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箱の中  作者: 円坂 成巳
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僕はかくれんぼはしない

 そうして、僕らは数年ぶりにお堂を訪れた。

 小さな鳥居を潜り階段を登ると相変わらず木ぐ鬱蒼として真っ昼間だが人気はない。

 ヒデが職場から大きめの金属カッターを持ってきた。鍵はチェーンを複数巻きつけたものだったので、切断してしまえば、扉を開けることができた。

 結論、箱はなかった。


「ないね」


「ああ、ないな」


「箱は幻覚だったのかな」


「それか、本当に消えたのかだ」


 お堂の中を調べても、期待したような手がかりなんて見つからない。

 おれたち何やってんだろうなと言いながら階段を降りた。そうして僕らの久々の集まりはあっさりと解散したのだ。


 しばらくして、ヒデが、ケンスケの声が工場の大きめの工具箱の中から聞こえたと電話してきた。自分もシゲルさんのようになるのではないかと、なんとかならないかと怯えていた。

 ユウイチと僕は、あのお堂のことを村の古老に聞いたり、郷土史を読んだりして調べたが、めぼしい情報が得られなかった。僕は祖母にも尋ねてみたが、得られる情報は限られていた。

 過去にもお堂の中でいなくなった人はいた。祖母が小さいころに、つまりは大正時代のことになるのだが、そのころもお堂が変わらずあったということ。そのころは、僕が小さいころに聞いたように、お堂の中から声がするということは時々あったらしい。そういうときは、お堂には近づかないようにする決まりだったが、男の子が一人、大人たちの注意を無視して、お堂で遊んでいて、消えたという。

 お寺にも、その記録があった。しかし箱のことは相変わらずわからない。映画や小説のように、過去の因縁話や言い伝え、陰惨な事件、そういったものがでてくることを期待したが、現実には、都合よくそんな糸口が見つかるものではないらしい。

 過去に何かはあったのかもしれないが、記録も記憶も途絶えてしまったのだろう。

 結局、ケンスケがどこにいるのかはわからない。

 僕らは、ヒデをお寺や霊能力者の元へも連れて行ってみた。しかし、ケンスケのことを供養するようにとか辛い記憶を克服しましょうとか、そんな話をされるばかりだった。ヒデは、ずいぶん熱心に、ケンスケを供養しようとして、ケンスケの実家やお堂にまで足を運んで、手を合わせていたが、特に効果はなかった。

 ある日、ぞっとする連絡がヒデから入った。


「シゲルさんを見た」


 ヒデは言う。


「冷蔵庫から聞こえたんだ。また、ケンスケの声が。探してよって。それで、怖かったけど、ケンスケを見つければ終わるんじゃないかって思って、思い切って冷蔵庫を開けたんだ。見つけたぞって叫んで。何がいたと思う」


「何がいたんだ」僕は、つばを飲み込んで聞いた。


「シゲルさんがさ、膝を抱えて冷蔵庫に入ってた。背筋がぞわぞわってして声も出なくて、え、何これって感じだよ。シゲルさんが小さい声でハズレ、そろそろ交代だなってぼそぼそ言ってさ、俺は、冷蔵庫を思いっきり閉じてから、叫んだんだ。めちゃくちゃ叫んだ。わけがわからなくて、家を飛び出して。もうだめだと思う、俺は、だめだ。なんでこうなった。おれ、なにもわるいことしてないよな」


 ヒデは、同じ話を一時間ほど繰り返して、僕は、うん、そうだな、と相づちを打ち続けた。ヒデの母親が帰ってきたらしく、ヒデをなだめてくれて、やっと電話が終わった。

 それから一週間、ヒデはいなくなってしまった。

 ヒデのは母の話によると、ヒデは、隠れなきゃいけないと言って戸棚の中に入っていったそそうだ。何ばかなことをしているのと扉を開けると、そこにはだれもいなかったという。


 今の所、僕もユウイチも消えていない。ユウイチはケンスケを探すという行為を取ること自体が重要なのではないかと言って、定期的に山に入るようになった。あのお堂と山の関係をいろいろ調べており、お堂が山への入り口であり、箱の本体もケンスケも山で探すべきなのだと独自の理論を組み立てたのだ。そのうち、ケンスケの遺体が山の中で発見されるようなことがあるかもしれない。そうすれば、ケンスケを見つけたということになるのだろうか。

 ケンスケは、箱とかくれんぼという鍵を通じて、こちらにふっと顔を出すのではないだろうか。そして、ケンスケは、僕らに見つけてほしがっていると同時に、僕らを探しているのではないだろうか。これは僕の妄想に過ぎないが、ユウイチに話をしてみると、考え方としては面白いと賛同してくれた。

 ユウイチは、引き続き山でケンスケを探すという。もしどこかでケンスケを見つけたら、隠れんぼは終わりだ、家に帰るぞと言ってやるのだそうだ。

 僕は、ユウイチのように積極策には出ないことにした。根が受動的なのだ。

 努めて、かくれんぼに混ざらないようにすれば、シゲルさんやヒデのようになることはないだろうと、そう考えたのだった。

 だから、僕は大人になって、子供ができても、家ではかくれんぼはしないし、させないと決めたのだ。

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