14 没落のジャガノート
14 没落のジャガノート
ケントがふたりの美少女とくんずほぐれつしていた頃……。
『三国立 第四立国学園』の校舎である城の最上階では、ひとりの男が大騒ぎしていた。
「じゃがっ!? ユズリハ! ユズリハはどこじゃっ! このワシのユズリハは、どこにおるんじゃ!?」
ジャガノートは豪華な調度品が並ぶレッドカーペットの廊下をノシノシと歩きながら、怯えるメイドたちを捕まえては顔を確認していた。
王子の職位を与えられた者は学生寮には入らず、王室と称し、城の頂上にある部屋で暮らしていた。
その部屋はどこよりも贅を尽くした空間となっており、部屋数も3人で使うにはありあまる程ある。
使用人たちも大勢いるのだが、ジャガノートのお目当てのユズリハはどこにもいない。
彼の苛立ちは募り、他の王子たちが朝のティータイムを楽しんでいる部屋の扉を乱暴に押し開けていた。
三角形のテーブルの鋭角のそれぞれに、2人の男が座っている。
開いている鋭角に、ジャガノートはどっかりと腰を降ろした。
「おいっ! ワシのユズリハはどこじゃ!?」
落ち着いた色合いのチュニックに身を包んだイングリッヒは、カップをソーサーに戻しながら、不快そうに眉根を寄せる。
「シャラップ。騒々しいですよ、ジャガノート。
ショーンボンがやっとサイレントになったかと思ったのに、次のノイズはあなたですか」
「じゃがっ! 知るか、そんなこと! それよりもワシのユズリハはどこじゃ!?
昨日の『バトルビーチフラッグ』のあとで、ワシのメイドになる手筈だったじゃろうが!」
派手な色合いのチュニックのショーンボンが「しょぼーんでした!」とからかう。
「それはジャガノートがケントに勝ったときの約束だったでしょ? でしょでしょ?
ジャガノートは一発でケントにやられちゃったでしょ!」
ジャガノートは『バトルビーチフラッグ』でケントを一方的に負かし、その圧倒的な強さでユズリハを惚れさせるつもりでいた。
ユズリハはケントを倒すことができなかったことで、黒鬼党を破門となってメイド落ちとなる。
嘆き悲しむユズリハ。でもその主人は、女なら誰もが飼われたがる、王子のジャガノートであった。
「ま、まさかユズのご主人様が、ジャガノート様だったなんて! 抱いてくださいです!」
憧れのジャガノートに仕えることができて、ユズリハは喜びのあまり、身も心も一生ジャガノートに捧げることを誓う。
……というサプライズを仕掛けるつもりであった。
しかし実際の『バトルビーチフラッグ』では、ジャガノートが真っ先にやられてしまったので、ユズリハは黒鬼党に残留することになった。
ジャガノートは保健室送りとなっていたので、そのことをまだ知らずにいる。
それどころかケントに金的をくらって気絶したのは、悪い夢だったのだと思い込む始末だった。
「じゃがっ!? ショーンボン、いまなんと抜かしおった!?
このワシがケントに負けたじゃと!? そんなことは、天地がひっくり帰ってもありはしないんじゃ!」
「えーっ。アレを見ても、まだ同じことが言えるぅ?」
ショーンボンは壁の水晶板を指さす。
そこには、昨日の学園生活の出来事がダイジェストで放映されていた。
ちょうど『ビーチフラッグ』での模様が映し出されており、ケントのいただきハンドで股間を掴まれ、情けなく喚き散らすジャガノートの姿がアップになっていた。
「じゃがっ!?」と唖然とするジャガノート。
追い討ちをかけるように、画面は得票数ランキングに切り替わる。
ベスト得票数
1位 イングリッヒ 300票 (グッド300 バッド0)
1位 ショーンボン 300票 (グッド300 バッド0)
2位 シトロン 150票 (グッド150 バッド0)
3位 ジャガノート 100票 (グッド300 バッド200)
4位 ガーディア 30票 (グッド50 バッド0)
4位 フラッパ 30票 (グッド50 バッド0)
ワースト得票数
1位 ケント -200票 (グッド0 バッド200)
「こ、このワシが、3位……!?
しかも、女なんかに抜かれてしまうじゃと……!?
ば、ばかなっ!? こんなこと、ありえるわけがないんじゃ!」
「しょぼーん。一昨日と昨日のジャガノート、マジで超カッコ悪かったでしょ。
ケントにやられてマジ泣きだなんて、僕チンもマジウケだったし!」
「ミー、トゥー。
バッドの得票数だけで見たら、ケントとイーブンではないですか。
王子がバッドをゲットするなどとは、本来は絶対あってはならないことなのですよ?」
ジャガノートは石窯の中のジャガイモのように顔を赤くして、「う……うるさいんじゃ!」と怒鳴り返す。
しかしその威勢は、すぐに削がれてしまう。
ランキングの水晶板がパッと切り替わり、そこに百獣の王のような威容が映ったからだ。
それはシルエットであったが、ジャガノートにはすぐに誰かがわかった。
「お……オヤジっ……!?」
真っ赤だったその顔が、信号機のような速さで真っ青になる。
『……馴れ馴れしく呼ぶでない!』
バトリアン大帝国の王の怒声が、部屋中を揺るがす。
狙いすましたかのように、ジャガノートの前にあったカップだけがパリンと割れた。
『ジャガノートよ、貴様は余のあとを継いで、バトリアン国王となる身なのだぞ!
