今(1) 空の下で
美由紀は何を着ても似合う。初めて見る高校のブレザー姿は、今までとはまるで別人のようだったけれど、その驚きのすぐ向こう側に、いつもの彼女がいた。
私たちの他に誰もいないグラウンドの真ん中で、使い古したボールを投げ合う。最初は近かった距離も、新しい制服を着たまま力を入れる方法を見つけたから、大声じゃなければ届かないくらいまで遠くなっている。
明るく笑いながらボールをグラブで受け取るけれど、それを左手で握り直す頃には、引き締まった顔になる。そしてゆっくりと、しかし体全体を使って、私に投げ返す。それで受けるしびれるような感触には、彼女が込めた思いが重みになっているみたいだった。
私はそう感じる。だから投げ返す時、それに応えなければいけないと思って、力が入る。向こうでは、美由紀が笑顔で待っていた。何がそんなに楽しいんだろうと思うくらいだけれど、きっと私も、同じくらいそう感じている。
一ヶ月ほど前に、私たちはこのグラウンドのある中学校を卒業した。ただしその少し後、学校そのものがなくなるので行事のために来ることになり、それが本当の最後になった。だから、建物の外面は何も変わっていなくても、今はここに誰もいない。
緩やかに、しかし広々とした風が吹き抜けて、空気は冷たくても、日差しは穏やかに暖かかった。私たちが、この空間全部を独占していた。
――なんか気持ちいーね。
木陰に鞄やらを置いてから並んで歩いていたとき、そう言った彼女に振り向くと、にっこり笑っていた。彼女のような快活さでは答えない私を、彼女はいつものように許す。
同じようなやりとりを、何度してきたのだろう。今では、彼女が間近にいて当然だと思っている。触れられるほど、実際にそうしようとするだけでそうできる。何度もしてきたように。しかし私には、彼女が装いを大きく変えたことに合わせて、たとえ私も同じような服装をしているしするのだとしても、同じ変化する環境の中に身を置くのだとしても、その感触、その熱が、遠ざかっていくような気がしていた。