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03 寮母のパイは超デカ盛り

03 寮母のパイは超デカ盛り


 ケントは空から降る阿鼻叫喚を背に走り続けた。

 舗装されたばかりのような大通りから城下町を出て、草原を抜けて近くの山へとまぎれる。


 山道を登る途中でひときわ高い木を見つけると、道具も使わずにするすると登った。

 ケントは木登りの訓練も積んでいたが、明らかなる手ごたえ違いを感じとる。



 ――飛び降りたときも感じていたが、明らかに身が軽くなっている。

 山賊というと野蛮で腕力任せなイメージがあるが、さすがは盗賊の上級職だけあって、俊敏さも兼ね備えているようだ。



 ケントは木のてっぺんにある枝に腰掛け、思案に暮れる。



 ――ここなら誰からも邪魔されることなく、ゆっくりと考えることができるだろう。


 ……さて、これからどうするか。

 僕は何の罪も犯していないのに、山賊になったというだけで、もう周囲から犯罪者のような扱いを受けてしまっている。


 これから僕ができることはふたつに絞られるだろう。

 ひとつ目は善良に暮らしてみなの誤解を解き、義賊として受け入れてもらうこと。

 もうひとつは、本当の山賊のように振る舞い、みなと敵対するということ。


 どう生きるにしても、まずは自分の能力を把握しておく必要がありそうだな。

 賢者はなにごとも経験だと思い、過去に剣士や魔術師になったことはある。


 だが、山賊になるのは初めてだからな……。

 よし、ステータスウインドウを開いてみるとするか。



 ステータスウインドウというのは、自分の所持スキルなどを確認できる半透明の窓のことだ。


 ケントはしなやかにひとさし指を立て、タクトを振るうように虚空に四角形を描いた。

 すると、青いステータスウインドウが空中に浮かび上がる。


 そこには初期スキルとして、2つのパッシブスキルが表示されていた。



 騙されるほうが悪いんだ(パッシブ) ウソをつき、裏切るほどにレベルアップする

 こいつはヤベェぜ(パッシブ)    窮地に陥ると起死回生の『荒業』が閃く



 スキルにはアクティブとパッシブの2種類があり、アクティブは能動的に使用することで効果を得られ、パッシブは体得しているだけで自動的に効果が得られるスキルのことである。

 しかし山賊スキルはあまり上品なものとは言えず、ケントは思わず漏らしてしまった。


「騙すほどにレベルアップか……。

 こんなスキルを持っているのなら、たしかに犯罪者扱いされてもおかしくはないな……。

 生きているだけで相当、悪評を呼びこみそうだ……」


 ふと遠方から、遠雷のような歓声が届く。

 ケントは思考を中断して声の方角を見やる。


 ケントはいま山の中腹にある木の上にいて、校舎である城の展望台と同くらいの高さにいた。

 遥か遠方に見える展望台では、なおも入学式が続いている。


 ケントは愛用のメガネのフレームに触れた。

 するとメガネに込められている魔力によって、レンズは望遠鏡のようになり、展望台の様子が手に取るようにわかる。


 会場のステージでは、3人の王子たちが歓声に包まれていた。

 コシギン教頭が、その周りを飼い犬のようにグルグル回っている。

 ひっきりなしに叫んでいるようだったので、ケントは賢者小学校で身に付けた読唇術を使って口パクを読み取った。


『強く、賢く、美しく、ギンギンな王子様たちに、拍手! 拍手! 拍手~っ!

 この方々の統率があれば、学園の発展はギンギンに間違いなしです!

 ケントなんていうケチな山賊も、ひとたまりもないでしょ~っ!』


 コシギン教頭は、王子たちをひたすら持ち上げ、ケントをこれでもかと貶めていた。


 それもそのはず、王子たちはこの第4国の王になる可能性がある逸材。

 そうでなかったとしても、ゆくゆくは三国の王女と結婚し、大国の王になる予定の王族である。


 現時点では教頭のほうが立場は上なのだが、このあと抜かれることはわかりきっているので、コシギンは今のうちから媚びを売りまくっていた。

 教頭は先ほどまで新入生たちに居丈高に振る舞っていたのだが、もう目もくれておらず、王子たちのことしか見ていない。


『はいは~いっ! それでは職位もギンギンと決まったので、次はいよいよ投票の発表いたしますねっ!

 まずは、ベスト投票数からですっ! 王子様たちは何位かなぁ~? じゃじゃじゃ~んっ!』


 コシギンの合図と同時に、ステージ奥の水晶板にランキングが表示される。



 ベスト得票数

  1位 ジャガノート 300票 (グッド300 バッド0)

  1位 イングリッヒ 300票 (グッド300 バッド0)

  1位 ショーンボン 300票 (グッド300 バッド0)

  2位 シトロン    30票 (グッド30  バッド0)

  2位 ガーディア   30票 (グッド30  バッド0)

  2位 フラッパ    30票 (グッド30  バッド0)

  以下、該当者なし



『すごいですねぇ! ギンギンの王子様たちが上位だとは思いましたが、まさかここまでダントツとは!

 さすがは未来の国王様だけはあります! このコシギン、一生ついてまいります!

