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10 いただきハンドでぜんぶいただき

10 いただきハンドでぜんぶいただき


 ケントは屋根裏で、ブラの山に埋もれていた。



 ――いただきハンドを何度使っても、ブラジャーしか取ってこない……!

 いくらなんでも、欲望に忠実すぎるのではないか……!?



 ケントのまわりには黄色い文字が取り囲み、グルグル回っている。


【クノイチの下着って、スゲぇ貴重なんだろ!?】


【男を惑わすクノイチにとっては、最終兵器みたいなもんだからな!】


【それを奪うだなんて、ヤバすぎだろ!】


 そう、そうなのだ。

 クノイチにとって下着とはもっとも秘匿すべきもので、命と同じくらい大切なものとされている。


 男に見せたら最後、結末は三つしかない。

 その男の命を奪って亡きものにするか、その男の心を奪って下僕にするか、その男に身も心も捧げて忠誠を誓うか……。


 この状況だと、ケントの結末はひとつに絞られる。



 ――クノイチ全員から、亡き者にされる……!



 ケントはその場にあったブラをまとめて抱え上げると、にわかに騒ぎになりつつあるクノイチたちの寮からこっそりと抜け出す。

 裏庭に出ると、クノイチたちの訓練器具があったので、それを使ってブラを返すことにした。

 小一時間ほど作業して、最後に『すまない、もうしない ケント』と書いた短冊をぶら下げると、先行逃げ切り型の駿馬のように走り出す。


 そして次の日の朝、クノイチの寮はハチの巣を突いたような大騒ぎとなっていた。

 なんとケントは裏庭を飾り立て、ランジェリーの新作発表会のようにブラたちを展示していたのだ。


 花々を利用したディスプレイはどれも見事で、女性ならばあれもこれも欲しくなってしまうような空間となっていた。


 そう……!

 彼はいつでも、クール&セクシー……!


 たとえ、盗んだ下着の返却であったとしても……!


 思わぬサプライズに、クノイチたち生下着を取られたことも忘れて喜んでいたが、頭領には完全逆効果であった。

 自分のブラがバラの女王のように佇んでいるのを目の当たりにし、失神寸前のショックを受けている。


「お……おのれぇ、ケントぇ……! 我らクノイチのもっとも大切な秘密を暴くどころか、こうやってさらしものにするだなんてぇ……!

 黒鬼党始まって以来だよ、こんな屈辱を受けたのはぁ……! 許さない、許さないよぉ……!」



 ◆  ◇  ◆  ◇  ◆



 学園始まって2日目の授業は、またしても体育であった。

 午前中は敷地内にあるビーチで自由行動、水着姿の若者たちが海ではしゃぐ姿が見られる。


 その中にケントも混ざってはいたのだが、彼だけはハラペコで遊ぶどころではなかった。

 木を削って作ったモリで魚を獲り、砂浜のはじっこで火を起こして焼いて食べていた。


 他の生徒たちはここぞとばかりに、「うわぁ、本当に山賊みたい」「いやホームレスでしょ」とからかってくる。

 しかしケントがスクッと立ち上がると、その芸術的なまでに引き締まった身体に見とれてしまい、誰もが黙り込んだ。


 ケントは時たま、シトロンと目が合うことがあった。

 しかし彼女は毎度、ポッと頬を染めたかと思うと、「ふ……ふん!」とそっぽを向いていた。


 それから午後となり、生徒たちは浜辺に集められる。

 そして今日もジャガノートが教師ヅラをしていた。


「じゃがっ! 昨日に引き続き、今日の体育も戦いじゃ!

 この浜辺で『バトルビーチフラッグ』をやるんじゃ!」


 ジャガノートは昨日崖から落ちたのにピンピンしていて、丸太のような両腕を広げ、ビーチの両端にあるフラッグを示していた。

 対面かつチームバトル式のビーチフラッグで、ルールとしては、相手サイドにある旗を先に取ったほうが勝ちというもの。


 競争して、より早く相手のフラッグを取るという、ビーチフラッグにおける一般的な戦法も可能。

 しかしチームバトル形式なので、自分サイドのフラッグを守るという要素も重要となってくる。

 またこの競技もバトルマラソンと同じで、相手を直接攻撃しても良いルールとなっていた。


「チームは最大で5人までじゃ! 好きな者どうしでグループを組むんじゃ!

 自信がある者は、ひとりで参加してもかまわんのじゃぞ!

 人数が少ないと不利になるが、そのぶん勝ったときのグッドを独り占めできるんじゃ!」


 ジャガノートのかけ声で、生徒たちは思い思いにペアを組みはじめる。

 ケントは自分と組むような物好きはいないだろうと思っていたので、誰にも声をかけなかった。


 ただシトロンだけが、チラチラと横目で行ったり来たりしていたが、ケントは何もしない。

 すると彼女はなぜか怒りだし、知らない女子たちとグループを組んでいた。


「それでは対戦の組み合わせを発表する! 名前を呼ばれたチームは前に出るんじゃ!」


 そして始まる『バトルビーチフラッグ』。

 勝てばグッドが得られることはわかっているので、生徒たちはみんな張り切っていた。


 ケントは特に興味が無かったので、名前を呼ばれるまで岩陰で休憩する。

 トーナメントの1回戦の最後に、その時はやってきた。


「次は……ユズリハチーム! それと……!

