼女も私の雷撃魔法で白目をむいて気絶していた。ゴメン。



 とりあえず二人の賊はプリスカとセルカに任せて、私はカーラの口と手を縛っていた縄を解き、地面に横たえたまま治癒魔法をかける。


「きゃぁ!」


 叫び声に振り向くと、狭い路地に土埃が一面に立ち込めて、何も見えない。しかもこの土は魔道具の材料を砕いた物のようで、魔力が散乱して感知が一時的にできなくなっていた。


 上空へ跳べばと思ったが、想像以上に土煙は辺り一帯を覆い、風魔法で吹き飛ばした後には、プリスカが剣を抜いて仁王立ちしているだけだった。


「姫様、申し訳ございません。セルカが男たちに攫われました」



 前編2に続く



 


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