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12 変わり身の術

12 変わり身の術


 次の日の朝。

 ケントは学園から少し離れた場所にある山の中にいた。


 この山は山賊である彼にとって、すでに根城になりつつある。

 しかし家などは建てず、木の枝の上で、幹に身体をあずけるようにして眠っていた。


 その様はとても絵になっており、南国の島でハンモックに寝そべり、バカンスを楽しむスターさながら。


 周囲を時折、不自然な木々のざわめきが駆け抜けていく。

 ケントは夢の中で、その数を数えていた。



 ――アサシンが5人、クノイチが5人か。

 手に取るようにわかる殺気をそんなに放っていては、僕は一生見つけられないだろうな。

 砂漠の中で砂金を探すほうがまだ簡単だろう。



 今この森のなかでは、10人もの暗殺のプロが血眼になってケントを探していた。


 しかしケントは賢者として修行し、三国を守るために幾多もの修羅場をくぐり抜けてきた。

 そんな彼にとって、暗殺者たちの探索眼を手玉に取ることなど、半分寝ながらでも造作もないことであった。


 アサシンとニンジャの群れはしばらくケントのまわりを飛び回っていたが、ここにはいないと判断して離れていく。

 ケントはやれやれと身体を起こし、木の枝の上に立って背伸びをした。



「よく眠れたな。ちょうど邪魔者もいなくなったことだし、朝食でも奪いに行くか」



 そう思ったところで、遠方から緊張感のない声がした。


「……ケントさぁーん」


 その声は、だんだん近づいてくる。


「ケントさぁーん! おはようございますです! ユズリハですっ!

 こちらにいると伺って、やって参りましたですーっ! いるなら、お返事してくださいですーっ!」


 ケントは呆れを通り越し、思わず舌を巻いていた。



 ――山の中に隠れている山賊を、呼んで探そうとするとは……。

 遭難者じゃあるまいし、そんな風に呼んだところで出ていく山賊など、いるはずもないだろう。

 ……と言いつつも、ここにいるのだがな。



 ケントは眼下を通り過ぎようとしていたユズリハめがけ、シュタッと飛び降りる。

 空から降ってきたケントに「ひゃあ!?」とポニーテールを膨らませるユズリハ。


「け、ケントさん!? いきなり現われるだなんて、びっくりしたです!」


「キミたちクノイチも、いきなり現われるものだろう?

 まぁ、そんなことはどうでもいい。こんな朝早くから僕になんの用だ?」


「あ、ケントさんに、オニギリを持ってきたです! お腹が空いてるんじゃないかと思ったのです!」


 ユズリハは背負っていた風呂敷から、竹皮の包みを取り出す。


「キミは、山賊の僕を狙っている組織のクノイチではないのか?」


「そうなんですけど、ケントさんのお命を狙う命令は、まだ頭領から頂いていないのです!」


 人畜無害を体現するようなニコニコ笑顔のユズリハに、さすがのケントも毒気を抜かれる。


「そうか、ではとりあえず場所を移そう。ここでは目立つからな」


 ケントは、木のすぐそばにある窪地へとユズリハをエスコートする。

 窪地は、一時的に身を隠したり罠を仕掛けたりするのに便利なので、ケントは窪地がそばにある木を選んで住まいとしていた。


 周囲からは目立たない穴の底で座り込み、ユズリハからもらった竹皮の包みを解くケント。

 中には大きなオニギリが5つも入っていた。


 ケントは「これはおいしそうだ」と、さっそくそのひとつを手にとる。

 オニギリを口元に運びながら、目の前でチョコンと正座しているユズリハをチラ見した。



 ――毒の匂いがしない。

 ユズリハの反応からいっても、これは口にしても大丈夫そうだな。



 ケントは王族の毒味役を務めたこともあった。

 そのおかげで料理の匂い、そして勧める相手のわずかな変化で毒を察知できるのだ。



 ――僕の感覚を欺けるほどの、無味無臭の毒がこの世にあって……。

 僕に殺気を悟られずに、毒入り料理を勧められる者がいたとしたら……。

 僕はその毒を最後の晩餐として、喜んで頂こう……!



