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02 山賊はクール&セクシー

02 山賊はクール&セクシー


 準賢者ケントに与えられた職位は、なんと『山賊』。


 山賊というのは、盗賊の上級職のひとつである。

 盗賊の上級職といえば、アサシンやニンジャなどが一般的。


 山賊というのは、この世界では『はずれ上級職』とされている。

 犯罪者に対して見せしめとして与えられるような、ようは烙印のような職位であった。


 ケントは状況が飲み込めないままに、女神像からの光を浴びる。

 真新しいワイシャツの上にクマの毛皮が現われ、しなやかな手が革グローブに覆われていく。


 賢者ケントが山賊になった瞬間である。

 しかし彼はメガネをかけたインテリジェンスな顔つきに、シュッとした身体つきをしているので、とてつもないギャップがあった。


 それでもケントの周囲にいた新入生たちは、彼を山賊だと認め、「キャーッ!?」と悲鳴とともに離れていく。

 ステージ上の水晶板には、大トリである『王子』たちの名が映し出されていた。



 王子 ジャガノート様

 王子 イングリッヒ様

 王子 ショーンボン様



 かつてケントを準賢者として登用し、さんざんこき使い、挙句の果てにたらい回しにした若き大臣たちが登壇する。

 彼らは真っ先に、ケントを見て爆笑した。


「がははははははっ! ケント、よく似合っておるのう! いや、ぜんぜん似合っておらんようじゃのう!

 じゃがその格好で過ごしていれば、そのモヤシのような顔も少しは男前になるじゃろうなぁ!」


「HAHAHAHA! 今回はリアリティある国家運営を行なうため、犯罪者もセッティングしようということになったのですよ!

 そのオンリーワンの役割がケント、ユーに決まったというわけです!」


「あははははははっ! 賢者になれると思ってたでしょ!? でしょでしょ!?

 でも、しょぼーんでした! ねぇ、いまどんな気分!? ねぇ、どんな気分!?」


 大臣、いや、今や王子となった者たちは、不倶戴天の敵をやりこめたかのように嘲笑を浴びせた。

 しかしケントは眉ひとつ動かさず、無言で彼らを見つめ返すばかり。


 そう、ケントはどんな状況に置かれてもポーカーフェイスを貫くことを徹底していた。

 いつどんな時でも沈着に振る舞うことこそが、賢者であると教え込まれてきたから。


 それが王子たちのさらなる不興を買う。


「じゃがっ!? ケント! おぬしはいつもそうやって、なにもかもわかっておるみたいな顔をしおって!

 それがずっと気に入らなかったんじゃ!」


「シャラップしてないで、なにかスピークしたらどうなのですか!?

 本当はアングリーなのですよね!? サッドでたまらないのですよね!?」


「でしょでしょ!? もう、なにもかも嫌になっちゃったでしょ!?

 この学園を辞めたくなっちゃったでしょ!? でしょでしょ~!?」


 しかしケントは、この学園の支配者となった者たちに向かって、あっさりと言い放つ。


「僕は辞めません」


「「「なにぃ!?」」」と目を剥く王子たち。


「なぜならば、この時点での自主退学や逃亡は、国王から与えられた職位を放棄するも同然です。

 たとえここが擬似的な国家だったとしても、重篤なる背任行為とみなされるでしょう。

 しかもこの入学式は魔導装置によって中継され、全世界の人々が視聴しています。

 ここで逃げたら、僕は世界じゅうの笑い者になってしまうでしょう」


「「「ぐぬぬ……!」」」と歯を剥く王子たち。

 彼らの企みを、ケントは秒の速さで見抜いていた。


 この学園の生徒たちに与えられる職位については、三国の国王に最終決定権がある。

 大臣トリオは王たちに進言し、ケントに『山賊』の職位を与えるように仕向けていたのだ。


 山賊は犯罪者も同義の職位なので、与えてしまえばこっちのもの。

 ケントは学園内で孤立し、さまざまな嫌がらせを受けるだろう。

 さらに、それに嫌気がさしたケントが自主退学、もしくは逃亡を図ればしめたもの。


 その情けない姿は世界じゅうの人々が目にすることになるので、ケントは学園を辞めても一生笑い者になり、社会的に抹殺されるという寸法であった。


 そう。ずっと三国に尽くしてきたケントに与えられたのは、事実上の追放宣言。

 行くも地獄、戻るも地獄の学園生活であったのだ。


 常人ならば絶望のあまり崩れ落ち、プライドをかなぐり捨てて許しを請うような状況であろう。

 あの表情ひとつ変えないケントが、顔をぐしゃぐしゃにして泣きすがる……それこそが王子たちがもっとも見たかった光景であった。


 しかし、いつでも冷静と冷静の間にいる少年がしたのは、メガネのフレームの両端に指を添えることのみであった。


「これが、あなたたちの答えというわけですね。

 ならばこれを最後の命令として受け取り、僕はここで山賊として生きていきましょう」


 それは、降りかかる火の粉すらも愛でるような、大らかなる一言。


 ケントは仮面を外すような仕草で指を動かし、メガネを顔から離した。

 刹那、鞘から抜かれた刃のように、少年の目つきが鋭く変貌する。


 ……ギンッ!


