3ー2ー2 大垣高校戦後
投手の明暗。
一回の裏。足立南の守り。
上中里の打順は練習試合の時から何か変わったのか覚えてなかったが、君津先輩が今日の試合を見越して練習試合のスコアの写しを持ってきていた。
それを回し見しているが、打順もレギュラーメンバーも変わっていないそうだった。
足立南の投手も背番号一のエース。投球練習を見ているが、サイドスローで130は出ていそうだった。二年生。
やっぱり東京のピッチャーってレベル高いよな。高校生の平均が130km/hと言われているけど、その平均を上回る投手が多い。球速だけで全てを語ることはできないが、平均に近いというのはそれだけで全国を基準として真ん中に位置するということ。
涼介とかに聞くけど、千葉では130超えてくる投手って結構少ないのだとか。強豪校ならいくらでもいるらしいけど。
上中里は三番がレフト前ヒットを打って出塁。一応選手を集めただけあって、ノーヒットでは終わらなかった。
「大久保。実際に投げて、上中里はどういうチームだった?」
「あー、なんというか慢心だらけのチーム?全員大振りでしたし、変化球で簡単に三振奪えたので。なあ、町田」
「はい。ホームランしか狙っていないようなスイングでしたよ。唯一ヒットを打った五番打者も、たまたまスイングのところにストレートが行ってたまたま落ちた感じでしたから」
倉敷先輩が上中里でバッテリーを組んでいた二人に質問をする。
思い出してきた。圧倒的に負けていて意気消沈して、それでもゴルフスイングみたいなアッパースイングを全力でやってきたんだった。だから当たってもフライで、ろくすっぽボールも見てない感じで空振りが多かったな。
本当にあの日は市立ひたちなかのことばっかり印象に残ってるから記憶が曖昧だ。
そんな話をしている間に、四番打者がパームを空振りして三アウト。
俺はそのボールを見て思わず立ち上がって、三間の両肩を掴んでいた。
「三間、今のボール見たか⁉︎あの人、パーム投げたぞ!」
「お、おう?ゆっくりドロンと落ちたからパームっぽかったのはわかったけど、お前何でそんなに興奮してるんや?」
「サイドスローで落ちるボールを投げるなんて、どれだけ難しいと思ってる!リリースの瞬間をちょっとミスった瞬間ストライクゾーンにも行かないし、高さだって重要だ!あんな制御されたパーム、高校生レベルじゃないぞ!」
「そこまでか?」
三間は全く凄さがわかっていなかった。
プロでも良いからサイドスローで落ちるボールを投げられる人がどれだけいると思ってるんだ。その投げ方からして取得するのはスライダーとかの横変化と、逆方向に落ちるシンカーを選ぶ人が多い。
フォークやパームのようなボールは制球が厳しいというのもあるが、フォームをしっかりと固めないとすぐに落ちるボールだと見抜かれてしまう。
今のようにしっかりと制球できたボールは、かなり希少だ。映像で見返したいほどに。
「球速もあるし、あれだけ遅くて落ちるボールだったら絶対困惑する。スライダーっぽいのも投げてるし、あの人凄い投手だ」
「あー、まあ。実戦で変化球複数投げ分けられる投手は高校でも少ないか?コントロールも悪くなさそうやし」
「公立高校にいて良い投手じゃないぞ。強豪校とかにいてもおかしくない。それだけ才能があって努力をしている人だ」
「ベタ褒めやな……」
強豪校で投手をやっていても、実戦で使える変化球は一つだけという人もいる。軟式と違って硬式は変化球を投げづらい、変化しづらいということもあって軟式上がりの人は変化球が使えなくなったりする。
俺だってチェンジアップを除いたらスライダーしか投げられなかった。チェンジアップは妥協してしまえば簡単に投げられる変化球なので、あまり投げ分けに俺は含まない。
シンカーだって練習し始めたのが遅かったというのはあるが、三年生になってようやく投げられたくらいだ。
まあ、中高生の時って身体の変化が多くて感覚が自分の中でもすぐ変わって、変化球の指の弾き方とかアジャストさせるのに苦労するので中学時代はあまり変化球を増やそうと思わなかった。
いっそ身体ができてから覚えた方が苦労が少ないと思ったのだ。だからシンカーはシニアの活動が終わってからゆっくりと覚えようと思った。
身体の変化に合わせて試行錯誤していたら普通のスライダーと高速スライダーを投げ分けられるようになったから良い副産物も産まれたけど。
俺の意見に、投手陣は深く頷いてくれる。監督もだ。
「宮下の言うように、あのピッチャーはかなり出来るぞ。今まで見たことのない投手というのは攻略に苦労するものだ。俺も長い間監督をやっているが、サイドスローで落ちるボールを投げられた投手はいない。習得難易度が高すぎるから指導陣も覚えさせようとしないな」
東條監督はもう四十を超えているので、指導歴は二十年を超えている。それでも一人も見たことがないんだから、やっぱりあの人は凄い人だ。
