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貧乏男爵家の次女に転生した私は魔法の天才と一族から期待を寄せられていますが、その才能は、いつになったら開花するのでしょうか? ~略称(貧そい)~  作者: アカホシマルオ
アリソン五歳編

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開花その27 迷宮 中編

 


 洗濯乾燥が終わり、すっきり爽やかだが息も絶え絶えの一行は、食事休憩を取ることになる。


 一応あの黒い粘液が再生しないかの監視だけは、緩めないでいる。なんだか気味が悪いからね。


 先へ進む横穴は一つだけ。そこから何か新たな魔物が来る可能性もあるし、私たちの進んできた横穴からも、新手が追って来る可能性がある。



 この迷宮の特徴の一つに、魔力感知能力の低下がある。


 感覚的には、周囲の岩や土など迷宮そのものに、魔力の伝達が阻害されているような感じだった。魔力自体はある程度残るが、その輪郭がぼやけて平板に感じる。


 レーダー波を吸収拡散するステルス兵器のようなものか?


「どこの迷宮でも、そうなのかな?」


「そもそも魔力はあの星片の水晶でないと測れないもので、姫様以外に魔力を感知できる人物など知りませんから……」


 プリスカに、はっきりとそう言われてしまった。


「あ、つまりこの迷宮の岩には、あの水晶と同じ性質のものが混ざっていると……」

 だから魔力により、ぼんやりと内部が光っているのかもしれない。


 そうして地下空間の魔力が吸われて、減衰しているのだ。


 だとすると、ここへ集まっている魔物は魔力に吸い寄せられたのではないのか?

 もしかすると別の何か、特に人為的な何かによって集められているのでは?



 そこから先は、途中で分岐した洞窟が延々と続く。プリスカがマッピングし、エルフたちが複数の目印を付けながら、僅かでも強い魔力を感じる方向へ我らは進む。


 あの黒い粘液以降、初めて見る妙な魔物が増えた。


 機雷のように空中を漂い、炸裂すると薄いナイフの刃のような石片を無数に飛び散らす物体。


 天井から落ちた液体が瞬時に固化して、肉体の自由を奪うもの。


 近寄ると、黒板に爪を立てたような気が狂いそうな大音量を発するサボテンのような生き物。


 そんな、罠と魔物の中間のようなものが混じり進行を難しくさせている。



 突然広い場所に出て猛吹雪に視界を遮られ足を止めると、雪だるまのような魔物に囲まれていた。


 これは見た通りに火炎系の魔法に弱く、プリスカの魔剣が活躍して事なきを得た。


 赤熱する溶岩を纏ったウルフの群れは、素早く動き回り手強かった。

 これは、師匠の氷雪魔法により群れ全体を弱体化させることができた。


 その他多くの魔物はエルフの魔弓とプリスカの魔剣により駆除された。



 次の中ボスは、風の刃を纏った神社の注連縄しめなわのような化け物だった。


 魔法も物理攻撃も、遠距離系の攻撃は全て避けるか無効化されてしまう。


 エルフの結界も魔物が常に放っている風刃の物量により徐々に削られ、何度もかけ直す必要があった。


 ところが、意外な突破口があった。

 結界内に隠れていると、そこを集中攻撃される。


 そこで思い切って結界を出て、散開してみた。思った通り風の刃も散り散りになり、各個で避けるのが容易になった。


 エルフの三人が放った魔弓による物理攻撃を私が風魔法で補助し、様々な場所へ誘導しながら弱点を探っていた。

 すると偶然、こちらの強力な風魔法で注連縄の纏う風刃を引き剝がすことに成功した。


 しかも吹き飛ばした風の刃を、逆にこちらの武器として再利用できることが判明した。


 風魔法には、より強力な風魔法で対抗すれば良かったのだ。

 そこから先は、全員の風魔法で注連縄をズタズタに切り刻んで勝利した。


 ひょっとして、これは最初からかなり弱い魔物だった?



 遂に、最下層らしき場所へ辿り着いた。


 広い空間に数十匹の魔物がひしめき、その後方にひと際巨大な獣の尾のようなものが浮いている。


 モフモフの狐の尾のような、得体の知れない物体だ。

 しかし、そこからは心をざわつかせる、強力な魔力が発散されていた。


「えっと、尾から先に生まれた、妖狐の一部分?」


「いや、あれは毛の一本一本が意思を持って動く、イソギンチャクやワームの一種かと思われます」

 プリスカは、以前似たような魔物に遭遇したことがあると言う。


「もっと遥かに小型のワームでしたが、防御力が高く苦戦しました」

 モフモフの毛ではなく、触手だとは気味が悪い。


「前衛の魔物たちを、先に片付けましょう」

 プリスカが先頭になり、切り込む。


 中距離からエルフの弓矢が援護する。


 後方からはフランシスが魔法で援護を続け、私は妖狐の尾に注目していた。



 前衛の有象無象の魔物たちも、防御力が高い。これはあの尾から発する支援魔法を得ているからだろう。


 私は例の魔法の弾丸を収納から出し、大量に風魔法に乗せて後方の尾へ集中攻撃した。


 さすがに大したダメージはないが、連続攻撃により自身の防御へ力が集まると、前衛の魔物に対するバフが疎かになる。


 これは、時間の問題だな。早く、一息に片付けてしまおう。

 そう思う心の隙を、魔が差す、と言う。


 私たち六人が六人とも、同時に魔が差した。いや、悪魔に心の中を見透かされ鋭い剣先で刺されたのだった。



 私の連発する魔力の弾丸は、攻撃手段としては弱い。それはこういう閉鎖空間内でも魔法を使えるようにと、威力を調整してあるからだ。

 一撃で吹き飛ばすと、後でフランシスに怒られるからね。


 だから一見派手に連続攻撃が炸裂しているように見えても、強い相手へのダメージはほぼない。ただ一瞬気を取られて思考を止めた。その瞬間だけが、唯一のチャンスだったのだ。


