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貧乏男爵家の次女に転生した私は魔法の天才と一族から期待を寄せられていますが、その才能は、いつになったら開花するのでしょうか? ~略称(貧そい)~  作者: アカホシマルオ
アリソン五歳編

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開花その3 旅支度 前編

 


 ウーリ騒ぎの後始末として、師匠は一時森の結界の総点検に駆り出されていた。その間私は放置で、伸び伸びと過ごした。ああ、ここは天国か。

 でも日課となった瞑想だけは、していたけど。


 集中瞑想というその瞑想法は、壁などに寄りかかって座り、体の力を抜くところから始まる。


 自分の肉体を含め周囲の全てから意識を切らさず、あらゆるものに意識を集中する。


 ただ、そこにあるものを、あるがままに意識するだけで、解釈したり、考えたりしてはいけない。何もかもありのままに、そのままで自分の中に受け入れるのだ。


 内外に感じる魔力や鋭敏になった五感を遮断せず、ありのままに受け入れるのは、非常に困難な作業であった。


 しかし、それだけで魔法が使えるようになるほど甘くない。


 その後、仕事を終え戻った師匠の前で私は一度覚えた着火魔法すら失敗し、大いにため息をつかれることになる。



「ねえ師匠、虹色の魔力ってなぁに?」


 一向に進捗の見えぬ私の魔法修行にキレ気味になった師匠の頭を冷やそうと、私は何気なく話しかけた。


「はい。それは、有名な賢者様の魔力ですね」

 フランシス師匠は、即座に答えた。


「賢者様?」


「そうです。先日姫様が読んでおられた王国史にも記されている、史上最高の魔術師、エドウィン・ハーラーのことです。彼は歴史上唯一、賢者と呼ばれた存在です」


 うん、それは覚えている。が、ここはもっとフランシスに気持ちよく語らせるべきだろう。


「へえ。もっと詳しく教えて」


「仕方ありませんね。もう百五十年以上も昔の人物ですが、今でも賢者様と言えばただ一人、虹色の魔術師の異名を持つ、エドウィン・ハーラーを指します」


 そう言いながら師匠は胸を張るが、確かその人物は阿片中毒で、最期は内戦に巻き込まれて暗殺されたのではなかったか?


 歴史書はその戦いに勝利した今の王家寄りに記されているので、敵方にいた賢者様には割と厳しめの記述になっているのだろう。


 しかし師匠の傾倒ぶりを見ると、現在でも魔術師の間での賢者推しは多いのだろう。


 私は元々五歳にしては出来過ぎた良い子だったので、読み書きも得意であった。体も弱かったので、館にある図書を片端から読み漁っていたのだ。


「姫様も後の世にきっと、水晶砕きのアリソンとして名を残されることでしょう!」

 調子に乗ってフランシスが、余計なことを言う。


「それは嫌っ!」

 そんなセンスのない異名はいらない。でもきっと父上が何とかしてくれるだろう。



「で、その虹色の魔力とは、何なの?」


 私が星片の儀で一瞬見た虹色の光と、ルーナの言っていた、虹色の魔力というものが、気にかかる。


「賢者様の魔法は、あるゆる属性を超越していたと伝えられています。それは精霊魔法とも呼ばれ、四大精霊のみならず、無数にいるあらゆる精霊の力を借りて他の魔術師には不可能な、様々な魔法を行使できた、と言われます」


