4ー4ー5 三回戦・足立南戦
マシンガン打線。
五回の裏の攻撃。
帝王は三番の葉山からの打順だった。プロ注目のスラッガーということで足立南バッテリーは慎重に攻めようとしたが。
「ボール!フォアボール!」
明らかなボール球四つで四球となっていた。変化球はワンバンするか、ストレートは高く浮いてストライクゾーンに来ないものばっかりだったので、いくら贔屓をしてやろうと考えている球審の持田でもフォアボールと宣言するしかなかった。
さすがにこれだけ荒れていれば何かあったのかと心配になり、捕手の土田はタイムを取ってマウンドに向かった。
「ネギ、大丈夫か?」
「すいません、ツッチー先輩。宮下のボール打ってちょっと感覚が狂ってるかもです」
「あー、ストレート弾き返してたもんな。あのストレート、重いから繊細な感覚が飛んだか?」
根岸は右手を何回かゆっくりとグーパーと開く。その後三回ほど肩を回して感覚を確認していた。
「多分大丈夫です。一球大きく外すんで、それで最終確認します」
「わかった。次は倉敷だからな。アウトコースで攻めるぞ」
「はい」
スラッガーの特徴ではないが、その多くはインコースを引っ張ることを得意としている。前の試合でも倉敷はインコースをホームランにしていたので、インコースはあくまで撒き餌にしてアウトコースで仕留めるとバッテリーは決めていた。
土田が戻って試合再開。初球は話し合った通りアウトハイに大きく外した。
それを投げてみて根岸は頷く。感覚に問題ないようで土田は倒すためのサインを出す。
撒き餌となるはずのインローへのスライダー。良い感じに曲がってきたのだがそれを倉敷は強打。綺麗なカキーン!という金属音と共に三遊間を抜けていきレフト前ヒットになっていた。
(あれで打たれるならもうインコース投げられねえじゃねえか!ドラフト候補ってここまで理不尽なのかよ⁉︎)
土田はそう憤りながらも、キャッチャーマスクを被りなおす。憤ったところでアウトが増えるわけではないのだ。
しかもこっちは球審のせいで有利になってしまっている。それでも打たれるのだから、倉敷に対して怒る方が器が小さいと考え直す。
次は五番ライトの新堂。五番を任されているがパンチ力があるわけではなく、どちらかというとミート力が驚異の打者だ。
ノーアウト一・二塁。試合を最後までするには、逆転するには、これ以上の失点はどうやってでも防がなければならない。
初球はアウトコースのストレートで空振りを取れた。あまり配球としては同じボールを続けたくないというのがセオリーだが、そんなセオリーに乗っかったままでは名門に勝てないだろうと根岸を信頼してストレートのサインを出す。
根岸は130km/hが出るとはいえ、軟投派か快速球派投手だ。そういう前提で土田もリードをしてきた。だからストレートを続けるのではなく、変化球を織り交ぜて打ち取ることを基本としてきた。
足立南の守備力も上がってきたので打たせてとる戦法ができたが、帝王にはあまり通じていない。的確に内野の間を抜かれるのだ。
だからこそ、意表を突いた。
つもりだった。
「スチール!」
「なっ⁉︎」
二球目にダブルスチールを仕掛けられた。土田はすぐに中腰になって捕球したらすぐに三塁へ投げようと思考して体勢を整えたが。
ボール球のストレートを新堂が打ち、大きく空いた一・二塁間を抜けるゴロを打っていた。ダブルスチールではなくヒットエンドランだったわけだ。
二塁ランナーだった葉山は打球を確認して三塁を蹴っていた。一塁ランナーの倉敷も二塁を蹴る。ライトの捕球体勢を見てバックホームも三塁も間に合わないと判断した。
「内野に返せ!無理に投げるな!」
そう指示を出してセカンドに返球しただけだった。一点が入り四点差。その上ノーアウト一・三塁だ。まだ失点する可能性がある。
チャンスができたら意地で点を取りに来る。コールドにするという気迫を帝王の誰もが纏っていた。
六番の霧島が打席に入る。霧島は走攻守が揃ったユーティリティプレイヤー。打が飛び抜けているわけではないが、こうして公式戦で六番を任される程度の打力はある。
根岸に牽制をさせる。一・三塁なので一塁ランナーは走るだろうと考えるからだ。土田は決して強肩ではないので、走られたらセーフになる予感しかなかった。
アウトにできないなら一ストライクをもらおうと、初球はパームを要求。
「スチール!」
予想通り走られたが、土田は投げない。空振りをしてくれてストライクを取れたのだから今はそれで十分だ。
ここで、足立南が動く。監督が守備のタイムを使ったのだ。伝令が走って来ることに合わせて内野がマウンドに集合する。
「フクちゃん。監督なんだって?」
「一点は仕方がないから二点目を防げって。あとは打つしかないぞって言ってたよ」
「だよなあ。この先下位打線だから、ここで食い止めないとビッグイニングになる」
伝令の福島が監督の言葉を伝える。
ノーアウトで二・三塁だ。犠牲フライや内野ゴロで一点は取られても、二塁ランナーはどうにかしてホームに返すなという話だ。
「ツーランスクイズも頭に入れとけって」
「あー……。十分あり得るな。今日の帝王は何をしてくるかわからない」
