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貧乏男爵家の次女に転生した私は魔法の天才と一族から期待を寄せられていますが、その才能は、いつになったら開花するのでしょうか? ~略称(貧そい)~  作者: アカホシマルオ
アリソン五歳編

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開花その4 旅路にて 後編

 


 セアブラとマツマツを隔てるチチャ川は、今は穏やかな流れだが昔は何度も増水して洪水をもたらす暴れ川だった。


 しかしそのおかげで周囲の平原は肥沃な大地となり、国でも有数の田園地帯となっている。


 当時はこのチチャ川が東西を分ける二つの国の国境となっていたのだが、あまりに頻繁に流れを変えるので国境線は定まらず、またこの川を利用する物流拠点の町を築くのにも困難な場所だった。


 そこで川の左岸側の王国が岸辺に堤を築いて治水工事を行い、やがて水運の拠点となる町を作った。これが今のマツマツの街の始まりだ。


 男爵領の館がある場所のような高さはないが、マツマツ側は背後に連なる緩い丘陵地を削って堤防を造るのが容易だった。



 以後、川の左岸は堤に守られ、氾濫した水は右岸へと押し寄せる。洪水が収まると、堤の近くを掘り下げ川の流れを戻し、何もなかったように港が再開される。


 右岸では相変わらず洪水に悩み、しかも上流と下流を行き来する水運の舟は、堤のあるマツマツの港で荷の積み下ろしをする。


 それを見ていたマツマツの商人が、将来にわたる街と街を結ぶ渡し船の権利を引き換えに、右岸の治水工事を請け負った。

 川の流れが変わり過ぎて、マツマツ側から遠く離れてしまうのも困ると考えたようだ。


 その頃には今のセアブラ側にも自然堤防が出来ていて、築堤は比較的簡単であったと聞く。

 おかげで今は川の両岸の安全が確保され、東西を結ぶ街道もこの二つの街を通るようになった。



 以後、ハイランド王国が大陸全土を支配した今も、陸と川を結ぶ交通の要衝としてこの二つの街は栄えている。

 今でも両岸の船着き場と渡し船の権利は、マツマツ側が独占したままだ。


 おかげでマツマツは川の水運の港と渡し船の利用料により、更に発展し立派な街として栄えている。


 逆から見れば、男爵家のような貧乏人にはリーズナブルなセアブラの存在は有難く、両岸の街はこうして棲み分けながら暮らしているのだともいえる。


 私が街で買った観光案内書には、こんな感じで街の来歴が記されていた。



 川を舟で渡るのだからその運航は天候や水量に左右されるし、今日のように突然魔物が現れれば通行不能となって不安定だ。


 この世界では当然のことと受け入れられているが、私からすればさっさと川を渡り向こう側でゆっくり休めばよかったのに、と思う。父上、安全は金には代えられませんよ。


 今回は上流にいた川の魔物が、この辺りまで流れて来たようだ。

 男爵領にはこんなに穏やかな大河はなく、水中に棲む大きな魔物などは滅多にいない。


「むう、川の魔物がいる限り、船は出ぬか……」

 前方へ様子を見に行った騎士が戻り、御者台に出た父上に報告している。


 それでも前方の隊列が崩れず落ち着いているのは、魔物が陸上へ上り人を襲うタイプではないためらしい。


「フランシス殿にも、一度現場をご覧いただきたいのですが」

 護衛の騎士に請われて振り向いた父上が、フランシスを見て頷く。


 師匠が馬車を出ると同時に、私も素早くその後を追った。


 馬車の中にいた侍女のミラは、ルーナの魔法で静かに目を閉じている。

 さすが夜を支配する月の精霊だ。



 速足で歩くフランシスの後ろを、私は小走りで追いかける。

 フランシスは川の方に気を取られていて、全く気付いていない。


 ふふ、師匠よ。背中ががら空きだぞ!