 モヤシみたいなヒョロガリ野郎のクセしてイキがっておる、大バカ野郎のケントチーム、前へ出るんじゃ!」


 ケントはやれやれと伸びをして起き上がり、岩陰から出た。



 ――いきなり、例のクノイチと対決か……。



 試合会場となっている砂浜に向かうと、そこには5人のクノイチたちが準備運動の真っ最中。

 その中でひときわ目立っていたのは、小柄なポニーテールの少女であった。


 中学生のように幼い見目で、戦っている姿が想像がつかないほどに柔和な顔立ち。

 しかし身体のほうはそれとは真逆で、誰よりも成熟していてムチムチだった。


 真面目な性格なのか準備運動を一生懸命やっていて、クノイチの装束をモチーフにしたビキニからは、おおきな胸がゆっさゆっさと揺れている。


 ケントはひと目で、彼女がユズリハだとわかった。

 ユズリハはケントに気がつくと、ビシッと人さし指を突きつけてくる。


「は……はじめましてです、ケントさん! ユズは、ユズリハと申しますです!

 今宵、あなたに恨みはないのです! で……でもでも、お覚悟をしてくださいです!」


 緊張しているのか声はうわずっており、身体はチワワのようにプルプルと震えている。

 かわいらしいリボンで結わえたポニーテールはピーンと立ち、猫の尻尾のようにぶわっと広がっていた。



 ――頭領が昨日の夜、ユズリハは本番に弱いって言ってたが……どうやら本当のようだな。



 そしてなぜか、フィールドにはジャガノートと11人の男子生徒たちがいた。

 ジャガノートは筋肉質の腕を振り回し、カポンカポンと鳴らしている。


「じゃが、この最後の戦いは、3組でのバトルじゃ!

 さらに追加ルールとして、いちばん最初にフラッグを取られたチームは、裸踊りの罰ゲームじゃ!」


 フィールド脇の観客席にいたシトロンが、すかさず飛び出してくる。


「ちょっと待って! 1チームは最大で5人ではなかったの!?

 それなのに、ジャガノートくんのチームには12人いるわ!

 もう卑怯なことはしないって、約束したじゃない!」


 しかしジャガノートが答えるより早く、ケントが遮った。


「僕はべつに構わない」


「がははははっ! このワシには勝てんと、ようやくわかったようじゃのう!

 まあこのフラッグを見たら怖れおののくのも、無理もない話じゃがな!」


 そう言われてケントは気付いたのだが、ジャガノートチームのフラッグは、ジャガノートの頭に刺さっていた。

 ケントは呆れ果てる。


「まるで、縁日で売られているジャガバターのようだな。

 それに顔だけでなく、脳味噌までジャガイモだったとは」


 王子を公然と『ジャガイモ』呼ばわりするのは神をも怖れぬ冒涜。

 ビーチは騒然となり、ジャガノートは瞬間湯沸し器のように激昂した。


「じゃがぁぁぁーーーーっ!? なんじゃとぉ!?

 このワシをイモ呼ばわりして、生きて帰れると思っておるのか!?

 ブチ殺して、死体で裸踊りをさせてやろうかのう! この学園で永遠に残る恥さらしになるんじゃ!」


 挑み掛かってくるジャガノートとその手下たち。

 ケントはその場から一歩も動かず、右手だけをかざしていた。


「いただきハンド」


 無数の青い手が放たれ、水蛇のようにうねりながらジャガノートの頭へと襲い掛かる。

 ケントはいただきハンドを使ってジャガノートの頭上にあるフラッグを取るつもりだった。

 しかしいただきハンドたちは、目前でフォークボールのようにストンと落ちると、


 ……ぐにゅっ!


 そんな音が聞こえてきそうなくらいの力強さで、男たちの股間を握り潰していた。

 12人もの野郎どもは、もんどりうって倒れ、その痛みのあまり砂浜を転げ回る。


「うっ……うぎゃぁぁぁぁぁぁーーーーーーーっ!?!?」


 ケントは彼らには目もくれず、じっと自分の右手を見つめていた。


「まだ、思うようにコントロールできないな。しかし、最悪の触り心地だ……」


 いただきハンドが掴んだものの感触は、ケントの手のひらにもフィードバックされる。

 24の瞳ならぬ、24の玉の触感は筆舌に尽くしがたいものがあった。


 クノイチたちは「い、今のうちに……!」と、ケントのフラッグに向かって走りだそうとする。

 しかしケントはすでに、彼女たちに向かって左手をかざしていた。


「いただきハンド」


 再び放たれた青い手は、まるで巣に戻る幸せの青い鳥のように、少女たちの胸へと……。

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