表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
貧乏男爵家の次女に転生した私は魔法の天才と一族から期待を寄せられていますが、その才能は、いつになったら開花するのでしょうか? ~略称(貧そい)~  作者: アカホシマルオ
アリソン五歳編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

3/211

開花その2 月の精霊

 


「地下通路のオケラどころか魔獣ウーリや森中の魔物まで行動不能に陥れたあの恐るべき魔法は、解けかかっていた古代封印魔法に対する何らかの魔力干渉であったと考えれば、筋が通るものです」

 師匠によればそんな理屈を唱えてゴリ押しし、全力で言い張り押し通したらしい。


 つまり、男爵家お抱えの大勢の魔術師がウーリの封印を戻そうとした、集団魔法による一つの成果であったのだと。


 だから王都の調査団も、腕利きの魔術師を多く抱えるこの男爵領ならではの奇跡として捉え、一応は納得して帰還した。


 結果として、魔獣ウーリを倒した実績と平原へのスタンピードを未然に防いだ功績は大きく評価され、貧乏貴族には余りある名誉と報奨を頂戴することになるらしい。


 だが事情を知る師匠は、それが私一人の魔力により成された奇跡であることを確信している。


 私は必死にフランシス師匠を説得し、脅し、懇願し、最後は幼児特権の駄々をこねて口止めを図った。おかげでまあ、成果はあった。


 とはいえ、本来師匠が仕えるのは領主である父上で、更に言えば王宮を頂点とするこの国の王家である。


 師匠が忠誠を誓う国に対して、この五歳の小娘に大きな利用価値があると判断すれば何をしでかすのか、されるのか、判ったものではない。


 今は何とか私の才能を開花させることが自分の役割であると、密かに使命感の炎をメラメラと燃やしているに過ぎない。

 私は何とかしてこの師匠のメラメラを、始末せねばならないのだった。


 あくまでも私の望みは、この自然豊かな谷間でのんびりした暮らしを楽しむことである。


 私は別に腕利きの魔法少女や姫騎士とかになって、民草を守ろうなどという大志を抱いてなどいないのだ。


 北アルプスの岩壁で落石に打たれて、若い命を散らした私である。今度こそ美しい異世界の山中で、のんびりゆっくり暮らしたいと望んでも、罰は当たらないと思うのだが。だよね?



 私の修行は、一向に結果が伴わない。五歳の幼女が痛々しいほど懸命に魔法のお稽古をする姿を毎日見続ければ、どんな鬼畜であろうが涙を流して同情し、やがては許すのではなかろうか?