それなのに我が娘シトロンをモノにできず、脆弱かつ劣悪な山賊なんぞにやられおって!』
「じゃがっ!? お……オヤ……! い、いや、バトリアン国王、聞いてください!
ケントは実に卑怯な手を使って、このワシを……!」
『言い訳など聞きとうないわ! 貴様の顔など見とうもない!
この城から出て行くがいい! 元の順位に返り咲くまでは、一般生徒と同じ寮で暮らすのだっ!』
「じゃっ……じゃがぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーーーっ!?!?」
この学園ではお山の大将であるジャガノート。
他の王子たちや教師陣たちからは何を言われても従うつもりはなかったが、父親に逆らうことだけはできなかった。
非情なる沙汰を言い渡され、わずか3日目にして生徒会室から退去させられてしまう。
いちおうまだ王子ではあるので、男子寮のなかではいちばんいい個室が与えられていた。
しかし、王室の豪華さには遠く及ばない。
しかも、ジャガノートは引っ越しの際に取り巻きたちに手伝いを言いつけたのだが、にべもなかった。
「え? 引っ越しの手伝いなんて嫌ですよ」
「僕たち、もうジャガノート様の命令には従えないんですよ。今は他の王子様に仕えているので」
「なんでって、当たり前じゃないですか。ジャガノート様って威張り腐ってるわりに、てんで弱っちいですからね」
「そうそう、しかも卑怯者ときてる。
『バトルビーチフラッグ』で真っ先に気絶して、罰ゲームをやらずに逃げちゃったじゃないですか」
「あの後、俺たちがかわりに裸踊りをさせられたんですよ。
おかげですげー笑いものになって、バッドが付いちまったんだ」
「もう、僕たちに話しかけないでもらえますか?」
「さっさとあっちに行って……うぎゃぁぁぁぁーーーーっ!?」
ジャガノートは激昂し、暴力台風と化す。
かつての取り巻きたちを全員保健室送りにしたが、それでも気持ちはおさまらない。
ひと晩じゅう自室で暴れまくって、なにもかもメチャクチャに破壊する。
涙は嵐となって、部屋じゅうに吹き荒れていた。
それから夜明けとなり、ジャガノートは暴風雨が過ぎ去ったような部屋でひとり、壁の水晶板に頭を打ち付けていた。
今の出来事は悪い夢で、その夢から早く覚めてほしいと祈るかのように。
そんな彼の回りには、彼をやんわりと否定するようなメッセージが浮かんでいる。
【ジャガノート様って、もしかしたら体調がお悪いのかなぁ?】
【でも、王子様の中では最強のパワーを誇ってるんでしょ?】
【そうそう、体調不良ごときでケントに一発だなんてありえないよなぁ】
【いくら調子が悪かったとしても、落ちこぼれのケントにワンパンかぁ……】
メッセージはいままで賞賛一色だったが、王子としての資質を問うようなものが増えてきた。
それがさらに、ジャガノートの精神を追いつめていく。
「じゃ……じゃがっ……! やはりこれは、悪い夢なんじゃ……!
このワシは怖れられ、尊ばれる存在であって、ケントこそがバカにされ、嫌われる存在なんじゃから……!
目が覚めたら、ワシの両脇にはシトロンとユズリハがいて、昨日の激しい一夜を、思い出すかのように……!」
眼前にあった水晶板から、不意に光がこぼれる。
『最新ダイジェスト』とテロップのある映像が映し出され、そこには悪夢を体現したような光景があった。
なんと、朝の森でシトロンとユズリハに乗られている、ケントの姿が……!
しかもその体勢は、ジャガノートがふたりを手に入れたらやらせようと思っていた、憧れの体勢そのものであった……!
「じゃ……じゃがぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーーーっ!?!?」
そのショッキングな映像に脳を破壊されたかのように、ジャガノートの目からは一切の光が消え去る。
とうとう抜け殻のようになってしまい、ガックリとヒザから崩れ落ちてしまった。
「じゃっ、じゃがっ! じゃがぁぁぁっ! うそじゃっ! うそじゃうそじゃうそじゃっ!
うじゃぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーっ!!
あの女たちは、このワシのものなんじゃ! このワシが最初に目を付けていた女だったんじゃ!
それをあんな! あんなヤツに奪われるじゃとぉ!?
じゃっ……じゃぎゅりゅぎえいぢぎむりゅぎゅぎゅぐらびぃぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーーーーーーーーーーーっ!!!!」
憎悪と嫉妬を絞り出すかのような奇声とともに、床をのたうち回るジャガノート。
その回りには、【NTR! NTR!】と傷口に塩を塗り込むようなメッセージが踊っていた。