 ケントはシリアスな思考とともに、三角形のオニギリの頂点を口に含む。

 しかし次の瞬間、「マゴッ!?」と口を押えて四つん這いになってしまう。


 ケント的には「マズッ!?」と叫んだつもりだったのだが、呂律が回らなくなるほどのマズさだった。



 ――な、なんなのだ、このオニギリは……!?

 毒も入っていないのに、三途の川が見えたぞ……!?



「ケントさん、お孫さんがどうかしたのですか?」


 ユズリハは悪意ゼロの様子で、不思議そうに首をかしげている。


「な……なんでもない。なかなか個性的な味だな」


「おばあちゃんに教わった『元気オニギリ』なのです!

 今日は朝早く起きて、ケントさんのために腕によりをかけて作ったのです!

 たくさん召し上がってくださいです!」


「あ……ああ、感謝する」


 ケントは身に降りかかる悪意に対してはとても強いのだが、善意は受け慣れていないせいかとても弱い。

 背中に脂汗をかきつつも、ポーカーフェイスで激マズオニギリを食べ続けた。


 味わうと意識が遠のきそうになるので、噛まずに飲み下す。

 それをユズリハはモリモリ食べてくれているのだと勘違いし、とても嬉しそうだった。


 ふと途中でなにかを思いだし、大きな胸の前で両手をパンと打ち鳴らす。


「あ、そうです! ユズ、『暴淫衆(ぼういんしゅう)』に入ることができたのです!」


 ニンジャ組織は『党』と呼ばれる大きな集団で構成されているが、その中は『衆』という部隊のようなグループで分けられている。

 『党』のリーダーは頭領であるが、その直属の部下である大忍が、『衆』を率いる仕組みとなっていた。


 ちなみにユズリハの『暴淫衆』は、バストサイズが一定以上のクノイチのみが入ることを許されている。

 装束も専用のものが用意されており、目の前の彼女もすでにその格好をしていた。


 その装束は、胸を下から持ち上げるようにベルトが巻かれており、さらに胸の谷間をクロスする形でベルトが走っている。

 胸を絞り出して強調する拘束具のようで、一部では『クロスパイスラッシュ』などと呼ばれていた。


 ケントは初見だったので、もしかしたら少しは見とれていたかもしれないが、激マズのオニギリがあったおかげでいつも以上にクールでいられた。


「良かったじゃないか、これでキミも立派なクノイチだな」


 やさしい兄のようなその言葉に、ユズリハも「はいです!」と満面の笑顔。

 しかしその表情は、すぐに曇ってしまった。


「でもでも、中忍は『変わり身の術』を使えないといけないのです……。

 練習ではうまくできるのですが、試験になると緊張してしまって、うまくできないのです……」


 ケントはオニギリを食べなくて良くなりそうな口実を見つけ、さっそく飛びつく。


「そうか、午前の授業が始まるまでにまだ少し時間があるから、実際にやって見せてくれないか。

 なにかアドバイスできることがあるかもしれない」


「よいのですか? ならお願いしたいのです!」


「『変わり身の術』というのは、攻撃を受けたフリをして、相手が油断しているところを上空から奇襲する技だよな?」


「はいです! なのでケントさんは、全力でユズに襲いかかってきてくださいです!

 でないと、稽古にならないのです!」


「よし、いいだろう。本気でいくぞ」


 ケントは食べかけのオニギリを包みに戻すと、そのへんに落ちていた枯れ枝を手に立ち上がった。


 とはいえバトリアンの剣術大会で優勝したケントが本気になったら、ただの枝でも凶器となってしまうので、かなり手加減して斬り掛かる。

 それでも並のニンジャではかわすのが難しいくらいの素早い太刀筋だった。


 ケントの枝の一撃が、ユズリハの身体をペチンと叩いた瞬間、ポンッと煙が起こる。

 その煙から、クノイチの装束を着た丸太がゴロンと転がり落ちた。


「ちゃんとできているじゃないか。しかも見事な変わり身だ。あとは奇襲が成功すれば完璧だな」


 ケントは感心しながら真上を見上げ、ギョッとなる。

 なんと上空からは、下着姿のユズリハがワタワタと落ちてきているところだった。


「きゃあああんっ!? スペアの服を持ってくるのを、忘れちゃいましたぁーーーーーっ!?」


 フライングボディプレスならぬ、フライングボインプレスがケントの顔面に炸裂した。

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