 そして2位には姫君たちが続いています! ランキングでも王子様を追いかけてくるだなんて、よっぽど愛してるんですねぇ!』


 この学園の模様が全世界に中継されているのは前述のとおりであるが、視聴者には投票権が与えられている。

 たとえば生徒が活躍した場合は『グッド』を、逆にヘマをした場合などは『バッド』を投じることができる。


 投票権は現時点では王族や貴族などの上流階級の者たちに制限されているが、順次、全国民に与えられる予定であった。


 得票数は有能さのバロメーターのようなもので、この学園の生徒たちにとっては、学校成績以上に大切なものとされている。

 多くのグッド票が得られれば優秀な人材とみなされ、卒業後に三国への登用を得られるかもしれないからだ。


 逆に『バッド』を多く得てしまった生徒は無能とみなされ、卒業後の進路は断たれてしまう。

 コシギン教頭は待ってましたとばかりに叫んだ。


『それでは次に、ワースト得票数の発表でぇ~っす!

 まあこっちのほうは、まだ学園生活が始まっていないので、該当者ナシだと思いますけどぉ……!』



 ワースト得票数

  1位 ケント マイナス50票 (グッド0 バッド50)

  以下、該当者なし



『ぎっ、ぎぎーんっ!? ななっ、なんとぉ! ランクインしている生徒がいるではないですか!

 きっとこの生徒は、ギンギンの役立たずに違いないですねぇ!』


 大げさに、ひっくり返ってまで驚くコシギン教頭。


『いやぁ、こんな役立たずが入り込んでいたなんて、コシギンびっくりですぅ!

 それでは晒し者にする意味でもランキングボードはこのままにして、親睦会へとまいりましょうか!

 立食パーティですけど、もちろん王子様たちには、ギンギンに席をご用意してありますぅ!』


 ステージ上にデカデカと『最悪のケント』と表示されたまま、入学式はパーティへと変わる。

 当のケントはそんな茶番にはとっくに興味を失っており、山を下りていた。


「寮の食堂に行って、僕もなにか食べさせてもらおう」


『三国立 第四立国学園』は、その立地から全寮制である。

 ハズレ上級職を与えられたケントでも、学園の生徒なので、学園の施設を利用する権利はあるはずだ。


 ケントはそう思って山を離れ、城下町はずれにある男子寮に向かったのだが……。

 そこには、つい先ほど立てられたような看板があった。


『マイナス50票以上の生徒は、寮への立ち入りを禁ずる 第四立国学園王室』


 この立て札が誰の指示によって立てられたものなのか、ケントにはすぐにわかった。

 王室というのは要するに生徒会のことで、役員として王子が就任することになっていたからだ。



 ――本当の山賊のように、僕に山の中で暮らせと言いたいのか……。



 ケントはやれやれと看板に背を向け、山に戻ろうとする。

 森で果物を採取し、獣などを狩って食べようかと思ったのだが、呼び止められた。


「あら、あなたがケントちゃんね?」


 振り返ると寮の裏口のところに、大学生くらいの若い女性が立っていた。


 三角巾にエプロン姿で、ゆるく編んだ三つ編みを肩から垂らしていたのだが、その毛先が乗っている胸がなによりも目を引く。

 デカメロンと形容したくなるほどに、かなりボリューミー。


 男なら誰しも視線を奪われてしまい、童心に帰ってしまう魅惑のメロンなのだが、ケントはチラ見すらしない。

 ケントが「ああ」と頷き返すと、その女性はおっとりと微笑んだ。


「寮母のママリアよ、よろしくね。ケントちゃんの噂は聞いてるわ。

 ついさっき教頭先生がいらして、ケントちゃんは悪い子だからゴハンをあげたりしないように、っておっしゃったの。

 それはそうとして、お腹がペコちゃんでしょ?」


 ママリアと名乗る寮母は、ケントをこいこいと手招きをしたあと、一瞬だけ寮のなかに引っ込む。

 そしてケントが来ることがわかっていたかのように、トレイに乗せた焼きたてのパイをホールごと出してくれた。


「これはね、ママ特製のパイよ。みんながいまパーティで食べてるお料理と同じものなの」


「いいのか? 教頭から助けないように言われているのではなかったのか?」


 するとママは、むむっと厳しい表情を作る。


「このパイを食べるのは、ケントちゃんが良い子になるってママと約束してからよ。

 ケントちゃんが良い子になれば、教頭先生もきっと許してくださると思うわ」


 その言葉は幼い子供を叱っているかのように、やさしさと愛情にあふれていた。

 ずっと張りつめていたケントの心も、わずかに解きほぐされる。



 ――この学園には敵ばかりだと思っていたが、このような人もいるのか……。

 彼女のような人がいるのであれば、善良な山賊になってみるのも良いかもしれないな……。



「寮母さん、約束しよう。僕はこれからいい子になる」


「うふふ、よくできました。偉いわ、カイトちゃん。さあどうぞ、ママのパイをめしあがれ」


 寮母は量感のある胸をエプロンがはだけるほどにムニュッと盛り上がらせ、微笑みとともにパイを差し出した。

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