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1ー1 四回戦の前に

看病による勝ち組。

 足立南との試合を終えて翌日。

 俺は微熱があったことで一日安静にしているように言われた。朝一で病院にも行ってきて夏バテのようなものだと言われ家に戻ってきた。


 解熱剤ももらったのでそれを飲んでゆっくりしていた。熱が下がれば明日から練習に出て良いと言われたのでそれを監督に連絡して今日はそのまま家でおとなしくしているつもりだった。

 携帯を開いたら山のようなメールが。まさかメールが来すぎて未開封メールがプラス表記になっていて件数がわからないなんてことになるとは予想外だ。


「うわあ。お兄ちゃんのメールボックス凄いことになってるね」


「こんなにメール貰ったの、初めてだ……。U-15で優勝してもこんなに来なかったぞ」


「その日本代表の皆からメールが来てるんじゃない?ネットも凄いことになってるし」


「え?ネットも?」


 美沙が操作する家のデスクトップパソコンを見てみると、なんだか俺の名前や帝王のことが検索のトップの方に出てくるのだとか。どうやら昨日の試合が話題になっているらしい。

 今家にいるのは俺と美沙だけだ。千紗姉は部活に行ってるし、喜沙姉も仕事。母さんも仕事だ。俺が熱を出したとしても、「美沙がいるから大丈夫でしょ」と言って平然と仕事に行った母さん。


 我が家の大黒柱だし、病院に連れて行ってくれて軽症だとわかったからこその対応だってわかってはいるけどさ。もうちょい息子を労っても良いんじゃないだろうか。

 そんな我が家の事情は脇に置いて。今はこのメールの山とネットについて考えないと。


 メールの方は俺の体調を心配する学校の知り合いからのものが大半。……知らない名前の女子っぽい人からもたくさんメールが来ている。俺のメールアドレスが拡散されてる……。変えようかな。必要な人だけに変えたこと知らせれば良いだろ。


 野球部からも何件か来ている。問題は中学からの知り合いや日本代表の関係者から俺を心配するメールが来ていた。驚いたのはアメリカにいるはずの荒山アンダーソンからもエアメールが来ていたことには驚いた。アメリカでも話題になってるのか、日本で誰かがアンダーソンに教えたのか。


 アンダーソンは本当に久しぶりだからメールを返信する。あと星川さんからもメールが来ていたので返す。ヒット打ってやったけど、本当ならホームラン打ちたかったとか。お前のせいで十円ハゲできたけど彼女できたから結果的によしとか書かれてた。


 苦労かけたんだろうけど、その結果どうやったら彼女ができるんだろう?おめでとうございますと送って、大学でも野球をやるのか聞いてみる。あとは返信待ちだ。

 ある程度関係者に返信をしたところでパソコンに目線を向ける。美沙が色々と調べていたようだ。


「やっぱり。昨日の審判のことで話題になってるよ」


「ストライクゾーンは攻守で変えられるし、何が違反だったのかわからないボークは取られるし、散々だったなあ。TV中継もされてたんだから広まってもおかしくないか」


「うん。新着スレとか検索トップに出てくるよ」


「スレって、掲示板だっけ?それがトップに来ちゃうのか」


 掲示板ってアングラというか、表に出るような場所じゃないはずなのに。それだけ昨日の試合が異例だったってことだろうけど。

 葉山キャプテンがたまにあるとは言っていたけど、あそこまで露骨なのは珍しいのだろう。その結果が今回の騒動の広まり方に影響してるんだと思う。あとはTVとラジオ中継でリアルタイムに知ることができた人が多いってのもありそう。


「あ、検証スレだって。映像と一緒にストライクゾーン比較してるみたい」


「途中からは足立南も振ってくれたから、問題は俺たちの攻撃の時か?」


「うわ、凄い。全部の打席で検証してるみたい」


「暇人もいるもんだな……」


 ストライクゾーンはもちろんのこと、俺の最後の方のボークも検証されていた。必死に修正したけど、やっぱりあれってボーク取られるほど肩動いてないよな。


「お兄ちゃん、ピッタリ静止してるね。掲示板の人たちも褒めてるよ」


「あそこまで動かないのはあれっきりだぞ。止まることに集中しすぎてボール投げるのも辛かったし、クイックのことが頭から完全に飛んでた。あの場面限定の投げ方だな」


「お兄ちゃんがボーク取られたの、昨日が初めてだもんね」


「よく覚えてるな……。そう、国際試合でも取られなかったから大丈夫だろうって思ってたんだよ。日本は特にボークに厳しいって聞くから」


 その証拠に俺のボークとの比較動画で、プロで取られたボーク集みたいな動画のURLも貼られている。そこまで見る気は無いけど、高校野球はスケジュールが詰まっているために審判の方々は進行を大事にしている。