「まことに残念ですが、お嬢様には魔法の才能がございません……(泣)」

 師匠がそう両親に申告する日を、今から夢に見る。


 そんなわけで、私は必死に魔法修行に励むふりだけを続ける。


 集中して、と言われれば眉間に皺を寄せて心を無にし、ただ杖の先にトンボが止まるのを楽しみにして辛抱強く待つ。


 これで魔法が発動するのなら、この世界の子供は全員が大魔法使いだろう。


「むぅ、杖は魔力を集中、増大させるので、姫様が扱うのは危険ですな」

 せっかく父上が用意してくれた杖も取り上げられて、私は大いに不満だ。


 それでも何もしないのは気の毒なので、気が向けば師匠の言うとおりにやってみることもある。


 私は魔力の出力を最小限に留め、周囲に被害を与えぬよう、持てる制御能力を最大限に発揮して細心の注意を払い、どうにかやっと燭台に火を灯した。


 何週間もかけて着火の魔法を無事に成功させたときには、安堵のあまり失神しそうになった。失禁じゃないし、ちびってもいない。


 こんなに大変な思いをして、ただ一本のろうそくに火を灯しただけなのだ。もう一生魔法には関わりたくない。


 考えてみれば、それが自分の意志で初めて使った記念すべき魔法だったのかもしれない。

 だが、師匠はその小さな成功体験に快感を覚えてしまった。危険だ。



 そもそも、異世界に転生し、せっかく魔法という能力を授かったのに、それを使わずに我慢するのも正直言ってなかなか難しい。


 このまま魔法を使わずに暮らすには、相当の自制心と精神力が必要となるだろう。

 そして、魔法を使うのにも同様に、巨大な自制心と精神力を求められている。


 どうせなら、しっかり修行をして制御能力を手に入れて、目立たず密かに暮らすのが最良だ。なぜベストを尽くさないのか。


 私は、意識高い系脳筋魔術師のフランシスも制御すべく、奴の弱みを握ろうと邪な考えを巡らせる。

 改めてフランシスの行動をじっくりと思い返してみると、彼女の弱点が一つ見えて来た。


 フランシスは腕利きの魔術師だが、二十代後半に差し掛かった独身女性で、この世界では行き遅れのアラサー女子である。


 気になる殿方の一人や二人は、いるだろう。いや、きっといる。いるに違いない。では、なってやろうじゃないか、恋のキューピッドに。


 そこで色々思い返しつつ、師匠の監視を強化した。そして私は、見てはいけないものを見てしまった。

 そりゃもう恥ずかしいくらいにあちこちで男に媚を売り、引かれまくっている師匠の姿を。


 私の住む男爵家の館は谷の左岸中央の段丘上にあり、領地の中心となる谷をよく見渡せる場所だ。


 田畑の広がる谷には集落が点在し、更には森の中で働く木こりや猟師、それに炭焼き小屋や焼き物を焼く窯で働く人々を魔物から守るための結界柵と砦が、森の中へ続いている。


 以前のフランシスは領内あちこちの砦で修行をしつつ、魔除けの結界を張り直したり、森へ入って魔物退治の仕事をしたりと、様々な場所へ出入りしていた。


 砦に詰める部隊は主に武器で戦う騎士団や傭兵と共に、魔術師が何名か配置される。魔物との遭遇戦の多い男爵領では、秀でた魔術師は特に優遇されるので、国内から腕自慢が集まる。


 森の中の砦や町の警護のためにあちこち移動しながら勤務する中で、多くの者は顏なじみであった。


 この辺境の地で魔物と戦う騎士は元々身分も低く、単なる雑多な兵士の寄り集まりである。中には一人くらい、物好きな男がいてもおかしくはない。


 私は魔力が解放されて以来五感が異常に研ぎ澄まされて、様々な噂話が勝手に耳に届くようになった。


 五歳の幼児が、まさかそんな大人の事情にまで聞き耳を立てているとは、夢にも思わないのだろう。私が近くにいても止まらない侍女たちのおしゃべりは、色々と参考になり、面白かった。