 私は隙だらけの背中に着火魔法を見舞いたいのをぐっとこらえて、後を追った。


 船着き場の周囲には人垣ができて近寄れず、下流方向へと何軒か移動した店の裏手から、フランシスは草の茂った堤を上がる。


 さすがに起伏の多い男爵領で鍛えた足腰は、逞しい。

 私はすっかり置いていかれながらも、何とか見失うことなく土手を登った。


 先に土手に上がったフランシスは立ち止まり、じっと川を見下ろしている。

 私もこっそりその後ろに隠れるようにしゃがみ込み、息をのんだ。


 東京に流れる荒川や多摩川ほどの幅はないが、向こうの土手まで百メートル以上ありそうな、広い河川だ。

 どちらかと言えば浅草辺りの隅田川に似た感じだが、土手はもう少し低く、水面が近い。


 その水の中を、クジラのような巨体が四つ、悠々と泳いでいるのが見えた。


 基本的なフォルムは魚だが、ナマズの顔を大きくして、口にはワニの歯を並べたような凶悪な感じである。不格好な魚竜類といったところか。



 しかも尾が長く、顔を水面から数メートル上げて、周囲を威嚇するように悠々と泳いでいる。

 こんなのに襲われれば、木の台船などひとたまりもない。


 多くの魔術師や兵士が陸から一斉に攻撃を加えても、一頭ずつ撃破するのが精一杯だろう。


 だがこいつらは仲間意識が強いのか、四頭が一団になり固まっている。最初の一撃で他の三頭に水中へ逃げられれば、追加の攻撃をしようがない。


 さすがに、同時に四頭を葬るような攻城兵器や集団遠距離魔法を、こんな街の近くで迂闊に使うわけにはいかないだろう。


 ただ、水中の餌が食い足りないのか、やたらと水上に巨大な顔を上げ、獲物を探すように首を回している。


 最初に船が襲われた時には水中から突然現れた、と言っていた。よほどその時に食ったものが、美味かったのだろうか。


 見ていると、水中を行ったり来たりしてから定期的に、四頭が同時に顔を上げる。

 これは、何か水中の獲物をまとめて狩る手段なのかもしれない。


 後ろから見ていたフランシスの肩に、力が入るのを感じた。全身に魔力が満ちる。


 まさか、こいつやる気か?

 それならば、私も参加せねば!


 フランシスは怪魚の遊泳するパターンを読んで、水上に飛び出た瞬間に何か魔法を撃ち込むつもりらしい。


 そして、その時が来た。

 四頭のナマズが、フランシスの正面に巨大な顎を開いて浮上する。


 川の中央部までは、五十メートル以上の距離があった。


 そこへ電光石火の早業で、得意の氷魔法が発動する。

 アイスランス!


