今(4) 予感と思い
太陽は高く、空は真っ昼間の色のままだった。風の感触や温度、聞こえてくる音も、何も変わっていないように思える。まるで、唇や肌を重ねている間、時間の進まない場所にいたみたいに。時計は知らん顔で事実を告げていたとしても。
――なんで開いてたんだろうね。
途切れた会話をまた始めるような調子で彼女が発した言葉を聞けば、なおさらそう感じる。ちょうど校舎を出たところでそう言った彼女は、明るく微笑んでいた。
――これから机とかの荷物出したり、するんじゃないの。
――あぁ、そっか。終わったら、壊されちゃうのかなあ。
――そのままほったらかしでしょ。他のところみたいに。
――じゃあ校庭は使えるかな。練習場所にできるかも。
――いや……美由紀は、部活とか、やらないの?
――えーっと……そっか、ごめん、ずっと練習続けるって思ってた。そうだよね。
困ったような笑顔から、ごくうっすらとした、寂しげな微笑へと、彼女が表情を変えた。
――もう、部活決めてる?
――ううん、まだだけど……
――じゃあ、決めたら教えてよ。練習続けるなら、私、付き合うから。
答える言葉が見つからず、私はただうなずいた。彼女の表情は、何だか、それまでの笑顔の持っていた熱みたいなものが穏やかになって、初めて目にするように思えた。
――またね!
ネクタイが少しだけ緩んでいたままの彼女は、帰り道の別れることになる交差点で、差し出した手を振って、明るくそう言った。そして、坂道を元気よく歩いていく。
また。それはいつまで繰り返されるのだろう? きっといつかは終わることになる。何年も後になのかもしれないし、もうこの日がそうなのかもしれない。
私たちの、私たちだけの時間が、いつまでも続いてほしかった。それを私は、当然のことだと思っていたから、自分がそう望んでいると、気づきすらしなかった。失う感覚を、予感以上に強く心に受けたこともあったのに。
だけどこの先、彼女は変わっていく。今の彼女が、出会ったときに対してそうであるように。ずっと、言葉を共有することもできなかった。ではどうすれば、私の思いを、伝えられるのだろう。私にだって、はっきりと見定められもしない思いを。
ガードレールの向こう側に延々と広がる海が見え、輝き、その先で接する空は白く、中天に向かって青くなっていった。どこまでも続くように、深々と青く。
いつまでも。私に見つけられた言葉はそれだけだった。ゆらゆらと揺れる心を感じながら、私は一人の道を歩いた。心の有様を見つめて、それをどうやって伝えればいいのか、その先のことを考えながら。
――もちろん、分かってるよ。私も同じだから。