「あの球審じゃ仕方がないっすよ。ストライクゾーンメチャクチャですもん」
内野はスクイズ警戒のバックホーム態勢で、外野は定位置に配置。できたら六・七・八番でアウトを取ることがベスト。
そう話し合ってタイムが終わる。
いくら奇襲を仕掛けてこようと、タイム空けの初球から仕掛けてこないだろうとバッテリーは判断。二球目はインハイのストレートを放り込む。
なんとそれを、思いっきり引っ張っていた。
「強硬策⁉︎」
打球はレフトへ高々と上がる。定位置より若干後ろまで飛んだ打球は犠牲フライには十分な飛距離だった。
星川が捕球するのと同時にランナーが一斉スタート。星川はホームは間に合いっこないと思ったので三塁へ送球するが、そちらもセーフだった。
「霧島、ナイス最低限!」
「犠牲フライのサイン出てたんだよ!」
スタンドからの声援にそう返す霧島。アウトは取れたが五点差。3-8だ。その上まだランナーが三塁にいる。
高校野球は五回以降に十点差、もしくは七回以降に七点差が着くとコールドゲームが成立する。しかも帝王は後攻なので点を取ったらそのままサヨナラとなって試合終了になる。
この回あと五点も取られなければこのまま終わるような点差ではないが、七点差は射程圏内に入ってきてしまった。
それが根岸にもプレッシャーになってしまったのだろう。
「あ!」
ボールがすっぽ抜け、七番町田の背中にボールを当ててしまった。すぐに根岸は帽子を取って謝る。町田もそこまで痛くなかったようで問題なく一塁へ歩いていった。
一アウト一・三塁になったことで帝王ベンチが動く。代打を宣言していた。
「八番織部くんに代わって、代打三間くん。背番号十七」
「おっしゃあ!」
アナウンスで紹介されて、咆哮してから打席に入る三間。
三間のことを見て土田はインコースは徹底的に避けることにする。
(一年生ながらベンチ入り。前の試合も良い当たりが多かった。それにこの縦幅と横幅があるんだから期待のスラッガーってことだろう。こういうスラッガーにインコースは厳禁だ。そんでもって一年生ならきっと根岸の変化球で躱せる。根岸の変化球は一級品、たとえ才能の塊でも初打席で対応できないだろ。スライダーを臭いところに散りばめて、最後はパームだ)
そう算段をつける。根岸もその考えに同意していた。
セットポジションから、さっきのすっぽ抜けを完全に修正したようなアウトローのスライダーが地面を這うように滑りながら落ちてくる。良いコースだと土田はミットを構えたが、その前に銀色に輝くバットが割り込んでくる。
「ドラッシャー!」
独特の掛け声と共に、カッ……キーン!と余韻の残るような金属音が響いた。打球の方向から土田は「センター!」と叫んだし、センターは必死に下がっていった。
だがその打球と打球音を聞いていた三間はゆっくりと歩き出していて、ネクストバッターサークルに座っていた智紀も結果がわかっているかのように立ち上がった。
「行ったな」
智紀の言葉通り、ドゴン!とバックスクリーンに打球が直撃する重い音を響かせていた。それを見て三間は一塁を蹴りながら右手を天高く掲げていた。
「おおおおお!公式戦第一号!」
「三間がやりやがった!」
「良いぞ!それでこそ帝王の期待のホープ!」
スリーランホームランを浴びて、点差は一気に八点に広がっていた。土田も根岸も油断したわけではなかったが、あまりにも三間が規格外すぎた。
一本足打法で低めに決まったスライダーをバックスクリーンまで持っていくなんて、帝王でベンチ入りしているからといって一年生にやられるとは思っていなかった。
三間がホームインして、ランナーと、智紀とハイタッチしてベンチに戻る。智紀が打席に入ろうとしたら足立南がタイムを取っていた。
根岸をライトに下げて、背番号十の栗林がマウンドに上がる。根岸の球数は110球を超えていた。それでもその打力ともしもの時のためにベンチには下げられなかった。
足立南の監督はどうにかあと二点を防いでくれるようにと、栗林に祈りながら送り出していた。
その祈りが通じたのか、智紀は栗林のデータもなかったことでサークルチェンジを引っ掛けてショートゴロ。続く一番間宮もカーブを引っ掛けてファーストフライに倒れた。
足立南の監督は心の底から安堵して栗林を迎える。
「よく凌いだ、栗林!根岸もあれは相手を褒めるしかない。ここからはバッティングで返してくれ」
「はい!」
「さあ、お前ら。打つぞ。八点差なんてな、高校野球じゃ簡単にひっくり返せるんだよ!お前らは史上最強の世代だ!宮下を引き摺り落として、ブルペンに入ってるあの三年生サウスポーも打って準々決勝に行くぞ!」
「「「はい!」」」
足立南ナインはまだ諦めていない。
五回が終わったことでグラウンド整備が挟まり、両校のスタンドの部員たちが下に降りてきてグラウンド整備をしていた。
根岸はアイシングを始めて、肩の熱を取っていく。一方智紀はダグアウトで汗をぬぐいながら水分補給をしっかりしていた。智紀はまだマウンドから降りない。
この試合の終わりが、近付いていた。
次も三日後に投稿します。
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