 そのため、きびきび動かないと注意されるし、よっぽどじゃ無いとボークも取らないらしい。一々ボークを取っていたら試合が進まないとかって聞いたことがある。


 世界に比べてボークが厳しいのはもっぱらプロ野球の話。高校野球では基本さえ抑えておけば大丈夫のはずだった。投球動作を止めたり、偽投などをしなければボークは取られない。

 そういうことを知ってる高校野球ファンからは不満が出るのも仕方がないだろう。俺たち帝王も昨日の試合中かなり神経がささくれ立っていたし。


「あーあ。お兄ちゃんが変な風に有名になっちゃった……。U-15のように実力が評価されて有名になるなら良いけど、不祥事二連続だよ?」


「……運が悪かったと諦めよう。それにこの後には喜沙姉が控えてるんだぞ?」


「そうだね、喜沙お姉ちゃんもいるんだった。日本で知らない人がいないアイドルと姉弟ですってバレた時の方がもっと凄い火種になりそう」


「確実になるだろうな。でも気付いてる人もいるだろ。父さんと母さんのこと知ってる人は多いし、母さんと喜沙姉も関係性隠してないし」


 目に見えてる地雷って怖いよなあ。要するに俺はもう一回、しかもこれまで以上に騒がれることが確定してるんだから。その時になったら母さんが事務所を総出にして助けてくれるだろう。多分。

 それからもネットサーフィンを続けると、何やら昨日の主審を審判に相応しくないからと東京都高校野球連盟に契約解除を要請する嘆願書が作成されて、結構な人が書いてるらしいと知った。


 どうやら昨日の人、前から評判がよろしくなかったらしい。同じような事案を結構引き起こしていたようだ。

 今回目立ったのは俺が福圓梨沙子さんのことで話題になっていたためと、TV中継があったかららしい。プロ野球でも同じようなことして、プロの審判団を解雇されてる人と契約しちゃう東京都野球連盟って。


「あ、そろそろお昼だね。ご飯作らなきゃ。お兄ちゃん、食欲ある?」


「大丈夫。腹は結構空いてる」


「釜玉うどんにするから待っててね。その間に熱計っちゃって」


「わかった」


 美沙がご飯を作ってる間に体温計を脇に入れる。パソコン見てる間に携帯を見てみると、またメールがたくさん来てた。俺が返信したから返ってきたメールの他にも、やっぱり知らないアドレスからのメールが十数件。

 重要そうなメールだけ開いて後は放置。


 ピピピッと鳴る体温計を取り出すと、36.8度。解熱剤が効いてきたのかちょっと高い平熱だ。

 明日は部活に顔を出せそうだと考えて、ふと美沙の料理風景を眺める。いつも俺は朝はランニング、昼は学校や部活、夜はもう作ってあったり柔軟をしてるからあまり見たことがない。


 ピンクのエプロンを着けながら料理に集中する妹は、真剣な顔がいつもの可愛らしい顔とギャップがあって余計可愛らしいと思えた。これなら告白がひっきりなしに来るのも頷ける。

 こんな料理風景、調理実習でもないと同級生は見ることも叶わないんだろうけど。そうなるとあんな真剣な姿を知ってるのって珍しいのか。


「お兄ちゃん、どうかした?」


「邪魔したなら悪い。いつもそんなに料理に集中してるんだなーって知らなくて。そんな姿を男子が見たら告白されるのも納得だなって思ってた」


「こんな姿、学校の人には見せないよ。調理実習とか、宿泊学習の飯盒炊飯とかも手抜いたもん」


「え?何で?」


 同じ料理なのに?学校のそういう行事は成績にも直結するから俺のように下手とかじゃない限り手を抜く理由がないと思うんだけど。

 特に家庭科なんて美沙の得意分野だろうに。学校の成績は他も良いんだろうから、得意の家庭科で手を抜く理由がわからない。


「どっちも集団行動だもん。中学生でまともに料理ができる人なんてほとんどいないよ。そうなると上手くても下手でも浮いちゃうの」


「あー、美沙だけ上手くても意味ないのか」


「そう。わたしが本気出したら誰もついてこられないもん。だから一歩引いてそこそこで済ませてる。それに手料理ができる女の子ってモテるんだよ?」


 美沙に言われなくてもわかってる。男子って女子の手料理に夢を見ている節があって、それが本当に美味いなら評価はうなぎ上りだ。調理実習とかの時、男子が盛り上がってたな。