「それは、私の白い魔力とはどう違うの?」

「うーん……」


「別に、遠慮せず正直に言っていいんだよ」


「白い魔力は四大精霊の基本魔術、最低限の生活魔法への適性のみを示しています。一般的には、複雑な術式が必要な初級以上の魔法は使えません」

 そこまでは、前にも聞いた。


「でも姫様がその気になって着火の魔法を放てば、恐らくは宮廷魔術師のファイヤーランスを超える威力の着火魔法となりましょう……まさしく、死を呼ぶ生活魔法使い」


「いちいち、変な異名を付けないで。でも、それは困ったわね……」


 実は、着火魔法の練習中に収束したビームのような熱線が出てしまった。まだ威力は弱いが、ろうそくの芯に火を点けようと集中した成果が、変な方向に花開いている。


「そうなのです。姫様の教育は、私のような凡庸な魔術師の手に負える仕事ではございません……」


「大丈夫。フランシスのおかげで、私は着火魔法が使えるようになったんだから。自信を持って!」


「うう、姫様に慰められると、複雑な気持ちです……」



「で、ルーナ。私の魔力を虹色の魔力と言ったわよね」

 夜になって眠る前に、私はルーナに話しかける。


 しばらく沈黙を守っていたルーナの声が、頭の中へ響く。


「そうです。虹色の魔力は精霊王の証。人間の魔術師はあれこれと複雑な術式を構築しなければ多種多様な魔法を行使できませんが、精霊王にはそんなものは必要がありません。念じていただければ、その通りに精霊が魔法を行使します」


「そんなことができるの?」


「はい。ただ、精霊にも色々な者がおりますので、姫様のご希望通りの結果が得られるかどうか。そこで、私が精霊を代表して姫様にお仕えいたします」


「そうだったのね。ありがとう。これからもお願いね」


「はい。しかし私は確信しています。姫様の真の力を目にすれば、全ての精霊が有無を言わず姫様に従うでしょう」


「真の力?」


「はい。姫様の持つ巨大な虹色の魔力は比類なきもの。早晩この世を統べることとなりましょう」


「ははは。私にはこの世を滑るとしか思えないけどね……」



 魔法の訓練は屋内では危険ということで、堅固な石壁に囲まれた中庭が訓練場となった。


 ある朝行ってみると、庭の中央に、直径二メートルはあろうかという巨岩が置かれていた。

「師匠、これは?」


「はい、小さな的では当たらないし、しかも、当たれば即座に粉々です」

「そうですかね?」


「だから、頑強な的を作りました」

「これは、師匠の土魔法で作ったの?」


「そうですよ」

「桃みたい」


「では、この岩を水魔法の的にしてください」

「でか過ぎ。水さえ出れば当たるでしょ」


 それから私は毎日水を桃岩に当てようと努力するのだが、そもそも水が出ない。私が習っているのは、ちょびっと水を出すだけの生活魔法なのに。


「姫様。だからこれは……」

 ヤバい。ついに師匠がキレかけてる。


「はいはい、わかってますよ。確か、選択と集中でしたね!」


「はぁ、何を言っているんだ?」

 師匠、素が出ているぞ。


 でもさすがに、今のままではマズイ。

 フランシス師匠の労働生産性のあまりの低さに父上が気付けば……そろそろクビだね。


 私も焦る。そうそう、師匠が言ったのは一点集中、それだ。


 そうして気を取り直した私の指先から、ついに一点に集中した水が放たれる。


 極限まで絞られた超高圧水が、巨大な桃岩を工業用ロボットのように楽々と縦に二つに切断した。



「おおっ、ついにやりましたなっ!」


 だが同時に岩の向こう側から、護衛騎士の悲鳴が上がった。

 私は縦に二つに割れた岩の前で、顔面が蒼白になる。


「き、騎士殿は無事かっ!」

 師匠の悲痛な叫び声が、中庭に響いた。


 岩の向こうで騎士が鎧ごと真っ二つに切り裂かれている情景が、私の脳裏に浮かぶ。


 顔を引きつらせながら岩の向こうへ行くと、予想通り岩を貫通した水流は騎士の甲冑に当たり、盛大に水しぶきを撒き散らしていた。


「おお、驚きましたがこれは涼しくて快適。しかもご覧あれ、青空に虹が生じてございます!」


 嬉し気な騎士の声に、私は気が抜けてその場にへたり込んだ。

 これも、ルーナが暴走を抑えてくれた効果なのだろうか?


