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箱の中  作者: 円坂 成巳
3/6

シゲル

 俺じゃない。俺じゃないんだって。ケンスケが言い出しだんだよ。お堂に隠れたらヒーローになれるって考えたんだ、あいつは。

 そのときは面白いなと思った。禁止されてることをあえてやって田舎の風習に風穴をあけてやるのもいいかなって。

 あの日の前日、ケンスケと下見に行ったんだ。鍵はニッパーとペンチで壊せたよ。簡単だった。

 それで、中に入ってみたけど、お堂の中には特に何もなかった。壁に御札が貼ってあって、あとは箱と机があったか。白っぽい木の箱で、それだけ新しい感じがしたな。

 ケンスケがその箱を開けてみようって言って俺は止めたんだ。

 怖かったから。なぜかわからないけど本当に怖かったんだ。

 だけど、あいつは御札を剥がして箱をあけた。中は空だったけどな。

 このことは大人にもちゃんと話したよ。何度も。お前らも話は聞いてるだろ。

 おれたちの仕込みは、箱からケンスケが飛び出してきて皆を驚かせておわりのはずだったんだよ。

 ケンスケは、かくれんぼしようって自分からお前らを誘ったろ。あれは前日から予定してたんだ。おれが中学生と6年生だけでサッカーして、お前らを混ぜないようにしたのもわざとだよ。それでケンスケがお前らとかくれんぼするように誘導したんだ。

 あの日、ケンスケが消えるなんて思わなかった。そもそも扉のかんぬきがかけられていた時点でおかしかったんだよな。お前の友達が指摘したろ。それでお前らは開けるなって言ったけど、中からケンスケの声がした。上手い演技するなって思って中に入ったら、あいつはいなくて消えてしまった。

 いろいろ考えたけどさ、大人たちが言ってることが正しいと思うんだよな。あいつ怖くなってお堂に隠れるのはやめたんだよ。帽子があったのは、ちょっとした悪戯というか演出みたいなものだ。

 中から声がしただって。たしかにな。おれも聞いたよ。箱の蓋も動いた。集団幻覚ってやつだな。警察もそう言ってたろ。

 だから、ケンスケはお堂に入らなかったんだと思うことにした。森の中に隠れて、迷ってしまったんだよ。山狩りしても見つからなかったけど、あの山は裏には他の山と繋がってるし、今でも、山の中に隠れてるんだってそう思うことにしてるんだよ。

 箱の中に閉じ込められてるって思うよりはましだろ。そう思うだろ。


 でも、ときどき出るんだよな。あいつ。出るってのは、夢の中とか、起きてるときもだよ。

 そうだな。最初はいとこの遊び相手をしたときからだ。高校のとき、年下のいとこの遊び相手をしなくちゃならなくてかくれんぼしたんだよ。ケンスケがいなくなってからかくれんぼなんてやらなくなったけど仕方なくな。

 おれが鬼になって、ガキどもを見つけて、そしたら聞こえたんだ。

 まだだよ、見つけてないよ、なんで探さないんだようって、気が狂ったみたいな大声が。

 どこから聞こえたと思う。

 大きいクーラーボックスが部屋の真ん中にあって、飲み物を入れてあったんだけど、そこから聞こえたんだ。がたがた揺れて。ガキどもが泣き出しちまって、おれがボックスを開けたら、もちろんジュースと保冷剤しか入ってなかった。

 おれがいたずらして怖がらせたんじゃないかって親からは怒られたんだけどさ。

 それから、たまに見るんだよ。

 扉が閉まる瞬間、大きめの箱が閉まる瞬間、だれかがちらっと見てるんだ。ケンスケだと思うけどはっきりは見えなくて。

 あとは、夢だな。夢を見るよ。夢の中で、あのお堂の扉が少しだけ開いてて、それで「探してよ、見つけてよ」って声がするんだ。

 おれがお堂の中に入ると、中は昔に見たままなんだけど、例の箱が妙に存在感があってぽつんと置いてあって。一度だけ開けたことがあるけれど何も入ってなかった。

 夢をみても、おれはもう無視してお堂にも入らないようにしてるんだ。

 ただ、最近は、起きてるときも出るんだよね。おれ、おかしいのかな。あたまおかしくなってんのかな。それともやっぱりあいつの呪いなのか。どう思う。なあ。

 お前は、あのとき鬼の役だったんだろ。お前なんともないのかよ。

 ヒデのとこにも出たんだろ。

 たぶんこのままだとよくないんだよな。なんでそう思うかって。これってケンスケとのかくれんぼの続きなわけだろ。見つけられなかったらおれの負けなんじゃないかと思うんだ。そうしたらどうなる。お前の年下の二人も消えたよな。

 おれも消えるんじゃないかって不安なんだよ。

 どうする。どうすればいいと思う。


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