根岸さんか。覚えた。
「あー、智紀。オーバースローとスリークォーターが多いのって色んな変化球を投げやすいからか?」
「ああ。それに上から投げた方が速度も出る。怪我もしづらいからな。たまにサイドスローの方が速度も出たり、コントロールが良い人もいるけど、スポーツは基本を押さえた人が上手いんだよ」
「道理やな。才能だけに胡座かいてたら野球は上手くならん。上中里の連中はまさしくそれや」
「え?あいつらに才能あるか?」
招待試合と今の様子を見て、どこに才能があるのか疑問に思って聞き返すと三間は鳩が豆鉄砲を受けたような顔をしていた。
そんなに驚くような発言だっただろうか。
たとえ才能があっても、それを活かせてるとは思えないんだけど。
「お前も高宮みたいな毒舌キャラだったか?」
「悪いんだけど、あいつらのどこに才能を感じたんだ?」
「練習を必死にしてる雰囲気もなくて、ある程度野球はできてんやから才能はあったんじゃないかと思ったんやけど」
「……一人だけ、全く練習をしなかった天才を知ってるけど。それに比べたら上中里の連中に才能は感じないな」
「誰や、そいつ」
「U-15で一緒だった荒山アンダーソン」
まさしく天才の名前を伝えると、誰もが納得していた。
アメリカ人と日本人のハーフで、走攻守が揃った天才外野手。アメリカ戦でもセンターを守っていて、大会通算打率は五割を超えていたバケモノ。で、足が速いから守備範囲もデタラメで、肩も強いという四拍子揃っていた本物の天才。
「アイツ、練習してなかったんか?」
「正確には身体づくりのための最低限の練習しかしてなかった。中学時代はずっと成長痛で最後の年度しかまともに野球ができなかったらしい」
「それであの実力……?ん?でもアイツがどこの高校に進学したか知らんぞ?」
「知ってたら怖いな。アメリカ戦が終わった後、『本場の実力がこの程度ならアメリカに渡っても大活躍だネ。今度はアメリカ代表として君たちを倒しに来るヨ。だからもっと腕を磨いておいてネ?』って言って、父親のいるアメリカに留学したぞ」
「日本にいなかったらわかるわけないか」
アンダーソンも結構たくさんの学校から推薦を提示されていたけど、全部蹴ってアメリカに行っちゃったからな。
むしろラブコールを送っていたアメリカのクラブチームからすれば大歓喜だったと聞いた。国際電話になるからアンダーソンとは連絡を取り合ってないな。アイツもアメリカで頑張っているんだろうか。
特に投手陣に、また国際試合で戦おうと解散間際に凄く熱心に語っていた。U-15の時は成長痛からの開放でノビノビと野球を楽しんでいたからな。それでも再発するかもしれないからって過酷なメニューはやらなかったけど。
俺たち投手陣が投げるフリー打撃を特に楽しんでいたと思う。涼介と打撃成績で争ってたな。懐かしい。
話している間に足立南がもう一点追加していた。この場合足立南が強いのか、上中里が弱いのかわからない。
「こりゃあ足立南で決まりだな。あれがエースじゃ、次の投手はそれ以下ってことだろう?」
「早坂。まだ二回だぞ?」
「逆に聞くが小林はこっから上中里が逆転すると思うのかよ?総合力は絶対足立南だ。どうやってあの打線を止めて、点を取るんだ?」
早坂先輩が早々に見切りをつけて、小林先輩が質問されたが。
今も続けて一点追加した足立南高校。5-0になったところで小林先輩は首を横に振った。
「無理だな」
「だろ?いくら高校野球で一回に大量得点なんてことがあっても、あの実力でメークミラクルなんて起こるか?」
相応の実力があれば逆転劇もあるかもしれないが、その実力が明らかに足りていない。それが上中里だ。
今までにそういうことを起こした実績でもあれば違うんだろうが、そんな実績が創設三ヶ月程度であるはずもなく。正直チームとしても纏まってないから連打が続くとも思えない。
奇跡なんてものは、ある程度条件が揃わないと起こらないものだ。条件が揃っていたって起こらないのが奇跡。上中里が奇跡をこの試合で起こせるかと言われたら、そうは見えないというのが本音だ。
その上中里が動く。
エースをレフトに下げて、レフトが投手をやるようだ。俺たちの試合で投げた左投げのファーストが投げるんじゃないんだな。
「君津。あのレフト、投げたことあるのか?」
「市立ひたちなか戦で投げています。三回三失点」
東條監督が確認を取って、投球練習を見る。見事な野手投げの上に手投げだ。急造投手だなぁ。速度もさっきのエースほど出ていない。本当にアレが一番の投手だったのか。安定性で言えばファーストの左投げの方が良かったと思う。
エースが攻略された時点で勝負はついたな。
次も月曜日に投稿します。
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