 俺は喜沙姉と千紗姉のおかげでそんな幻想を抱いてなかったから怪我しないように気を付けて調理してたけど。

 というか。美沙は料理ができなかったとしてもモテただろう。姉二人を見ていればわかる。

 料理ができることで相乗効果でモテるんだろうな、美沙は。


「あと。クラスメイトの男子に食べさせる物とお兄ちゃんに食べてもらう料理。わたしがどっちに本気を出すと思う?」


「俺の方、だろ?」


「正解」


 そこで満面の笑みを浮かべるなって。本当に美沙は、いや三姉妹はブラコンだなあ。だから彼氏ができないんだぞって言いたいけど、それ言ったら俺に彼女ができない理由もシスコンになりそうだから言わない。

 美沙は笑みを浮かべた後は真剣に料理を作っている。冷蔵庫から出汁のラベルが貼ってあるポッドを出して、それでタレを作るようだ。俺は料理なんて全く詳しくないけど、あれが昆布からわざわざ抽出した手間のかかっているものだと知っている。


 それと並行してうどんを茹でながらフライパンで豚の小間肉を焼いていく美沙。汁を作った後はお肉を皿に載せて熱を冷まして、薬味の野菜を切り始めた。うどんが冷たいからお肉の熱が邪魔らしい。

 無駄なくテキパキと動く美沙。うん、これがいわゆる男子の求める女の子像という奴だろう。それほどまでに美沙は女の子として完成されている。

 まだ中学三年生なんだけどなあ。


「お待たせ。上に乗ってる卵は溶いて食べてね」


 綺麗に盛り付けされたうどんの頂点に乗っている卵。うどんも綺麗に纏められていて、そのうどんの側面にお肉とネギ、生姜が等間隔で置いてある。

 芸術性が高い。

 うどんの隣に薬味が載った小皿もあるし。


「ミョウガと鰹節、海苔は好きに入れて」


「ありがとう。いただきます」


 卵を溶いてかき混ぜる。うどんの下にあった汁とも合わせて口に運ぶ。

 冷たくてさっぱりしていて、喉越しがいい。それに生姜もいいアクセントになってる。

 そこら辺のうどん屋さんで食べるものよりよっぽど美味しいと思う。我が家って美沙が頑張ってるからあまり外食しないけど、本心から思う。


「美沙の料理を一生食べられたら幸せだろうなあ」


「いつでも作るよ?」


「いやいや、美沙だっていつかは誰かと結婚するさ。兄だからっていつまでもご飯を作ってもらうわけにはいかないだろ?」


「ふうん?……じゃあお兄ちゃんがプロになったら、専属の栄養士として雇ってもらおうかな」


「今まで散々世話になってるんだから、本当にそうなったら恩返しとして雇うよ。美沙なら何も心配いらないし」


「ふふ。言質取ったよ?これでわたしの将来は安泰だね」


「俺がプロになって、しかも活躍する前提の未来だけどな?」


「お父さんのこともあるし、今のお兄ちゃんの実力を考えたらおかしくはないと思うよ?一年生で145km/h投げられる人なんてほぼいないって千紗お姉ちゃんが言ってた」


 速度だけ見たら俺もかなりのものだと自信を持って言えるけど。

 上には上がいるからな。


「でもシニアの最高球速記録は塗り替えられなかったし、140km/h投げる投手は何人か知ってるぞ?それでプロ、しかも活躍するなんて気の早い話だ」


「わたしたちは誰も疑ってないよ?」


「だよなあ。まあ、気長に待っててくれ。ドラフトなんて早くても二年とちょっと後なんだから」


「指名されたらその時も豪華なご飯作るね」


「それはまた楽しみが増えた」


 そんな他愛ない会話をしてゆっくりと過ごした。美沙も俺よりかなり量が少ないうどんを一緒に食べて、何も決まっていない将来の話で盛り上がった。

 美沙の口が三日月のように開いていたのは多分俺が熱出してるから、それで見た幻覚だろう。ウチの可愛い美沙がそんな小悪魔な笑みを浮かべるとは思えないし。


次も三日後に投稿します。

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