 だが、私たちはそれを逃した。


 こちらが攻勢に転じた瞬間、狐の尾は空中で分裂し九本の尾となり、花開くように広場へ広がった。


 その一つ一つから、魔法耐性、物理攻撃耐性、瞬発力上昇、物理攻撃力上昇、魔力・体力回復、等々、様々な魔法が周辺に降り注いだ。


 死に体だった数十体の魔物の群れはより強力な力を得て、瞬時に復活した。


 前のめりになった攻勢は全てを軽く防がれて、こちらは丸裸で敵の集中攻撃を受けることになる。


 私たち六人に対し、一人当たり中型の魔物十体近く、プラス狐の尾が一本プラスアルファ。


 ひとたまりもなかった。



 咄嗟に結界を張ったエルフ三人は結界ごと吹き飛ばされ、何とか意識を失わずに魔弓を連射しながら結界を張り直した。


 結果的には、後方へ吹き飛ばされた分だけ運が良かった。だがこのままでは囲まれて、一方的な攻撃に晒されるのは時間の問題だ。


 最前線のプリスカは、乱戦に巻き込まれている。新たな剣の付加能力を目いっぱいに利用して、囲まれた魔物との息つく暇もない攻防に晒されている。


 師匠は水と氷の障壁を利用して何とか後退し、プリスカの援護に回ろうと必死で動いていた。


 フランシスには攻撃よりも、治癒や回復魔法の力を残しておく役目がある。



 私は最初から見ていた狐の尾を何とかすべく、無謀にも風魔法により花のように広がった尾の中心に向けて飛んだ。


 空中の私に向けて、触手が伸びる。


 ルアンナと私の二重の結界は容易く破れないが、その触手の内容がエグイ。


 一本一本の毛に見えた触手は、それぞれが独立した攻撃手段を持つ。

 電撃、致死毒、素早さ低下、混乱、眠り、幻影、麻痺、閃光、刺突、爆裂、乱気流、等々……


 これを受け流すのは何とかなるが、正面から全てを受け止めておかないと、他の五人へこれが向かったら耐えきれないだろう。



 だから、私は攻撃の手を緩めるわけにはいかない。


 プリスカに渡したものよりも一回り小型の剣を、私は収納から取り出した。


 剣の修行はサボっていて心もとないが、今はそんな事を言ってはいられない。

 私の魔法は、迷宮内では自主規制により封印されている。


 その対策がこの剣だ。


 プリスカの剣と違い、魔法を放出する能力はない。ただこの剣の無類の強度と魔法による強化の限界まで魔力を込めて、その後は無暗やたらと振り回すのみ。


「さて、結界同化、身体密着。身体強化最大。高速回転。急降下。超高速空中機動!」


 私は両手で握った剣を体ごと回転させて、空中から九尾へ襲い掛かる。目を閉じ、魔力感知だけを頼りに九本の尾を刈りに行った。



 そこから先は、私が九尾を倒すか他の五人がやられるか、時間との戦いだ。


 だが私は、仲間の力を信じる。


 人間刈払い機と化した私は、手当たり次第に魔物を刈る。

 標的は九本の尾であるが、近寄る魔物は全て敵と認識して躊躇はしない。


 恐らくその混乱に乗じて、プリスカは上手く立ち回るだろう。


 風魔法と結界に守られた私に、有効な攻撃は当たらない。高速で移動する私はエチケットカッターと化して、触手のムダ毛処理を開始した。



 ムダ毛ばかりのモフモフ刈りが功を奏し、触手の数は減り始める。

 最後の一本を刈り払ったところで、私は上空へ退避して回転を止め、目を開いた。


 部屋の中央に血まみれのプリスカが、剣を杖にして辛うじて立っていた。


 その周囲には、累々たる魔物の死骸。


 更に壁際には、必死でエルフたちの治療をする師匠の姿があった。



 私は師匠の横へ降り立ち、横たわったまま半死半生の三人のエルフに、続けて治癒魔法をかけた。


「な、こ、これは聖魔法!」

 魔力切れのフランシスは、目を回して倒れた。


「師匠も治療してあげるね」

 私はフランシスにも治癒魔法をかけると、まだ動けないプリスカの元へ行く。


「おい、生きてるか?」

「……」

 返事はないが、息はしているようだ。


 私はプリスカの胸に手を当て、治癒魔法を使った。


「……姫様、ご無事で?」

「それは、こっちのセリフだよ。大丈夫か?」



「この通り、何とか命だけは……あれ、いやこれは。どこも痛くない!」


「じゃ、みんなのところへ行こうか」

 私はプリスカを従え、師匠の下へ行く。


「姫様、終わったのですね?」


「ああ。魔物は倒した。これから迷宮のコアを探しに行こう」


「私は、どうして無事なんでしょう?」

 上半身を起こしたネリンが、私たちを見上げる。


「すまない。君たちに渡した魔道具の最終モードは、残された魔力で所持者の周囲に結界を張り続けることだった。その強度が、少し不足していたかもしれない……」


「でも、そのおかげで私たち、こうして生きています」


「で、姫様。いつの間に聖魔法を?」


「ん? 何の話か分からないな。あれは指に刺さった棘を抜いて小さな傷を癒す生活魔法だぞ」


「いえいえ、それは絶対に違います!」


「ま、いいじゃないか。みんな元気なのだから。早く迷宮のコアを探しに行くぞ!」



 後編へ続く



 


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