 私の隣に立つ師匠が小さな虹を見上げ、感極まったように言った。

「やはりそうでしたか。本当の姫様の魔力は虹色だったのですね?」

「あのね、この虹は全然、私とも賢者様とも、何の関係もないよ!」



 高圧水による桃岩の切断に、成功してしまった。


 私はただ、テレビショッピングの画面で黄色い高圧洗浄機を手に愛車を洗う日曜日のお父さんをイメージしていただけだ。

 きっと、それにより水魔法がなかなかいい具合に脱力していたのだろう。


 これは集中とは真逆の、雑念による成果なのである。

 師匠、こんなのでいいのか?



 思えば、私が前世で挑んだ岸壁は、自己の研ぎ澄まされた能力を存分に発揮すれば登攀可能な壁であった。

 不慮の落石という事故は、私に運がなかった、それだけのことだと思っている。


 だから私は、ある程度の危険が伴う壁を前にすれば、それを越えようと努力し、心が踊る。


 だが、現在私の前に立ち塞がるこの魔法という壁は全く手応えがなく、日々続く鍛錬の方向性すら疑うレベルで高く果てしない。しかもなんか不気味に柔らくて分厚いのだった。



 相も変わらず魔術修行の迷路にハマった私が一日を振り返り苦悶していると、館の中が妙に騒がしい。


 修行を終えて自室へ戻り、侍女の手を借り汗と涙と泥にまみれた服を着替えていると、フランシスが私の部屋へ血相を変えて入ってくる。


「姫様、無事でしたか」

 無事も何も、ついさっきまで修行という名の拷問を延々と受けて、ほぼ死にかけていた私である。


 私が無事でないとすれば、それは間違いなくあんたのせいだぞ。


「実は、メイリーン様の所在が分からなくなっております」

「なに、姉上が!」


 まだ七歳とはいえ華のような愛らしさを振りまく姉上は、私と違い、それはそれは大切にされている。


 何しろ、姉上様専属の護衛だって相当に多い。私の場合は、師匠だけだよ。あれ、この差はなんだ?


 その警護の網をくぐり抜け姉上の身に何か起きるなど、あり得ないように感じる。


「フランシス、何があったの?」

「いや、私もまだ詳しいことは……」


 なるほど。大急ぎで私の無事を確認に来ただけなのか。



「大丈夫。アリソン様はルーナが守っていますから」


 頭の中で、ルーナの声が聞こえた。

 最近ではルーナと話すのにも馴染んで、ルーナ自身の口調も柔らかくなっている。


「ルーナ、姉上の居場所を探せる?」


「承知しました。やってみましょう。アリソン様は、決してフランシスから離れぬように」

 月の精霊ルーナの気配が遠くなる。



 私は着替えを済ませると、ベッドに腰を下ろして瞑想の態勢に入っていた。


「アリソン様。戻りました」

 十五分ほどして、ルーナが戻ってきた。


「どうだった?」

「見つけました。メイリーン様はご無事です」

「そうか。よかった……」


「しかし、どうやら賊の狙いは、メイリーン様ではなくアリソン様だったようです。アリソン様は先日の一件以来、館から一歩も出ずに修行を続けておられましたので、賊はアイリーン様と間違われたようです」


 本日外出しようとした姉上は、馬車に乗る前のほんの短い時間に門前から忽然と姿を消した。


 状況から考えて、内部の人間が手引きをしたことが疑われる。


「私と間違えて、姉上が攫われたの?」

 そんな馬鹿な、と私は思う。内部の人間が手引きをして姉上と私を間違えるか?


「でも、どうして私なんかを狙うのでしょう?」

「それは、賊を捕らえて直接聞けばわかることです」


「で、姉上のいる場所は?」

「ここから東の峠を越えた場所にある、傭兵の守護する小さな砦。そこに捕らえられております」



 後編へ続く




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