 長さ五メートルはある氷の槍がまっすぐに飛び、一頭のナマズの頭を貫通する。


 だが簡単に致命傷とはいかず、フランシスは二射、三射と追い打ちをかけて、どうにか五本の槍で一頭の魔物を行動不能にした。


 フランシスでも、このレベルの魔法を連射するのは魔力の消費が激しい。


 しかし、一度警戒して水中に姿を消した残る三頭は怯えた様子もなく、再び空中に平気で頭を出している。



 私は最近学んでいる土魔法で、フランシスのアイスランスを真似た土の槍を三本造り、それを横並びにして三体の魔物へ向けて一斉に発射した。


 魔力を展開した瞬間、とんでもない轟音に包まれる。


 あ、やっぱり私に魔力の制御は無理だったわ……

 そう思うのと同時に、フランシスが振り向き私を見つけて、驚愕の表情を浮かべた。


 私は自分の生み出した土の槍が手元からぐんぐんと伸びて、魔物の体を見事に貫くのを見た。


 軽々と魔物を貫いた槍は孫悟空の如意棒のごとく尚もそのまま伸び続け、ついに対岸の土手の上部に突き刺さる。

 再び鈍い音が三つ、ほぼ同時に響いた


 後に残ったのは、こちら側の土手の上から伸びて対岸に突き刺さって並ぶ、三本の巨大な柱である。


 直径二メートル近い銀色に光る金属柱が三本、中央に魔物をそれぞれ串刺しにしたまま、ゆっくりと上下に揺れていた。



「えっと、土魔法って金属も作れるんだねぇ、スゴイや」

「……」

 さすがのフランシスも、私のボケに突っ込むことができない。


「ほら、橋が架かれば、きっと便利になるだろうなって思ってさ……」

「……」

 渾身の力で追加したボケにも、反応がない。


「よく見てよ。これから着火魔法で、ナマズのバーベキューとか……」

「……」

 冗談だから、笑えよ。



 左の船着き場で息を呑んでいた群衆がざわめき始めるのを感じると、フランシスはボケ続ける私の体を抱えて無言で土手を駆け下りた。


 まだこの近くでは、異変に気付いた者はいない。


 そうだな。

 逃げるなら、今のうちだ。無言で雑に抱えられた私に、証拠隠滅を図ろうとするフランシスの、必死の思いが伝わる。


 フランシスは川沿いの料理屋の裏道を駆け抜けて、何事もなかったかのように馬車へ戻った。


 その日から三日間、船着き場周辺の川は封鎖され、私たちは元の宿に戻り、渡し船の再開を待つことしかできなかった。


 私は侍女のミラと二人で街を散策して楽しんだが、父上とフランシスは忙しそうにあちこちへ出かけては、疲れ果てた顔で戻って来た。


 せっかく天が与えてくれた休暇なので、ゆっくり休めばよいのに。意識の高い人は、勤勉だなぁ。



 そして四日後の朝、二つの街を結ぶ新しい橋の開通式が行われ、なぜか我々の馬車が栄えある先頭車両となり、出来たばかりの橋を渡って、マツマツの街へ入った。


 開通パレードのはずが、私たちの馬車の後ろについて来る馬車も人も誰もいない。


 開通記念式典を歓迎する民衆に手を振る父上とフランシスの顔が、蒼ざめて引きつっていたのは、どうしてだろうか。


 三本の金属柱だけで百メートルの川を繋ぐという、構造的にはかなり不安定な橋なので、緊張したのかもしれない。


 でも思ったほど揺れず、快適に渡ることができた。我ながら良い出来だと思う。褒めて欲しいのに、誰もそれに触れようとはしない。


 私には、それがどんな金属なのか知らないが、どう考えても、鉄より軽くて丈夫な素材なのだろうな、としか言えない。


 ともあれ我々は、こうして無事に川を渡ることができたのである。



「アリソン様の造った橋が信じられぬとは、とんだ愚民どもだ」

 頭の中で、ルーナの怒り声が聞こえる。


「それって、もしかして私たちが無事に渡りきるかどうかを試していたってこと?」


「三日間で慌てて木材を敷き詰めどうにか橋の形にしたものの、誰も重い馬車で渡ってみようという者がいなかったようです」


「それで責任を取って、私たちが実験台にされたの?」


「橋の製作者こそが、栄えある第一通行人となるべきだとか言いくるめられました。渡し船の権利を独占するマツマツ側としては、この橋は全く歓迎されていないようですし」


「やっぱりバレていたのか」

「当たり前ですよ」


「……ひどい! もう私たちは渡り終えたから、壊してやろうかしら?」


 まあ、それでは喜ぶセアブラの住民が、少々不憫である。


「マツマツ側が抵抗して密かに姫様の金棒を破壊しようとしたらしいですが、傷一つ付けられなかったようです。いやそれにしても、アリソン様は、危険な魔法兵器ですねぇ」


「今頃出てきて、何言ってるのよ、ルーナ」


「私はアリソン様の身に危険が及ばぬ限りは、無駄な干渉は控えておりますので」

「そう。でも父上とフランシスは死にそうだけどね」


「はは、街の中ならちゃんと止めますよぉ」

「って、本当に安心できるのっ??!」


「アリソン様と一緒にいると、退屈しませんねぇ」

「……」


「もうすぐ王都ですね!」

「楽しそうなのは、ルーナだけだよ……」


「はい、楽しみです」

「頼むわよ!」


「お任せあれ!」

「……」


 やっぱり私は、行きたくない!



 終



 


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― 新着の感想 ―
[良い点] 設定がしっかりしている。 文章が丁寧なので読みやすいです。
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