 酒に酔っては男へ言い寄る師匠はこの谷ではある種の有名人で、故に師匠へ近寄る男は既に誰一人いない。


「アリソンお嬢様の魔術師範にフランシス様が選ばれて、館にいることが多くなったでしょ」

「ああ、だから最近、ここの警護の男たちが落ち着かないのか」

「お部屋に居がちなアリソン様を、フランシス様がもう少し館の外へ連れ出してくれると思ったのにね」

「でもそうなると外でも男に絡んで、また騒ぎを大きくするだけでしょ……」

「そりゃそうだ」


 館の洗濯女の噂話に毎日上るほどに、その悪名は轟いているのだった。

 以上、恋のキューピッド終了。


 だが、それでいいのかもしれない。師匠以外に、私の秘密をこれ以上知られるのも嫌だ。

 師匠には悪いが、結婚、引退のコースはナシだ。



 そんなある日、私はメイリーン姉さまと二人で、隣の集落にある小さな教会を訪ねた。


 集落の入り口近くに馬車を止め、歩いて教会へ向かう。

 先導してくれるのは、迎えてくれた集落の長だった。


 教会の入り口では、司祭が待ち受けている。


 高く立派に見えた教会の尖塔だが、近くで見れば古くて貧相だ。さすが、我が貧乏男爵領である。


 そのまま司祭を先頭にして教会に入り、誰もいない礼拝堂の中へ入る。


 礼拝堂の奥にある祭壇には、土、水、風、火の四大精霊以外にも多くの精霊像が祀られていて、何が何やらわからない混沌とした空間を作っている。


 その混沌を目にした瞬間、何か大きな塊が私の中へ入り空虚だった隙間を埋めてくれるような快感に襲われ、小さな脳髄が震えた。


 それは難解なパズルの最後のピースがぴたりとハマった時のような、満ち足りた気持ちだった。


 私は多幸感に包まれながらも同時に、何か不要な物までが解放されたような不安を感じる。

 それは朝陽のように輝く五歳のアリソンではなく、異世界から死の穢れを運んだ夜の闇のような女に向けて突き刺さったのだ。快感が、悪寒に変わる。



「まさか、姫様お二人をお迎えすることになるとは、思いませんでした」

 丸顔の司祭は、満面の笑みを浮かべる。


「アリソンも五歳になりましたので、そろそろ領内を知る頃合いでしょう。今日は母上のお許しを戴いてまいりました」

 姉上は、話しながら私を見る。


「そういえば、アリソン様は大層な魔法の才をお持ちであるとか」

 司祭は笑顔を崩さずに語る。


「ふふ、水晶砕きのアリソンの名は伊達ではありませんよ」

 姉上は嬉しそうに語るが、実際にまだ着火魔法しか使えない私の気持ちは、少々複雑だ。


「その呼び名は、やめてくださいませ、姉上……」

 私は顔を赤くして、下を向いた。


 それから私たちは、教会の祭壇で念入りに精霊への祈りを捧げ、教会へ精一杯の寄進をして帰路に就いた。



 昼食前に館へ戻れそうな時間なので、おやつとして侍女が出してくれたサナの実を馬車の中で食べた。これは種のないサクランボのような果物である。


 器に盛られた果実は生温く、私がその上に軽く手を翳すと冷気の魔法により、凍る寸前にまでよく冷えた。


「やはりサナは、冷やすと美味ですね」

 姉上が喜んだので、私も嬉しい。二人で食していると、暇そうに外を見ていたフランシスが異常に気付いた。


「こ、これはメイリーン様の魔法で?」

「まさか。こんなことができるのは、アリソンだけよ」


「えっ?」

 私は、フランシスと目を合わせた。


「いえ、これは私の魔法ではございません……」

 フランシスは首を振って、更に私をじっと見る。


「でも、今アリソンが果実に手を当てて冷やすのを見たわ」

「あれっ……そんなことをしたような気もする」


「姫様。どういうことですか、これは?」

「……」


 フランシスは、私が魔法を使えないふりをしてサボっているのではないかと疑っている。


 だが私は本当に、着火魔法以外に自分の意志で魔法を使ったことはない。

 今回も、完全に無意識の行動だった。


「アリソン様。水が凍るほどの冷気魔法はその辺の生活魔法とは違い、遥かに難易度の高い魔法ですぞ」

 そうだった。


 フランシスは微かに白い霜を被ったサナの実を一つ口に放り込むと、目を丸くする。


「ここまでの冷気を一瞬で操るには、単なる冷風魔法とは別次元の魔法が必要です」


 それには、生活魔法とは違う強力な魔術を組み合わせた複雑な術式が必要となるらしい。

 そんなことが瞬間的に、魔道具もなしで、私にできるとは思えない。それに、氷の魔法はフランシスの得意技ではないか。


「姫様。いったい何をされたのですか?」

「……さあ?」


「ねえ、フランシス。今日は果実が器ごと砕け散ったわけでもないし、いいんじゃないの?」

 姉上が大らかに微笑み、私を庇ってくれる。


 私は目を潤ませて、隣の姉上に抱きついた。

 そのまま、向かいに座るフランシスを見上げる。


「はあ、姫様二人には敵いませぬ」


「ほら、冷たくて美味しいから」

 袖の下を渡す悪徳商人のように、私は侍女とフランシスに向けて小さな手で掴んだ果実を差し出した。


 よし。姉上のお陰で、うやむやにして乗り越えたぞ!



 その夜私は、深夜に目が覚めた。

 小さな窓から月明かりの差し込む部屋の中に、不思議な気が満ちていた。


「やっと姫様にお目にかかれました。ウーリの件ではすっかりお世話になったので、お礼をしたかったのです。しかし姫様の気配は隠れて、見失っていました。今日は教会へ来ていただき、やっと我らの道が交わりました……」


 ああ、それはきっと、教会の祭壇を見たときに感じた、不思議な感覚のことを言っているのだろう。私は即座に理解した。


「そう。魔力封じの腕輪と、姫様の師匠の魔法と、この館の周囲にある結界。それらが今も姫様を守っておられる」


 昼間の冷気の魔法も、あなたなの?


「いいえ。あれこそが姫様のお力。虹色の魔力を持つ姫様であれば、あらゆる魔法を生活魔法のごとく扱えるのが道理」


 うう、それは困るな……


「確かに、幼き姫君には時期尚早。そこで暫しの間、我が協力させて戴きます」


 あなたは?


「我は月の精霊ルーナ。今後は、常にアリソン様の傍におります」

 ルーナの気配が拡散した。


 これが月の精霊ルーナとの出会いだったが、昼間教会で感じた悪寒の意味を、私は後に、身に染みて知ることになる。



 終



 


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