 メガネのレンズがその眼光を拡大させ、光線のように王子たちを射貫いた。

 ステージ上の王子たちは心臓を急襲されたかのように、「ううっ!?」と後ずさる。


「山賊となった以上、僕は誰も敬わない。お前たちへの敬意も、これで最後だ」


 王子たちはずっと見下していた人間に、ひと睨みされただけで臆してしまった。

 しかも、「お前」呼ばわりされ、王子たちの顔面はついに崩壊してしまう。


「じゃっ……じゃがぁぁぁぁーーーっ! は、吐いたその唾、飲み込むんじゃねぇぞ!

 じゃがっ、皆の者! なにをボケッとしておるんじゃ!

 そこに、喜んで山賊になろうとしておるヤバいやつがおるんじゃ!

 今のうちにやっちまうんじゃ! このままほっといたら、城下町を荒されまくるんじゃぞ!」


 ジャガノート王子の一言で、敵意を剥き出しにした新入生たちが、じりじりとケントに迫る。

 一触即発の状況のなか、ケントはゆっくりと後ずさっていき、とうとう展望台のベランダまで追いつめられてしまった。


 余裕を取り戻したイングリッヒ王子が、へんなため息交じりに声をかける。


「ブリーズ……。ケント、ユーの浅はかなシンキングはわかっていますよ。

 そこからダイブすると脅して、職位をキャンセルさせようとしているのですね」


「でしょでしょ!」ショーンボン王子が乗っかる。


「でも、しょぼーんでした! ケントが賢者になれることは一生ないでしょ~っ!

 だって、この世は生まれたときに配られたカードこそがすべてでしょ~っ! でしょでしょ!?」


「僕はそうは思わない」


 ケントは見もせずに、背後にあるベランダの手すりにふわりと飛び乗った。

 その命知らずの行動に、追いつめていた新入生たちの足も「ええっ!?」と止まる。


 ケントの後ろにはなにもない。

 少しでも足が滑れば真っ逆さまで、数十メートル下の石畳に叩きつけられる。


 しかしケントは振り返らず、新たなる翼を得たように両手を広げて言った。


「生まれたときに配られたカードがどんなに悪くても、古いカードを捨て、新しいカードを引くことはできる。

 僕は『賢者』というカードのかわりに、『山賊』というカードを得た。

 大国の大臣……いや、国王たちが最後にくれた手切れ金にしては、いささか安っぽいが」


 なんとケント、大臣たちだけでなく、その後ろ盾である国王たちをもディスりはじめる。

 それはあまりにもクール、しかしあまりにも挑戦的すぎた。

 すべての者たちを敵に回すような態度であったが、彼はもはや、王すらも眼中にない。


 閉じた瞼の裏に、光輝く瞳の幼い命たちを想起し、熱い思いを馳せている。



 ――僕のことを、孤児院の子供たちも見ていることだろう。

 彼らのためにも、僕はやらなくてはならないんだ。


 どんなカードを与えられても絶望することはないと、この僕が証明してみせるのだ……!



 ケントは釈迦のようにゆっくりと開眼すると、あらためて新入生たちを眺め回す。


 本来、いまはステージ上にいる王子たちが注目されるべき存在のはずである。

 ケントはそれとは対極の立場の、最底辺の山賊であるというのに、いまや世界じゅうの視線を独り占めにしていた。


「これからの学園生活、仲良くやっていこう。では、お先に失礼」


 ケントは最後にそれだけ言って、ダンスのターンのように踵を返し、青空に身を躍らせる。

 その姿は飛び立つ(イーグル)さながらで、あまりにも孤高で、あまりにも美しかった。


「と……飛んだぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーっ!?」


 生徒たちは奇跡を目の当たりにしたかのような声を漏らす。

 女子生徒たちは思わず、「き……きれい……!」と見とれてしまっている。

 それが男子生徒たちには面白くなかった。


「きれいなんかじゃねぇよ! ヤツは汚ねぇ山賊だ!」


「そうそう! それにこの高さから飛び降りるなんて、イカれてる!」


「今頃は下でノシイカみたいになってるぜ!」


 生徒たちはこぞって、ケントが降下したあとのベランダへと殺到した。

 手すりから乗り出すようにして覗き込んだ彼らの顔は、ありえない光景に驚愕に満ちる。


「い……生きてるぅぅぅぅぅーーーーーーーーっ!?」


 ケントはネコのように空中でクルクルと回転すると、スタイリッシュに三点着地をキメていた。

 表情までもネコのように素っ気なかったが、このくらいの事なら、彼にとっては朝メシ前なのである。


 しかし他の生徒たちにとっては奇跡再来といった感じで、ついには男子生徒まで魅了していた。


「す……すげぇ……! な、なんてヤツだ……!」


「俺たち全員を敵に回したってのに、あの余裕……!」


「く……くやしいけど、かっこよすぎる……!」


 そう……!

 彼はいつでも、クール&セクシー……!


 たとえ、全校生徒が敵になったとしても……!


 ケントはそのまま振り返りもせずに、校舎の城から走り去り、城下町の中に消えていった。

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